二重の危険と検察官上訴・不利益再審の禁止とは
にじゅうのきけんとけんさつかんじょうそふりえきさいしんのきんし
二重の危険とは、何人も同じ犯行について二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険にさらされてはならないという、憲法39条の根本思想にある考え方です。検察官上訴は同一手続内の継続した一つの危険なので禁止されず、不利益再審は認められていません。
無罪になった人を検察官が控訴してもう一度裁くことが、二度裁くことにならないかが問題になります。アメリカでは検察官の上訴は原則として許されませんが、日本の判例は、第一審から上告審までを一つの続いた危険と見て、その途中で検察官が上訴するのは二度目ではないと考えました。他方で、いったん確定した無罪や軽い判決を、後から覆して重くする再審は、確定した決着を蒸し返すので置かれていません。二重の危険の禁止は、一事不再理効の根っこにある考え方です。
検察官の上訴は、同じ事件の一つの継続した危険の中にあるので二重の危険に当たりません
一事不再理の原則は、何人も同じ犯行について二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険にさらされるべきではないという根本思想に基づきます。判例は、その危険は同一の事件については訴訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的状態と見るべきであり、第一審・控訴審・上告審の各手続は同じ事件における継続する一つの危険の各部分にすぎないので、下級審の無罪又は有罪の判決に対して検察官が上訴して有罪又はより重い刑を求めることは、被告人を二重の危険にさらすものではなく、憲法39条に反して重ねて刑事上の責任を問うものでもないとしました(最大判昭和25年9月27日)。検察官は被告人と並ぶ上訴権者であり(刑事訴訟法351条1項)、一審無罪に対する検察官の控訴・上告は適法です。
再審は有罪の言渡しを受けた者の利益のためだけに認められ、不利益再審はありません
再審の請求は、有罪の言渡しをした確定判決に対して、その言渡しを受けた者の利益のためにすることができます(435条)。控訴・上告を棄却した確定判決に対する再審も同じです(436条)。無罪や免訴の確定判決を覆して有罪にするための再審、確定した有罪判決をより重くするための再審は、確定した判決の言渡しを受けた者にとって不利益となる再審を認めることが二重の危険の禁止に反する疑いがあるため、置かれていません。「刑事訴訟法は、確定した有罪判決の言渡しを受けた者にとって利益な方向での再審のみを認めた」という肢は正しいです。再審では原判決の刑より重い刑を言い渡すこともできません(452条)。
免訴判決に対して無罪を求めて上訴することはできません
免訴は、確定判決・刑の廃止・大赦・公訴時効の完成により公訴権が消滅したことを理由に実体審理に入らずに手続を打ち切る形式裁判です(337条)。判例は、大赦により免訴とされた被告人が無罪を主張して上告した事案で、公訴権が消滅した以上裁判所は実体審理に立ち入ることができず、被告人の側も訴訟の実体に関する理由を主張して無罪の判決を求めることは許されないとして、上告を不適法としました(最大判昭和23年5月26日)。免訴判決は被告人にとって不利益な裁判ではなく、上訴の利益が無いからです。「被告人は、免訴を言い渡した原判決に対し無罪を求めて控訴することができる」という肢は、判例に照らして誤りです。無罪にすべき場合と免訴にすべき場合が重なるときに無罪を優先すべきだという見解もありますが、判例は免訴を優先します。
日本国憲法39条
何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
刑事訴訟法452条
再審においては、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。
論文ではこう使う
論文で憲法39条を使うときは、一事不再理の原則の根本思想として二重の危険の禁止を置き、判例の継続的危険の考え方(訴訟手続の開始から終末までが一つの危険)を規範にして、検察官上訴や差戻し後の審理が同一手続内の継続した危険であることを当てはめます。確定後の蒸し返しが問題なら、一事不再理効の範囲の問題として客観的・時間的・人的範囲で論じ、不利益再審が無いことを根拠の一つに添えます。
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