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用語集 / 刑事訴訟法 / 一事不再理効の範囲

一事不再理効の範囲(客観的・時間的・人的)とは

いちじふさいりこうのはんい

刑事訴訟法 裁判・既判力・上訴

一事不再理効とは、有罪・無罪の実体判決が確定したときに、同一の事件について再び審判することを許さない効力です。憲法39条が同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われないと定め、刑事訴訟法337条1号が確定判決を経たときは免訴とすることで実現しています。効力は、公訴事実の同一性の範囲、前訴の第一審判決宣告時まで、被告人本人に及びます。

一度裁判で決着のついた事件で、同じ人をもう一度裁くことはできません。無罪になった人が、後から見つかった証拠で再び法廷に立たされるなら、裁判はいつまでも終わらないからです。問題は「同じ事件」の広さです。常習的に窃盗を繰り返す人の一部の窃盗だけが裁かれて確定した後、残りの窃盗が見つかったとき、全部まとめて一つの常習窃盗罪だから二度目は許されないのか、別々の窃盗として裁けるのかが争われます。判例は、起訴状の訴因どうしを比べて決めるという答えを出しました。

法廷の場面。先生が裁判長役(札「裁判長」)で法壇に座り、法壇の上に二枚の起訴状が並んでいる。左の起訴状「前訴 窃盗(確定)」、右の起訴状「後訴 窃盗」。どちらにも「常習」の文字は無い。弁護人席の男性(札「弁護人」)の吹き出し「実体は常習特殊

一事不再理効は実体判決の確定で生じ、同一事件の再起訴に対しては免訴を言い渡します

何人も、同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われません(憲法39条後段)。これを受けて、確定判決を経たときは判決で免訴の言渡しをしなければなりません(刑事訴訟法337条1号)。ここでいう確定判決は有罪・無罪の実体判決と略式命令で、公訴棄却や管轄違いの形式裁判には一事不再理効はありません。免訴判決については、公訴時効の完成などで公訴権が消滅したという判断に確定力があり、同じ事件を再起訴すればやはり免訴になります。殺人罪の訴因について無罪判決が確定した後に新たな証拠が発見されて同一事実で再起訴されたときは、裁判所は免訴を言い渡さなければならず、「改めて審理し、有罪の判決をすることができる」という肢は誤りです。

客観的範囲は公訴事実の同一性の範囲で、訴因がともに単純窃盗なら常習性を持ち込まずに訴因だけを比べます

一事不再理効が及ぶ客観的範囲は、前訴の訴因と公訴事実の同一性がある範囲、すなわち訴因変更によって審判できたはずの範囲です(312条1項)。問題になるのは、実体法上は常習特殊窃盗罪(盗犯等防止法2条)の一罪を構成する複数の窃盗が、単純窃盗として前訴と後訴に分かれた場合です。判例は、常習特殊窃盗罪は異なる機会に犯された別個の窃盗を常習性の発露という面に着目して一罪とし刑を加重する罪であるとしたうえで、訴因制度を採用した現行法の下では審判の対象は第一次的には訴因であること、犯罪の証明なしとする無罪の確定判決にも一事不再理効があること、一罪の一部起訴も適法にできることから、前訴と後訴の公訴事実の単一性の判断は基本的には両訴因のみを基準として比較対照して行うのが相当であり、両訴因がともに単純窃盗で常習性の発露という面が全く訴因として上程されていない以上、常習特殊窃盗罪による一罪という観点を持ち込むのは相当でないとして、一事不再理効は後訴に及ばないとしました(最判平成15年10月7日)。他方、一方の訴因が常習特殊窃盗罪であれば、訴因の比較から検討の契機があるので、他方の単純窃盗がその常習性の発露として行われたかを付随的に心証形成して単一性を判断し、及ぶ場合があります。

教室の板書の場面。先生が黒板の前に立ち、黒板に一本の時間軸が描かれている。軸の上に左から「窃盗①」「起訴(窃盗②)」「弁論終結」「第一審判決宣告」「窃盗④」「確定」の札。「第一審判決宣告」の位置に縦の太線が引かれ、その左側に「一事不再理効が

見解問題では、訴因基準からは窃盗で有罪、実体基準からは免訴となり、訴因基準への批判も問われます

前訴の確定判決後に、判決前の窃盗が単純窃盗で起訴され、裁判所が実体的には前訴の窃盗と併せて常習特殊窃盗罪を構成するとの心証を持った事案で、訴因に記載された事実のみを基礎として単一性を判断する見解Ⅰからは、両訴因は併合罪関係で一罪を構成しないので公訴事実の単一性は無く、窃盗罪により有罪の判決をすべきことになります。免訴や公訴棄却にはなりません。いずれの訴因にも無い常習性について証拠により心証形成し、常習特殊窃盗として包括一罪を構成すれば単一性を肯定する見解Ⅱからは、免訴の判決をすべきことになり、訴因は窃盗のままなので常習特殊窃盗罪で有罪にするのではありません。判例と同じ訴因基準の立場からは、単純窃盗として起訴された以上、訴因を動かす権限の無い裁判所は訴因の範囲で審判すべきだと論じます。訴因基準に対しては、実体に合わせて訴因が常習特殊窃盗に変更されれば免訴となり、変更されなければ有罪になるのは、検察官の選択によって両極端の結果を生じさせて不合理だという批判と、訴因が審判対象であるのは有罪判決による防御権侵害を防ぐためであって、確定判決の有無という訴訟条件の存否は職権調査事項で免訴判決が防御権を侵害するおそれは無いから形式裁判に訴因の拘束力を認める理由も必要も無いという批判が向けられます。「免訴や公訴棄却といった形式裁判をする場合に関する限り訴因に拘束されることはない」という記述や、常習性について心証形成して単一性を肯定できれば一事不再理効が及ぶとする記述は、判例の見解とは反対の立場です。

時間的範囲は前訴の第一審判決宣告時までで、人的範囲は被告人だけです

一罪を構成する行為の一部について実体判決が確定したとき、その一事不再理効は、前訴の第一審判決の宣告時までに行われた残りの部分に及び、宣告後の行為には及びません。判決の宣告後は、裁判所がその事実を審判する可能性が無かったからです。判例も、前訴で住居侵入・窃盗の訴因につき有罪の第一審判決が確定した場合に、後訴の常習特殊窃盗を構成する各行為が前訴の第一審判決後にされたものであるときは、前訴の訴因が常習性の発露として行われたかを検討するまでもなく一事不再理効は及ばないとしました(最決令和3年6月28日)。基準は弁論終結時でも判決確定時でもなく第一審判決の宣告時です。前訴の第一審判決言渡し時までに行われた部分に効力が及ぶとする見解からは、判決言渡し前の窃盗を単純窃盗として起訴することは許されず、判決言渡し後の窃盗は起訴できます。これを原則としつつ前訴で同時審判が事実上又は法律上不可能であった部分には効力が及ばないとする見解からは、判決前の窃盗でも、前訴の時点で発覚していなかったものや弁論終結後に行われたものは常習特殊窃盗として起訴できることになります。人的範囲は、その手続で被告人とされた者に限られます。公訴の効力は検察官が指定した被告人以外の者には及ばないからです(249条)。被告人Aが甲を殺害した旨の訴因について有罪判決が確定した後でも、検察官はBがAと共謀の上で甲を殺害した旨の事実でBを起訴することができ、「Bを起訴することができる」という肢は正しいです。

  • 客観的範囲前訴の訴因と公訴事実の同一性のある範囲。訴因がともに単純窃盗なら訴因だけを比較し常習性を持ち込まない(最判平成15年10月7日)。一方が常習特殊窃盗なら付随的に心証形成して判断
  • 時間的範囲前訴の第一審判決宣告時まで。宣告後の行為には及ばない(最決令和3年6月28日)。弁論終結時でも確定時でもない
  • 人的範囲その手続の被告人だけ。共犯者には及ばない(249条)
  • 効果同一事件の再起訴には免訴(337条1号)。無罪確定後に新証拠が出ても同じ

日本国憲法39条

何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

刑事訴訟法337条1号

左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。一 確定判決を経たとき。

論文ではこう使う

論文で一事不再理効の範囲を書くときは、まず根拠(憲法39条・337条1号)と趣旨(二重の危険の禁止)を示し、客観的範囲は公訴事実の同一性の範囲、すなわち前訴で訴因変更により審判できた範囲に及ぶと規範を立てます。常習一罪が絡む事案では、判例に従い、前訴と後訴の訴因のみを基準に比較対照し、両訴因がともに単純窃盗なら常習性の発露という観点を持ち込まないこと、一方が常習特殊窃盗なら付随的に心証形成することを書き、訴因基準への批判(検察官の選択で両極端になる)に一言触れて反論します。時間的範囲は第一審判決宣告時を基準にし、宣告後の行為には及ばないと結び、人的範囲は被告人に限ると添えます。

試験ではこう問われる

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