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用語集 / 刑事訴訟法 / 一罪の一部起訴

一罪の一部起訴とは

いちざいのいちぶきそ

刑事訴訟法 公訴の提起

一罪の一部起訴とは、実体法上は一罪を構成する事実のうちの一部だけを訴因として公訴を提起することです。判例は、検察官は事案の軽重や立証の難易等諸般の事情を考慮して一罪の一部を起訴することができ、裁判所は訴因の範囲で審判すべきだとしています。

営利目的で覚醒剤を所持していた疑いがあるのに、営利目的の立証が難しいとき、検察官は「単純所持」として起訴することがあります。殺人の疑いがあっても殺意の証明が難しければ傷害致死で起訴することもあります。実体法上は一つの罪なのに、その一部だけを裁判にかけるのが一罪の一部起訴です。裁判所は本当の姿を明らかにすべきだという考えからは疑問が出ますが、現行法では検察官が訴因を設定し、裁判所はその範囲で審判するので、判例はこれを認めています。

検察庁の検察官室の場面。先生が検察官役(札「検察官」)で机に座り、起訴状を書いている。机の上の捜査記録の表紙に「覚醒剤 営利目的所持の疑い」、書きかけの起訴状の罪名欄に「覚醒剤取締法違反(所持)」とだけ書いてある。壁の掲示に「一罪の一部起訴

判例は、検察官が立証の難易等諸般の事情を考慮して一罪を構成する行為の一部を起訴することを認めています

判例は、金銭の供与の共謀のもとで甲だけが乙に金銭を交付した公職選挙法違反の事案で、交付罪が後の供与罪に吸収される関係にあることを前提にしつつ、検察官は立証の難易等諸般の事情を考慮して甲を交付罪のみで起訴することが許されるとしました(最決昭和59年1月27日)。また、委託を受けて占有する他人の不動産に抵当権を設定した後にその不動産を売却した事案で、大法廷は、両行為の罪数評価のいかんにかかわらず、検察官は事案の軽重、立証の難易等諸般の事情を考慮して後行の売却行為をとらえて横領罪として起訴することができ、裁判所は訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきではないとしました(最大判平成15年4月23日)。「検察官は,立証の難易等諸般の事情を考慮し,一罪を構成する行為の一部を起訴することができる」という肢は正しいです。常習特殊窃盗を構成する窃盗の一部を単純窃盗として起訴した場合も同じで、「単純窃盗として起訴された以上,訴因を動かす権限のない裁判所としては,訴因の範囲において審判すべきである」という記述は、訴因を基準に判断する見解の立場からの説明として正しいです。その場合に前訴の確定判決の一事不再理効が後訴にどこまで及ぶかは、一事不再理効の範囲の語で扱います。

肯定する論拠は訴追裁量・訴因制度・訴因変更命令の形成力の否定・被告人の利益で、否定する論拠は実体的真実の発見です

一罪の一部だけを起訴できるかを問う見解問題では、肯定説の論拠となり得るかどうかで肢を分けます。肯定説の論拠は四つあります。第一に、検察官には起訴・不起訴の裁量権が認められていること(248条)です。全部を起訴しないこともできる以上、一部を起訴することも裁量の範囲に入ります。第二に、刑事訴訟法は当事者主義に立ち、訴因制度を採用していることです。審判の対象を設定するのは検察官であり、裁判所は訴因の範囲で審判します。第三に、裁判所の訴因変更命令には形成力がないとされていることです。裁判所が検察官の設定した訴因を自ら広げることはできないので、一部起訴を許さないと裁判所の手に余ることになります。第四に、重い部分を落とした起訴は被告人に利益になる場合も多いことです。「検察官には,起訴,不起訴の裁量権が認められている」「裁判所の訴因変更命令には形成力はないとされている」「刑事訴訟法は当事者主義に立ち,訴因制度を採用している」「被告人に利益になる場合も多い」は、いずれも肯定説の論拠となり得ます。これに対し、「実体的真実の発見という刑事訴訟法の趣旨に反する」は、否定説から肯定説に向けられる批判であって、肯定説の論拠にはなり得ません。

  • 肯定説の論拠起訴・不起訴の裁量権(248条)/当事者主義と訴因制度/訴因変更命令に形成力がないこと/被告人の利益になる場合が多いこと
  • 否定説の論拠(肯定説への批判)実体的真実の発見という刑事訴訟法の趣旨に反すること
  • 判例・実務一部起訴を適法とし、裁判所は訴因の範囲で審判する
大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑事訴訟法」)で黒板の前に立ち、黒板に左右二列の表。左の見出し「一部起訴を認める論拠」、その下に「起訴・不起訴の裁量権(248条)」「当事者主義と訴因制度」「訴因変更命令に形成力がない」「被告人の利益にな

一部起訴にも限界があり、訴追裁量の逸脱や親告罪の告訴の潜脱に当たる場合は別に問題になります

一部起訴が許されるといっても、検察官の訴追裁量の枠の中でのことです。裁量の逸脱が公訴提起を無効にするのは、公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるという判例の基準は、一部起訴にもそのまま当てはまります。この点は起訴便宜主義と訴追裁量の語で扱います。また、親告罪の告訴がないために非親告罪の部分だけを起訴するような場合に、告訴の要件を潜脱していないかが別に論じられます。一部起訴された訴因について裁判所が訴因どおり認定できるか、訴因変更を命じる義務があるかは、審判の対象と訴因変更命令の語で扱います。

刑事訴訟法256条3項

公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。

論文ではこう使う

一罪の一部起訴の適法性は、①当事者主義のもとで審判対象を設定するのは検察官であり、248条により広範な訴追裁量が認められていること、②訴因変更命令に形成力がなく裁判所が訴因を広げられないこと、③一部起訴は被告人に利益になることが多いことを挙げて原則として適法とし、④実体的真実の発見に反するという批判には、訴追裁量の逸脱が極限的な場合に限って公訴を無効にするという判例の基準と、親告罪の告訴の潜脱に当たらないかの検討で答える、の順で書きます。

試験ではこう問われる

「一罪の一部起訴」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型5件と関係する過去問の肢7本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、刑事訴訟法の肢別演習を

この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。

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