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用語集 / 刑事訴訟法 / 被告人の特定

被告人の特定(氏名冒用・身代わり・意思説/表示説/行動説/併用説)とは

ひこくにんのとくてい

刑事訴訟法 公訴の提起

被告人の特定とは、他人の氏名を冒用して起訴された場合や身代わりが出頭した場合のように、検察官が起訴しようとした者、起訴状に表示された者、公判で被告人として行動した者が食い違うときに、誰を被告人として扱うかを決める基準の問題です。意思説、表示説、行動説の三つの見解があり、実務は起訴状の表示を基本に検察官の意思と審理の経過も併せ考えます。

逮捕された甲が、取調べで友人の乙の名前を名乗り、起訴状に「被告人 乙」と書かれたまま裁判を受けて判決が確定したとします。この判決が誰に対するものかが問題になります。名前だけ見れば乙ですが、検察官が起訴したかったのも、法廷に立ったのも甲です。逆に、本当の被告人の代わりに友人が法廷に出頭する身代わりの事件もあります。こうしたときに誰が被告人かを決める基準が、被告人の特定の論点です。基準の取り方で、確定判決が誰に効くかが変わります。

法廷の冒頭手続の場面。先生が裁判官役(札「裁判官」)で法壇に座り、手元に「起訴状 被告人 乙」と書いた書面。証言台の前に男性(札「出頭した者=甲(乙と名乗っていた)」)が立っている。傍聴席に別の男性(札「本当の乙」)が驚いた顔で座っている。

検察官の意思を基準にする意思説、起訴状の表示を基準にする表示説、公判で被告人として行動した者を基準にする行動説が対立します

起訴状には被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項を記載し(刑事訴訟法256条2項)、公訴は検察官の指定した被告人以外の者に効力を及ぼしません(249条)。通常は、検察官が起訴しようとした者、起訴状に表示された者、法廷に出頭して被告人として行動する者は一致しますが、氏名の冒用や身代わりで食い違いが生じます。そこで、検察官が実際に起訴しようとした者を被告人とする意思説、起訴状に被告人として氏名を表示された者を被告人とする表示説、現に公判廷で被告人として行動し取り扱われた者を被告人とする行動説が対立します。見解問題では、各説から事例の被告人が誰かを導き、その者に判決の効力が及ぶとして結論を出します。

勾留中の冒用では意思説と行動説は冒用者を、表示説は被冒用者を被告人とし、身代わり出頭では意思説と行動説で結論が割れます

甲が逮捕勾留中に乙の氏名を詐称し、検察官が目の前の甲を犯人と考えて「被告人 乙」の起訴状で起訴し、甲が出頭して審理を受け執行猶予判決が確定した事例(①事件)と、在宅の甲が丙の氏名を詐称し、事情を知った丙が甲の代わりに検察庁に出頭して取調べを受けたため、検察官が丙を犯人と考えて「被告人 丙」で在宅起訴し、丙が出頭して執行猶予判決が確定した事例(②事件)で、後に甲の前科が判明して執行猶予の取消しが請求されたとします。意思説からは、①事件で検察官が起訴しようとしたのは甲なので被告人は甲であり、甲に判決の効力が及ぶので執行猶予を取り消すべきですが、②事件で検察官が起訴しようとしたのは丙なので被告人は丙であり、別人の甲の事情で丙の執行猶予は取り消せず、請求を却下すべきです。表示説からは、①事件の被告人は起訴状に表示された乙、②事件の被告人は丙なので、どちらも甲の事情では取り消せず、両方とも請求を却下すべきです。行動説からは、①事件で公判廷に出頭して被告人として行動したのは甲なので取り消すべきで、②事件で行動したのは丙なので却下すべきです。したがって、「Ⅲの考え方に立てば,①事件は執行猶予を取り消し,②事件は請求を却下すべきである」という記述が行動説からの帰結として正しく、Ⅰ(意思説)からは①取消し・②却下、Ⅱ(表示説)からは①も②も却下になるので、これと違う組合せの記述はそれぞれの見解からの帰結として誤りです。

  • 意思説(検察官が起訴しようとした者)勾留中の冒用→冒用者が被告人/身代わりが検察官の取調べを受けて起訴→身代わりが被告人
  • 表示説(起訴状に表示された者)冒用でも身代わりでも、氏名を表示された者が被告人
  • 行動説(公判で被告人として行動した者)勾留中の冒用で冒用者が出頭→冒用者/身代わりが出頭→身代わりが被告人
大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑事訴訟法」)で黒板の前に立ち、黒板に3行×2列の表。行の見出しは「意思説」「表示説」「行動説」、列の見出しは「①勾留中の甲が乙と名乗り、甲が出頭」「②丙が甲の身代わりで取調べを受け、丙が出頭」。意思説の

実務は起訴状の表示を基本に、検察官の意思と現実の審理の経過も併せ考えて判定します

裁判実務は、起訴状の表示を基本としつつ、表示だけによることから生じる不当な結果を避けるため、公訴を提起した検察官の意思や、現実に審理の過程で被告人として行動し取り扱われた者が誰かも併せ考えて判定する立場で動いています。この基準で、「甲を被告人として扱うことが可能か」を事例ごとに見ます。真犯人の甲が現行犯逮捕の際に乙と名乗り、「乙」名義の勾留状で勾留されたまま「被告人 乙」の起訴状で起訴され、第1回公判期日前に発覚した事例では、検察官は勾留中の甲を起訴する意思であり、表示の乙は甲を指す記号にすぎないので、甲を被告人として扱えます。在宅の甲が乙と名乗って起訴され、起訴状謄本を受け取った甲が出頭して冒頭手続を終えた後に発覚した事例でも、検察官の意思と現実の審理の経過はどちらも甲に向いているので、甲を被告人として扱えます。これに対し、真犯人の乙が「被告人 乙」で起訴された後に、甲が乙の依頼で身代わりとして出頭し、人定質問の段階で発覚した事例では、表示も検察官の意思も乙であり、甲は人定質問で露見しただけなので、甲を被告人として扱うことはできません。真犯人の甲の依頼で乙が被疑者として取調べを受け、「被告人 乙」で起訴され、乙が出頭して第1回公判期日の審理が終わった後に発覚した事例でも、表示・検察官の意思・審理の経過のすべてが乙に向いているので、甲を被告人として扱うことはできません。身代わりや冒用が公判の途中で判明したときの処理(人定質問・公訴棄却・判決の効力)は、訴訟能力と被告人の特定の語で扱います。

刑事訴訟法249条

公訴は、検察官の指定した被告人以外の者にその効力を及ぼさない。

論文ではこう使う

氏名冒用や身代わりの事例では、まず意思説・表示説・行動説の三つの基準を示し、表示だけでは勾留中の冒用者を被告人にできないという不都合、意思だけでは外から分からないという不都合を指摘したうえで、起訴状の表示を基本に検察官の意思と審理の経過を併せ考える基準を採り、事例の勾留の有無・誰が取調べを受けたか・誰が出頭して審理を受けたかを拾って、誰が被告人かを決めます。そのうえで、被告人でない者に対する手続の処理(公訴棄却か、手続の是正か)と、判決が確定している場合の効力の帰属に進みます。

試験ではこう問われる

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