自白の任意性の立証(325条の調査・録音録画・挙証責任)とは
じはくのにんいせいのりっしょう
自白の任意性の立証とは、自白調書の任意性が争われたときに、誰が、どの程度まで、どの方法で任意性を証明するかという問題です。挙証責任は検察官が負い、325条は伝聞例外の書面や供述について裁判所が供述の任意性をあらかじめ調査することを求め、平成28年改正の301条の2は一定の事件で取調べの録音・録画の記録媒体によって任意性を立証することを義務づけました。
法廷で被告人が「あの調書は脅されて書かされたものです」と言い、取調官が「そんなことはしていません」と言えば、密室で何があったかは水掛け論になります。かつては取調官の証言や被告人質問で判断するしかありませんでしたが、取調べを録音・録画しておけば、裁判所はその場面をそのまま見て判断できます。平成28年改正は、裁判員裁判の対象事件などで、任意性が争われたときに記録媒体の取調べを請求することを検察官に義務づけました。任意性を証明する責任は検察官にあり、裁判所がどの時点でどこまで調べるかという決まりとあわせて押さえます。
任意性の挙証責任は検察官が負い、合理的な疑いを超える程度まで証明しなければなりません
自白の任意性は証拠能力の要件なので訴訟法的事実ですが、319条1項は「任意にされたものでない疑のある自白」を排除しているので、疑いが残れば証拠にできません。したがって、任意性が争われたときは、自白調書の取調べを請求した検察官が、任意性に疑いがないことを立証する責任を負います。証明の方法は厳格な証明に限られず、取調官の証人尋問、被告人質問、取調べ状況報告書、留置人出入簿、そして録音・録画の記録媒体が使われます。証明の程度については、疑いが残れば排除されるという条文の構造から、合理的な疑いを超える程度の証明が要るというのが一般的な理解です。自白調書は、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ取調べを請求できません(301条)。裁判所が自白から先に心証を形成することを防ぐためで、任意性の争いも通常はこの段階で顕在化します。
325条の任意性の調査は、必ずしも証拠調べの前にしなければならないわけではありません
325条は、321条から324条までの規定により証拠にできる書面や供述であっても、あらかじめ、その書面に記載された供述や供述の内容となった他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ証拠にできないと定めます。文言は「あらかじめ」ですが、最決昭和54年10月16日は、この調査の趣旨は、任意性の程度が低いため証明力に乏しいものや任意性を欠くため証拠能力・証明力を欠くものを取り調べて裁判所が不当な心証を形成することをできる限り防止する点にあるとしたうえで、任意性は証拠能力にも関係するため通常は伝聞例外の要件審査と併せて証拠調べに先立って行われることが多いとしつつ、必ずしもその証拠調べの前にされなければならないわけのものではなく、裁判所が証拠調べの後にその証明力を評価するに当たって調査しても差し支えないとしました。「刑事訴訟法第325条による書面に記載された供述が任意にされたものかどうかの調査は、必ずしもその証拠調べの前にされなければならないものではない。」という肢は正しいです。325条の調査は被告人の自白に限らず、証人の公判廷での供述に含まれる他の者の供述や、第三者の供述録取書にも及びます。
公判前整理手続の終結までに自白調書の証拠能力を判断しなければならない義務はありません
公判前整理手続では、証拠調べ請求に対する相手方の意見を聴き、証拠決定をすることができます。しかし、弁護人が自白調書について任意性を争う意見を述べた場合に、手続の終結までにその証拠能力を判断しなければならないとする規定はありません。手続を終えるに当たって裁判所に義務づけられているのは、争点及び証拠の整理の結果を確認することです(316条の24)。任意性の判断には取調官の証人尋問や記録媒体の取調べを要することが多く、これらは公判期日の証拠調べで行うのが本来なので、公判前整理手続では任意性を争点として整理し、証拠決定を留保して公判で判断するのが通常の運用です。「公判前整理手続の終結までに当該自白調書の証拠能力を判断しなければならない。」という肢は誤りです。
裁判員対象事件と検察官独自捜査事件では、任意性が争われたとき検察官は録音・録画の記録媒体の取調べを請求しなければなりません
平成28年改正で新設された301条の2は、死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件、短期1年以上の拘禁刑に当たる罪で故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件、司法警察員が送致・送付した事件以外の事件(検察官独自捜査事件)について、逮捕・勾留中の被疑者の取調べや弁解の機会に際して作成された不利益な事実の承認を内容とする書面の取調べを検察官が請求し、被告人側が任意性に疑いがあることを理由に異議を述べたときは、検察官はその承認が任意にされたことを証明するため、取調べの開始から終了までの被告人の供述と状況を記録した記録媒体の取調べを請求しなければならないとしました(1項)。請求しなければ、裁判所は書面の取調べ請求を決定で却下しなければなりません(2項)。このために、検察官・検察事務官は対象事件の全部について、司法警察職員は死刑・無期拘禁刑の事件と故意に被害者を死亡させた事件(1号・2号)について、逮捕・勾留中の被疑者の取調べと弁解の機会を録音・録画しておく義務を負います(4項)。ただし、機器の故障、被疑者が記録を拒んだ場合、都道府県公安委員会の指定を受けた暴力団の構成員による犯罪に係る事件であると認めるとき、関係者の言動などから記録すると被疑者や親族への加害のおそれがあり十分な供述ができないと認めるときの四つの例外事由が定められ(4項)、記録媒体が存在しないやむを得ない事情があれば請求義務も免れます。対象事件は裁判員対象事件と重なる部分が大きいものの切り分け方が違い、例外事由もあるので、「裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件について逮捕又は勾留されている被疑者を取り調べるときは,…記録媒体に必ず記録しておかなければならない。」という肢は誤りです。令和元年6月に全面施行された制度で、2017年以前の問題にはこの義務を前提にしない肢があります。
- 対象事件死刑・無期拘禁刑に当たる罪の事件、短期1年以上の拘禁刑で故意に被害者を死亡させた罪の事件、検察官独自捜査事件です
- 対象となる取調べ逮捕・勾留中の被疑者の取調べ(198条1項)と弁解の機会です。在宅の被疑者や参考人の取調べは対象外です
- 検察官の義務不利益な事実の承認を内容とする書面の任意性に異議が出たら、取調べの開始から終了までの記録媒体の取調べを請求しなければなりません。請求しなければ書面の請求は却下されます
- 例外機器の故障、被疑者の拒否、指定暴力団の構成員による犯罪に係る事件、加害のおそれで十分な供述が期待できない場合は記録しなくてよく(4項)、やむを得ない事情で記録媒体がなければ請求義務を免れます
録音・録画の記録媒体を実質証拠として一般的に用いることには問題があるとした裁判例があります
記録媒体は任意性立証のための手段として設計されましたが、検察官が供述内容そのものを有罪立証の実質証拠にしようとする場面も生じます。東京高判平成28年8月10日は、内心が表情や言動に現れる態様には個人差があり、供述態度の評価に重きを置いた信用性判断は直感的で主観的なものになる危険があるから、供述態度の果たす役割は補充的な位置づけにとどまるとしたうえで、公開の法廷で弁護人の同席の下に裁判体が自ら問いを発する被告人質問と異なり、捜査機関の管理下で弁護人の同席もない取調べの供述態度を受動的に見ることは主観的判断に陥る危険がより大きいと指摘し、録音・録画の制度が取調べにおける強制や圧迫の弊害防止のために導入され、322条1項の書面の任意性が争われた場合の立証手段として位置づけられていることを踏まえると、その利用方法を超えて実質証拠として一般的に用いることには問題があるとして、記録媒体の実質証拠としての取調べ請求を却下した措置を是認しました。任意性の立証と実質証拠としての利用を分けて考えることが、この制度の読み方の基本です。
刑事訴訟法325条
裁判所は、第三百二十一条から前条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であつても、あらかじめ、その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となつた他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ、これを証拠とすることができない。
刑事訴訟法301条の2第2項
検察官が前項の規定に違反して同項に規定する記録媒体の取調べを請求しないときは、裁判所は、決定で、同項に規定する書面の取調べの請求を却下しなければならない。
論文ではこう使う
任意性の立証方法を問われたら、まず挙証責任が検察官にあり、疑いが残れば排除されるという319条1項の構造から合理的な疑いを超える証明が要ることを示します。次に、立証の手段として取調官の証人尋問・被告人質問・取調べ状況報告書を挙げ、対象事件であれば301条の2により記録媒体の取調べ請求が義務であることと、請求しなければ書面の請求が却下されることを書きます。記録媒体を実質証拠として使えるかが問われたら、任意性立証の手段としての制度趣旨と、供述態度に依存した信用性判断の危険を理由に、一般的な利用には問題があるとする裁判例の立場を示します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。