捜査の端緒の意義と種類とは
そうさのたんちょのいぎとしゅるい
捜査の端緒とは、捜査機関が「犯罪があると思料する」(189条2項)に至った原因、つまり犯罪の嫌疑を抱くきっかけになった事実です。刑事訴訟法は現行犯逮捕・検視・告訴・告発・請求・自首を端緒として規定していますが、端緒はこれらに限られず、職務質問や被害届、新聞・雑誌の記事や投書でもかまいません。
警察が事件を知るきっかけはさまざまです。被害者の届出や通行人の通報のこともあれば、巡回中の警察官が不審な人を見かけたり、新聞の記事や匿名の投書で知ったりすることもあります。刑事訴訟法は、捜査は「犯罪があると思料するとき」に始まると定めるだけで、どうやって疑いを持ったかは問いません。このきっかけを捜査の端緒といいます。法律は現行犯逮捕・検視・告訴・告発・請求・自首について手続を定めていますが、それは典型的な入口の手続を整えたもので、入口をそこに限る趣旨ではありません。
捜査は犯罪があると思料するときに始まり、その端緒には制限がありません
189条2項は「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする」と定め、191条1項は検察官が必要と認めるときは自ら捜査できると定めます。捜査を始める法律上の要件は犯罪の嫌疑があることだけで、嫌疑をどの資料から抱いたかは問われません。「捜査機関が犯罪があると思料するに至った理由を捜査の端緒というが、捜査の端緒には何ら制限がなく、刑事訴訟法に規定されたものに限られない」という肢は正しいです。被害者や第三者の申告、警察官職務執行法2条1項の職務質問、所持品検査、自動車検問、聞き込み、他の事件の捜査で偶然得た資料、新聞・雑誌・投書など、いやしくも犯罪に関係があると認められる事由がある限り、「広く社会の諸事象から捜査の端緒を得ることが許される」という記述は正しいです。
刑事訴訟法が手続を定めている端緒は、現行犯逮捕・検視・告訴・告発・請求・自首の6つです
刑事訴訟法は、捜査機関が端緒を得る典型的な場面について手続を定めています。現行犯人は何人でも逮捕状なくして逮捕でき、私人が逮捕したときは直ちに検察官又は司法警察職員に引き渡します(212条〜214条)。変死者又は変死の疑いのある死体があるときは検察官が検視をし、検察事務官又は司法警察員に代行させることができます(229条)。告訴は被害者などの告訴権者が、告発は何人でも、犯罪事実を申告して処罰を求める意思表示で、書面又は口頭で検察官又は司法警察員に対して行い、口頭のときは調書を作ります(230条・239条・241条)。請求は、外国の国章損壊罪などで外国政府の請求を訴訟条件とする場合の制度です。自首は犯人自身が捜査機関に発覚する前に自分の犯罪事実を申告して処分を求めるもので、告訴・告発の方式の規定が準用されます(245条)。司法警察員は告訴・告発・自首を受けたときは、速やかに書類と証拠物を検察官に送付しなければなりません(242条・245条)。これらの端緒ごとの要件と効果は、それぞれの語で扱います。
- 現行犯逮捕(212条〜214条)何人でも逮捕状なくして逮捕できます。私人は直ちに検察官又は司法警察職員に引き渡します
- 検視(229条)変死体について検察官が行い、検察事務官・司法警察員に代行させられます。令状は要りません
- 告訴(230条以下)告訴権者が書面又は口頭で検察官又は司法警察員にします。親告罪では訴訟条件になります
- 告発(239条)何人でもでき、公務員は職務上犯罪を知ったときは告発義務があります
- 請求(238条)外国政府などの請求を訴訟条件とする罪について、告訴の規定が準用されます
- 自首(245条)犯人が発覚前に自ら申告します。告訴・告発の方式と送付の規定が準用され、取り消すことはできません
- 法定外の端緒職務質問・所持品検査・自動車検問・被害届・聞き込み・新聞雑誌の記事・投書・風評などです
親告罪でも告訴の前に捜査でき、告発が訴訟条件の罪でも告発前に強制捜査ができます
親告罪では、有効な告訴が公訴提起の条件(訴訟条件)です。しかし告訴は公訴提起の要件であって捜査開始の要件ではなく、親告罪だからといって捜査権限を制限する規定はありません。告訴期間は犯人を知った日から6か月なので、その間に捜査ができないとすれば証拠が散逸し、告訴があってからの捜査が実効性を失います。「親告罪については、有効な告訴の存在が起訴又は訴訟の条件となっているから、司法警察職員は、告訴がない間は捜査をすることができない」という肢は誤りです。将来告訴がされる可能性がある限り、告訴前の捜査は任意捜査も強制捜査も原則として適法です。告発を訴訟条件とする罪についても同じです。判例は、関税法違反事件における税関長等の告発は単に訴追条件にすぎず、司法警察員は犯罪があると思料するときは法律の定めに従って強制の処分をすることもできるから、告発前であっても被疑者を逮捕・勾留して取り調べることができるとしています。「税関長等の告発を訴訟条件とする関税法違反事件について、その告発前に強制捜査をすることはできない」という肢は誤りです。訴訟条件は実体審理と実体判決の要件であって、捜査の要件ではないという区別が決め手です。
刑事訴訟法189条2項
司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
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