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用語集 / 刑事訴訟法 / 告訴の効力の範囲

告訴の効力の範囲(主観的不可分・客観的不可分)とは

こくそのこうりょくのはんい

刑事訴訟法 捜査の端緒

告訴の効力の範囲とは、ある告訴が、どの犯罪事実と、どの犯人に対して効力を持つかという問題です。告訴は犯人の処罰を求める意思表示であって犯人の特定は要件でないので、犯人を誤って指定しても真犯人に有効で、一罪の一部についての告訴は全部に及び(客観的不可分)、共犯の一人に対する告訴は他の共犯にも及びます(主観的不可分、238条1項)。

自転車を壊された人が「犯人は甲だ」と告訴したところ、調べてみると犯人は乙だったとします。告訴がやり直しになるのでは被害者に酷ですし、告訴はもともと「この被害について犯人を罰してほしい」という申出です。だから犯人を間違えても告訴は乙に有効です。同じ考えから、一つの事件の一部だけ申告しても事件全体に効力が及び、共犯の一人を名指ししても他の共犯にも及びます。これが告訴不可分の原則です。ただし、被害者が別の人の分や、本人がはっきり外した部分、親族相盗例のように犯人の身分で親告罪になる場合は、別の扱いになります。

警察署の相談窓口の場面。女性(札「被害者V」)が壊れた自転車の写真を持ち、カウンターに置かれた「告訴状」には「犯人:甲」と書かれている。先生が窓口の警察官役(札「司法警察員」)で、別の捜査資料に書かれた「真犯人:乙」の文字を指している。先生

告訴は犯罪事実について犯人の処罰を求める意思表示なので、犯人の指定は要件でなく、誤って指定しても真犯人に有効です

告訴は、被害者が犯人を特定して処罰を求めるところに重点があるのではなく、自分が被害を受けた犯罪について犯人の処罰を求めるところに重点があります。だから犯人を指定せずにした告訴も、誤って他人を犯人として指定した告訴も有効です(大判昭和12年6月5日)。「器物損壊罪の被害者が犯人をXと指定して告訴したが、捜査の結果、犯人はYであることが判明した場合、その告訴はYに対して有効である」という肢は正しく、自転車を壊した犯人を甲として告訴したが真犯人が乙だった事案で「Vの告訴の効力は乙に対して及ぶ」という肢も正しいです。

一罪の一部についての告訴は全部に及び、重い罪の告訴は軽い罪を包含し、観念的競合や牽連犯の一方の告訴があれば他方だけで起訴できます

明文はありませんが、単一の犯罪の一部についてした告訴は、残りの部分にも効力を生じます。これを告訴の客観的不可分といいます。告訴をするとき訴追の範囲を犯罪の一部に限る意思は通常なく、被害者に事件の分割を許すべきでもないからです。同居していない姉が弟に宝石を盗まれたとして告訴した後、弟が宝石と一緒に現金も盗んでいたと判明した事案では、宝石と現金の窃取は包括して一罪なので、告訴の効力は現金の窃取にも及びます。親族相盗例により親告罪となる事案で、「検察官が宝石と現金を窃取した事実で甲を起訴しても、親告罪について告訴のない事実を起訴したことにならない」という肢は正しいです。出題当時に親告罪であった性犯罪の事例では、強姦未遂の告訴を受けて捜査した結果、強制わいせつの事実が判明した場合、重い罪の告訴は「それより軽い強制わいせつの事実を当然包含している」ので、強制わいせつの事実で起訴しても告訴のない事実の起訴にはならず、この肢は正しいとされました。また、強姦未遂とわいせつ目的略取未遂のように、一方が他方を包含する関係にない観念的競合又は牽連犯の関係にある罪でも、科刑上一罪は訴訟法上一つの事件なので、一方の告訴があれば他方のみの事実で起訴しても告訴のない事実の起訴にはならず、この肢も正しいとされました。現在は不同意性交等罪・不同意わいせつ罪・わいせつ目的略取罪はいずれも非親告罪なので、告訴の有無は問題になりません。親告罪である侮辱罪と名誉毀損罪、器物損壊罪で考えても同じ理屈です。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立ち、指し棒で板書を指している。黒板には上に「客観的不可分:一罪の一部の告訴は全部に及ぶ」と見出しがあり、左に「宝石+現金(包括一罪)→ 及ぶ」「重い罪の告訴 → 軽い罪を包含」「観念的競合

科刑上一罪でも被害者が異なる部分には及ばず、告訴権者が一部に限定する意思を明らかにしたときも及びません

客観的不可分には例外があります。第一に、科刑上一罪とされる各罪について被害者が異なる場合です。告訴は自分を被害者とする犯罪事実について処罰を求めるものなので、他人の分には及びません。「一通の文書でA及びBの名誉が毀損された場合、Aがした告訴の効力は、Bに対する名誉毀損の事実には及ばない」という肢は正しく、月刊誌の記事でV1と愛人V2の名誉が毀損された事案で「V1の告訴の効力は、甲のV2に対する名誉毀損の事実にも及ぶ」という肢は誤りです。弟が姉の宝石と、姉と同居している妹の現金を盗んだ事案で、妹が告訴していなければ、「検察官が宝石と現金を窃取した事実で甲を起訴しても、親告罪について告訴のない事実を起訴したことにならない」という肢は誤りです。第二に、科刑上一罪の各罪について被害者が同一であっても、告訴権者が告訴を一部の罪に限定したと認められる場合です。出題当時の事例で、住居侵入とこれと科刑上一罪の関係にある強制わいせつの被害を受けた者が住居侵入の罪に限定して告訴したときは、「Vの告訴の効力は、強制わいせつの事実には及ばない」という肢は正しいとされました。現在は不同意わいせつ罪が非親告罪なので、この事例では告訴の要否自体が問題になりません。

共犯の一人に対する告訴や取消しは他の共犯にも及びますが、相対的親告罪では親族でない共犯への告訴は親族である共犯に及びません

親告罪について共犯の一人又は数人に対してした告訴又はその取消しは、他の共犯に対しても効力を生じます(238条1項)。これを告訴の主観的不可分といいます。告訴は特定の犯人を選別する制度ではなく、被害者には犯人を特定する能力もないからです。例外は相対的親告罪、つまり犯人と被害者の身分関係によって親告罪になる場合です。親族相盗例(刑法244条2項)で、被害者が親族でない共犯だけを告訴したときは、その告訴は親族である共犯には及びません。親族である共犯について告訴を要するのは身分関係に基づく被害者の処罰意思を確かめるためであって、親族でない者への告訴ではその意思が表れていないからです。宝石を盗まれた被害者が親族でない甲を告訴した後、別居中の弟乙も共犯だったと判明した事案で、「Vの告訴の効力は、乙に対しても及ぶ」という肢は誤りです。

告訴を取り消した者は、残りの部分を告訴し直すことはできません

客観的不可分により、一罪の一部についての告訴の効力は全部に及び、その取消しの効力も全部に及びます。だから、宝石の窃取について告訴した姉がこれを取り消した後に、同じ機会に盗まれた現金の窃取を告訴しても、取り消した者は更に告訴をすることができないという237条2項により、この告訴は無効です。「Aはこの現金を窃取した事実を告訴した。この場合、検察官が現金を窃取した事実で甲を起訴しても、親告罪について告訴のない事実を起訴したことにならない」という肢は誤りです。

  • 犯人を誤って指定した告訴真犯人に有効です(犯人の指定は要件ではありません)
  • 一罪の一部の告訴(包括一罪の宝石と現金)全部に及びます(客観的不可分)
  • 重い罪の告訴と軽い罪(出題当時の強姦未遂と強制わいせつ)軽い罪を包含し、軽い罪で起訴できます
  • 観念的競合・牽連犯の一方の告訴他方のみの事実でも起訴できます
  • 科刑上一罪で被害者が異なる(1通の文書で2人の名誉毀損)他の被害者の分には及びません
  • 告訴権者が一部に限定した(住居侵入のみの告訴)限定の意思が明らかなら他の部分に及びません
  • 共犯の一人への告訴・取消し他の共犯にも及びます(主観的不可分、238条1項)
  • 相対的親告罪で親族でない共犯への告訴親族である共犯には及びません
  • 取消し後の残部の告訴できません(237条2項)

刑事訴訟法238条1項

親告罪について共犯の一人又は数人に対してした告訴又はその取消は、他の共犯に対しても、その効力を生ずる。

論文ではこう使う

告訴の効力の範囲は、親告罪の一部起訴や訴因変更と絡めて問われます。まず告訴の性質(犯罪事実について犯人の処罰を求める意思表示で犯人の特定は要件でないこと)を示し、客観的不可分の原則とその根拠(訴追の範囲を限定する意思は通常なく、被害者に事件の分割を許すべきでない)を書いたうえで、問題の事実が単一の犯罪か科刑上一罪か、被害者が同一か、限定の意思が明らかかを当てはめます。共犯の事案では238条1項を引き、相対的親告罪なら身分関係に基づく処罰意思の有無から例外を論じます。告訴が及ばないと結論づけたときは、公訴棄却(338条4号)に結びつけます。

試験ではこう問われる

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