訴訟条件と訴因(訴訟条件存否の判断基準・訴因変更による追完)とは
そしょうじょうけんとそいん
訴訟条件と訴因とは、告訴の有無や管轄のように訴訟条件が備わっているかを、起訴状の訴因を基準に判断するのか、裁判所が証拠から得た心証を基準に判断するのかという問題です。当事者主義のもとで審判の対象は訴因であり、訴訟条件は実体審判の前提ですから、訴訟条件の存否も訴因を基準に判断するのが通説で、裁判例もこの立場に立ちます。
検察官が「別居の兄から財物を強取した」という強盗の訴因で起訴したところ、審理をすると暴行・脅迫までは認められず、窃盗にとどまりそうだとします。親族間の窃盗は告訴がなければ起訴できない親告罪ですが、強盗なら告訴は要りません。告訴がないこの事件で、裁判所が「告訴が要る事件だ」と見るかどうかは、何を基準にするかで変わります。起訴状の訴因は強盗ですから、訴因を基準にすれば告訴は不要で、裁判所の心証を基準にすれば告訴が欠けていることになります。審判の対象は訴因だと考える以上、訴訟条件も訴因を基準に見るのが筋です。
訴訟条件は実体審判の前提で、審判の対象は訴因ですから、訴訟条件の存否は訴因を基準に判断します
訴訟条件の存否を何を基準に判断するかについて、裁判所が証拠から形成した心証を基準にする心証基準説と、起訴状に記載された訴因を基準にする訴因基準説があります。心証基準説は、審判の対象を公訴事実と考える立場と結びつき、実体に即して告訴の要否などを決めようとします。しかし、当事者主義を採る現行法では審判の対象は訴因であり、訴訟条件は訴因について実体審判をするための前提ですから、訴訟条件の存否も訴因を基準に判断するのが通説です。裁判例も、非親告罪の窃盗の訴因で起訴された事件で、審理の進展に伴い検察官が親告罪の器物損壊の予備的訴因を追加し裁判所がこれを認定した事案で、告訴がないまま親告罪で起訴した場合とは異なり、訴因変更等の手続によって親告罪として審判すべき事態に至ったときはその時点で初めて告訴が必要になったにすぎないから、その時点で有効な告訴があれば訴訟条件に欠けるところはなく実体裁判ができるとしました(東京地判昭和58年9月30日)。訴因が非親告罪である間は告訴は要らず、親告罪の訴因になった時点で告訴の有無を見るという、訴因を基準にした判断です。管轄の有無も同じ考え方で、傷害致死の訴因で起訴され過失致死の心証を得た地方裁判所は、訴因を基準にすれば傷害致死について管轄があるので管轄違いにはならず、訴因の証明がなければ無罪を言い渡し、心証を基準にすれば簡易裁判所にしか管轄のない過失致死で判断するので管轄違いの判決を言い渡すことになります。
訴因基準説からは、親告罪への訴因変更があれば告訴の有無を見て公訴棄却し、訴因変更がなければ縮小認定で公訴棄却することはできません
強盗の訴因で起訴され、告訴のない親族間の窃盗の心証を得た裁判所がどうすべきかは、検察官が訴因変更を請求するかどうかで分かれます。検察官が窃盗の訴因への変更を請求した場合、新しい訴因は告訴を欠く不適法な訴因です。形式裁判を導くだけの不適法な訴因への変更は訴因変更制度の趣旨に反し許されないとする見解もありますが、訴因の設定・変更は検察官の権限であり、検察官が不適法な訴因へ変更するのは将来の実体裁判のためでもあるので、不適法な訴因への変更も許され、裁判所は変更を許したうえで告訴がないとして公訴棄却の判決をすべきだとする見解が有力です(338条4号)。検察官が訴因変更を請求しない場合、裁判所が強盗の訴因のまま窃盗を縮小認定し、告訴がないとして公訴棄却できるかが問題になります。形式裁判を導く縮小認定を認める見解もありますが、それでは訴因ではなく心証を基準に訴訟条件を判断することになるので、訴因基準説からは認められず、裁判所は強盗の訴因について証明がないとして無罪を言い渡すことになります。告訴がないまま親告罪で起訴した後に告訴を得た場合に瑕疵が治癒されるかという告訴の追完の問題は、告訴の語で扱います。
判例は形式裁判でも訴因を基準にし、免訴の判断に訴因の外の常習性を持ち込みませんが、形式裁判には訴因の拘束力を認めない見解もあります
訴因を基準に訴訟条件を判断する考え方は、確定判決を経たかどうかという免訴事由の判断にも及びます。判例は、実体法上は一つの常習特殊窃盗罪を構成する窃盗が単純窃盗の訴因で前訴と後訴に分かれた事案で、訴因制度を採用した現行法のもとでは少なくとも第一次的には訴因が審判の対象であることなどから、前訴と後訴の公訴事実の単一性は両訴因のみを基準に比較対照して判断するのが相当であり、訴因に上程されていない常習性の発露という要素を考慮すべき契機はないとして、前訴の確定判決の一事不再理効は後訴に及ばないとしました(最判平成15年10月7日)。見解問題では、この判例と同じ立場かどうかで記述を分けます。裁判所は訴因を超えて有罪判決をすることは許されないが、免訴や公訴棄却といった形式裁判をする場合に関する限り訴因に拘束されないという記述と、訴訟条件の存否は職権調査事項で免訴判決をしても被告人の防御権を侵害するおそれはないから訴因に拘束力を認める理由も必要性もないという記述は、形式裁判については心証を基準にしてよいとするもので、この判例とは異なる立場です。判例の立場からは、形式裁判であっても訴因の範囲で判断します。一事不再理効の範囲の本体は一事不再理効の範囲の語で扱います。
刑事訴訟法312条1項
裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
論文ではこう使う
訴訟条件の判断基準は、親告罪の告訴や管轄が絡む事例で書きます。①訴訟条件は実体審判の前提である、②当事者主義のもとで審判の対象は訴因だから、訴訟条件の存否も訴因を基準に判断する(訴因基準説)、③したがって訴因が非親告罪である間は告訴は不要で、親告罪の訴因に変更されれば告訴の有無を見る、④検察官が不適法な訴因への変更を請求すれば、訴因の設定・変更は検察官の権限だから裁判所は許したうえで公訴棄却の判決をし、請求がなければ縮小認定で公訴棄却はできず訴因の証明がないとして無罪にする、という順で書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。