刑法の基礎
3語罪刑法定主義
罪刑法定主義とは、どのような行為が犯罪となり、それにどのような刑罰が科されるかを、あらかじめ法律で定めておかなければならないという原則です。法律主義、遡及処罰の禁止、類推解釈の禁止、絶対的不定期刑の禁止、刑罰法規の適正性がここから導かれます。
刑法の適用範囲(国内犯・国外犯・刑の変更)
刑法の適用範囲とは、刑法がどの場所で犯された罪に、どの時点の行為に適用されるかという範囲です。日本国内で犯された罪にはすべての者に適用し(国内犯)、日本国外で犯された罪には2条から4条の2までに掲げる罪に限って適用し(国外犯)、犯罪後の法律によって刑の変更があったときは軽いものによります。
刑罰論(応報刑論・一般予防論・特別予防論)
刑罰論とは、国家が犯罪を行った者に刑罰を科すことがなぜ正当化されるのかを説明する理論です。刑罰を犯罪に対する応報とみる応報刑論と、犯罪の予防という目的から説明する目的刑論があり、目的刑論は一般人の犯罪を予防する一般予防論と、行為者の再犯を予防する特別予防論に分かれます。
構成要件
8語法人処罰と両罰規定
両罰規定とは、法人の代表者や従業者が法人の業務に関して違反行為をしたときに、行為者を罰するほか、その法人にも罰金刑を科すと定める規定です。刑法典の罪の主体は自然人であり、法人処罰は、このような特別の規定がある場合に限って認められます。
犯罪の分類(結果犯・危険犯・継続犯・状態犯・目的犯)
犯罪の分類とは、構成要件が結果の発生や法益の侵害をどこまで求めているか、犯罪がいつ終了するか、故意のほかに目的を求めているかという観点から、犯罪を整理する分け方です。行為客体の状態変化を要する結果犯、法益侵害の危険で足りる危険犯、法益侵害が続く間は犯罪が終了しない継続犯、結果の発生で犯罪が終了する状態犯、一定の目的を要件とする目的犯があります。
不真正不作為犯(作為義務・作為の可能性と容易性)
不真正不作為犯とは、殺人罪や放火罪のように作為の形で定められている罪を、不作為によって実現する場合をいいます。結果の発生を防止すべき作為義務があり、その作為が可能かつ容易であったのに、これをしなかったときに、作為による実行行為と同視されます。
不作為の因果関係
不作為の因果関係とは、期待された作為をしていれば結果が発生しなかったであろうという、不作為と結果との間の関係です。判例は、期待された作為をしていれば結果を防げたことが、合理的な疑いを超える程度に確実であったことを求めます。
条件関係(択一的競合・仮定的因果経過)
条件関係とは、その行為がなければその結果は発生しなかったであろうという、行為と結果との間の事実的なつながりです。刑法上の因果関係を認めるための前提となり、複数の行為がそれぞれ単独でも同じ結果を発生させることができた択一的競合や、行為者の行為がなくても別の原因で同じ結果が生じたであろう仮定的因果経過の場面で、その判断の仕方が問題になります。
因果関係(危険の現実化)
因果関係とは、発生した結果を行為者の行為のしわざとして帰責するために必要な、実行行為と結果との間のつながりです。判例は、条件関係があることを前提に、行為の危険性が結果へと現実化したといえるか(危険の現実化)によって判断しています。
相当因果関係説と条件説
相当因果関係説とは、条件関係があることを前提に、その行為からその結果が発生することが一般人の経験上相当といえる場合に因果関係を認める見解です。条件説とは、その行為がなければその結果は発生しなかったという条件関係があれば因果関係を認める見解です。
結果的加重犯
結果的加重犯とは、基本となる犯罪行為から、行為者が認識していなかった重い結果が発生した場合に、基本となる犯罪よりも重い刑を科す犯罪です。傷害致死罪がその例で、条文では「よって」という文言で定められています。
故意・錯誤・過失
9語故意の意義と種類(未必の故意・概括的故意・意味の認識)
故意とは、罪を犯す意思のことで、犯罪事実を認識し、その実現を認容することをいいます。結果の発生を確定的なものとして認識していなくても、発生するかもしれないと認識しつつそれでも構わないと認容していれば、未必の故意として故意が認められます。
具体的事実の錯誤(法定的符合説と具体的符合説)
具体的事実の錯誤とは、行為者が認識した事実と現実に発生した事実が、同じ構成要件の範囲内で食い違うことです。法定的符合説は両者が構成要件の範囲内で一致していれば故意を認め、具体的符合説は「その人」という具体的な客体の点で一致していなければ故意を認めません。
抽象的事実の錯誤(構成要件の重なり合い)
抽象的事実の錯誤とは、行為者が認識した事実と現実に発生した事実が、異なる構成要件にまたがって食い違うことです。この場合、故意は原則として認められませんが、二つの罪の構成要件の重なり合いが実質的に認められる限度で、軽い罪の故意犯が成立します。
因果関係の錯誤と遅すぎた構成要件の実現
因果関係の錯誤とは、行為者が狙った客体に結果を発生させたものの、結果に至る因果経過が行為者の認識と食い違うことです。遅すぎた構成要件の実現とは、第1行為で結果を発生させたと誤信した行為者が、その後の第2行為によってはじめて結果を発生させた場合をいいます。
過失犯の構造(旧過失論・新過失論・危惧感説)
過失犯の構造とは、過失の本質を何に求め、過失を犯罪の体系のどこに位置づけるかという問題です。旧過失論は予見可能性を、新過失論は結果回避義務違反を過失の本質とし、危惧感説は新過失論を前提に具体的な予見可能性を不要とします。
予見可能性と結果回避義務
予見可能性とは、行為者が構成要件的結果とその結果に至る因果関係の基本的部分を予見できたことをいいます。結果回避義務とは、予見可能性を前提に、結果を回避するための適切な措置を採るべき義務をいい、過失犯はこの義務に違反したときに成立します。
信頼の原則
信頼の原則とは、行為者が、被害者や第三者が適切な行動をとることを信頼するのが相当な場合には、その者の不適切な行動によって結果が発生しても、過失責任を負わないという考え方です。
管理・監督過失と過失の競合
管理・監督過失とは、事故を防ぐための設備や体制を整える義務に違反する管理過失と、直接行為者が過失を犯さないよう監督する義務に違反する監督過失をあわせた呼び名です。過失の競合とは、複数の者の不注意が積み重なって結果が発生した場合をいいます。
過失犯の処罰規定(業務上過失・重過失)
過失犯の処罰規定とは、故意のない行為を例外的に処罰する規定のことで、刑法38条1項ただし書の「特別の規定」に当たります。人を死傷させた場合は、通常の過失、業務上過失、重過失の別に応じて刑が定められており、重過失とは注意義務違反の程度が著しい場合をいいます。
違法性阻却
16語違法性の実質(結果無価値論と行為無価値論)
違法性の実質とは、構成要件に該当する行為がなぜ法的に許されないと評価されるのかという、違法性の中身のことです。法益の侵害とその危険に求める結果無価値論と、それに加えて行為が社会倫理規範に反することにも求める行為無価値論が対立します。
正当行為(法令行為・正当業務行為・自救行為)
正当行為とは、法令による行為や正当な業務による行為のように、構成要件に該当しても法秩序全体からみて許されるため違法性が阻却される行為です(35条)。法の手続によらずに自ら実力で権利を回復する自救行為は、明文がなく、原則として認められません。
被害者の同意(同意傷害・同意の要件)
被害者の同意とは、法益の主体である被害者が、自分の法益が侵害されることを承諾することです。同意があると、罪によって、構成要件該当性が否定される、違法性が阻却される、軽い罪が成立する、犯罪の成立に影響しない、のいずれかの効果が生じます。
錯誤に基づく同意(偽装心中)
錯誤に基づく同意とは、被害者が欺かれるなどして事実を誤って認識したまま与えた同意のことです。追死すると欺いて被害者に自殺を決意させる偽装心中がその代表で、このような同意が有効かどうかが問題になります。
推定的同意・治療行為・安楽死・危険の引受け
推定的同意とは、被害者の現実の同意はないものの、被害者が事態を正しく認識していれば同意したであろうと認められる場合をいい、違法性が阻却されます。治療行為、安楽死、危険の引受けも、被害者の意思を手がかりに違法性の阻却を論じる場面です。
正当防衛の急迫性(侵害の予期と積極的加害意思)
正当防衛の急迫性とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていることをいいます。侵害を予期していただけでは失われませんが、その機会を利用して積極的に相手に加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、急迫性を欠きます。
不正の侵害と防衛の対象(対物防衛・国家的法益の防衛)
不正の侵害とは、違法に他人の法益を害し、または害する危険を生じさせる行為をいい、正当防衛はこの不正の侵害に対してだけ成立します。防衛の対象である「権利」には、生命・身体だけでなく財産も含まれ、判例は国家的・社会的法益も含まれ得るとしています。
防衛の意思
防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする心理状態のことです。判例は、36条1項の「防衛するため」という文言から、正当防衛の成立に防衛の意思を必要としています。
防衛行為の相当性(やむを得ずにした行為)
防衛行為の相当性とは、反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであることをいいます。36条1項の「やむを得ずにした行為」は、この相当性を意味します。
自招侵害とけんか
自招侵害とは、防衛する者が自らの挑発や暴行によって相手の侵害を招いた場合をいいます。自ら招いた侵害であっても常に正当防衛が否定されるわけではなく、判例は一定の場合に「反撃行為に出ることが正当とされる状況」にないとして正当防衛を否定しています。
過剰防衛(質的過剰と量的過剰・防衛行為の一体性)
過剰防衛とは、急迫不正の侵害に対する反撃が防衛の程度を超えた場合をいい、犯罪は成立しますが、情状により刑を減軽または免除することができます(36条2項)。反撃の強さが相当性を超える質的過剰と、侵害が終わった後も反撃を続ける量的過剰があります。
誤想防衛・誤想過剰防衛
誤想防衛とは、急迫不正の侵害がないのにあると誤信して、防衛の意思で反撃した場合をいいます。誤想過剰防衛とは、急迫不正の侵害がないのにあると誤信したうえ、誤信した侵害に対する防衛としても程度を超えた反撃をした場合をいいます。
防衛行為と第三者
防衛行為と第三者とは、急迫不正の侵害に対する防衛行為が、侵害者以外の第三者の法益に関わる場合の処理をいいます。侵害者が第三者の物を用いた場合、防衛する者が第三者の物を用いた場合、反撃の結果が第三者に生じた場合の三つがあります。
緊急避難の成立要件(現在の危難・補充性・法益の権衡)
緊急避難とは、自己または他人の生命、身体、自由または財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為であって、生じた害が避けようとした害の程度を超えなかったものをいい、罰せられません(37条1項本文)。
緊急避難の法的性格(違法性阻却説・責任阻却説・二分説)
緊急避難の法的性格とは、37条1項の緊急避難がなぜ罰せられないのかという問題です。違法性が阻却されるとする違法性阻却事由説、責任が阻却されるとする責任阻却事由説、場合によって分ける二分説が対立します。
緊急避難の限界(過剰避難・自招危難・強要による緊急避難)
過剰避難とは、現在の危難を避けるための行為が、避けようとした害の程度を超える害を生じさせた場合をいい、情状により刑を減軽または免除することができます(37条1項ただし書)。自ら招いた危難や、犯罪を強要された場合に緊急避難が認められるかも、緊急避難の限界として問題になります。
責任
6語責任能力(心神喪失・心神耗弱)
責任能力とは、行為の是非善悪を弁識し、その弁識に従って行動する能力のことです。精神の障害により弁識能力又は制御能力がない状態を心神喪失、弁識能力又は制御能力が著しく減退した状態を心神耗弱といいます。
責任能力の判断方法(精神鑑定と裁判所の判断)
責任能力の判断方法とは、被告人が心神喪失又は心神耗弱に当たるかどうかを、誰がどのような資料で判定するかという問題です。判例は、これを裁判所に委ねられた法律判断としつつ、精神鑑定の意見は合理的な事情がない限り十分に尊重すべきであるとしています。
刑事未成年
刑事未成年とは、14歳に満たない者の行為を罰しないとする制度です。弁識能力や制御能力の有無を個別に調べず、行為の時の年齢だけで一律に責任能力がないものと扱います。
原因において自由な行為
原因において自由な行為とは、自ら飲酒や薬物の使用(原因行為)によって心神喪失又は心神耗弱の状態を招き、その状態で結果を生じさせる行為(結果行為)をした場合に、39条を適用せず完全な責任を問う理論です。
違法性の意識と法律の錯誤
違法性の意識とは、自己の行為が法的に許されないものであると知っていることです。事実は正しく認識しながら、誤って自己の行為は違法でないと考えた場合を法律の錯誤(違法性の錯誤)といい、38条3項は、法律を知らなかったとしても故意は否定されないと定めています。
期待可能性
期待可能性とは、違法な行為をした行為者に、行為の時の具体的な事情の下で、適法な行為をすることを期待できたことをいいます。期待可能性がなければ行為者を非難できないので、責任が阻却されると考えられています。
未遂・中止犯・不能犯
9語未遂犯の処罰と刑
未遂犯とは、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合をいいます。未遂を罰するのは各本条に規定がある罪に限られ、刑は減軽することができ、自己の意思により中止したときは必ず減軽又は免除されます。
実行の着手
実行の着手とは、犯罪の実行行為を開始することをいい、予備と未遂を分ける基準です。判例は、構成要件に該当する行為に密接な行為であって、結果発生に至る客観的な危険性が認められる行為を始めた時点に着手を認めています。
間接正犯・離隔犯の着手時期
離隔犯とは、毒入りの飲食物を発送する場合のように、行為者の行為と結果の発生との間に時間的・場所的な隔たりがある犯罪です。他人を道具として利用する間接正犯とともに、行為者の行為の時と、被利用者の行為や到達の時のどちらに実行の着手を認めるかが問題になります。
早すぎた構成要件の実現
早すぎた構成要件の実現とは、行為者が第1行為の後に行う第2行為によって結果を発生させる計画であったのに、第1行為から結果が発生してしまった場合をいいます。第1行為の時点で実行の着手が認められるか、計画と異なる経過で結果が発生したことが故意を阻却するかが問題になります。
不能犯(具体的危険説と客観的危険説)
不能犯とは、行為者は犯罪を実現するつもりで行為をしたが、その行為に結果を発生させる危険性がないため、未遂犯として処罰されない場合をいいます。危険性の有無を、行為時に一般人が認識し得た事情などを基礎に一般人を基準として判断する具体的危険説と、客観的な事情を基礎に事後的・科学的に判断する客観的危険説が対立します。
中止犯の減免根拠(政策説・違法減少説・責任減少説)
中止犯の減免根拠とは、自己の意思により犯罪を中止した者の刑が、なぜ必ず減軽又は免除されるのかという問題です。犯罪の中止を奨励する政策に求める政策説と、違法性が減少するとする違法減少説、責任が減少するとする責任減少説が対立します。
中止行為(「中止した」の意義)
中止行為とは、43条ただし書の「犯罪を中止した」に当たる行為のことです。実行行為が終わっていない段階では以後の実行を放棄すれば足り、実行行為が終わって結果発生の危険が生じている段階では、結果の発生を防止するための真摯な努力が必要です。
中止の任意性(「自己の意思により」)
中止の任意性とは、43条ただし書の「自己の意思により」犯罪を中止したといえることをいいます。やろうと思えばできたのにやめたかで判断する主観説、中止の原因が社会通念上犯罪続行の障害となる事情かで判断する客観説、広義の後悔に基づく場合に限る限定主観説が対立します。
予備罪(予備の中止・予備の共同正犯・他人予備)
予備罪とは、特定の罪を犯す目的で、実行の着手より前の準備をする行為を処罰する罪です。殺人、強盗、放火など特に重大な罪についてだけ定められており、判例は、予備罪に中止犯の規定を準用せず、予備罪の共同正犯の成立を認めています。
共犯
19語間接正犯
間接正犯とは、他人を道具として利用することによって、自ら手を下したのと同じように犯罪を実現することです。事情を知らない者、意思を抑圧された者、被害者自身などを利用した者は、教唆犯ではなく正犯として処罰されます。
共謀共同正犯(共謀・正犯意思)
共謀共同正犯とは、二人以上の者が特定の犯罪を行うことを共謀し、そのうちの一部の者が共謀に基づいて実行した場合に、実行行為を分担しなかった者も含めて全員が共同正犯になることです。共謀とは、互いに他人の行為を利用して各自の意思を実行に移すという共同犯行の認識に基づく意思の連絡をいいます。
共同正犯と幇助犯の区別(見張り)
共同正犯と幇助犯の区別とは、犯罪に関与した者が、自己の犯罪を行った者として正犯になるのか、他人の犯罪を手助けした者として幇助犯にとどまるのかを分ける問題です。見張りのように実行行為そのものではない行為をした者について、動機、利益の帰属、役割の重要性から判断します。
教唆犯(間接教唆・再間接教唆)
教唆犯とは、人を教唆して犯罪を実行させた者をいい、正犯の刑が科されます。教唆とは、まだ犯罪を決意していない者を唆して、特定の犯罪を実行する決意を新たに生じさせることです。
幇助犯(間接幇助)
幇助犯とは、正犯を幇助した者、すなわち実行行為以外の方法で正犯の実行を容易にした者をいい、条文では従犯と呼ばれます。従犯の刑は、正犯の刑を必ず減軽します。
幇助の因果性と中立的行為による幇助
幇助の因果性とは、幇助行為が正犯の実行を物理的又は心理的に容易にしたという関係のことで、幇助犯が成立するために必要です。中立的行為による幇助とは、日常の取引や誰でも適法に使える道具・技術の提供が、結果として他人の犯罪を容易にした場合に幇助犯が成立するかという問題です。
片面的共犯(片面的共同正犯・片面的幇助)
片面的共犯とは、関与者の一方だけが共同して実行する意思や手助けする意思を持ち、相手方はそのことを知らないまま犯罪が行われる場合をいいます。判例は、片面的共同正犯を否定し、片面的幇助を肯定しています。
共犯の従属性(実行従属性・要素従属性)
共犯の従属性とは、教唆犯・幇助犯の成立が正犯の行為に依存するという性質のことです。正犯が実行に着手しなければ共犯は成立しないという実行従属性と、正犯の行為が犯罪の成立要件をどこまで備えている必要があるかという要素従属性に分かれます。
共犯の処罰根拠(因果的共犯論・未遂の教唆)
共犯の処罰根拠とは、自ら実行行為をしていない教唆犯や幇助犯がなぜ処罰されるのかという問題です。正犯者を犯罪に引き込んで処罰される状態に陥れたことに求める責任共犯論と、正犯の行為を通じて法益侵害の結果を惹起したことに求める因果的共犯論が対立します。
承継的共犯
承継的共犯とは、先行者が犯罪の実行に着手した後、まだ終了しないうちに、後行者が先行者と意思を通じて途中から加わった場合に、後行者が加わる前の行為や結果についても共犯としての責任を負うかという問題です。
共犯関係の解消(離脱)と共犯の中止
共犯関係の解消とは、共犯者の一部が犯罪の完成前に共犯関係から離脱し、それまでの自分の関与が及ぼした影響を取り除いたために、離脱後に他の共犯者が生じさせた結果について責任を負わなくなることです。共犯の中止とは、未遂の責任を負う共犯者に中止犯の刑の減免が認められるかという問題です。
共犯と身分
共犯と身分とは、公務員や他人の物の占有者のように一定の身分がなければ成立しない犯罪や、身分によって刑の重さが変わる犯罪に、身分のない者が関与した場合の扱いをいい、65条が定めています。1項は身分のない者も共犯とすると定め、2項は身分のない者には通常の刑を科すると定めます。
共犯と錯誤(共謀の射程・犯罪共同説と行為共同説)
共犯と錯誤とは、共謀や教唆・幇助の内容と、他の共犯者が実際に実行した犯罪とが食い違った場合に、実行していない者にどの罪の共犯が成立するかという問題です。共謀の射程とは、実行された行為が当初の共謀に基づくものといえる範囲のことです。
間接正犯と共犯の錯誤(関与形式間の錯誤)
間接正犯と共犯の錯誤とは、他人を道具として利用するつもりだったのに相手が事情を知っていた場合や、唆すつもりだったのに相手が事情を知らないまま実行した場合のように、行為者が考えていた関与の形式と実際に生じた関与の形式が食い違うことです。関与形式間の錯誤とも呼ばれ、重なり合う軽い関与形式の限度で犯罪が成立します。
結果的加重犯の共同正犯
結果的加重犯の共同正犯とは、強盗や傷害といった基本となる犯罪を共謀した者が、共犯者の一人が生じさせた死傷などの重い結果についても、強盗致死傷罪や傷害致死罪の共同正犯として責任を負うことです。
過失犯の共同正犯
過失犯の共同正犯とは、二人以上の者が共同の注意義務に共同して違反し、結果を生じさせた場合に、全員を過失犯の共同正犯とすることです。誰の行為から結果が生じたかを特定できなくても、全員が結果について責任を負います。
不作為と共犯(不作為による幇助)
不作為と共犯とは、他人の犯罪を止める義務のある者がこれを止めなかった場合に、その者が正犯になるのか共犯になるのかという問題です。不作為による幇助とは、犯罪を防止すべき作為義務のある者が、防止することが可能であるのに作為をせず、正犯の実行を容易にすることをいいます。
必要的共犯(対向犯・片面的対向犯)
必要的共犯とは、構成要件が初めから二人以上の者の関与を予定している犯罪のことです。向かい合う立場の者の行為があって成り立つ犯罪を対向犯といい、そのうち一方だけに処罰規定があるものを片面的対向犯といいます。
共同正犯と正当防衛・過剰防衛
共同正犯と正当防衛・過剰防衛とは、共同して反撃した者の一部にだけ正当防衛や過剰防衛の要件が備わる場合や、侵害が終わった後に一部の者だけが暴行を続けた場合に、各人の罪責をどう決めるかという問題です。判例は、過剰防衛の成否を共同正犯者の各人について検討します。
罪数・刑罰の適用
12語法条競合(特別関係・補充関係・吸収関係)
法条競合とは、1個の行為が複数の構成要件に当たるように見えても、構成要件どうしの関係から1つの構成要件だけが適用され、1罪しか成立しない場合です。構成要件どうしの関係は、特別関係・補充関係・択一関係・吸収関係に分けて説明されます。
包括一罪(接続犯・集合犯・混合的包括一罪)
包括一罪とは、数個の行為や数個の法益侵害があっても、1つの構成要件で包括して評価し、1罪として扱う場合です。同じ罪名の行為をまとめる接続犯・集合犯のほか、罪名の異なる罪をまとめる混合的包括一罪があります。
不可罰的事後行為(共罰的事後行為)
不可罰的事後行為とは、ある罪が成立した後の行為が、その罪で既に評価されている違法状態に通常含まれ、新たな法益侵害を伴わないために、別罪を構成しない場合です。先行する罪と共に処罰されているという意味で、共罰的事後行為とも呼ばれます。
観念的競合(「1個の行為」の意義)
観念的競合とは、1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合です。数個の罪が成立しますが、刑を科すうえでは1罪として扱われ、その最も重い刑により処断されます(刑法54条1項前段)。
牽連犯とかすがい現象
牽連犯とは、犯罪の手段又は結果である行為が他の罪名に触れる場合です。数個の罪が成立しますが、その最も重い刑により処断されます(刑法54条1項後段)。かすがい現象とは、本来は併合罪となる数罪が、それぞれ別の1個の罪と科刑上一罪の関係に立つために、全体が科刑上一罪となることです。
併合罪
併合罪とは、確定裁判を経ていない2個以上の罪です(刑法45条前段)。科刑上一罪にならない数罪をまとめて処断する制度で、2個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とします(47条)。
刑の種類(主刑と付加刑・拘禁刑・労役場留置)
主刑とは、それだけで独立して言い渡すことができる刑で、死刑・拘禁刑・罰金・拘留・科料の5種類です。付加刑とは、主刑に付け加える形でだけ言い渡すことができる刑で、没収だけがこれに当たります(刑法9条)。
処断刑の形成(加重減軽の順序・法律上の減軽・酌量減軽・累犯)
処断刑とは、法定刑に法律上の加重・減軽と酌量減軽を加えて得られる刑の範囲で、裁判所はこの範囲内で言い渡す刑を決めます。同時に刑を加重し、又は減軽するときは、再犯加重、法律上の減軽、併合罪の加重、酌量減軽の順序によります(刑法72条)。
執行猶予(再度の猶予・取消し・保護観察・一部猶予)
執行猶予とは、刑を言い渡すときに、情状により一定の期間その執行を猶予し、取り消されることなく期間を経過すれば刑の言渡しが効力を失う制度です。刑の全部の執行猶予(刑法25条)と、刑の一部の執行猶予(27条の2)があります。
自首
自首とは、罪を犯した者が、捜査機関に発覚する前に、自ら進んで自己の犯罪事実を捜査機関に申告し、その処分に委ねることです。自首したときは、その刑を減軽することができます(刑法42条1項)。
没収・追徴
没収とは、犯罪に関係する物の所有権を奪って国庫に帰属させる付加刑です(刑法19条)。追徴とは、犯罪行為によって得た物などを没収することができないときに、その価額を納めさせる処分です(19条の2)。
仮釈放・刑の時効・刑の消滅
仮釈放とは、拘禁刑に処せられた者に改悛の状があるときに、刑期が満了する前に行政官庁の処分によって仮に釈放する制度です(刑法28条)。刑の時効は確定した刑が一定の期間執行されないことで執行の免除を得る制度、刑の消滅は刑の執行を終えた後に一定の期間を経過することで刑の言渡しが効力を失う制度です。
生命・身体に対する罪
9語殺人罪と自殺関与・同意殺人の区別
自殺関与とは、人を教唆し又は幇助して自殺させることをいい、同意殺人とは、人をその嘱託を受け又はその承諾を得て殺すことをいいます(202条)。本人の自殺の決意や殺害への同意が有効でないときは、202条ではなく199条の殺人罪が成立します。
胎児と人の区別(堕胎の罪・胎児性傷害)
胎児とは、母体から一部も露出していない段階の生命をいい、堕胎の罪の客体になります。母体から一部でも露出すれば「人」となり、殺人罪や傷害罪の客体になります。
暴行の意義(暴行罪)
暴行とは、暴行罪(208条)では、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときに、暴行罪が成立します。
傷害の意義と傷害罪の故意
傷害とは、人の生理的機能に障害を与えることをいいます。傷害罪(204条)は、傷害の故意がある場合のほか、暴行の故意で暴行を加えて傷害の結果が生じた場合にも成立します。
同時傷害の特例
同時傷害の特例とは、二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合に、それぞれの暴行による傷害の軽重や傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても共犯の例によるとする規定です(207条)。
現場助勢罪・凶器準備集合罪
現場助勢罪とは、傷害罪又は傷害致死罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者を、自ら人を傷害しなくても処罰する罪です(206条)。凶器準備集合罪とは、二人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合に、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者を処罰する罪です(208条の2)。
遺棄の意義(単純遺棄と保護責任者遺棄)
遺棄とは、場所的離隔を生じさせることにより、扶助を必要とする者を保護のない状態に置くことをいいます。保護する責任のない者による遺棄は単純遺棄罪(217条)、保護する責任のある者による遺棄は保護責任者遺棄罪(218条)として処罰されます。
保護責任者・不保護と不作為の殺人との区別
保護責任者とは、老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者をいい、不保護とは、これらの者の生存に必要な保護をしないことをいいます(218条)。保護責任者が殺意をもって保護をしなかった場合は、不作為の殺人罪が問題になります。
過失致死傷の罪(過失傷害・自動車運転による死傷)
過失致死傷の罪とは、過失により人を傷害し、又は死亡させる罪のことで、過失傷害罪(209条)、過失致死罪(210条)、業務上過失致死傷罪・重過失致死傷罪(211条)があります。自動車の運転による死傷は、刑法ではなく、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律で処罰されます。
自由・私生活の平穏に対する罪
10語逮捕・監禁罪
逮捕・監禁罪とは、不法に人を逮捕し、又は監禁する罪です(220条)。逮捕は人の身体を直接拘束すること、監禁は人を一定の区域場所から脱出できないようにすることで、どちらも身体活動の自由を奪う行為です。
脅迫罪・強要罪
脅迫罪とは、本人又は親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫する罪です(222条)。強要罪とは、この脅迫又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害する罪です(223条)。
略取・誘拐の罪の類型と親告罪
略取・誘拐とは、人をその生活環境から離脱させ、自己又は第三者の事実的支配の下に置く行為です。暴行又は脅迫を手段とする場合が略取、欺罔又は誘惑を手段とする場合が誘拐で、刑法は客体と目的に応じて未成年者略取・誘拐、営利目的等、身の代金目的などの類型を分けています。
略取・誘拐の論点(親権者による連れ去り・安否を憂慮する者)
略取・誘拐とは、人をその生活環境から離脱させ、自己又は第三者の事実的支配の下に置く行為です。親権者が他方の親権者の監護下にある子を連れ去った場合に未成年者略取罪が成立するか、身の代金目的の罪の「安否を憂慮する者」にだれが含まれるかが論点になります。
不同意わいせつ・不同意性交等の罪の構造
不同意わいせつとは、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ、又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をする罪です(176条)。同じ状態のもとで性交等をする罪が不同意性交等(177条)で、どちらも令和5年の改正で定められました。
わいせつな行為と性的意図
わいせつな行為とは、不同意わいせつ罪(176条)が処罰する、性的な意味を持つ行為です。これに当たるかは、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を踏まえ、事案によっては行為が行われた際の具体的状況等も考慮して、社会通念に照らして判断されます。
不同意わいせつ等致死傷
不同意わいせつ等致死傷とは、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪・監護者わいせつ罪・監護者性交等罪又はこれらの未遂罪を犯し、よって人を死傷させる罪です(181条)。
住居侵入罪の保護法益と「侵入」
侵入とは、住居権者又は管理権者の意思に反して住居等に立ち入ることです。住居侵入罪(130条前段)は、住居等にだれを立ち入らせるかを決める自由を保護法益とすると解されています。
住居・邸宅・建造物と囲繞地
囲繞地とは、建物に接してその周辺に存在し、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の附属地として建物利用のために供されるものであることが明示された土地です。130条の住居・邸宅・建造物には、建物だけでなくこの囲繞地が含まれます。
秘密を侵す罪(信書開封・秘密漏示)
秘密を侵す罪とは、封をしてある信書を開ける信書開封罪(133条)と、医師や弁護士など一定の職にある者が業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らす秘密漏示罪(134条)をいいます。どちらも告訴がなければ公訴を提起できない親告罪です(135条)。
名誉・信用・業務に対する罪
9語名誉毀損罪の保護法益と客体(法人・死者)
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する罪です(230条1項)。保護法益は、人に対する社会的評価である外部的名誉です。
公然性と伝播性の理論
公然とは、不特定又は多数の人が認識することのできる状態をいいます。伝播性の理論とは、特定かつ少数の人に対する摘示であっても、そこから不特定又は多数の人に伝播する可能性があれば公然性を認める考え方です。
侮辱罪(名誉毀損罪との区別・保護法益)
侮辱罪とは、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱する罪です(231条)。具体的な事実を摘示して人の名誉を毀損する名誉毀損罪とは、判例によれば事実の摘示の有無で区別されます。
公共の利害に関する場合の特例(230条の2)
公共の利害に関する場合の特例とは、名誉毀損罪に当たる行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合に、真実であることの証明があれば罰しないとする規定です(230条の2)。
真実性の誤信
真実性の誤信とは、名誉毀損罪に当たる事実を摘示した者が、その事実を真実であると信じていたのに、真実であることの証明ができなかった場合をいいます。判例は、誤信したことについて確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、故意がなく名誉毀損罪は成立しないとしています。
信用毀損罪
信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損する罪です(233条前段)。信用とは、経済的な側面における人の社会的な評価をいいます。
業務妨害罪の「業務」と公務
業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいいます。公務のうち、強制力を行使する権力的公務は業務妨害罪の業務に当たらず、それ以外の公務は業務に当たるというのが判例です。
偽計と威力の区別・妨害の意義
偽計とは、人を欺き、又は人の錯誤や不知を利用することをいい、威力とは、人の意思を制圧するに足りる勢力をいいます。偽計を用いて業務を妨害すれば偽計業務妨害罪(233条後段)、威力を用いて業務を妨害すれば威力業務妨害罪(234条)が成立します。
親告罪の一覧
親告罪とは、告訴がなければ公訴を提起することができない罪です。刑法では、名誉毀損罪、侮辱罪、器物損壊罪、過失傷害罪、未成年者略取・誘拐罪などが親告罪とされています。
財産犯(窃盗・強盗)
16語財産犯の体系(領得罪と毀棄罪・1項犯罪と2項犯罪)
財産犯の体系とは、財産に対する罪を、不法領得の意思の有無で領得罪と毀棄罪に、客体が財物か財産上の利益かで1項犯罪と2項犯罪に分けて整理した見取り図です。領得罪はさらに、占有を奪う窃盗・強盗、相手に交付させる詐欺・恐喝、占有の移転がない横領に分かれます。
財物と財産上の利益
財物とは、窃盗罪などの客体となる有体物をいい、財産上の利益とは、債務の免脱や役務の提供のように財物以外の財産的利益の一切をいいます。財産上の利益を客体とするのは強盗・詐欺・恐喝の各2項です。
窃盗罪の保護法益(本権説と占有説)
窃盗罪の保護法益とは、窃盗罪が何を守るために処罰しているのかという問題で、所有権その他の本権と考える本権説と、占有それ自体と考える占有説が対立しています。判例は占有それ自体を保護しています。
占有の存否(窃盗と遺失物等横領の区別)
占有の存否とは、領得された時点でその財物に誰かの事実上の支配が及んでいたかどうかという問題です。占有があれば窃盗罪が、誰の占有にも属さなければ遺失物等横領罪が成立します。
死者の占有
死者の占有とは、人を死亡させた後にその人が身に付けていた財物を取った場合に、窃盗罪の客体となる占有がなお認められるかという問題です。判例は、殺害した犯人が死亡の直後に奪った場合には、被害者が生前有していた占有を保護して窃盗罪の成立を認めます。
占有の帰属(上下主従・封緘物・共同占有)
占有の帰属とは、一つの財物に複数の人が関わっているときに、刑法上の占有が誰にあるかという問題です。占有が他人にあれば窃盗罪、行為者自身にあれば横領罪が問題になります。
不法領得の意思(窃盗罪)
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用し又は処分する意思をいいます。窃盗罪などの領得罪で、故意とは別に必要とされる主観的要件です。
窃取と既遂時期(実行の着手・不動産侵奪を含む)
窃取とは、占有者の意思に反して財物の占有を侵害し、自己又は第三者の占有に移すことをいいます。占有を侵害する現実的な危険のある行為を始めた時点で実行の着手が認められ、占有を取得した時点で既遂になります。
親族相盗例
親族相盗例とは、配偶者、直系血族又は同居の親族との間で窃盗罪・不動産侵奪罪を犯した者の刑を免除し、その他の親族との間で犯した場合を親告罪とする特例です(244条)。詐欺・恐喝・背任・横領の罪にも準用されます。
強盗罪の暴行・脅迫(反抗を抑圧するに足りる程度)
強盗罪の暴行・脅迫とは、財物を奪う手段として加えられる、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫をいいます。この程度に至らない暴行・脅迫で畏怖させて交付させた場合は恐喝罪になります。
強取と暴行後の領得意思
強取とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を手段として、財物の占有を自己又は第三者に移すことをいいます。暴行・脅迫の後に財物を奪う意思を生じた場合には、強取といえるために新たな暴行・脅迫が必要かが問題になります。
強盗利得罪(2項強盗)
強盗利得罪とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を用いて、財産上不法の利益を得、又は他人に得させる罪です(236条2項)。代金や債務の支払を暴行・脅迫によって免れる場合が典型で、被害者の処分行為は必要ありません。
事後強盗罪(要件・窃盗の機会・既遂と未遂)
事後強盗罪とは、窃盗犯人が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために暴行又は脅迫をした場合に、強盗として扱う罪です(238条)。
事後強盗罪と共犯
事後強盗罪と共犯とは、窃盗に関与していない者が、窃盗犯人による238条の目的での暴行・脅迫にだけ加担した場合に、その者に事後強盗罪の共犯が成立するかという問題です。事後強盗罪を身分犯とみるか結合犯とみるかで、65条の問題になるか承継的共同正犯の問題になるかが分かれます。
強盗致死傷罪(強盗の機会・故意ある場合・未遂)
強盗致死傷罪とは、強盗の犯人が人を負傷させ、又は死亡させた場合に成立する罪です(240条)。殺意や傷害の故意がある強盗殺人・強盗傷人も、同じ240条で処罰されます。
強盗の罪の周辺類型(昏酔強盗・強盗予備・強盗不同意性交等)
強盗の罪の周辺類型とは、236条の強盗のほかに刑法が定める、昏酔強盗罪(239条)、強盗予備罪(237条)、強盗・不同意性交等罪(241条)をまとめた呼び名です。昏酔強盗は強盗として扱われ、強盗予備は準備の段階を、強盗・不同意性交等は強盗と性交等が重なった場合を処罰します。
財産犯(詐欺・横領・背任ほか)
24語欺く行為(重要事項性・挙動と不作為)
欺く行為とは、相手方が財物や財産上の利益を交付するかどうかを判断する基礎となる重要な事項を偽ることです。言葉でうそを言う場合のほか、挙動による場合と、告知義務に反して真実を告げない不作為による場合があります。
処分行為と処分意思(無銭飲食・キセル乗車・三角詐欺)
処分行為とは、欺かれた者が錯誤に基づいて、財物の占有や財産上の利益を自分の意思で相手方に移す行為です。処分意思とは、その移転を認識して認める意思をいい、これを欠くときは詐欺罪ではなく窃盗罪などが問題になります。
詐欺罪の財産的損害
詐欺罪の財産的損害とは、欺かれて財物や利益を交付したことによって被害者に生じる財産上の不利益をいいます。判例は、相当な対価が支払われていても、真実を告げれば相手方が交付しなかったといえる場合には詐欺罪の成立を認めています。
クレジットカードの不正使用
クレジットカードの不正使用とは、他人名義のカードを名義人に成り済まして使う行為や、支払う意思も能力もないのに自己名義のカードを使う行為をいい、加盟店に対する詐欺罪の成否が問題になります。判例は、他人名義のカードの使用について、名義人の承諾があっても詐欺罪が成立するとしています。
預金の占有と誤振込み(銀行取引と財産犯)
預金の占有とは、預金口座にある金銭について誰が刑法上の占有を有するかという問題です。銀行の中やATMの中の現金は銀行が占有し、払戻権限を持つ預金名義人は預金相当額の金銭を法律上支配しています。誤振込みとは、振込みの原因となる法律関係がないのに誤って口座に入金されることをいいます。
詐欺罪の実行の着手と既遂時期
詐欺罪の実行の着手とは、相手方に財物や利益を交付させることに向けた欺く行為を開始することをいい、判例は、交付を求める文言を述べる前でも、交付の判断の前提となる重要なうそを述べた段階で着手を認めています。既遂時期は、財物の占有や利益が行為者側に移転した時です。
電子計算機使用詐欺罪
電子計算機使用詐欺罪とは、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報や不正な指令を与えて財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作り、または虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得る罪です。人を欺かずに機械を相手に利益を得る行為を処罰するために、詐欺罪を補う規定として置かれています。
不法原因給付と財産犯
不法原因給付と財産犯とは、賄賂の資金や違法な取引の代金のように、不法な原因のために交付された財物・利益について、給付者が民法上その返還を請求できない場合(民法708条)にも、詐欺罪・恐喝罪・横領罪などの財産犯が成立するかという問題です。判例は、いずれの場面でも財産犯の成立を認めています。
恐喝罪(強盗との区別・処分行為)
恐喝罪とは、相手方の反抗を抑圧するに至らない程度の暴行または脅迫を加えて畏怖させ、その畏怖に基づいて財物を交付させ、または財産上不法の利益を得る罪です。暴行・脅迫が反抗を抑圧するに足りる程度に達していれば、恐喝罪ではなく強盗罪になります。
権利行使と恐喝
権利行使と恐喝とは、債権者が債務者を脅して弁済を受けた場合のように、正当な権利を持つ者が恐喝の手段を用いてその権利を実現したときに、恐喝罪が成立するかという問題です。判例は、権利の範囲内であっても、方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱すれば恐喝罪が成立するとしています。
横領罪の「占有」と委託信任関係
横領罪の「占有」とは、物に対する事実上の支配に加えて、登記名義や預金名義のような法律上の支配を含む、濫用のおそれのある支配力をいいます。委託信任関係とは、所有者などから物の保管を任された関係をいい、横領罪の占有はこの関係に基づくものでなければなりません。
横領罪の「他人の物」(金銭・二重譲渡・所有権留保)
横領罪の「他人の物」とは、行為者以外の者の所有に属する物をいいます。使途を定めて預かった金銭は委託者の所有に属し、売却済みで登記だけが残っている不動産は買主の所有に属し、所有権留保付きで買った物は代金完済まで売主の所有に属するので、いずれも「他人の物」に当たります。
横領行為と不法領得の意思
横領行為とは、自己の占有する他人の物について、不法領得の意思を実現する一切の行為をいいます。横領罪における不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいいます。
横領後の横領
横領後の横領とは、委託を受けて占有する他人の物について、無断で抵当権を設定するなどの横領行為をした後に、同じ物をさらに無断で売却するなどした場合に、後の行為にも横領罪が成立するかという問題です。判例は、先行の横領行為があっても、後行の行為について横領罪の成立を認めています。
業務上横領罪と共犯(65条の適用)
業務上横領罪と共犯とは、業務上他人の物を占有する者の横領行為に、占有者でも業務者でもない者が加わった場合に、その者にどの罪の共犯が成立し、どの刑が科されるかという問題です。判例は、刑法65条1項により業務上横領罪の共犯が成立し、同条2項により単純横領罪の刑を科すとしています。
遺失物等横領罪
遺失物等横領罪とは、遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領する罪です。誰の占有にも属していない他人の物や、委託によらずに偶然自分の支配下に入った他人の物を自分の物にした場合に成立し、占有離脱物横領罪とも呼ばれます。
背任罪の主体(他人の事務処理者・二重抵当)
背任罪の主体とは、「他人のためにその事務を処理する者」、つまり他人との信任関係に基づいて、その他人の財産上の事務を本人に代わって処理する立場にある者をいいます。二重抵当とは、抵当権を設定した者が、その登記が済まないうちに別の者に抵当権を設定して先に登記をさせることをいい、判例は背任罪の成立を認めています。
任務違背・図利加害目的・財産上の損害
任務違背とは、他人の事務を処理する者が、信任関係に基づいて誠実に事務を処理すべき任務に背く行為をすることです。図利加害目的とは、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的をいい、財産上の損害とは、経済的見地から評価して本人の財産の価値が減少し、または増加すべき価値が増加しなかったことをいいます。
横領罪と背任罪の区別
横領罪と背任罪の区別とは、他人の事務を処理する者が、自己の占有する本人の物を不正に処分した場合に、どちらの罪が成立するかという問題です。判例は、自己の名義または計算で処分した場合を横領罪、本人の名義かつ計算で処分した場合を背任罪とし、両方に当たるときは横領罪だけが成立するとしています。
盗品等関与罪の罪質と客体
盗品等関与罪とは、盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を、譲り受け、運搬し、保管し、またはその有償の処分のあっせんをする罪です。判例は、被害者が盗品等を取り戻す権利(追求権)の行使を困難にする点に罪の本質があるとし、あわせて本犯を助長する性格も考慮しています。
盗品等関与罪の行為類型(譲受け・運搬・保管・有償処分あっせん)
盗品等関与罪の行為類型とは、刑法256条が定める、無償譲受け、運搬、保管、有償譲受け、有償の処分のあっせんの五つの行為をいいます。無償譲受けは3年以下の拘禁刑、その他の四つは10年以下の拘禁刑および50万円以下の罰金に処せられます。
本犯と盗品等関与罪の関係・親族等の間の特例(257条)
本犯と盗品等関与罪の関係とは、窃盗などの本犯に関わった者に、その盗品についての盗品等関与罪が重ねて成立するかという問題で、本犯の正犯・共同正犯には成立せず、教唆犯・幇助犯には成立します。親族等の間の特例とは、配偶者・直系血族・同居の親族またはこれらの者の配偶者との間で盗品等関与罪を犯した者の刑を免除する刑法257条の規定をいいます。
毀棄・損壊の意義
毀棄・損壊とは、文書や建造物、その他の物について、その効用を害する一切の行為をいうとするのが判例です。物理的に壊す行為に限られず、隠す、汚す、使えなくする行為も含まれます。これに対し、物の全部または一部を物理的に破壊・毀損する行為に限るとする見解もあります。
毀棄・隠匿の罪の類型(客体と親告罪)
毀棄・隠匿の罪とは、他人の物の効用を害する行為を処罰する罪の総称で、客体に応じて、公用文書等毀棄罪、私用文書等毀棄罪、建造物等損壊罪、器物損壊罪、境界損壊罪、信書隠匿罪に分かれます。このうち私用文書等毀棄罪、器物損壊罪、信書隠匿罪は、告訴がなければ公訴を提起できない親告罪です。
公共の安全・信用に対する罪
23語現住建造物・現在建造物(現住性の判断)
現住建造物とは、現に人が住居に使用している建造物をいい、現在建造物とは、現に人がいる建造物をいいます。どちらの「人」も犯人以外の者を指し、これらに放火すると現住建造物等放火罪(108条)が成立します。
建造物の一体性(複合建造物・不燃性建造物)
建造物の一体性とは、複数の建物や区画から成る建造物について、その全体を一個の現住建造物と扱えるかという問題です。判例は、延焼可能性を中心とする物理的一体性と、全体が一体として人の起居に利用されているかという機能的一体性から判断します。
焼損(既遂時期)
焼損とは、放火罪の既遂時期を画する概念で、判例は、火が媒介物を離れて目的物に燃え移り、目的物が独立して燃焼を継続する状態に達したことをいうとしています(独立燃焼説)。
公共の危険(意義と認識の要否)
公共の危険とは、不特定又は多数の人の生命、身体又は財産に対する危険をいいます。自己所有の非現住建造物等放火罪(109条2項)と建造物等以外放火罪(110条)では、公共の危険の発生が犯罪の成立要件になっています。
放火罪の類型・自己所有物の特例・着手と罪数
放火罪の類型とは、客体が現住建造物等か非現住建造物等かそれ以外の物か、他人所有か自己所有かによって、108条・109条1項・109条2項・110条に分かれる放火罪の区分をいいます。自己所有物の特例とは、自己所有でも差押え・賃貸・保険などがあれば他人の物として扱う115条の定めをいいます。
延焼罪・失火罪・消火妨害罪
延焼罪とは、自己所有物に対する放火罪(109条2項・110条2項)を犯し、その結果として108条・109条1項の物などに燃え移らせた場合に成立する結果的加重犯です。失火罪とは、過失により出火させて物を焼損する罪をいい、消火妨害罪とは、火災の際に消火を妨害する罪をいいます。
往来を妨害する罪
往来を妨害する罪とは、道路・鉄道・航路といった公衆の交通の安全を害する罪の総称で、往来妨害罪(124条)、往来危険罪(125条)、汽車転覆等罪(126条)、往来危険による汽車転覆等罪(127条)、過失往来危険罪(129条)から成ります。
通貨偽造の罪
通貨偽造の罪とは、通貨に対する公共の信用を保護するため、行使の目的で通貨を偽造・変造する行為、偽造通貨を行使・交付・輸入・収得する行為、偽造の器械や原料を準備する行為を処罰する罪の総称です。
文書偽造の罪の体系(公文書と私文書・有印と無印・印章偽造)
文書偽造の罪とは、文書に対する公共の信用を保護するために、公文書・私文書の偽造、変造、虚偽作成、行使などを処罰する罪の総称です。公文書か私文書か、有形偽造か無形偽造か、有印か無印かによって、成立する罪と刑の重さが決まります。
文書の意義(写し・コピー・偽造の程度と変造)
文書とは、文字又はこれに代わる符号を用いて、ある程度持続する状態で物体の上に表示された、人の意思又は観念の表示であって、名義人を認識できるものをいいます。写真コピーも、原本と同様の社会的機能と信用性があれば文書に当たります。
有形偽造と無形偽造(名義人と作成者)
有形偽造とは、作成権限のない者が他人の名義を冒用して文書を作成することをいい、判例は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ることと定義しています。無形偽造とは、作成権限のある者が内容の虚偽な文書を作成することをいいます。
名義人の承諾
名義人の承諾とは、他人が自分の名義で文書を作成することを、名義人があらかじめ認めることをいいます。承諾があれば原則として偽造になりませんが、文書の性質上、名義人本人による作成が求められる文書では、承諾があっても私文書偽造罪が成立します。
名義の冒用(通称・偽名・肩書・代理代表名義)
名義の冒用とは、作成権限がないのに他人の名義を用いて文書を作成することをいいます。通称・偽名、肩書・資格、代理・代表名義を用いた場合は、文書の性質から名義人がだれかを特定し、作成者と人格の同一性があるかで偽造かどうかが決まります。
公文書偽造と作成権限(補助公務員)
公文書偽造とは、作成権限がないのに、公務所又は公務員の名義で、公務所又は公務員の作成すべき文書を作ることをいいます。作成権限のある公務員が内容の虚偽な文書を作る虚偽公文書作成とは、作成権限の有無で区別されます。
虚偽公文書作成罪と間接正犯
虚偽公文書作成罪とは、公文書の作成権限を持つ公務員が、その職務に関し、行使の目的で、内容の虚偽な公文書を作成する罪をいいます。作成権限のない者が、情を知らない作成権限者を利用して内容の虚偽な公文書を作らせた場合に、この罪の間接正犯が成立するかが問題になります。
公正証書原本不実記載等罪
公正証書原本不実記載等罪とは、公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利・義務に関する公正証書の原本や、免状、鑑札、旅券に、不実の記載をさせる罪をいいます。原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせる場合も含みます。
私文書偽造の客体と虚偽診断書作成
私文書偽造の客体とは、他人名義の文書のうち、権利、義務又は事実証明に関する文書をいいます。虚偽診断書作成とは、医師が、公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をすることをいいます。
行使の意義(偽造文書・有価証券)
行使とは、偽造文書・偽造有価証券を真正なものとして使用することをいい、偽造文書では、その内容を他人に認識させ、又は認識できる状態に置くことをいいます。
有価証券偽造の罪
有価証券偽造の罪とは、行使の目的で、手形、小切手、株券などの有価証券を偽造・変造し、又は有価証券に虚偽の記入をする罪と、偽造などがされた有価証券を行使し、交付し、輸入する罪をいいます。
電磁的記録・支払用カードに関する罪
電磁的記録・支払用カードに関する罪とは、人の事務処理に使われる電磁的記録を不正に作る罪(電磁的記録不正作出罪)と、クレジットカードやキャッシュカードを構成する電磁的記録を不正に作り、供用し、そのカードを譲り渡し、所持するなどの罪(支払用カード電磁的記録に関する罪)をいいます。
わいせつ物頒布等の罪・公然わいせつ罪
わいせつ物頒布等の罪とは、わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体などを頒布し、公然と陳列し、又は有償で頒布する目的で所持する罪をいいます。公然わいせつ罪とは、公然とわいせつな行為をする罪をいいます。
賭博の罪
賭博とは、偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為をいいます。賭博の罪には、単純賭博罪、常習賭博罪、賭博場開張等図利罪、富くじに関する罪があります。
死体損壊・遺棄罪
死体損壊・遺棄罪とは、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得する罪をいいます。遺棄とは、習俗上の埋葬と認められない方法で死体を放棄することをいいます。
国家的法益に対する罪
18語公務執行妨害罪の「職務」と「執行するに当たり」
職務とは、公務執行妨害罪(刑法95条1項)では、ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてをいいます。「執行するに当たり」とは、具体的・個別的に特定された職務の執行を開始してから終了するまでと、これと時間的に接着し切り離すことのできない一体的関係にある範囲をいいます。
職務の適法性(要件・判断基準・錯誤)
職務の適法性とは、公務執行妨害罪で保護される公務員の職務が適法なものでなければならないという、条文に書かれていない構成要件要素です。抽象的職務権限、具体的職務権限、法律上の重要な方式の履践の三つがそろって適法とされます。
公務執行妨害罪の暴行・脅迫(間接暴行)
暴行とは、公務執行妨害罪(刑法95条1項)では、公務員に向けられた不法な有形力の行使をいい、公務員の身体に直接加えられるものに限られません。公務員の眼前で物を壊す行為や、公務員の補助者に加える行為のように、間接に公務員に向けられる間接暴行を含みます。
強制執行妨害・封印破棄・競売等妨害の罪
強制執行妨害とは、強制執行を受ける財産を隠したり、執行の行為や売却を偽計・威力で妨げたりして、強制執行の適正な実施を害する行為です。刑法は、封印等破棄(96条)、強制執行妨害目的財産損壊等(96条の2)、強制執行行為妨害等(96条の3)、強制執行関係売却妨害(96条の4)、公契約関係競売等妨害と談合(96条の6)を定めています。
逃走の罪
逃走の罪とは、法令により拘禁された者が逃走し、又は他人がこれを逃走させることで、国の拘禁作用を害する罪です。逃走(97条)、加重逃走(98条)、被拘禁者奪取(99条)、逃走援助(100条)、看守者等による逃走援助(101条)があり、いずれも未遂が処罰されます。
犯人蔵匿等罪の客体(「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」)
犯人蔵匿等罪の客体とは、刑法103条が定める「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者」です。判例は、「罪を犯した者」に、真犯人のほか、犯罪の嫌疑によって捜査・訴追の対象となっている者を含めています。
蔵匿・隠避の意義(身代わり出頭・参考人の虚偽供述)
蔵匿とは、官憲による発見・逮捕を免れるための場所を提供してかくまうことです。隠避とは、蔵匿以外の方法により、官憲による発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいい、逃走資金の供与、身代わり出頭、口裏合わせに基づく虚偽の供述がこれに当たります。
犯人による蔵匿・隠避・証拠隠滅・偽証の教唆
犯人による蔵匿・隠避・証拠隠滅・偽証の教唆とは、犯人が他人を唆して、自己をかくまわせ、自己の刑事事件の証拠を隠滅させ、又は自己の事件で偽証させることです。犯人が自ら行えば処罰されない行為ですが、判例は、他人を教唆した場合には教唆犯が成立するとしています。
証拠隠滅等罪(他人の刑事事件・偽造・証人等威迫)
証拠隠滅等罪とは、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用する罪です(刑法104条)。刑事事件の証人らに面会を強請し、又は強談威迫の行為をする証人等威迫罪(105条の2)とあわせて、刑事司法作用を保護します。
親族による犯罪に関する特例(105条)
親族による犯罪に関する特例とは、犯人蔵匿等罪(刑法103条)と証拠隠滅等罪(104条)について、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができるとする規定です(105条)。
偽証罪(「虚偽の陳述」の意義)
偽証罪とは、法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をする罪です(刑法169条)。「虚偽の陳述」の意義については、証人の記憶に反する陳述をいうとする主観説と、客観的な事実に反する陳述をいうとする客観説が対立し、判例は主観説に立っています。
虚偽告訴等罪
虚偽告訴等罪とは、人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をする罪です(刑法172条)。ここでの「虚偽」は、申告の内容が客観的真実に反することをいいます。
刑の減免の特例一覧
刑の減免の特例とは、犯罪が成立することを前提に、一定の事情がある場合に刑を減軽し、又は免除することを定めた各則の規定です。解放による減軽(228条の2)、偽証・虚偽告訴の自白(170条・173条)、親族に関する特例(105条・244条1項・257条1項)、予備罪の免除や自首の規定があり、効果が必要的か任意的かが規定ごとに異なります。
職権濫用の罪
職権濫用の罪とは、公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害する罪(公務員職権濫用罪・193条)と、裁判、検察、警察の職務を行う者などが職権を濫用して人を逮捕・監禁し、又は暴行や陵辱若しくは加虐の行為をする罪(194条・195条)の総称です。
賄賂罪の保護法益と「賄賂」の意義
賄賂とは、公務員の職務に対する対価としての不正な利益をいい、金銭や物品に限らず、有形無形を問わず、人の需要・欲望を満たす一切の利益を含みます。賄賂罪の保護法益について、判例は、公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼であるとしています。
職務関連性(一般的職務権限・職務密接関連行為・転職)
職務関連性とは、収賄罪の成立に必要な、賄賂が公務員の「その職務に関し」て授受されたという関係をいいます。現に具体的に担当している事務でなくても一般的職務権限に属する行為であれば足り、職務に密接に関連する行為もこれに含まれます。
収賄罪の類型と贈賄罪
収賄罪とは、公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をする罪です。単純収賄罪を基本に、受託収賄・事前収賄・第三者供賄・加重収賄・事後収賄・あっせん収賄の各類型があり、賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者には贈賄罪が成立します。
賄賂の没収・追徴
賄賂の没収・追徴とは、犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂を必ず没収し、その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を必ず追徴する制度です(197条の5)。裁判所の裁量による総則の没収・追徴(19条・19条の2)の特則に当たります。
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