横領罪と背任罪の区別とは
おうりょうざいとはいにんざいのくべつ
横領罪と背任罪の区別とは、他人の事務を処理する者が、自己の占有する本人の物を不正に処分した場合に、どちらの罪が成立するかという問題です。判例は、自己の名義または計算で処分した場合を横領罪、本人の名義かつ計算で処分した場合を背任罪とし、両方に当たるときは横領罪だけが成立するとしています。
村長が、村のお金を、村会の決議を経ずに知人の会社に貸し付けた場面を考えます。村長は村のお金を預かっているので、勝手に使えば横領にも見えますし、村長としての任務に背いて村に損害を与えたので背任にも見えます。二つの罪は、任された信頼を裏切る点で共通しており、重なり合う場面があります。横領罪の方が刑が重いので、まず「預かった物を自分の物のように処分した」といえるかを見て、いえなければ背任罪を検討するという順序で考えます。
物の所有権を侵害していなければ横領罪は成立せず、背任罪が問題になります
横領罪は「自己の占有する他人の物」を領得する罪ですから、客体が他人の所有物でない場合や、所有権を侵害していない場合には成立しません。このときは背任罪の成否を検討します。自己所有の不動産に抵当権を設定した後、登記前に別の者に抵当権を設定して登記した二重抵当では、不動産は設定者自身の物ですから横領罪は成立せず、背任罪が成立します。「乙には抵当権があるにすぎず,当該土地は「他人の物」とはいえないので,甲には乙を被害者とする横領罪は成立しない」という肢は正しく、「甲は、抵当権設定登記を完了するまでは、抵当権者の登記手続に協力する任務を有するから、甲にはAに対する背任罪が成立する」という肢も正しいです。質権者から保管を頼まれた質物を、質権者に無断で所有者に返した場合も、所有権を侵害していないので横領罪ではなく背任罪になります。「甲は、乙から頼まれ、乙が丙に対する貸金債権の質物として提供を受けていた丙所有の絵画を甲の自宅倉庫で保管していたが、乙に嫌がらせをする目的で、同絵画を乙に無断で丙に返還した。この場合、甲に背任罪が成立する」という肢は正しいです。所有者の承諾を得て処分した場合は、「甲は,乙の承諾を得て,乙から借り受けた乙所有の重機を丙に転貸していたが,同重機の修理のため一時これを丙から預かった際,乙の承諾を得て,丙に無断で,自己の借金の返済として同重機を自己の債権者に譲渡した。この場合,甲には,横領罪が成立する」という肢が誤りとされるとおり、横領罪は成立しません。物ではなく情報だけを持ち出した場合も、横領罪の客体である「物」がないので、背任罪が問題になります。
売却済みの不動産を処分すれば、所有権を侵害するので横領罪になります
これに対し、不動産を売却して所有権が買主に移った後は、登記名義の残る売主にとってその不動産は「他人の物」です。売主がこれを第三者に売却したり、抵当権を設定して登記したりすれば、買主の所有権を侵害するので横領罪が成立します。「抵当権が実行されない限り当該土地に関する乙の所有権は影響を受けないから,甲には横領罪は成立しない」という肢は誤りです。「同抵当権が実行されることなく,後日,その登記が抹消されたとしても,甲には,横領罪が成立する」という肢は正しいです。同じ「無断で抵当権を設定する」行為でも、不動産が買主の物になっていれば横領罪、設定者自身の物のままであれば背任罪と分かれます。
- 不動産の二重売買不動産は第一買主の物。横領罪
- 売却済みの不動産への抵当権設定不動産は買主の物。横領罪
- 二重抵当不動産は設定者の物。横領罪は成立せず背任罪
- 質物を質権者に無断で所有者に返還所有権を侵害していない。横領罪は成立せず背任罪
- 会社の情報を自己の媒体で持ち出す他人の「物」を領得していない。背任罪が問題になる
他人の物を処分した場合は、自己の名義・計算か、本人の名義・計算かで区別します
事務処理者が、自己の占有する本人の物を、本人に無断で第三者のために処分した場合は、横領罪と背任罪の両方が問題になります。大判昭和9年7月19日(横領か背任か)は、村長が業務上保管する村の基本財産を、村会の決議を経ずに、村の計算において無尽会社に貸与した事案で、自ら不正に領得したのではなく第三者の利益を図って任務に背いたものとして、業務上横領罪ではなく背任罪に当たるとしました。判例は、処分が自己の名義または計算でされた場合は、物を自分の物として扱ったといえるので横領罪とし、本人の名義かつ計算でされた場合は、本人の事務を不当に処理したにとどまるので背任罪としています。会社の金員を会社の名義で不正に貸し付けたとしても、その経済的な効果が行為者自身に帰属する場合は、自己の計算でしたものとして横領罪になります。
学説は、権限の逸脱か濫用か、客体が物か利益かで区別する見解に分かれます
区別の基準については学説も分かれます。行為者に与えられた権限の範囲を超える処分を横領、権限の範囲内でこれを濫用する処分を背任とする見解からは、一般的な権限がおよそ及ばない処分をすれば横領罪、形式上は権限の範囲内にある処分をすれば背任罪という結論になります。この見解に対しては、権限の範囲内かどうかの判断があいまいになるという批判が向けられます。客体が物であれば横領、財産上の利益であれば背任とする見解からは、物を処分した場合はすべて横領罪の問題となり、背任罪は債権や担保権などの利益を侵害した場合に限られることになります。この見解に対しては、物を本人の計算で不当に処分した場合まで横領罪になってしまうという批判が向けられます。現在は、横領罪の成否、すなわち不法領得の意思を実現する行為があったかを先に判断し、これが否定されるときに背任罪を検討すれば足りるとする考え方が一般的です。判例の名義・計算による区別も、不法領得の意思があるかを見分ける手がかりと位置づけられます。
横領罪と背任罪の両方に当たるときは、横領罪だけが成立します
事務処理者が自己の占有する本人の物を領得した場合、任務に背いて本人に損害を加えてもいるので、形の上では背任罪の要件も満たします。この場合は、法定刑の重い横領罪だけが成立し、背任罪は成立しません。単純横領罪は5年以下の拘禁刑、業務上横領罪は10年以下の拘禁刑であるのに対し、背任罪は5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。両罪は同じ信任関係違反を処罰するものなので、二重に評価しないという考え方です。反対に、専ら本人のためにした処分であって不法領得の意思が認められない場合は横領罪が成立せず、図利加害目的も欠けるので背任罪も成立しません。
刑法252条1項
自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。
刑法247条
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
論文ではこう使う
論文では、会社の役員や従業員が会社の財産を不正に処分した事例で、罪名の選択として問われます。答案では、まず横領罪の成否から検討します。客体が行為者の占有する他人の物であるかを確認し、次に、問題の処分が不法領得の意思を実現する行為といえるかを論じます。ここで、処分が行為者自身の名義または計算でされたか、本人の名義かつ計算でされたかを、契約書の名義、資金の流れ、利益の帰属先から認定します。自己の計算といえるなら横領罪を認め、背任罪は別に成立しないと一言添えます。本人の名義かつ計算といえるなら横領罪を否定し、背任罪の要件である事務処理者、任務違背、図利加害目的、財産上の損害を順に検討します。客体が債権や担保権などの利益である場合、あるいは物が行為者自身の所有である場合は、横領罪が成立する余地がないことを指摘して、初めから背任罪を検討します。
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