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用語集 / 刑法 / 背任罪の主体

背任罪の主体(他人の事務処理者・二重抵当)とは

はいにんざいのしゅたい

刑法 財産犯(詐欺・横領・背任ほか)

背任罪の主体とは、「他人のためにその事務を処理する者」、つまり他人との信任関係に基づいて、その他人の財産上の事務を本人に代わって処理する立場にある者をいいます。二重抵当とは、抵当権を設定した者が、その登記が済まないうちに別の者に抵当権を設定して先に登記をさせることをいい、判例は背任罪の成立を認めています。

お金を借りる代わりに自宅に抵当権を付ける約束をし、必要な書類も貸主に渡したのに、貸主が登記をする前に、別の人からもお金を借りてそちらに先に抵当権の登記をさせた場面を考えます。家は借主自身の物なので、横領にはなりません。しかし、最初の貸主は、借主が登記に協力してくれると信頼して書類を受け取っています。背任罪は、このように他人の財産を守るべき立場にある者が、その信頼を裏切って損害を与える行為を処罰します。

法務局の窓口の前の場面。家の所有者の男性(札「甲:抵当権設定者」)が、後から貸した男性(札「丙」)と並んで登記の申請書を窓口に出している。離れた場所で、先に貸した男性(札「乙:先に抵当権の設定を受けたが登記は未了」)が登記済証と白紙委任状を

背任罪の主体は、信任関係に基づいて他人の財産上の事務を処理する者に限られます

背任罪(247条)は、「他人のためにその事務を処理する者」だけが犯すことのできる身分犯です。会社の取締役、銀行の融資担当者、後見人、代理人などがこれに当たります。信任関係は、法令や契約のほか、慣習や事務管理からも生じます。ここでいう事務は、財産上の利害に関係する事務であれば、契約の締結のような法律行為に限られません。「「他人のためにその事務を処理する者」の「事務」は,法律行為たる事務に限らず,事実行為たる事務を含む」という肢は正しいです。物を保管する、登記の手続に協力するといった事実行為も、事務に含まれます。身分のない者が事務処理者の背任行為に加わった場合は、65条1項により背任罪の共犯になります。

抵当権設定者が登記に協力する任務は、主として抵当権者のために負うものです

抵当権を設定する契約をした者が、登記に協力するのは、自分の契約上の義務を果たすことですから、「自己の事務」にすぎないようにも見えます。しかし、最判昭和31年12月7日は、抵当権設定者はその登記に関し、これを完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有し、その任務は主として他人である抵当権者のために負うものであるとして、設定者は「他人のためにその事務を処理する者」に当たるとしました。「乙はそのために債権の回収が困難になった。この場合、甲に背任罪が成立する」という肢は正しいです。「甲は、抵当権設定登記を完了するまでは、抵当権者の登記手続に協力する任務を有するから、甲にはAに対する背任罪が成立する」という肢も正しいです。この判例は、抵当権の順位は、抵当物件の価額からどの抵当権が優先して弁済を受けるかという財産上の利害に関する問題であるから、後順位に落とすこと自体が財産上の損害に当たるともしています。不動産は設定者自身の物なので、横領罪は成立しません。

  • 不動産の二重売買売却済みの不動産は買主の物。登記名義の残る売主が処分すれば横領罪
  • 二重抵当不動産は設定者の物。登記に協力する任務に背いて先順位の登記をさせれば背任罪
  • 債権の二重譲渡譲渡人は譲受人が債権を取り立てられるようにする義務を負う。重ねて譲渡すれば背任罪
  • 質物の無断返還質物の保管を委託された者が質権者に無断で所有者に返せば背任罪

単に自分の債務を負っているにすぎない者は、背任罪の主体になりません

売買代金を支払う、借りた金を返すといった義務は、相手方の利益になるものではあっても、債務者自身の事務です。こうした債務を履行しないことは民事上の債務不履行にとどまり、背任罪にはなりません。「甲は、返済期日までに返済できないときは同期日に改めて甲の所有する土地に抵当権を設定する旨を述べて、乙を安心させて乙から金を借りたが、同期日が到来する前に、丙に対する借金を返済する目的で、乙に無断で同土地を丙に売却した。この場合、甲に背任罪が成立する」という肢は誤りです。甲は、返済できないときは抵当権を設定すると述べただけで、まだ抵当権設定契約を結んでいません。乙の財産を乙に代わって管理・保全する立場には立っておらず、土地を売却しても背任罪は成立しません。二重抵当の場合との違いは、すでに設定された抵当権という相手方の財産的な権利が存在し、その保全が設定者の協力にかかっているかどうかにあります。

教室の黒板の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板を指す。黒板の左に「自己の事務」、右に「他人の事務」と書かれ、左の下に「借りた金を返す」「抵当権を設定すると約束しただけ」、右の下に「設定済みの抵当権の登記に協力する」「預かった質物を保管す

質物の保管者や質権設定者、債権の譲渡人も、担保や権利を保全する任務を負います

質権者から頼まれて質物を保管している者は、質権者のためにその占有を保って質権を維持する任務を負います。「甲は、乙から頼まれ、乙が丙に対する貸金債権の質物として提供を受けていた丙所有の絵画を甲の自宅倉庫で保管していたが、乙に嫌がらせをする目的で、同絵画を乙に無断で丙に返還した。この場合、甲に背任罪が成立する」という肢は正しいです。大判明治44年10月13日は、質物の保管者が質権者に無断で質物を所有者に交付した行為について、所有権を侵害していないので横領罪は成立せず、質権を侵害したものとして背任罪が成立するとしました。最決平成15年3月18日(質権設定者の任務と背任罪)は、株式に質権を設定して株券を質権者に交付した者が、その株券について除権判決を得て失効させた事案で、質権設定者は担保価値を保全する任務を負い、その任務は他人である質権者のために負うものであるとして、背任罪の成立を認めました。債権の譲渡人も、譲受人が対抗要件を備えるまで、その権利を害さないようにする任務を負います。「甲と乙はいわゆる必要的共犯の関係に立つため、甲に背任罪の共同正犯が成立することはない」という肢は誤りです。二重に譲り受けた者が、譲渡済みと知りながら譲渡人に強く働きかけて譲渡させたのであれば、背任罪の共同正犯が成立し得ます。

事務処理者が本人を欺いて財物を交付させた場合は、詐欺罪だけが成立します

他人のためにその事務を処理する者が、任務に背いて本人を欺き、錯誤に陥らせて財物を交付させた場合、形の上では背任罪と詐欺罪の両方に当たるように見えます。司法試験2019年問16のアはこの場合の処理を問うものです。最判昭和28年5月8日は、この場合には詐欺罪を構成し、背任罪の成立要件を具備するときでも別に背任罪を構成するものではないとしました。本人の財物をだまし取るという個別の財産の侵害が詐欺罪によって評価されるので、信任関係違反による損害を重ねて評価する必要がないからです。横領罪と背任罪の両方に当たる場合に横領罪だけが成立するのと同じ考え方です。

刑法247条

他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

最判昭和31年12月7日

抵当権設定者はその登記に関し、これを完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。

論文ではこう使う

論文では、行為者が負っている義務が「自己の事務」か「他人の事務」かを区別することが出発点になります。答案では、背任罪が信任関係に違背して他人の財産を侵害する罪であることを示し、「他人のためにその事務を処理する者」を、信任関係に基づいて他人の財産上の事務を本人に代わって処理する者と定義します。そのうえで、行為者と相手方の間の契約の内容と履行の段階を確認し、相手方の財産的な権利がすでに発生していて、その保全が行為者に委ねられているかを認定します。二重抵当であれば、抵当権設定契約が成立していること、登記に必要な協力が設定者に委ねられていることを指摘して、最判昭和31年12月7日に従い事務処理者性を認めます。単なる売買代金債務や貸金返還債務の不履行であれば、自己の事務であるとして否定します。客体が相手方の所有物である場合には、先に横領罪を検討し、所有権侵害がない場合に背任罪を検討するという順序を守ります。

試験ではこう問われる

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