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用語集 / 刑法 / 処分行為と処分意思

処分行為と処分意思(無銭飲食・キセル乗車・三角詐欺)とは

しょぶんこういとしょぶんいし

刑法 財産犯(詐欺・横領・背任ほか)

処分行為とは、欺かれた者が錯誤に基づいて、財物の占有や財産上の利益を自分の意思で相手方に移す行為です。処分意思とは、その移転を認識して認める意思をいい、これを欠くときは詐欺罪ではなく窃盗罪などが問題になります。

店で「この服を試着させて」と言って受け取り、店員が目を離した隙に着たまま逃げた場合と、「買います」とうそを言って代金後払いで持ち帰った場合とでは、成立する罪が違います。前者は店員が服を渡したつもりがないので窃盗、後者は店員が自分の意思で渡しているので詐欺です。詐欺罪は相手方の意思に基づく交付を通じて財産を得る罪なので、相手方が財産を移すという判断をしたかどうかが、窃盗罪との分かれ目になります。

洋服店の場面を左右に並べる。左は試着室の前で、先生が店員役(札「店員」)で別の客の方を向いており、その後ろを上着を着たままの男性が出口へ走っている。左の札「店員は渡すつもりがない:処分行為なし→窃盗罪」。右はレジで、先生が店員役で紙袋に入れ

詐欺罪は、錯誤に基づく処分行為によって財物や利益が移転したときに成立します

詐欺罪は、欺く行為、相手方の錯誤、錯誤に基づく処分行為、財物や利益の移転が順につながって成立します。処分行為がなければ、うそをついていても詐欺罪にはなりません。乙宅で歓談中に「火事だ。」とうそを言い、乙が外に逃げた隙に現金を持ち去った事例では、乙は現金を甲に渡す判断をしていないので、詐欺罪は成立せず、窃盗罪が成立します。うそは占有を奪うための手段として使われただけで、交付に向けられていないからです。同じ理由から、「署名欄を空白にした借用証書を作成して他の文書とともに署名を求め,相手方に借用証書と気付かせずにその署名欄に署名させた場合,相手方に債務を負担させたことになるので,詐欺罪が成立する」という肢は誤りです。相手方は借用証書であることに気付いていないので、債務を負担するという処分行為がなく、これに向けられた欺く行為もありません。この場合は、文書偽造の罪が問題になります。

居間の場面。男性(札「乙:現金を渡す判断をしていない」)が玄関から外へ駆け出していく後ろ姿。室内の棚の現金入りの手提げ金庫に別の男性(札「甲」)が手を伸ばしている。甲の吹き出し「火事だ」。手前に先生が解説役(札「解説」)で立ち、吹き出し「う

処分意思の内容については、移転する財産を認識している必要があるかで見解が分かれます

処分行為といえるためには処分意思が必要ですが、その中身については見解が分かれます。移転する個々の財物や利益を認識したうえで移転を認めることが必要だとする見解からは、封筒の中に高額の紙幣が紛れていることを知らずに封筒を渡した場合、紙幣については処分意思がなく、詐欺罪は成立しないことになります。これに対し、財産の占有が相手方に移るという外形的な事実を認識していれば足りるとする見解からは、封筒を渡す意思がある以上、処分行為が認められることになります。前者の見解には、だます手口が巧妙で被害者が何を渡したか分からない場合ほど詐欺罪が否定されてしまうという批判が向けられます。後者の見解には、窃盗罪との区別があいまいになるという批判が向けられます。財物の詐欺では、占有が終局的に移ることの認識があれば処分行為を認めるのが一般的な理解です。店員が「試着するだけ」「店の前で見るだけ」と考えて渡した場合は、占有はまだ店にあると考えているので、処分行為は認められません。

債務の支払を免れる2項詐欺では、債権者に債務免除や支払猶予の処分行為をさせることが必要です

財産上の利益を得る2項詐欺でも、相手方の処分行為が必要です。最決昭和30年7月7日(無銭飲食・宿泊)は、債務の支払を免れたといえるには、相手方である債権者を欺いて債務免除の意思表示をさせることを要し、単に逃走して事実上支払をしなかっただけでは足りないとしました。飲食後に支払う気をなくし、「知人を見送る」と偽って店先に出てそのまま逃げた場合、店側は代金を免除も猶予もしていないので、2項詐欺罪は成立しません。この場合は利益窃盗として不可罰になります。他方、最初から支払う意思がなく注文した場合は、料理の提供を受けた時点で1項詐欺罪が既遂になります。最判昭和30年4月8日も、債権者が欺かれなければ履行やこれに代わる具体的措置を必ず求めたといえる特段の情況があって初めて、督促を免れたことが財産上の利益になるとしています。また、「家賃を支払う意思も能力もないのに,これがあるように装って大家をだましてアパートの一室を借り受けた場合,刑法第246条第1項の詐欺罪が成立する」という肢は誤りです。借主が得るのは部屋そのものではなく居住の利益ですから、成立するのは246条2項の詐欺罪です。

  • 最初から支払う意思がなく注文注文が欺く行為となり、料理の提供を受けた時点で1項詐欺罪の既遂
  • 飲食後に支払う意思を失い、隙を見て逃走欺く行為も処分行為もなく、詐欺罪は成立しない(利益窃盗で不可罰)
  • 飲食後に「見送る」「すぐ戻る」と偽って外に出て逃走店側に債務免除・支払猶予の処分行為がなければ2項詐欺罪は成立しない
  • キセル乗車乗車駅の改札係員を欺いて輸送の役務を提供させた点を処分行為とみて2項詐欺罪を認めた裁判例がある(大阪高判昭和44年8月7日)

欺かれた者と被害者が異なる場合は、欺かれた者に被害者の財産を処分する権限が必要です

欺かれた者と財産を失う者が別人である場合を三角詐欺といいます。この場合に詐欺罪が成立するには、欺かれた者が、被害者のためにその財産を処分することができる権能または地位を有していなければなりません(最判昭和45年3月26日)。裁判所を欺いて勝訴判決を得て、敗訴者から財物を交付させる訴訟詐欺は、裁判所が判決によって敗訴者の財産を処分できる地位にあるので、詐欺罪が成立します。これに対し、「他人所有の土地を当該他人から買い受けた事実がないのに,当該他人から盗んだ印鑑を押して登記申請に必要な書類を偽造した上,これを登記官に提出し,当該他人に無断で,自己への所有権移転登記を完了させた場合,当該土地についての詐欺罪が成立する」という肢は誤りです。「登記申請に必要な書類を偽造して登記官に提出し,当該土地につき乙から甲への所有権移転登記をさせた。この場合,不動産の占有が甲に移ったといえるから,甲に詐欺罪が成立する」という肢も誤りです。大判大正12年11月12日は、登記官は不動産を処分する権能を有しないとして、偽造した書類で登記官を欺いて所有権移転登記をさせても詐欺罪は成立せず、公正証書原本不実記載罪などが成立するにとどまるとしました。

法務局の登記窓口の場面。先生が登記官役(札「登記官:土地を処分する権限はない」)で窓口に座り、申請書を受け取っている。窓口の前に男性(札「甲」)が偽造した書類の束を差し出している。離れた位置に土地の所有者の男性(札「乙:所有者(被害者)」)

欺かれた者に第三者へ交付させた場合も、処分行為による移転として詐欺罪が成立します

処分行為による財産の移転先は、行為者本人に限られません。甲が乙に必要のない耐震補強工事の契約を締結させ、乙と信販会社との間で立替払契約を結ばせて、信販会社から甲の妻丙名義の口座に工事代金相当額を振り込ませた事例では、乙に対する詐欺罪が成立します。乙は錯誤に基づいて立替払契約を締結し、信販会社に支払をさせるという形で自分の財産を処分しているからです。最決平成15年12月9日も、欺かれた客が信販会社に立替払をさせて金員を交付させた事案で、客を被害者とする1項詐欺罪の成立を認めています。行為者と無関係の第三者に交付させた場合には、行為者がその第三者に利得させる意思を有していたかが問題になります。

刑法246条1項

人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。

刑法246条2項

前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

論文ではこう使う

論文では、欺く行為を認定した後、相手方の処分行為を独立の要件として検討します。窃盗罪との区別が問題になる事例では、「処分行為とは、錯誤に基づいて財物の占有を終局的に相手方に移転させる行為をいう」と定義を示し、被害者が占有を移すつもりで渡したのか、占有を手元に残したまま一時的に手渡しただけなのかを、店内か店外か、監視が及んでいるか、持ち帰りを許したかという事実から認定します。占有の弛緩にとどまるときは処分行為を否定し、その後の持ち去りを窃盗罪として処理します。2項詐欺では、債務免除や支払猶予の意思表示があったかを具体的に認定し、単に請求を受けなかっただけの場合に安易に処分行為を認めないようにします。被欺罔者と被害者が異なるときは、被欺罔者が被害者の財産を処分する権能または地位を有するかを一言認定してから、処分行為を論じます。訴訟詐欺では、裁判所が被欺罔者かつ処分行為者であり、敗訴者が被害者であるという構造を明示します。

試験ではこう問われる

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