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文書偽造の罪の体系(公文書と私文書・有印と無印・印章偽造)とは

ぶんしょぎぞうのつみのたいけい

刑法 公共の安全・信用に対する罪

文書偽造の罪とは、文書に対する公共の信用を保護するために、公文書・私文書の偽造、変造、虚偽作成、行使などを処罰する罪の総称です。公文書か私文書か、有形偽造か無形偽造か、有印か無印かによって、成立する罪と刑の重さが決まります。

私たちは、運転免許証、卒業証書、契約書、借用書、診断書といった書面を見て、そこに書かれた名前の人や役所が本当にそれを作ったのだと信じて取引や手続を進めます。他人の名前を勝手に使った書面や、役所が中身を偽った証明書が出回れば、書面を頼りにした社会の仕組みが成り立ちません。刑法は、文書に対する公共の信用を守るために、だれの文書か、どのように偽ったか、印や署名があるかによって罪を分け、刑の重さを変えています。

教室の場面。先生が教師役で黒板の前に立つ。黒板に縦横二列ずつの表が描かれている。横の見出しは「公文書」「私文書」、縦の見出しは「有形偽造:名義を偽る」「無形偽造:内容を偽る」。四つの升目に「公文書偽造(155条)」「私文書偽造(159条)」

文書偽造の罪は、名義を偽る有形偽造と内容を偽る無形偽造を、公文書と私文書に分けて定めています

文書偽造の罪の保護法益は、文書に対する公共の信用です。処罰される行為は、作成権限のない者が他人の名義を偽って文書を作る有形偽造(偽造・変造)と、作成権限のある者が内容の虚偽な文書を作る無形偽造(虚偽作成)に分かれます。客体は、公務所又は公務員が作成すべき公文書と、それ以外の私文書に分かれます。公文書は信用が高いので、有形偽造(155条)も無形偽造(156条の虚偽公文書作成罪)も処罰され、私人が公務員に虚偽の申立てをして登記簿や戸籍簿などに不実の記載をさせる行為も、公正証書原本不実記載等罪(157条)として処罰されます。私文書は、有形偽造(159条)が処罰されますが、客体は権利、義務又は事実証明に関する文書に限られます。偽造・変造された文書や虚偽作成された文書を使う行為は、行使罪(158条・161条)として、偽造などをした者と同一の刑で処罰されます。現行の条文は、紙の文書・図画に加えて、文書等として表示されて行使されることとなる電磁的記録(電磁的記録文書等)も客体にしています。

  • 155条 公文書偽造・変造有印は一年以上十年以下の拘禁刑。無印は三年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金
  • 156条 虚偽公文書作成公務員が職務に関し虚偽の文書等を作成・変造。印章等の有無で区別して155条等の例による
  • 157条 公正証書原本不実記載等1項(登記簿・戸籍簿等)は五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金。2項(免状・鑑札・旅券)は一年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金。未遂を罰する
  • 158条 偽造公文書行使等偽造等をした者と同一の刑。未遂を罰する
  • 159条 私文書偽造・変造有印は三月以上五年以下の拘禁刑。無印は一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金
  • 160条 虚偽診断書等作成医師が公務所に提出すべき診断書等に虚偽の記載。三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金
  • 161条 偽造私文書等行使偽造等をした者と同一の刑。未遂を罰する

私文書の無形偽造は、医師の虚偽診断書等作成だけが処罰されます

私文書は、作成権限のある本人が内容にうそを書いても、原則として文書偽造の罪にはなりません。自分の名義で内容虚偽の契約書や領収書を作っても、名義に偽りがないので、文書の作成者に責任を問うことができるからです。唯一の例外が160条で、医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときに限って処罰されます。ここでいう医師は私人である医師です。公務員である医師が職務に関して作成する診断書は公文書ですから、内容を偽れば虚偽公文書作成罪(156条)になります。市立病院に勤務する公務員である医師が、裁判所に提出するための診断書に虚偽の病名を記載した事例について、「医師である甲には,虚偽診断書等作成罪が成立するので,虚偽公文書作成罪は成立しない」という肢は誤りです。

病院の診察室が左右二つ並ぶ場面。左の診察室の入口に「市立病院」の看板、中に白衣の男性(札「公務員である医師」)が机で診断書を書いていて、札「職務上作成する診断書は公文書:虚偽公文書作成罪(156条)」。右の診察室の入口に「個人の医院」の看板

印章か署名のどちらかがあれば有印であり、無印よりも重く処罰されます

公文書偽造罪も私文書偽造罪も、名義人の印章若しくは署名を使用した場合(有印)と、そうでない場合(無印)とで法定刑が大きく違います。印章や署名のある文書は信用が高いからです。条文は「印章若しくは署名」と定めているので、どちらか一方があれば有印です。署名には、自署だけでなく、代筆や印刷による記名も含まれると解されています。乙名義の金銭借用証を勝手に作成した事例について、「同借用証に乙の氏名の記載はあるが,その押印がなかった場合,甲には無印私文書偽造罪が成立する」という肢は誤りです。氏名の記載があれば署名を使用したことになり、有印私文書偽造罪が成立します。文書を作らずに印章や署名だけを偽造し、又は不正に使用した場合は、印章偽造の罪(公印は165条、私印は167条)が成立します。印章や署名を偽造して文書を偽造した場合は、印章偽造の罪は文書偽造罪に吸収されます。印章偽造の罪で未遂が罰せられるのは、不正使用と偽造印章等の使用です(168条)。

偽造・変造・虚偽作成には行使の目的が必要で、未遂が罰せられるのは行使罪と157条の罪です

文書の偽造・変造・虚偽作成は、行使の目的がある場合に限って処罰される目的犯です。行使の目的とは、偽造文書を真正な文書として、又は虚偽文書を内容の真実な文書として、他人に認識させ又は認識できる状態に置く目的をいいます。文書の本来の用法に従って使う目的に限られません。高校を中途退学した乙から頼まれた甲が、「乙の父親に呈示させる目的で,A公立高校校長丙名義の卒業証書を丙に無断で作成した。甲には公文書偽造罪は成立しない」という肢は誤りです。父親に見せて安心させる目的でも、真正な文書として人に認識させる目的ですから行使の目的に当たります。行使の目的は主観的な構成要件要素ですから、正犯に行使の目的がなければ私文書偽造罪の構成要件に該当しません。共犯が成立するには正犯の行為が構成要件に該当することが必要であるとする見解からは、行使の目的のない者を唆して私文書を偽造させても、私文書偽造罪の教唆犯は成立し得ないことになります。偽造罪・変造罪・虚偽作成罪そのものには未遂を罰する規定がありません。未遂が罰せられるのは、行使罪(158条2項・161条2項)と公正証書原本不実記載等罪(157条3項)です。

偽造した文書を行使して財物をだまし取れば、偽造罪・行使罪・詐欺罪が成立して牽連犯になります

文書を偽造した者がそれを行使すれば、偽造罪と行使罪が成立し、両罪は手段と結果の関係にあるので牽連犯になります。さらに行使によって人を欺いて財物を交付させれば、行使罪と詐欺罪も牽連犯です。乙に成り済まして乙名義の口座開設申込書を作成し、銀行の係員に提出して預金通帳の交付を受けた事例について、「甲には,有印私文書偽造罪,同行使罪及び詐欺罪が成立し,これらは牽連犯となる」という肢は正しく、同じ事例についての「この場合、甲に有印私文書偽造罪、同行使罪及び詐欺罪が成立し、これらは牽連犯となる」という肢も正しいです。偽造通貨の行使では詐欺罪が行使罪に吸収されますが、文書と有価証券では吸収されません。行使罪が詐欺罪に吸収されることもありません。「偽造公文書行使罪は詐欺罪に吸収され,詐欺罪のみが成立する」という肢は誤りです。また、偽造通貨と偽造有価証券には、行使の目的で情を知る者に渡す行為を罰する交付罪がありますが、偽造文書には交付罪がありません。「偽造通貨,偽造有価証券又は偽造公文書を行使の目的で情を知る者に占有移転した場合には,各客体の交付罪が成立する」という肢は誤りです。

銀行の窓口の場面。先生が銀行員役(札「銀行の係員」)で窓口の内側に座る。窓口の向かいに男性(札「乙に成り済ました甲」)が申込書を差し出している。場面の下に、三つの箱が矢印で左から右につながる帯が描かれ、箱の中は「私文書偽造:申込書を作る」「

刑法159条3項

前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書等又は電磁的記録文書等を偽造し、又は変造した者は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。

刑法161条1項

前二条の文書等又は電磁的記録文書等を行使した者は、その文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載若しくは記録をした者と同一の刑に処する。

論文ではこう使う

論文では、文書が出てきたら次の順で罪名を特定します。第一に、公文書か私文書かを決めます。公務所又は公務員が職務上作成すべき文書なら公文書で、私文書なら権利、義務又は事実証明に関する文書に当たるかを確認します。第二に、名義人と作成者を特定し、人格の同一性を偽っていれば有形偽造(偽造)、作成権限のある者が内容を偽っただけなら無形偽造です。無形偽造は、公文書なら156条、私文書なら160条に当たる場合だけ処罰されます。第三に、印章又は署名の有無で有印か無印かを決めます。第四に、行使の目的を認定します。第五に、偽造した文書を使った場面で行使罪を検討し、相手方が内容を認識できる状態に置いたかを確認します。最後に、偽造罪と行使罪、行使罪と詐欺罪をそれぞれ牽連犯として処理し、全体が科刑上一罪になることを示します。

試験ではこう問われる

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