放火罪の類型・自己所有物の特例・着手と罪数とは
ほうかざいのるいけいじこしょゆうぶつのとくれいちゃくしゅとざいすう
放火罪の類型とは、客体が現住建造物等か非現住建造物等かそれ以外の物か、他人所有か自己所有かによって、108条・109条1項・109条2項・110条に分かれる放火罪の区分をいいます。自己所有物の特例とは、自己所有でも差押え・賃貸・保険などがあれば他人の物として扱う115条の定めをいいます。
同じ「火をつける」行為でも、家族が寝ている家に火をつけるのと、だれもいない自分の物置を燃やすのと、道端の自転車を燃やすのとでは、周りの人に及ぶ危険の大きさが違います。刑法は、燃やした物が何であるか、だれの物かによって放火罪を四つに分け、危険の大きいものほど重い刑を定め、危険の小さいものには公共の危険が実際に生じたことを要求しています。自分の物であっても、保険が掛かっていたり人に貸していたりすれば、他人の利害が絡むので他人の物と同じに扱われます。
放火罪は、客体が現住建造物等か、非現住建造物等か、それ以外の物かと、他人所有か自己所有かで分かれます
放火罪の罪名は、客体と所有関係で決まります。現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物・汽車・電車・艦船・鉱坑は108条で、所有者がだれかを問いません。犯人が家族と住む自己所有の家屋に放火しても108条です。現に人が住居に使用せず、かつ現に人がいない建造物・艦船・鉱坑は109条で、他人所有なら1項、自己所有なら2項です。これら以外の物(自動車、自動二輪車、家具、ごみ箱、人のいない汽車・電車)は110条で、他人所有なら1項、自己所有なら2項です。108条と109条1項は公共の危険の発生を要件としませんが、109条2項と110条は公共の危険の発生が要件です。客体の所有者が焼損に同意している場合は、自己所有物と同じに扱われます。共犯者の所有物も「自己の所有に係る」物です。
- 108条 現住建造物等放火現住・現在の建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑。死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑。未遂・予備を罰する
- 109条1項 他人所有非現住建造物等放火非現住かつ非現在の建造物、艦船、鉱坑。二年以上の有期拘禁刑。未遂・予備を罰する
- 109条2項 自己所有非現住建造物等放火六月以上七年以下の拘禁刑。公共の危険を生じなかったときは罰しない。未遂・予備の処罰なし
- 110条1項 他人所有建造物等以外放火焼損し、よって公共の危険を生じさせたとき。一年以上十年以下の拘禁刑。未遂・予備の処罰なし
- 110条2項 自己所有建造物等以外放火一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金。未遂・予備の処罰なし
自己所有の物でも、差押え・物権の負担・賃貸・配偶者居住権・保険があれば他人の物として扱われます
115条は、109条1項と110条1項に規定する物が自己の所有であっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、配偶者居住権が設定され、又は保険に付したものである場合は、他人の物を焼損した者の例によると定めています。自己所有の家屋に一人で居住していた甲が、火災保険金を詐取しようと考えて放火した事例では、犯人だけが住む家屋ですから非現住建造物であり、保険に付されているので他人の物として扱われ、109条1項の罪が成立します。「同家屋に放火して全焼させ,公共の危険を生じさせた。甲には自己所有非現住建造物等放火罪(刑法第109条第2項)が成立する」という肢は誤りで、「この場合、甲に他人所有非現住建造物等放火罪が成立する」という肢は正しいです。109条1項の罪になる以上、公共の危険の発生は要件になりません。無人の倉庫を焼損したが公共の危険は生じなかった事例について、「その倉庫が火災保険の付されたA所有のものであった場合,Aに非現住建造物等放火罪(刑法第109条第1項)は成立しない」という肢は誤りです。乙が単身で居住する乙所有の家屋について、甲と乙が保険金をだまし取るため放火を共謀した事例では、居住者の乙は共犯者で「人」に当たらないので非現住建造物になり、保険に付されているので109条1項の罪が成立します。「放火することを共謀していたときは,他人所有現住建造物等放火罪が成立する」という肢は誤りです。
未遂と予備が罰せられるのは、108条と109条1項の罪だけです
112条は108条と109条1項の罪の未遂を罰し、113条はこれらの罪を犯す目的でした予備を二年以下の拘禁刑で罰します(情状により刑を免除することができます)。109条2項と110条には未遂も予備もありません。「建造物等以外放火罪には,未遂処罰規定がない」という肢は正しいです。自己所有の無人の倉庫に灯油をまいて火をつけたが燃焼に至らなかった事例について、「その倉庫がA所有のものであった場合,Aには非現住建造物等放火罪(刑法第109条第2項)の未遂罪が成立する」という肢は誤りです。「同新聞紙が燃えたにとどまり、同倉庫は焼損しなかった。この場合、甲に自己所有非現住建造物等放火罪の未遂罪が成立する」という肢も誤りです。予備も同じです。自己所有の無人の倉庫に放火するためガソリンとライターを持って向かったが職務質問を受けた事例について、「その倉庫がA所有のものであった場合,Aに放火予備罪(刑法第113条)は成立しない」という肢は正しいです。他人所有の自動車を燃やす目的で灯油とライターを持って向かった事例について、「この場合,甲には,建造物等以外放火罪の予備罪が成立する」という肢は誤りで、他人所有の自動二輪車に放火するためガソリンとライターを所持して近づいた事例について、「放火するに至らなかった。この場合,甲には,放火予備罪は成立しない」という肢は正しいです。「同車に放火するに至らなかった。この場合、甲に放火予備罪が成立する」という肢は誤りです。
点火の前でも、焼損に至る切迫した危険が生じれば実行の着手が認められます
放火罪の実行の着手は、目的物の焼損に至る現実的危険のある行為を開始した時に認められます。目的物や媒介物に点火すれば着手がありますが、点火が常に必要なわけではありません。ガソリンのように引火性の強い物を屋内に大量に撒布すれば、わずかな火気で建造物が燃え上がる切迫した危険が生じるので、点火の前でも着手が認められます。「ガソリン約18リットルを撒布したが,点火行為には至らなかった。甲には,現住建造物等放火未遂罪が成立する」という肢は正しいです。時限発火装置を建物に設置した場合も、設置によって焼損に至る危険が生じます。「設定した時刻が到来する前に発覚して同装置の発火に至らなかった。この場合,甲には現住建造物等放火未遂罪は成立しない」という肢は誤りです。また、現住建造物を焼損する目的で、隣接する物置や壁際の自動車に放火すれば、現住建造物等放火罪の着手があります。「物置小屋の一部を焼損するにとどまった。甲には現住建造物等放火罪の実行の着手が認められる」という肢は正しいです。乙が居住する家屋を燃やそうと考え、壁際に駐車されていた乙所有の自動車に放火して焼損し、家屋への延焼の危険を生じさせた事例について、「同家屋に燃え移らなかった。この場合,甲には,建造物等以外放火罪のみが成立する」という肢は誤りです。成立するのは現住建造物等放火未遂罪で、自動車の焼損はこれに吸収されます。
1個の公共の危険しか生じていなければ、複数の建造物を焼損しても放火罪は1罪です
放火罪は公共の安全を保護する罪ですから、罪数は焼損した物の数や所有者の数ではなく、生じた公共の危険の数で決まります。1個の放火行為で隣り合う複数の現住建造物を焼損しても、公共の危険が1個であれば、1個の現住建造物等放火罪が成立します。「乙及び丙の各家屋を共に全焼させた。甲には1個の現住建造物等放火罪(刑法第108条)が成立する」という肢は正しく、「この場合、甲には2個の現住建造物等放火罪が成立し、これらは観念的競合となる」という肢は誤りです。現住建造物と非現住建造物を同じ機会に焼損した場合も、最も重い108条の罪だけが成立し、109条の罪はこれに吸収されます。乙の家屋に放火した後、さらに隣接する丙所有の物置にも放火して同時に焼損した事例について、「現住建造物等放火罪及び非現住建造物等放火罪の各既遂罪が成立し,両者は併合罪となる」という肢は誤りです。
人を殺す意思で放火すれば殺人罪も成立し、保険金詐欺とは併合罪になります
108条の法定刑は重いですが、人の死亡の結果まで評価している罪ではありません。居住者を殺す意思で家屋に放火して焼死させれば、現住建造物等放火罪と殺人罪の両方が成立します。「甲には,法定刑に死刑を含む現住建造物等放火罪のみが成立する」という肢、「甲には,殺人罪は成立せず,現住建造物等放火罪のみが成立する」という肢は、どちらも誤りです。「現住建造物等放火罪と殺人罪が成立し,後者は前者に吸収される」という肢も誤りです。両罪は、1個の放火行為によるものとして観念的競合とするのが一般的な理解で、どちらかに吸収されることはありません。殺意がなく焼死させた場合は、放火罪に結果的加重犯の規定がないので、放火罪と過失致死罪又は重過失致死罪が成立します。居住者を殺害した後に犯跡を隠すため放火した場合は、殺人罪と非現住建造物等放火罪が成立します。火災保険金をだまし取る目的で放火し、その後に保険金の支払を受けた場合、放火と詐欺は罪質上通例手段と結果の関係にあるとはいえないので、牽連犯ではなく併合罪です。「甲には,現住建造物等放火罪及び詐欺罪が成立し,これらは併合罪となる」という肢は正しく、「甲に現住建造物等放火罪及び詐欺罪が成立し、これらは牽連犯となる」という肢は誤りです。
刑法115条
第百九条第一項及び第百十条第一項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、配偶者居住権が設定され、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。
刑法112条
第百八条及び第百九条第一項の罪の未遂は、罰する。
論文ではこう使う
論文では、放火の事例に当たったら、次の順で罪名を特定します。第一に、客体が建造物か、それ以外の物かを確認します。第二に、建造物であれば、犯人以外の者が住居に使用しているか、現にいるかを見て108条か109条かを決めます。第三に、109条・110条の客体であれば、所有者がだれか、所有者の同意があるかを見たうえで、115条の事情(保険・賃貸・抵当権など)がないかを確認して1項か2項かを決めます。第四に、焼損に達したかを検討し、109条2項・110条であれば公共の危険の発生も認定します。未遂にとどまるときは、108条と109条1項に限って未遂罪になることに注意します。最後に、殺人罪、保険金詐欺、住居侵入罪との罪数を処理します。住居侵入と放火は牽連犯、放火と保険金詐欺は併合罪です。
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