現住建造物・現在建造物(現住性の判断)とは
げんじゅうけんぞうぶつげんざいけんぞうぶつ
現住建造物とは、現に人が住居に使用している建造物をいい、現在建造物とは、現に人がいる建造物をいいます。どちらの「人」も犯人以外の者を指し、これらに放火すると現住建造物等放火罪(108条)が成立します。
家族が暮らす家は、放火された時にたまたま全員が出かけていても、いつ誰が帰ってくるか、誰が訪ねてくるか分かりません。人が暮らしの場にしている建物や、いま人が中にいる建物に火を放つと、建物が焼けるだけでなく、人の生命・身体が危険にさらされます。刑法は、そのような建物への放火を現住建造物等放火罪として、殺人罪と同じ重さの刑で罰しています。そこで、どの建物がこの重い罪の客体になるのかが問題になります。
「現に人が住居に使用し」とは、犯人以外の者が起臥寝食の場所として日常使用していることをいいます
108条は、放火して「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑」を焼損した者を、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処すると定めています。前半の「現に人が住居に使用し」ている建造物が現住建造物、後半の「現に人がいる」建造物が現在建造物です。住居に使用するとは、人の起臥寝食の場所として日常使用することをいいます。刑が重い理由は建造物の中にいる人、又は中にいる可能性の高い人の生命・身体への危険にあるので、どちらの「人」も犯人以外の者を指します(最判昭和32年6月21日)。犯人自身の生命・身体を、犯人を重く罰することで守る必要はないからです。「現住建造物等放火罪にいう「現に人が住居に使用し」の「人」には犯人が含まれるが,「現に人がいる」の「人」には犯人が含まれない」という肢は誤りです。前半の「人」にも犯人は含まれません。同じ理由で、「「現に人が住居に使用し」の「人」には,犯人が含まれる」という肢も誤りです。犯人が一人で住み、ほかに誰もいない家屋は、犯人にとって現住建造物でも現在建造物でもありません。火災保険金を詐取する目的で、自己が単独で居住し誰も現在しない木造家屋に放火した事例について、「「人」に犯人は含まれないから、甲に現住建造物等放火既遂罪が成立することはない」という肢は正しいです。これに対し、犯人の家族や同居人は犯人以外の者ですから「人」に当たります。妻と二人で暮らす家屋は、夫が放火する場合でも現住建造物です。
放火の時に居住者が不在でも、使用形態に変更がなければ現住性は失われません
現住建造物に当たるかどうかは、放火の時に人が中にいたかではなく、その建造物が住居として使用されているかで決まります。住居として使用されていれば、居住者がいつ戻るか分からず、人が中にいる可能性が類型的に高いからです。したがって、居住者が外出中や旅行中であっても現住建造物です。Vとその家族が1泊2日の旅行中で不在であり、甲がそのことを認識して放火した事例について、「甲がそのことを認識して放火したのであれば、甲に現住建造物等放火既遂罪が成立することはない」という肢は誤りです。旅行から帰れば再びそこで生活するのですから、住居としての使用形態は変わっていません。最決平成9年10月21日は、競売手続の妨害目的で、自己の経営する会社の従業員を交替で泊まり込ませていた家屋について、人の起居の場所として日常使用されていたものであり、放火に先立って従業員らを旅行に連れ出していても、その使用形態に変更はなかったとして、現住建造物に当たるとしました。「同従業員らが不在にしている隙に,同家屋に放火して全焼させた。甲には現住建造物等放火罪(刑法第108条)が成立する」という肢は正しいです。寝泊まりの動機が競売の妨害であっても、現実に起居の場所として使われていれば足ります。従業員らは旅行から帰れば再び交替で宿泊するものと認識していたので、犯人が一時的に不在にさせただけでは現住性は失われません。
居住者全員を殺害した後に放火した場合は、非現住建造物等放火罪が成立します
居住者が全員死亡すれば、その建造物を住居に使用する「人」はいなくなります。判例は、居住者全員を殺害した後にその家屋に放火した場合、ほかに居住者がなく人が現在しない以上、非現住建造物等放火罪が成立するとしています(大判大正6年4月13日)。乙が一人で住居に使用する家屋の中で乙を殺害した後に放火した事例について、「乙が死亡した後でも人が同家屋を訪問する可能性があり,「現に人が住居に使用」する建造物といえるのであるから,現住建造物等放火罪の既遂罪が成立する」という肢は誤りです。人が訪ねてくる可能性は、住居としての使用を基礎づけません。妻と二人で暮らしていた夫が妻を殺害し、その直後に家屋に火をつけて全焼させた事例について、「周囲の住宅には燃え移らなかった。甲には現住建造物等放火既遂罪が成立する」という肢も誤りです。犯人である夫は「人」に含まれないので、妻の死亡によって居住者はいなくなっています。山奥で乙を殺害した後、乙が一人で居住していた丙所有の家屋に放火した事例について、「同家屋に人がいなかった場合でも,甲には,現住建造物等放火罪が成立する」という肢も誤りで、成立するのは他人所有の非現住建造物等放火罪(109条1項)です。Aが1人で居住する家屋内でAを殺害した直後に放火した事例について、「この場合,甲には,現住建造物等放火罪は成立しない」という肢は正しいです。殺害の直後であっても、放火の時点で居住者がいないことに変わりはありません。この場合は、殺人罪と非現住建造物等放火罪が成立します。
現に人がいる建造物や艦船は、住居に使用されていなくても108条の客体になります
108条の後半は、住居ではない建造物でも、放火の時に犯人以外の者が現にいれば客体になることを定めています。営業中の店舗、人が作業をしている倉庫、乗客のいる電車がこれに当たります。客体は建造物に限られず、汽車、電車、艦船、鉱坑も含まれます。「客を乗せて航行中の他人所有のフェリーに放火した場合は,建造物等以外放火罪が成立する」という肢は誤りです。フェリーは「艦船」に当たり、客を乗せて航行中であれば「現に人がいる艦船」ですから、現住建造物等放火罪が成立します。現住建造物等放火罪は故意犯ですから、犯人には、人が住居に使用していること又は人が現にいることの認識が必要です。空き家でだれもいないと誤信して放火したところ実際には人が住んでいた場合は、108条の故意を欠き、38条2項によって非現住建造物等放火罪の限度で処罰されます。
- 現住建造物現に人が住居に使用している建造物。放火の時に居住者が不在でもよい
- 現在建造物現に人がいる建造物。住居でなくてもよい
- 「人」どちらも犯人以外の者。犯人の家族・同居人は含まれる
- 居住者全員の死亡後住居に使用する人がいなくなるので非現住建造物(109条)
刑法108条
放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。
論文ではこう使う
論文では、放火の客体が108条の建造物か109条の建造物かを最初に確定します。「現に人が住居に使用し」とは犯人以外の者が起臥寝食の場所として日常使用していることをいう、と定義を示し、問題文の事実から居住の実態を拾います。居住者が不在の事例では、不在が一時的か、戻って再び使用することが予定されているかを挙げて、使用形態に変更がないことを示します。居住者を殺害した後の放火では、放火の時点で住居に使用する者がいないことを指摘して109条に進み、殺人罪との罪数も書きます。犯人が居住者は全員死亡したと誤信していた、あるいは空き家だと誤信していたという事情があれば、現住性の認識を欠くので、38条2項により109条の限度で故意犯の成立を認めます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。