文書の意義(写し・コピー・偽造の程度と変造)とは
ぶんしょのいぎ
文書とは、文字又はこれに代わる符号を用いて、ある程度持続する状態で物体の上に表示された、人の意思又は観念の表示であって、名義人を認識できるものをいいます。写真コピーも、原本と同様の社会的機能と信用性があれば文書に当たります。
就職や借入れの手続では、免許証や保険証そのものではなく、そのコピーを出すことがよくあります。受け取る側は、コピーを見て「原本にもこう書いてあるのだ」と信じます。氏名のところに別の紙を貼ってからコピーを取り、それを本物の写しとして出せば、受け取る側はだまされてしまいます。原本そっくりに見えるコピーは、原本と同じように人を信用させる力を持っています。そこで、どのようなものが偽造罪で守られる「文書」に当たるのかが問題になります。
文書とは、文字などの符号で物体の上に表示された、名義人のある意思又は観念の表示をいいます
文書偽造の罪にいう文書とは、文字又はこれに代わる符号を用いて、ある程度持続する状態で物体の上に表示された、人の意思又は観念の表示をいいます。口頭の発言や、砂の上に書いた文字は、持続性がないので文書ではありません。また、文書といえるには、その意思又は観念の主体である名義人が、文書そのものから認識できることが必要です。だれが作ったのか分からない書面は、信用の対象にならないからです。名義人は、文書に氏名が書かれている場合に限らず、文書の内容や形式、付属物から特定できれば足ります。偽造といえるには、作られたものが、一般人から見て真正に作成された文書であると誤認する程度の形式・外観を備えていることが必要です。一見して作り物と分かるものは、文書に対する公共の信用を害しないので、偽造には当たりません。この判断では、文書の客観的な形状だけでなく、文書の種類・性質や社会における機能、そこから想定される行使の形態も考慮されます。大阪地判平成8年7月8日は、自己の運転免許証の上に他人の運転免許証の写しから切り取った氏名等の記載部分を重ねてテープで固定した書面を、無人店舗の自動契約受付機のイメージスキャナーに読み取らせて係員に呈示した事案で、直接手に取れば改ざんが分かる物であっても、運転免許証はイメージスキャナーなどの電子機器を通じて間接的に呈示されることもあるとして、真正な文書と誤認させるに足りる程度に達していると認め、偽造の成立を認めました。
写真コピーも、原本と同様の社会的機能と信用性があれば文書に当たります
手書きの写しは、写した人の意思や観念が入り込むので、原本の名義人の文書とはいえません。これに対し、最判昭和51年4月30日は、機械的方法で原本を複写した写真コピーについて、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書として原本と同様の社会的機能と信用性を有するものと認められる限り、文書に含まれるとしました。写真コピーは、原本がそのとおりの内容・形状で存在することを強く証明する力を持つからです。この場合の名義人は原本の名義人で、原本の印章や署名が写っていれば有印です。この考え方は公文書に限られません。「公文書に限らず,私文書であっても,その写しは,文書偽造罪の客体となり得る」という肢は正しいです。乙の国民健康保険被保険者証の氏名欄に自己の氏名が印刷された紙を貼り付けてコピーした事例について、「一般人をして甲の国民健康保険被保険者証の真正なコピーであると誤信させるに足りる程度の形式・外観を備えたものを作成した。この場合,甲に有印公文書偽造罪が成立する」という肢は正しいです。紙を貼り付けた原本そのものは一見して細工が分かるので偽造文書とはいえませんが、コピーにすれば細工の跡が消え、真正な原本の写しという外観になります。ファクシミリで送信した場合も同じで、裁判例は受信側で印字された書面の文書性を認めています。「送信に供した当該原稿が公文書偽造罪の客体であって,受信書面は同罪の客体とならない」という肢は誤りです。
名義人が実在しなくても、一般人が真正に作成された文書と誤信するものであれば偽造になります
文書偽造の罪が守っているのは文書に対する公共の信用ですから、名義人が実在するかどうかは決め手になりません。架空の人物の名義であっても、一般人がその名義人は実在し、その人が作成した文書だと誤信するおそれがあれば、偽造に当たります。「丙が実在しなくても,一般人をして真正に作成された文書であると誤信させる危険があるから,甲と乙には有印私文書偽造罪が成立する」という肢は正しいです。すでに死亡した人の名義でも同じです。数日前に死亡したBの氏名を冒用して金銭消費貸借契約書の借受人欄に署名押印した事例について、「一般人をしてBが生存中に作成したと誤信させるおそれが十分に認められる文書を作成した。この場合、甲には、有印私文書偽造罪が成立する」という肢は正しいです。公文書についても、実在しない公務所の名義であっても、一般人が実在する公務所がその権限内で作成した公文書であると誤信するに足りる形式・外観があれば、公文書偽造罪が成立します。実在しない「法務局民事訴訟管理センター」名義のはがきを作成した事例について、「一般人をして実在する公務所が権限内で作成した公文書であると誤信させるに足りる程度の形式・外観を備えた文書を作成した。この場合,甲に有印公文書偽造罪が成立する」という肢は正しいです。
既存の文書の非本質的部分を改ざんすれば変造であり、本質的部分を改ざんすれば偽造です
変造とは、真正に成立した他人名義の文書の非本質的部分に、権限なく変更を加えることをいいます。本質的部分に変更を加えて、元の文書と同一性のない新たな文書を作り出した場合は、変造ではなく偽造です。どこが本質的部分かは、その文書が何を証明するためのものかで決まります。「銀行預金通帳の預金受入年月日を改ざんする行為は,私文書の変造であって,偽造ではない」という肢は正しいです。預金通帳は預金者と銀行の取引を証明する文書で、受入年月日を変えても別の文書になるわけではないからです。これに対し、国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄を別人の氏名に書き換えた事例について、「単に文書の内容を書き換えたにすぎないから,甲と乙には,公文書偽造罪ではなく,公文書変造罪が成立する」という肢は誤りです。被保険者の氏名はだれについての証明かを決める部分ですから、これを変えれば別の文書を作ったことになり、公文書偽造罪が成立します。運転免許証の写真を自分の写真に変えた事例について、「他人の運転免許証の写真を自己のものに変えることは,文書の本質的部分に変更を加えるものであるから,運転免許証の他の部分に変更を加えていなくても,甲には有印公文書偽造罪が成立する」という肢は正しいです。他人名義の真正な運転免許証の顔写真を貼り替え、氏名と住所を書き換えた事例でも、成立するのは有印公文書変造罪ではなく有印公文書偽造罪です。
- 変造真正に成立した他人名義の文書の非本質的部分を改ざん。例:預金通帳の預金受入年月日
- 偽造本質的部分を改ざんして新たな文書を作出。例:被保険者証の氏名欄、運転免許証の写真
最判昭和51年4月30日(フォト・コピーの文書性)
たとえ原本の写であつても、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有するものと認められる限り、これに含まれる
論文ではこう使う
論文では、改ざんした書類をコピーして提出した事例で使います。まず、切り貼りや貼り付けをした原本そのものは、一見して改ざんが分かるので偽造文書に当たらないことを確認します。次に、コピーについて、写真コピーは原本と同一の意識内容を保有し、証明文書として原本と同様の社会的機能と信用性を有する限り文書に当たる、という判例の規範を示します。そのうえで、名義人は原本の名義人であること、作成者は権限なくコピーを作った者であることから、人格の同一性を偽ったとして偽造を認めます。原本の印章や署名が写っていれば有印です。公文書のコピーなら有印公文書偽造罪、私文書のコピーなら有印私文書偽造罪です。最後に、そのコピーを相手方に提出した行為について行使罪を認定し、偽造罪との牽連犯で処理します。既存の文書の一部を書き換えただけの事例では、書き換えた部分が本質的部分かどうかを、その文書の証明の対象から判断して、偽造か変造かを決めます。
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