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用語集 / 刑法 / 行使の意義

行使の意義(偽造文書・有価証券)とは

こうしのいぎ

刑法 公共の安全・信用に対する罪

行使とは、偽造文書・偽造有価証券を真正なものとして使用することをいい、偽造文書では、その内容を他人に認識させ、又は認識できる状態に置くことをいいます。

にせの運転免許証を作っても、財布に入れて持ち歩いているだけなら、まだだれもその免許証にだまされていません。検問で警察官に差し出したとき、はじめて相手がにせ物を本物と受け取るおそれが生まれます。偽造文書の「行使」とは、このように、にせ物を本物として人に見せたり渡したりして、中身が相手に分かる状態に置くことです。文書への信用が実際に危うくなるのはこの場面ですから、刑法は、作る行為とは別に、使う行為を行使罪として処罰しています。

道路の検問の場面を左右二つのコマで描く。左のコマは、車の運転席の男性の上着の内ポケットに免許証が入っている絵で、札「携帯しているだけ:行使でない」。右のコマは、同じ男性が車の窓から免許証を差し出し、先生が警察官役(札「警察官」)でそれを受け

行使とは、偽造文書を真正な文書として他人に認識させ、又は認識できる状態に置くことをいい、携帯しているだけでは行使に当たりません

最大判昭和44年6月18日は、偽造公文書行使罪は公文書の真正に対する公共の信用が具体的に侵害されることを防ぐための罪であるから、行使に当たるためには、文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させ又は認識しうる状態に置くことを要するとしました。そのうえで、運転の際に免許証を携帯し提示する義務が法令上定められていても、偽造した運転免許証を携帯しているにとどまる場合は行使に当たらないとしました。この場合は未遂にもなりません。「偽造された自動車運転免許証を携帯して自動車の運転を開始した。甲には偽造公文書行使罪は成立しない」という肢は正しいです。「偽造された自動車運転免許証を携帯して自動車を運転した場合,偽造公文書行使罪が成立する」という肢と、「提示するつもりで偽造した運転免許証を携帯した場合,偽造公文書行使罪が成立する」という肢は誤りです。文書そのものを相手が認識できる状態に置く必要があるので、「偽造公文書の内容,形式を口頭で他人に告知するだけでは,偽造公文書行使罪は成立しない」という肢は正しいです。これに対し、検問で警察官に提示すれば行使になります。判例は、偽造運転免許証に表示された有効期間が経過していても、免許証が真正に作成されたもので運転免許を受けた者であると警察官に誤信させるに足りる外観があれば、提示は行使に当たるとしています(最決昭和52年4月25日)。「提示した時には同免許証に表示されている有効期間が経過していたとしても,甲には偽造公文書行使罪が成立する」という肢は正しいです。

文書の本来の用法に従った使い方でなくても、真正な文書として人に示せば行使に当たります

行使は、その文書の本来の使い道に従ったものである必要はありません。最決昭和42年3月30日は、偽造した県立高校校長名義の卒業証書を、真正に成立したものとして父親に提示した行為を偽造公文書行使罪に当たるとしました。父親に見せて安心させるだけの目的で提示した事例について、「公文書に対する公共の信用を害するおそれがないから,甲には偽造有印公文書行使罪は成立しない」という肢は誤りです。母親に見せて安心させる目的で「真正なものとしてAに提示した。この場合、甲には、偽造有印公文書行使罪が成立する」という肢は正しいです。交際相手に生活能力があることを示そうとして「偽造した国家試験合格証書を当該相手に見せた場合,偽造公文書行使罪が成立する」という肢も正しいです。相手方がその文書に直接の利害関係を持つ者である必要もありません。最決平成15年12月18日は、偽造した金銭消費貸借契約証書を、公正証書の作成の代理嘱託を依頼するために真正な文書として司法書士に交付した行為について、同証書の内容、交付の目的とその相手方等にかんがみ、文書に対する公共の信用を害するおそれがあるとして、行使に当たるとしました。家主の信用を得る手立てとして、偽造した契約書を真正な文書として司法書士に示して公正証書の作成の代理嘱託を依頼した事例では、偽造有印私文書行使罪が成立します。

家の居間の場面。若い男性(札「高校を中途退学した人」)が、額に入った卒業証書を父親役の男性(札「父親」)に見せている。父親の吹き出し「卒業できたのか、安心したよ」。先生が裁判官役(札「裁判所」)で居間の入口に立ち、二人を見ている。先生の吹き

行使の相手方は偽造であることを知らない者でなければならず、知っている者に示しても既遂になりません

行使は、偽造文書を真正な文書として使用することですから、相手方が偽造であることを知らないことが前提になります。行為者が、偽造したものであると自分から申告したうえで警察官に偽造免許証を提示した場合は、真正な文書として認識させようとしていないので、行使に当たらず、行使未遂罪も成立しません。相手方が情を知らないと思って真正なものとして呈示したところ、相手方がすでに偽造であると知っていた場合は、行使の実行行為はあるものの、既遂にはならず、未遂にとどまります。偽造した約束手形を割引依頼のために呈示したが、相手方が偽造であることを第三者から聞いて知っていた事例では、偽造有価証券行使罪の既遂は成立しません(東京高判昭和53年2月8日は未遂にとどまるとしています)。行使罪は未遂も処罰されます(158条2項、161条2項、163条2項)。

行使罪の客体は、行使の目的で作成されたものである必要はありません

偽造罪は行使の目的がなければ成立しませんが、行使罪の客体は、偽造・変造された文書や虚偽作成された文書であれば足ります。だれが、どのような目的で作ったものであっても、真正な文書として使われれば公共の信用が害されるからです。「行使の目的なしに作成された偽造公文書は,偽造公文書行使罪の客体とならない」という肢、「偽造公文書行使罪の客体は,行使の目的で作成されたものでなければならない」という肢は、いずれも誤りです。偽造通貨行使罪、偽造有価証券行使罪についても同じで、各客体が「いずれも行使の目的で作成されたものでなければならない」という肢は誤りです。

偽造有価証券は真正なものとして見せるだけでも行使になりますが、偽造通貨は流通に置かなければ行使になりません

偽造文書と偽造有価証券の行使は、真正なものとして使用することで足ります。判例は、偽造手形の行使は、手形本来の効用に従って流通に置く場合に限らず、偽造の手形を真正の手形として使用する場合を含むとしています(大判明治44年3月31日)。取引先に信用を誇示するだけの目的で偽造の約束手形を真正なものとして提示した事例について、「偽造有価証券を真正なものとして流通に置く必要があるから,甲には同罪は成立しない」という肢は誤りです。相手の信用を確保するために偽造小切手を真正なものとして見せた事例でも、偽造有価証券行使罪が成立します。これに対し、偽造通貨の行使は、真正な通貨として流通に置くことをいうので、資力があるように見せるために示すだけでは行使になりません。「自己に資力があることを証明するために偽造紙幣又は偽造株券を相手に示すこと」も行使に該当するという肢は、偽造紙幣について誤りです。情を知っている者に渡す行為を処罰する交付罪は、偽造通貨と偽造有価証券にはありますが、偽造公文書にはありません。「情を知る者に占有移転した場合には,各客体の交付罪が成立する」という肢は誤りです。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立つ。黒板には三段の表。一段目は紙幣の絵と「偽造通貨:流通に置くことが行使」。二段目は手形の絵と「偽造有価証券:真正なものとして見せるだけでも行使」。三段目は証明書の絵と「偽造文書:真正な文
  • 偽造文書(公文書・私文書)行使は、真正な文書として認識させ又は認識できる状態に置くこと。交付罪の規定はない。行使して財物をだまし取れば、行使罪と詐欺罪の牽連犯
  • 偽造有価証券行使は、真正なものとして使用すること(見せるだけでも行使)。交付罪・輸入罪がある。行使罪と詐欺罪は牽連犯
  • 偽造通貨行使は、真正な通貨として流通に置くこと(見せるだけでは行使でない)。交付罪・輸入罪がある。詐欺罪は行使罪に吸収される

偽造文書を行使して財物をだまし取れば、行使罪と詐欺罪が成立して牽連犯になります

偽造文書を示して相手を錯誤に陥れ、現金の交付を受けた場合、文書に対する公共の信用と、相手方の財産の両方が害されます。そのため、偽造文書行使罪と詐欺罪がともに成立し、手段と結果の関係にあるので牽連犯になります。「偽造公文書行使罪は詐欺罪に吸収され,詐欺罪のみが成立する」という肢は誤りです。文書を偽造した者が自ら行使した場合は、偽造罪と行使罪も牽連犯になります。偽造通貨を行使して財物をだまし取った場合に、詐欺罪が偽造通貨行使罪に吸収されるのとは扱いが異なります。

刑法158条1項

第百五十四条から前条までの文書等若しくは電磁的記録文書等を行使し、同条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供し、又は同条第二項の電磁的記録を人の事務処理の用に供した者は、その文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書等若しくは電磁的記録文書等を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。

刑法163条1項

偽造若しくは変造の有価証券又は虚偽の記入がある有価証券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者は、三月以上十年以下の拘禁刑に処する。

論文ではこう使う

論文では、文書を偽造した者がそれを使った場面で、偽造罪に続けて行使罪を検討します。行使とは、偽造文書を真正な文書として他人に認識させ、又は認識しうる状態に置くことをいうと定義を示し、だれに対して、どのような方法で(提示、交付、郵送、機械の画面への表示など)文書の内容を認識できる状態に置いたかを事実から認定します。既遂時期は、相手方が認識できる状態になった時点で、実際に相手方が内容を読んだことまでは必要ありません。相手方が偽造と知っていた場合は未遂にとどまり、携帯していただけの場合は未遂にもなりません。行使によって財物の交付を受けていれば詐欺罪もあわせて検討し、最後に、偽造罪・行使罪・詐欺罪が順に手段と結果の関係に立つので牽連犯になると罪数を示します。

試験ではこう問われる

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