建造物の一体性(複合建造物・不燃性建造物)とは
けんぞうぶつのいったいせい
建造物の一体性とは、複数の建物や区画から成る建造物について、その全体を一個の現住建造物と扱えるかという問題です。判例は、延焼可能性を中心とする物理的一体性と、全体が一体として人の起居に利用されているかという機能的一体性から判断します。
神社の境内には、本殿、祭具庫、社務所といった建物が回廊でつながって並んでいます。夜、神職が寝ている社務所から離れた無人の祭具庫に火を放った場合、焼けたのは人のいない建物だけでも、火は回廊を伝って社務所まで届くかもしれません。マンションの空き部屋やエレベーターに火を放った場合も同じです。放火された部分と人が住む部分とを一個の建造物とみてよいかによって、現住建造物等放火罪になるか、より軽い罪になるかが分かれます。
複数の建物や区画が全体で一個の現住建造物といえるかは、物理的一体性と機能的一体性から判断します
建造物の一部に人が住み、放火された部分には人が住んでいないという場合、全体が一個の現住建造物といえれば、無人の部分を焼損しただけで現住建造物等放火罪(108条)の既遂になります。別個の建造物であれば、焼損した部分について非現住建造物等放火罪(109条)が成立するにとどまります。一個の建造物といえるかは、物理的観点と機能的観点から判断します。物理的一体性とは、構造上つながっていて、一部に放火されれば人の住む部分に延焼する可能性があることをいいます。機能的一体性とは、全体が一体として人の起居に利用されていて、放火された部分にも人が出入りする可能性があることをいいます。108条が重く罰するのは人の生命・身体への危険があるからですから、火が人のいる部分へ及ぶ危険、又は人が火のある部分に来合わせる危険があるかどうかを見ることになります。
- 物理的一体性構造上の接続と延焼可能性。木造の回廊・渡り廊下で接続され、一部に放火されれば全体に危険が及ぶ構造
- 機能的一体性全体が一体として人の起居に利用されていること。宿直員の巡回、居住者の日常の利用
回廊でつながった社殿は、無人の部分だけを焼損しても現住建造物等放火罪の既遂になります
最決平成元年7月14日(平安神宮放火事件)は、本殿、拝殿、社務所、守衛詰所などの建物が木造の廻廊で接続され、夜間は神職と守衛らが宿直して巡回し社務所等で就寝していた社殿について、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶと考えられる一体の構造であり、また全体が一体として日夜人の起居に利用されていたと認め、物理的に見ても機能的に見ても、その全体が一個の現住建造物であるとしました。本殿・祭具庫・社務所・守衛詰所が木造の回廊で接続された神社の祭具庫に放火した事例について、「無人の祭具庫は全焼したものの,Vらが現在する社務所・守衛詰所には,火は燃え移らなかった。甲には現住建造物等放火既遂罪が成立する」という肢は正しいです。全体が一個の現住建造物である以上、その一部である祭具庫が焼損した時点で既遂になります。人が居住する木造建物Aと人が居住していない木造建物Bが木造の渡り廊下で接合され、渡り廊下を通じて人の行き来のある構造になっていた事例について、「この場合、建物Aに延焼しなければ、甲に現住建造物等放火既遂罪が成立することはない」という肢は誤りです。木造の渡り廊下による接合が物理的一体性を、人の行き来が機能的一体性を基礎づけるので、建物Bの焼損だけで既遂になり得ます。
集合住宅の空き部屋やエレベーターのかごも、現住建造物の一部に当たります
一棟の集合住宅は、空き部屋を含めて全体が一個の建造物です。「甲が,一部の部屋のみが現に住居に使用されている木造の集合住宅の空き部屋に放火し,同室のみを焼損させた場合,甲には,現住建造物等放火罪が成立する」という肢は正しいです。木造であれば隣の部屋に延焼する可能性があり、空き部屋も現住建造物の一部だからです。最決平成元年7月7日は、12階建てのマンションに設置されたエレベーターのかご内で火を放ち、その側壁の化粧鋼板の表面を燃焼させた事案について、現住建造物等放火罪の既遂を認めました。エレベーターは居住者が日常使う設備で、各住戸と一体として機能しており、かごは毀損しなければ取り外すことができない状態にあるので、建造物の一部に当たります。「同かごは同マンションの一部といえるのであるから,現住建造物等放火罪の既遂罪が成立する」という肢は正しいです。したがって、「エレベーターのかごの内部を焼損させた。甲には現住建造物等放火未遂罪が成立するにとどまる」という肢は誤りです。犯人自身がそのマンションに住んでいる場合も、ほかの居住者がいる以上は同じで、「住居部分には延焼しなかった場合,甲には,現住建造物等放火未遂罪が成立する」という肢も誤りです。
不燃性・難燃性の建造物では、延焼可能性が乏しいことが一体性を否定する方向に働きます
鉄筋コンクリート造りのマンションのように、各区画が耐火構造で仕切られている建造物では、一つの区画で火が出てもほかの区画には容易に燃え広がりません。そこで、人の住んでいない区画(店舗や医院など)だけに放火した場合に、全体を一個の現住建造物と扱ってよいかが問題になります。延焼可能性がほとんどなく、その区画が居住部分と構造上も利用上も独立しているときは、物理的一体性も機能的一体性も弱いので、その区画を独立の非現住建造物とみる余地があります。裁判例には、耐火構造の集合住宅の一室について一体性を否定したものと、火勢によっては他の区画へ延焼するおそれが否定できないとして肯定したものの両方があります。これに対し、エレベーターや階段、廊下といった共用部分は、居住者が日常使う場所として居住部分と機能的に一体ですから、不燃性の建造物であっても現住建造物の一部と扱われます。なお、不燃性の建造物で建造物自体が独立して燃焼しない場合に既遂を認められるかは、焼損の意義の問題です。
一体といえない別個の建造物に放火した場合でも、現住建造物を焼損する目的があれば現住建造物等放火未遂罪が成立します
隣り合っているだけで接続していない倉庫や物置は、住宅と一個の建造物とはいえません。しかし、住宅を焼損する目的で、その手段として隣接する倉庫に火を放てば、住宅に延焼する現実的な危険が生じていますから、現住建造物等放火罪の実行の着手が認められます。判例も、現住建造物を焼損する目的で、これに近接する別の物に放火し、現住建造物の焼損に至らなかった場合に、現住建造物等放火罪の未遂罪の成立を認めています。隣人Aが居住する木造家屋を焼損しようと考え、同家屋から1メートル離れた自己所有の無人の木造倉庫に放火した事例について、「同家屋に延焼する危険を生じさせるにとどまった。この場合,甲には,現住建造物等放火未遂罪は成立しない」という肢は誤りです。倉庫の焼損は、現住建造物等放火未遂罪に吸収されて別罪を構成しません。一体性は客体が一個かどうかの問題であり、着手は犯人の目的と延焼の危険の問題ですから、両者を分けて検討します。
最決平成元年7月14日(平安神宮放火事件)
右社殿は、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶと考えられる一体の構造であり、また、全体が一体として日夜人の起居に利用されていたものと認められる。そうすると、右社殿は、物理的に見ても、機能的に見ても、その全体が一個の現住建造物であつたと認めるのが相当である
論文ではこう使う
論文では、放火された部分に人が住んでおらず人もいなかったという事例で使います。まず、焼損した部分だけを見れば非現住建造物であることを確認し、次に、人が住む部分と合わせて一個の現住建造物といえるかを問題にします。判断の枠組みとして物理的一体性と機能的一体性を挙げ、問題文から、接続の有無と材質、延焼可能性、人の巡回や出入りの事実を拾って当てはめます。一体性が認められれば、焼損した部分が無人でも108条の既遂です。あわせて、犯人が一体性を基礎づける事実(接続の構造や宿直員の存在)を認識していたかを確認し、現住建造物であることの故意を認定します。一体性が否定される場合でも、現住部分を焼損する目的があれば108条の未遂が成立することに触れます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。