往来を妨害する罪とは
おうらいをぼうがいするつみ
往来を妨害する罪とは、道路・鉄道・航路といった公衆の交通の安全を害する罪の総称で、往来妨害罪(124条)、往来危険罪(125条)、汽車転覆等罪(126条)、往来危険による汽車転覆等罪(127条)、過失往来危険罪(129条)から成ります。
道路をふさがれると、人も車も通れなくなり、救急車も消防車も届きません。線路に物を置かれれば、列車が脱線して多くの乗客が巻き込まれるおそれがあります。道路や鉄道、船の航路は、不特定又は多数の人が毎日使うものですから、その安全を害する行為は、特定のだれかを狙っていなくても社会全体への危険になります。刑法は、道路をふさぐ行為から列車を転覆させる行為まで、危険の大きさに応じて段階をつけて罰しています。
往来妨害罪は、陸路・水路・橋を損壊し又は閉塞して、往来の妨害を生じさせる罪です
124条1項は、陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞して往来の妨害を生じさせた者を、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処します。閉塞とは、障害物を置いて道路などをふさぐことをいいます。往来の妨害を生じさせたとは、通行を不可能又は困難にする状態を作り出すことをいい、現実にだれかが通行を妨げられたことまでは必要ありません。この罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、往来妨害致死傷罪として、傷害の罪と比較して重い刑により処断されます(124条2項)。これは結果的加重犯ですから、死傷の結果について故意がない場合に成立します。車道上にロープを張って車道を閉塞し、通り掛かった自動二輪車の運転者を転倒させて負傷させた事例について、「甲に乙が負傷をすることについて故意があれば,甲には往来妨害罪と傷害罪が成立し,両罪は牽連犯となる」という肢は誤りです。傷害の故意がある場合は往来妨害罪と傷害罪が成立しますが、ロープを張るという1個の行為によるものですから、両罪は観念的競合になります。
往来危険罪は、汽車・電車・艦船の往来の危険を生じさせる罪で、実害の発生する可能性があれば成立します
125条は、鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者、灯台若しくは浮標を損壊し、又はその他の方法により艦船の往来の危険を生じさせた者を、二年以上の有期拘禁刑に処します。線路上に障害物を置く行為が典型です。最決平成15年6月2日は、往来の危険とは、汽車又は電車の脱線、転覆、衝突、破壊など、これらの交通機関の往来に危険な結果を生ずるおそれのある状態をいい、単に交通の妨害を生じさせただけでは足りないが、実害の発生が必然的ないし蓋然的であることまでは必要でなく、実害の発生する可能性があれば足りるとしました。この事案では、線路に接する土地をパワーショベルで大きく掘削し、電柱が倒壊して安全な走行ができなくなるおそれのある状態にしたことについて、往来危険罪の成立が認められました。往来危険罪は、往来の危険という具体的な危険の発生を要件とする具体的危険犯です。
現に人がいる汽車・電車・艦船を転覆させ又は破壊すれば汽車転覆等罪になり、人を死亡させれば死刑又は無期拘禁刑です
126条1項・2項は、現に人がいる汽車又は電車を転覆させ、又は破壊した者、現に人がいる艦船を転覆させ、沈没させ、又は破壊した者を、無期又は三年以上の拘禁刑に処します。これらの罪を犯し、よって人を死亡させた者は、死刑又は無期拘禁刑に処されます(126条3項)。127条は、往来危険罪を犯し、よって汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、又は艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者も、126条の例によると定めています。転覆や破壊の結果について故意がなくても、往来危険罪の結果として生じれば重く罰する結果的加重犯です。最大判昭和30年6月22日(三鷹事件)は、127条の「前条の例による」には126条3項も含まれ、往来危険罪の結果として人のいない電車が暴走して転覆し、周囲の人が死亡した場合にも、126条3項の刑が適用されるとしました。未遂が罰せられるのは、往来妨害罪、往来危険罪、汽車転覆等罪です(128条)。過失による場合は、過失往来危険罪(129条)として罰金にとどまり、業務に従事する者については三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に加重されます。
- 124条1項 往来妨害陸路・水路・橋の損壊・閉塞。二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金。未遂を罰する
- 124条2項 往来妨害致死傷傷害の罪と比較して重い刑により処断
- 125条 往来危険汽車・電車・艦船の往来の危険。二年以上の有期拘禁刑。未遂を罰する
- 126条 汽車転覆等現に人がいる汽車・電車・艦船の転覆・破壊。無期又は三年以上の拘禁刑。致死は死刑又は無期拘禁刑
- 127条 往来危険による汽車転覆等往来危険罪の結果として転覆・破壊。126条の例による
- 129条 過失往来危険三十万円以下の罰金。業務者は三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金
刑法125条1項
鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、二年以上の有期拘禁刑に処する。
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