傷害の意義と傷害罪の故意とは
しょうがいのいぎとしょうがいざいのこい
傷害とは、人の生理的機能に障害を与えることをいいます。傷害罪(204条)は、傷害の故意がある場合のほか、暴行の故意で暴行を加えて傷害の結果が生じた場合にも成立します。
けがと聞くと、切り傷や骨折のように目に見えるものを思い浮かべます。しかし、薬で数時間意識を失わせることや、病気をうつすこと、嫌がらせで眠れなくして体調を崩させることも、相手の体の働きを損なっています。傷害罪は人の身体の健康を守る罪なので、外から見える傷に限らず、体の働きを悪くすれば成立します。あわせて、けがをさせるつもりまではなく殴っただけの人も傷害罪になるのかが問題になります。
傷害は人の生理的機能に障害を与えることをいい、一時的な症状や精神的機能の障害も含みます
判例は、傷害を人の生理的機能に障害を与えることと捉えています。外見上の傷がなくても、健康状態を不良に変更すれば傷害に当たります。最決平成24年1月30日は、睡眠薬等を摂取させて約6時間又は約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせた行為について、健康状態を不良に変更し、その生活機能の障害を惹起したものとして傷害罪の成立を認めました。「覚醒後の健康状態に支障がない場合には、傷害罪が成立することはない」という肢は誤りで、「一定時間にわたり筋弛緩作用等を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせた場合,傷害罪が成立することはない」という肢も誤りです。腐敗した食品を食べさせて下痢の症状を起こさせた事例について「数時間安静にするうちに完治した。甲には傷害罪が成立する」という肢は正しいです。一時的であっても生理的機能が害されているからです。精神的機能の障害も傷害に含まれます。最決平成24年7月24日は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負わせた事案で、精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害に当たるとしました。「精神的機能の障害を惹起した場合,傷害罪が成立することはない」という肢は誤りです。これに対し、頭髪の切断は生理的機能の障害ではないので傷害に当たらず、暴行罪にとどまります。
傷害の方法に限定はなく、暴行によらない方法でも傷害罪が成立します
204条は「人の身体を傷害した者」と定めるだけで、手段を限定していません。最判昭和27年6月6日は、傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損するものである以上、その手段が何であるかを問わず、暴行によらずに病毒を他人に感染させる場合にも成立するとしました。性病を感染させる危険性を認識しながら情を秘して性行為を行い感染させた事例について「同人が性行為に同意している場合には、傷害罪が成立することはない」という肢は誤りです。相手方は性行為には同意していますが、病気をうつされることには同意していないからです。最決平成17年3月29日は、隣家の被害者に向けて約1年半にわたりラジオの音声等を大音量で鳴らし続け、慢性頭痛症、睡眠障害等を負わせた行為について、傷害罪の実行行為に当たるとしました。「被害者に暴行を加えずに身体の生理的機能を毀損した場合,傷害罪が成立することはない」という肢は誤りです。
暴行によって傷害が生じた場合は暴行の故意で足り、暴行によらない場合は傷害の故意が必要です
傷害罪は、傷害の故意で傷害を負わせた場合に加えて、暴行の故意で暴行を加えたところ傷害の結果が生じた場合にも成立します。208条が「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に暴行罪が成立すると定めているので、暴行から傷害に至ったときは204条が適用されると読めるからです。判例も、傷害罪の成立には傷害の原因である暴行についての意思があれば足り、傷害の意思を必要としないとしています(最判昭和25年11月9日)。この場合の傷害罪は、暴行罪の結果的加重犯にあたります。「傷害結果が発生することについて認識を欠いている場合には、傷害罪が成立することはない」という肢は誤りです。「甲の意に反して当該殴打によってVが傷害を負った場合,甲には傷害罪は成立しない」という肢も、太ももを蹴って怪我をさせた事例について「甲には,Aに傷害を負わせるまでの意思はなかった。甲には傷害罪は成立しない」という肢も誤りです。これに対し、無言電話や騒音のように暴行によらない方法で傷害を負わせた場合は、基本となる暴行がないので、傷害の結果について故意があることが必要です。
傷害致死罪は、死亡の結果を予見していなくても成立します
傷害致死罪(205条)は、身体を傷害し、よって人を死亡させた場合に成立する結果的加重犯です。判例は、傷害致死罪の成立には暴行と死亡との間に因果関係があることを必要とするが、致死の結果についての予見を必要としないとしています(最判昭和32年2月26日)。顔面を1回殴ったところ、相手がバランスを崩して石につまずいて転倒し、頭部を強く打って死亡した事例について「甲がAの死亡の結果を全く予見していなかった場合でも,甲には傷害致死罪が成立する」という肢は正しいです。暴行の故意があれば傷害罪が成立し、その傷害から死亡の結果が生じているので、暴行の故意しかない者にも傷害致死罪が成立することになります。共犯でも同じです。暴行を加えるよう唆したところ、正犯が暴行を加えているうちに傷害の故意を生じ、その傷害が致命傷となって被害者が死亡した事例について「甲には,傷害致死罪の教唆犯が成立する」という肢は正しいです(大判大正13年4月29日)。
刑法204条
人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法205条
身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期拘禁刑に処する。
論文ではこう使う
論文では、殴る・蹴るなどの暴行から怪我が生じた事例では、傷害の結果を具体的に示して、人の生理的機能に障害を与えたと認定します。行為者に傷害を負わせる意思までなかった場合は、傷害罪が暴行罪の結果的加重犯を含むことを208条の文言から示し、暴行の故意があれば傷害罪が成立すると書きます。被害者が死亡した場合は、暴行と死亡との間の因果関係を認定したうえで、死亡の結果についての予見は不要であるとして傷害致死罪を認めます。暴行によらない方法が問題になる事例では、傷害の方法に限定がないことを示したうえで、行為者が傷害の結果を認識していたかを事実から認定します。睡眠薬による意識障害や精神的機能の障害が問題になる事例では、生理的機能の障害に当たることを症状の内容と継続した時間から評価します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。