暴行の意義(暴行罪)とは
ぼうこうのいぎ
暴行とは、暴行罪(208条)では、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときに、暴行罪が成立します。
人を殴る、蹴るといった行為が暴行に当たることは誰でも分かります。迷うのは、目の前で刃物を振り回したが当たらなかった場合や、耳元で大きな音を鳴らし続けた場合です。暴行罪は人の身体の安全を守る罪なので、けがをさせなくても、身体に向けて不法な力を加えれば成立します。そこで、どこまでが身体に向けた力の行使といえるのかが問題になります。
暴行罪の暴行には、殴る・蹴るのほか、音などのエネルギーを身体に作用させることも含まれます
暴行罪の暴行は、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。有形力には、殴る、蹴る、突くといった物理的な力のほか、音・光・熱・電気などのエネルギーの作用も含まれます。最判昭和29年8月20日は、208条の暴行とは人の身体に対し不法な攻撃を加えることをいうとしたうえ、被害者の身辺近くでブラスバンド用の大太鼓や鉦を連打し、意識がもうろうとする気分を与え、又は脳貧血を起こさせ息が詰まる程度に達せしめたときは暴行に当たるとしました。「相手方の意思に反して、その耳元で楽器を大音量で鳴らし続けた場合には、人の身体に対して不法な攻撃を加えたものとして暴行罪が成立し得る」という肢は正しいです。これに対し、言葉による侮辱や無言電話のように、身体に物理的な作用を及ぼさない方法は、有形力の行使に当たりません。精神に障害を生じさせようと考えて1か月間にわたり無言電話をかけ続けたが障害が生じなかった事例について「Vに何ら精神の障害が生じなかった場合,甲には暴行罪が成立する」という肢は誤りです。無言電話は有形力の行使ではないので暴行罪は成立せず、傷害罪には未遂を処罰する規定がないので、この事例は不可罰になります。
有形力が身体に接触しなくても、身体に向けられていれば暴行に当たります
暴行罪は傷害の結果を必要としない罪であり、有形力が現実に身体に触れることも必要ではありません。最決昭和39年1月28日は、狭い四畳半の室内で被害者を脅かすために日本刀の抜き身を数回振り回す行為は、同人に対する暴行というべきであるとしました。「相手方の眼前に抜き身の日本刀を突き付けたとしても、その刃が同人に接触しない限り、暴行罪が成立することはない」という肢は誤りです。人に向かって石を投げたが当たらなかった場合も、身体に向けて有形力を行使しているので暴行に当たります。この理解は傷害罪の成否にもつながります。四畳半の室内で脅す目的で日本刀を振り回したところ、誤って刃先が相手の腕に当たって怪我を負わせた事例について「甲には傷害罪は成立しない」という肢は誤りです。振り回す行為が暴行に当たり、暴行の故意があるので、そこから生じた傷害について傷害罪が成立するからです。
傷害するに至らなかったときに暴行罪が成立し、頭髪の切断は暴行罪にとどまります
208条は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」と定めており、暴行から傷害が生じたときは傷害罪が成立します。傷害罪には未遂を処罰する規定がありませんが、傷害の故意で暴行を加えて傷害に至らなかった場合は、暴行罪が成立します。暴行と傷害の境目は、人の生理的機能に障害を与えたかどうかで決まります。判例は、頭髪の切断は傷害に当たらないとしています(大判明治45年6月20日)。はさみを使って頭髪を切断した行為について「人の生理的機能を損なうものではないから、傷害罪は成立せず暴行罪が成立するにとどまる」という肢は正しいです。寝ている間に無断で長髪を切って短くした事例について「甲には傷害罪が成立する」という結論は、誤りです。頭髪を切る行為は身体に向けた有形力の行使なので、暴行罪が成立します。
「暴行」の語は罪ごとに広さが違い、暴行罪の暴行は狭義の暴行と呼ばれます
刑法には暴行を手段とする罪がいくつもあり、同じ「暴行」でも、その罪が守る利益に応じて範囲が違います。最も広いのは騒乱罪の暴行で、人に対するものに限らず、物に対する不法な有形力の行使も含みます。公務執行妨害罪の暴行は、人に対する不法な有形力の行使であれば足り、公務員の身体に直接向けられる必要はありません。暴行罪の暴行は、人の身体に対する不法な有形力の行使に限られます。暴行罪が守るのは人の身体の安全なので、無人の建物を壊すような物に対する力の行使は含まれません。強盗罪の暴行は、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることが必要で、最も狭くなります。
- 最広義の暴行不法な有形力の行使。物に対するものを含む。騒乱罪
- 広義の暴行人に対する不法な有形力の行使。身体に直接向けられなくてよい。公務執行妨害罪
- 狭義の暴行人の身体に対する不法な有形力の行使。暴行罪
- 最狭義の暴行人の反抗を抑圧するに足りる程度の、人の身体に対する不法な有形力の行使。強盗罪
刑法208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
論文ではこう使う
論文では、殴る・蹴るといった典型的な行為については、人の身体に対する不法な有形力の行使に当たると一文で認定すれば足ります。認定に手間をかけるのは、身体に接触していない行為や、音・光などを用いた行為です。その場合は、暴行罪が人の身体の安全を守る罪であること、傷害の結果を要件としていないことから、有形力が身体に接触する必要はないと示したうえで、行為の場所の広さ、相手との距離、用いた物の危険性を挙げて、身体に向けられた有形力の行使といえるかを評価します。傷害の故意で行為したが傷害が生じなかった場合は、傷害罪に未遂の処罰規定がないことを確認し、手段が暴行に当たれば暴行罪が成立し、暴行に当たらなければ不可罰になると書き分けます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。