強盗罪の暴行・脅迫(反抗を抑圧するに足りる程度)とは
ごうとうざいのぼうこうきょうはく
強盗罪の暴行・脅迫とは、財物を奪う手段として加えられる、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫をいいます。この程度に至らない暴行・脅迫で畏怖させて交付させた場合は恐喝罪になります。
人を脅して金を出させる行為は、強盗にも恐喝にもなり得ます。夜道で包丁を突き付けて「金を出せ」と言えば強盗、「払わないと会社にばらすぞ」と言って払わせれば恐喝です。違いは、相手が逆らうことのできない状態に追い込まれるほどの暴行・脅迫かどうかにあります。強盗罪の刑は五年以上の有期拘禁刑、恐喝罪は十年以下の拘禁刑と大きく差があるので、暴行・脅迫の強さをどう測るかが決め手になります。
強盗罪の暴行・脅迫は、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることが必要です
236条の「暴行又は脅迫」は、財物を奪う手段として、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものでなければなりません。この程度に達しているかどうかは客観的に判断します。最判昭和24年2月8日は、強盗罪になるか恐喝罪になるかは、暴行又は脅迫が社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものかどうかという客観的基準によって決まり、その事案の被害者の主観を基準として決まるのではないとしました。判断の材料になるのは、凶器の有無と種類、暴行・脅迫の態様、犯人と被害者の人数・年齢・性別・体格、犯行の時刻と場所です。深夜の人通りのない場所で刃物を突き付ける行為は、通常この程度に達します。短答の事例では「反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加え」と書き込まれることが多く、その場合は程度の点は満たされたものとして、ほかの要件を検討します。事後強盗罪の暴行・脅迫にも同じ程度が必要です。電車内で財布を盗んだ者が追い掛けてきた被害者に暴行を加えて重傷を負わせた事例について「甲の暴行の程度を問わず,甲には,強盗致傷罪が成立する」という肢は誤りです。暴行が反抗を抑圧するに足りる程度に達していなければ事後強盗罪は成立せず、強盗致傷罪の主体である「強盗」に当たらないからです。
被害者が現に反抗を抑圧されたことは必要なく、畏怖して交付したにとどまる場合も判例は強盗既遂とします
基準が客観的である以上、反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫が加えられれば、たまたま被害者が気丈で、反抗を抑圧されるには至らず、畏怖して財物を差し出したにとどまる場合でも、判例は強盗罪の既遂を認めています(最判昭和24年2月8日)。これに対し、強盗罪は反抗を抑圧して財物を奪う罪なのだから、現に反抗が抑圧されていない場合は強盗未遂罪と恐喝既遂罪が成立するにとどまるという見解もあります。逆に、客観的には反抗を抑圧するに足りない程度の脅迫を加えたところ、被害者が特に臆病で反抗を抑圧された場合は、原則として恐喝罪にとどまります。ただし、犯人が被害者の臆病な性格を知ってこれを利用したときは強盗罪になるとする見解が有力です。
ひったくりは原則として窃盗ですが、離さない被害者を引きずれば強盗になります
ひったくりは、相手の隙をついて物を奪う行為で、有形力は物に向けられているだけです。相手の反抗を抑圧する手段として暴行を加えているわけではないので、原則として窃盗罪にとどまります。しかし、被害者が物を離さないのに、なお奪うために引っ張り続ければ、その有形力は被害者の反抗を抑圧する手段になります。自動車の窓から手を出して歩行者のショルダーバッグをつかみ、被害者が路上に転倒してもさげひもを離さなかったので、身体ごと引きずることを認識しながら加速して約20メートル引きずり、手を離させてバッグを奪い、傷害を負わせた事例では、「強盗(刑法第236条第1項)が人を負傷させたものとして,強盗致傷罪が成立する」という肢が正しいです。走行する自動車で引きずる行為は、生命・身体に重大な危険を生じさせ、手を離さざるを得なくするものだからです。「強盗致傷罪は成立せず,窃盗罪と傷害罪が成立する」という肢は誤りです。「事後強盗(刑法第238条)が人を負傷させたものとして,強盗致傷罪が成立する」という肢も誤りです。バッグを奪う前に、奪うための手段として暴行を加えているので、事後強盗ではなく236条1項の強盗になります。
暴行・脅迫の相手方は、財物の占有者に限られず、奪取の障害となる者であれば足ります
暴行・脅迫は、財物を奪うのに障害となる者に向けられていれば足り、財物の所有者や占有者本人に加える必要はありません。空き巣に入ったところ、留守番をしていた家人の甥である10歳の子に発見され、その子に反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加えて寝室のタンス内の預金通帳と印鑑を奪った事例について、「甲には強盗既遂罪が成立する」という肢は正しいです。10歳の子でも、その場にいれば財物を奪う障害になるからです。脅迫は、害悪を告知して畏怖させることをいい、凶器を示す行為も含みます。運賃を請求されたタクシーの乗客が、運転手にナイフを突き付けて「殺すぞ。」と言って脅し、運転手が恐怖で動けないうちに逃走して支払を免れた事例では、反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫によって財産上の利益を得ているので、強盗罪が成立します。
- 反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫で奪う強盗罪(236条)
- その程度に至らない暴行・脅迫で畏怖させて交付させる恐喝罪(249条)
- 隙をついて奪う(ひったくり)窃盗罪。離さない被害者を引きずれば強盗罪
- 暴行・脅迫を加えず持ち去る窃盗罪
刑法236条1項
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期拘禁刑に処する。
論文ではこう使う
論文では、強盗罪の実行行為として、暴行・脅迫が相手方の反抗を抑圧するに足りる程度かを、社会通念に従って客観的に判断すると示します。当てはめでは、凶器の種類と使い方、暴行の部位と回数、脅迫の文言、犯人と被害者の人数・年齢・性別・体格差、時刻と場所、助けを求められる状況かどうかを拾い、一般人がその場に置かれたら反抗できなくなるかを評価します。程度に達していれば、被害者が現に反抗を抑圧されたかどうかは判例の立場では既遂・未遂に影響しないことを一言添えます。達していなければ、恐喝罪か、暴行罪・脅迫罪と窃盗罪の組合せを検討します。ひったくりの事例では、奪うための有形力が物に向けられているだけか、被害者の抵抗を排除する手段になっているかを、引きずった距離や車両の速度から認定します。
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