親族相盗例とは
しんぞくそうとうれい
親族相盗例とは、配偶者、直系血族又は同居の親族との間で窃盗罪・不動産侵奪罪を犯した者の刑を免除し、その他の親族との間で犯した場合を親告罪とする特例です(244条)。詐欺・恐喝・背任・横領の罪にも準用されます。
子どもが親の財布から金を抜き取った場合、窃盗罪は成立しますが、刑は免除されます。家族の中の金銭のもめごとに警察や裁判所が踏み込むよりも、家族の話合いに任せたほうがよいという考えから、刑法がそう定めているからです。この特例は犯罪の成立を否定するものではなく、処罰だけを控えるものです。そのため、誰との間に親族関係が必要か、どの罪に使えるかが条文と判例で細かく決まっています。
配偶者・直系血族・同居の親族との間では刑が免除され、その他の親族との間では親告罪になります
244条1項は、配偶者、直系血族又は同居の親族との間で窃盗罪、不動産侵奪罪又はこれらの未遂罪を犯した者の刑を免除します。免除は必要的で、裁判所の裁量ではありません。同条2項は、それ以外の親族との間で犯した場合を親告罪としています。直系血族には同居の要件がありません。「甲は,別居している祖父乙から現金を脅し取った。この場合,甲には恐喝罪が成立するが,その刑は免除される」という肢は正しく、「甲が,同居していない祖父乙を恐喝して同人から現金の交付を受けた場合,甲の恐喝行為について刑は免除されない」という肢は誤りです。祖父は直系血族であり、恐喝罪には251条が244条を準用しているからです。配偶者は法律上の配偶者に限られます。最決平成18年8月30日は、244条1項は刑の必要的免除を定めるもので、免除を受ける者の範囲は明確に定める必要があるとして、内縁の配偶者には適用も類推適用もされないとしました。「Aは甲の内縁の妻であるから,刑法第244条第1項により刑が免除される」という肢は誤りです。
- 配偶者・直系血族・同居の親族刑を免除する(244条1項)。直系血族は別居でもよい
- それ以外の親族告訴がなければ公訴を提起できない(244条2項)
- 内縁の配偶者適用も類推適用もされない
- 親族でない共犯適用しない(244条3項)
親族関係は、犯人と占有者との間にも、犯人と所有者との間にも必要です
最決平成6年7月19日は、窃盗犯人が所有者以外の者の占有する財物を窃取した場合、244条1項が適用されるためには、同項所定の親族関係が窃盗犯人と財物の占有者との間のみならず、所有者との間にも存することを要するとしました。窃盗罪は占有と所有権の両方を害するので、親族の中だけで解決できるといえるのは、被害を受けた者の全員が親族である場合に限られるからです。「甲は,A株式会社の代表取締役である実父乙が管理するA社所有の絵画を窃取した。この場合,甲には窃盗罪が成立し,その刑は免除されない」という肢は正しいです。占有者は実父でも、所有者である会社との間に親族関係はありません。実母が管理する会社所有の絵画について「上記絵画の占有者Bは甲の実母であり、刑法第244条第1項が適用されるから、その刑は免除される」という肢は誤りです。実母が友人から預かってタンスに保管していた宝石を窃取した事例でも、所有者が親族でないので刑は免除されません。逆に、実父の所有する時計を、実父の内縁の妻が預かって保管していた場合も、占有者が親族でないので刑は免除されません。横領罪に準用する場合も同じで、実父から、その友人の所有する刀剣の保管を委託された者が無断で売却した事例について「甲は乙の「直系血族」であるので,刑が免除される」という肢は誤りです。配偶者から、その友人が所有する刀剣の保管を委託された事例について「甲はAの配偶者であるから、刑が免除される」という肢も誤りです。委託者が親族でも、所有者が親族でないからです。
家庭裁判所が選任した後見人による横領には準用されず、強盗には適用がありません
最決平成20年2月18日は、244条1項は、親族間の一定の財産犯罪について国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき、「犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず、その犯罪の成立を否定したものではない」としました。そのうえで、家庭裁判所から選任された未成年後見人の後見の事務は公的性格を有し、親族であるかどうかにかかわらず被後見人の財産を誠実に管理すべき義務を負うので、業務上横領罪に244条1項を準用して刑を免除することはできないとしました。最決平成24年10月9日は、成年後見人についても同じ結論をとり、親族関係があることを量刑上有利に考慮することも相当でないとしています。祖母である未成年後見人が孫の預金を引き出して費消した事例について「甲には業務上横領罪が成立するが,その刑は免除される」という肢は誤りで、成年後見人である子が実父の預金を引き出した事例について「甲の横領行為について刑は免除されない」という肢は正しいです。適用される罪も限られています。244条が挙げるのは窃盗罪と不動産侵奪罪で、251条が詐欺・恐喝・背任の罪に、255条が横領の罪に準用しています。強盗罪には適用も準用もないので、祖父から現金を強取した事例について「刑法第244条第1項は強盗罪にも適用されるから、その刑は免除される」という肢は誤りです。
刑が免除されても犯罪は成立しているので、盗まれた物は盗品に当たり、親族でない共犯は処罰されます
244条1項は処罰だけを控える規定で、犯罪の成立を否定しません。そのため、刑を免除される者が盗んだ物も、盗品等に関する罪の客体になります。「乙は,窃盗罪についての刑が免除されることから,甲には盗品等有償譲受け罪は成立しない」という肢は誤りで、「刑が免除される犯人が窃取した物品は,「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」に当たらない」という肢も誤りです。また、刑の免除は親族という一身上の事情に基づくものなので、244条3項により、親族でない共犯には及びません。友人を教唆して、その友人の実父が所有し管理する自動車を窃取させた事例について「甲の窃盗教唆行為について刑は免除されない」という肢は正しいです。実行した友人の刑は免除されても、親族関係のない教唆者は処罰されます。親族でない者の物を親族の物と誤信して盗んだ場合については、244条1項を処罰阻却事由と解する立場からは、親族関係の錯誤は故意に影響せず、刑は免除されないという結論になります。
刑法244条
配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
論文ではこう使う
論文では、親族の間で財産犯が行われた事例で、罪の成立を認定した後に244条の適用を検討します。まず、成立した罪が窃盗・不動産侵奪か、251条・255条で準用される罪かを確かめます。次に、財物の占有者と所有者を特定し、最決平成6年7月19日に従って、その双方と犯人との間に同条所定の親族関係があるかを検討します。会社の財産や預かり物が客体の場合は、ここで適用が否定されます。後見人による横領では、最決平成20年2月18日が示した後見事務の公的性格を理由に準用を否定します。親族関係の錯誤が問題になる事例では、244条1項の法的性格を示す必要があります。政策的な処罰阻却事由と解すれば錯誤は故意に影響しないという結論になり、違法性や責任の減少に根拠を求める見解からは38条2項の趣旨により免除を認める余地があるという結論になります。共犯がいる場合は、3項により親族でない者には適用されないことを付け加えます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。