親族による犯罪に関する特例(105条)とは
しんぞくによるはんざいにかんするとくれい
親族による犯罪に関する特例とは、犯人蔵匿等罪(刑法103条)と証拠隠滅等罪(104条)について、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができるとする規定です(105条)。
息子が事件を起こして警察に追われているとき、親が逃げる金を渡してしまうのは、褒められたことではありませんが、気持ちとしては理解できます。刑法105条は、犯人や逃走した者の親族が、その者のために犯人蔵匿や証拠隠滅をした場合について、裁判所が刑を免除できると定めています。親族にそうしないことを期待するのは難しいという事情をくんだ規定です。ただし、犯罪が成立しなくなるわけではなく、免除するかどうかも裁判所の判断に委ねられています。
105条は、親族が犯人の利益のために蔵匿・証拠隠滅をしたときに、刑を免除することができると定めています
105条は、103条(犯人蔵匿等)と104条(証拠隠滅等)の罪について、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができるとしています。効果は刑の任意的免除です。必要的免除でも、刑の減軽でもありません。「犯人の親族が当該犯人の利益のために犯人蔵匿罪を犯したときは,当該親族に対する刑は減軽しなければならない」という肢は誤りです。この規定の趣旨は、親族間の情愛から犯人をかばうことについて適法行為の期待可能性が低いことにあります。期待可能性がないわけではないので、犯罪は成立します。強盗事件を犯した息子に逃走資金を与えた親について、「甲には,犯人隠避罪が成立する」という肢は正しいです。「自己の配偶者の犯罪行為に関する証拠を隠滅した場合,証拠隠滅罪が成立する」という肢も正しいです。どちらも、成立を認めたうえで、刑を免除することができるにとどまります。「これらの者の利益のために」が要件ですから、犯人に不利益となるように証拠を隠滅した場合には適用されません。
対象は犯人蔵匿等罪と証拠隠滅等罪に限られ、偽証罪には適用されません
105条が対象とするのは「前二条の罪」、つまり103条と104条の罪だけです。偽証罪(169条)には親族に関する特例がありません。同居している実父を被告人とする事件の公判で、子が実父の利益のために偽証をした事例について、「甲には偽証罪が成立するが,その刑を免除することができる」という肢は誤りです。偽証罪で刑の減軽・免除が認められるのは、裁判の確定前に自白した場合(170条)だけです。証人等威迫罪(105条の2)も105条の後に置かれており、対象ではありません。また、窃盗などの親族相盗例(244条1項)や盗品等に関する罪の親族等の特例(257条1項)は「その刑を免除する」と定める必要的免除であり、105条の任意的免除とは効果が異なります。
親族が他人を教唆して蔵匿・証拠隠滅をさせた場合には、105条は適用されないとされています
親族が自分でかくまうのではなく、他人を唆してかくまわせたり証拠を隠滅させたりした場合、実行した他人には親族関係がないので105条は適用されません。唆した親族についても、他人を巻き込む行為はもはや定型的に期待可能性が低いとはいえず、105条の適用はないと解されており、判例もこの立場です(大判昭和8年10月18日)。親族が犯した事件について、「他人を教唆してAの犯行に関わる証拠を隠滅させた。甲には,親族による犯罪に関する特例(刑法第105条)が適用され,証拠隠滅罪の教唆犯は成立しない」という肢は誤りです。この肢は、105条は適用されないという点でも、仮に適用されても犯罪は成立するという点でも誤っています。
他人が親族を教唆した場合、親族には105条が適用されますが、他人には適用されません
親族でない者が犯人の親族を唆して犯人をかくまわせた場合、実行した親族には犯人蔵匿罪が成立し、105条により刑を免除することができます。105条は犯罪の成立を否定する規定ではないので、親族の行為は構成要件に該当し、違法性も備えています。共犯が成立するためには正犯の行為が構成要件に該当し違法性を具備することを要するという見解からは、強盗犯人の妻を唆して犯人を蔵匿させた者に、犯人蔵匿罪の教唆犯が成立し得るという結論になります。この見解を前提にした問題で、「甲には犯人蔵匿罪の教唆犯は成立し得ない」とする記述は、見解からの帰結として誤りです。そして、105条の趣旨は期待可能性の低さという責任の減少にあり、責任は行為者ごとに個別に判断されるので、親族でない教唆者には105条は準用されないと解されています。
犯人が親族を教唆した場合と、親族が犯人を教唆した場合とでは、扱いが分かれます
犯人が自分の親族に頼んで自己をかくまわせた場合、親族には犯人蔵匿罪が成立し、105条が適用されます。犯人については、他人を教唆して自己を蔵匿させた場合と同じく、教唆犯が成立するというのが判例の立場からの帰結です。そのうえで、正犯である親族に刑の免除の可能性があり、犯人と親族の間には親族関係があるので、犯人にも105条を準用して刑を免除することができるとする見解が有力です。これに対し、親族が犯人を唆して、犯人自身に証拠を隠滅させたような場合は、犯人の行為が104条の構成要件に該当しません。正犯が構成要件に該当しない以上、唆した親族にも教唆犯は成立しないと解されています。
- 親族が自ら蔵匿・証拠隠滅親族に犯罪が成立し、105条により刑を免除することができる
- 親族が他人を教唆他人に犯罪が成立(105条の適用なし)。親族は教唆犯で、105条は適用されないとされる
- 他人が親族を教唆親族に犯罪が成立し105条を適用。他人は教唆犯で、105条は準用されない
- 犯人が親族を教唆親族に犯罪が成立し105条を適用。犯人は教唆犯で、105条の準用を認める見解が有力
- 親族が犯人を教唆犯人の行為は構成要件に該当せず、親族にも教唆犯は成立しない
刑法105条
前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
論文ではこう使う
論文では、犯人の家族が逃走資金を渡した、証拠を処分した、知人に頼んで犯人をかくまってもらった、といった事例で使います。まず、親族の行為について犯人蔵匿等罪・証拠隠滅等罪の成立を認定します。105条は犯罪の成立を否定する規定ではないので、成立を認めたうえで、最後に「親族が犯人の利益のために犯したので、刑を免除することができる」と付け加えます。親族が他人を教唆した事例では、他人を巻き込む点で期待可能性が低いとはいえないことを理由に、105条の適用を否定します。他人が親族を教唆した事例では、親族に成立する罪の教唆犯を認め、責任の減少は行為者ごとに判断することを理由に、教唆者への105条の準用を否定します。犯人が親族を教唆した事例では、犯人による教唆の論点を先に論じてから、105条の準用に触れます。
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