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用語集 / 刑法 / 職務の適法性

職務の適法性(要件・判断基準・錯誤)とは

しょくむのてきほうせい

刑法 国家的法益に対する罪

職務の適法性とは、公務執行妨害罪で保護される公務員の職務が適法なものでなければならないという、条文に書かれていない構成要件要素です。抽象的職務権限、具体的職務権限、法律上の重要な方式の履践の三つがそろって適法とされます。

警察官が逮捕状も現行犯の事情もないのに人を連れて行こうとしたとき、振りほどいた人を公務執行妨害罪で処罰するのは行き過ぎです。刑法が守るのは法に従った公務であって、違法な職務まで刑罰で守る必要はないからです。そこで、条文には書かれていませんが、公務執行妨害罪の「職務」は適法なものでなければならないと解されています。問題は、どこまで整っていれば適法といえるのか、それを誰がいつの時点で判断するのかです。

夜の路上の場面。先生が警察官役(札「警察官」)で、男性(札「被疑者」)に逮捕状の紙を示している。先生の横に縦に三つ並んだ点検表の板があり、上から「抽象的職務権限」「具体的職務権限」「重要な方式の履践(逮捕状の呈示)」と書かれ、それぞれにチェ

違法な職務は保護されないので、職務の適法性は条文に書かれていない構成要件要素とされます

刑法95条1項は「職務」が適法であることを明文で求めていません。しかし、判例・通説は、違法な職務を刑法で保護する必要はないとして、職務の適法性を書かれざる構成要件要素と解しています(大判昭和7年3月24日)。したがって、適法でない職務を執行している公務員に暴行・脅迫を加えても、公務執行妨害罪の構成要件に該当しません。この場合、暴行罪や傷害罪の構成要件には該当しますが、違法な職務執行は不正の侵害に当たり得るので、正当防衛の成否を検討することになります。条文上求められていないことや、公務として成立している以上は保護すべきことを理由に適法性を不要とする見解もありますが、判例・通説はこれを採っていません。

適法といえるには、抽象的職務権限、具体的職務権限、重要な方式の履践の三つが必要です

職務の適法性の要件は三つに整理されています。第一に、その行為が当該公務員の抽象的職務権限(一般的職務権限)に属していることが必要です。第二に、当該公務員がその職務を行う具体的職務権限を有していることが必要で、たとえば現行犯逮捕の要件を満たしていないのに現行犯逮捕をする行為は、この要件を欠きます。第三に、職務の執行が、公務としての有効要件である法律上の手続・方式の重要部分を履践していることが必要です。逮捕状を呈示せずに逮捕状による逮捕をする行為や、被疑事実の要旨を告げずに緊急逮捕をする行為は、第三の要件を欠き、適法な職務に当たらないとされています。

  • 抽象的職務権限その行為が当該公務員の一般的な職務権限に属していること
  • 具体的職務権限当該公務員が、その場面でその職務を行う権限を有していること
  • 重要な方式の履践公務としての有効要件である法律上の手続・方式の重要部分を踏んでいること

軽微な方式違反があるだけでは、職務の適法性は失われません

第三の要件で求められるのは、手続・方式の重要部分の履践です。法令上の手続に少しでも違反があれば直ちに違法になるわけではありません。判例は、所得調査をする収税官吏が検査章を携帯していなかった事案について、検査権は検査章の携帯によって初めて与えられるものではなく、相手方が呈示を求めていないのにたまたま携帯していなかったからといって、直ちに権限外の行為と解すべきではないとして、公務執行妨害罪の成立を認めました(最判昭和27年3月28日)。税務調査に来た税務署職員が規則で義務付けられた検査章を携帯しておらず、調査を受ける側も呈示を求めなかった事例について、「乙に規則違反があった以上,乙の調査は職務の権限外の行為であり,甲に公務執行妨害罪は成立しない」という肢は誤りです。同じ考え方から、判例は、県議会議長の議事運営上の措置が会議規則に違反するなど法令上の適法要件を完全には満たしていなかったとしても、暴行による妨害から保護されるに値する職務行為である以上、公務執行妨害罪が成立するとしています(最大判昭和42年5月24日)。

商店の帳場の場面。先生が税務署職員役(札「税務署職員:税務調査」)で帳簿を開いて調べており、胸ポケットは空で、足元の鞄の外に「検査章」と書いた小さな札が置き忘れられている。向かいに店主の男性(札「甲」)が腕を組んで立っている。先生の吹き出し

適法性は、裁判所が行為当時の状況を基に客観的に判断します

適法性を誰が判断するかについては、当該公務員が適法と信じたかで決める主観説、一般人の見解を基準とする折衷説、裁判所が法令を解釈して客観的に判断する客観説が並びます。主観説と折衷説に対しては、ほとんどすべての職務が適法とされかねないという批判が向けられ、客観説が通説です。次に、裁判所がどの時点に立って判断するかについては、裁判時を基準に事後的に判断する純客観説と、行為時を基準とする行為時基準説が対立します。純客観説に対しては、逮捕の要件を備えていても後に無実と判明すれば逮捕が違法となり、公務執行妨害罪が成立しなくなってしまうという批判が向けられます。判例は、現行犯人として逮捕しようとした相手が後に無罪判決を受けた事案について、職務行為の適否は事後的に純客観的な立場から判断されるべきではなく、行為当時の状況に基づいて客観的・合理的に判断されるべきであるとした原判決を相当としています(最決昭和41年4月14日)。行為の時点で現行犯人と認めるに足りる十分な理由があった以上、逮捕は適法な職務であり、これに対する暴行には公務執行妨害罪が成立します。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、手元に横長の時間の帯を描いた板を立てている。帯の左端に「行為当時:現行犯人と認める十分な理由あり」、右端に「裁判時:無罪判決」と書かれ、先生は左端を指し示している。証言台の前に被告人の

適法な職務を違法と誤信した場合の処理は、三つの見解に分かれます

職務は客観的に適法であったのに、行為者が違法な職務だと誤信して暴行・脅迫を加えた場合を、適法性の錯誤といいます。法律の錯誤説は、これを違法性の錯誤にすぎないとし、原則として故意は阻却されないとします。軽率な誤信から公務を保護できる反面、適法性を構成要件要素としながら、その錯誤をすべて法律の錯誤とするのは一貫しないという批判が向けられます。事実の錯誤説は、適法性が構成要件要素である以上、その認識を欠けば故意が阻却されるとします。この見解に対しては、身勝手な思い込みでも故意が否定され、公務の保護が薄くなるという批判が向けられます。二分説は、適法性を基礎づける事実の誤認と、適法性の評価の誤りとを区別し、前者は事実の錯誤として故意を阻却し、後者は法律の錯誤にとどまるとします。たとえば、逮捕状が呈示されたことに気づかなかった場合は故意が阻却されますが、呈示されたことは分かっていながら独自の解釈で違法な逮捕だと考えた場合は故意が阻却されません。見解を問う問題では、どの説からどの結論になるかをこの対応で答えます。

  • 法律の錯誤説適法性の錯誤は法律の錯誤であり、原則として故意を阻却しない
  • 事実の錯誤説適法性は構成要件要素であるから、その誤信は事実の錯誤として故意を阻却する
  • 二分説適法性を基礎づける事実の誤認は故意を阻却し、適法性の評価の誤りは法律の錯誤にとどまる

刑法95条1項

公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

論文ではこう使う

論文では、違法の疑いのある逮捕や所持品検査に抵抗して警察官に暴行を加えた事例で問われます。まず、条文に明記はないものの、違法な職務を保護する必要はないから職務の適法性が書かれざる構成要件要素となることを示します。次に、抽象的職務権限、具体的職務権限、重要な方式の履践の三要件を挙げ、裁判所が行為当時の状況を基に客観的に判断するという基準を立てて、問題文の事実を当てはめます。刑事訴訟法上の適法性が問題になる事例では、職務質問や逮捕の要件の検討がそのままここでの当てはめになります。職務が違法であれば公務執行妨害罪は成立せず、暴行罪・傷害罪について正当防衛を検討します。職務が適法であるのに行為者が違法と誤信していた事例では、適法性の錯誤を論じ、自説から故意の有無を結論づけます。

試験ではこう問われる

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