故意の意義と種類(未必の故意・概括的故意・意味の認識)とは
こいのいぎとしゅるい
故意とは、罪を犯す意思のことで、犯罪事実を認識し、その実現を認容することをいいます。結果の発生を確定的なものとして認識していなくても、発生するかもしれないと認識しつつそれでも構わないと認容していれば、未必の故意として故意が認められます。
夜道で車を飛ばす人が「人が飛び出してきたらひいてしまうかもしれないが、それでも構わない」と思って走るのと、「自分の腕なら避けられるから大丈夫だ」と思って走るのとでは、同じ事故を起こしても責められ方が違います。刑法は、犯罪になる事実を分かったうえであえて行為に出た人を、うっかりの人よりも重く非難します。そこで、行為者が何を認識し、結果をどう受け止めていたかによって、故意と過失を分けています。
故意は、犯罪事実を認識し、その実現を認容したときに認められます
刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定め、故意犯の処罰を原則としています。故意があるというためには、構成要件に該当する客観的事実を認識・予見していることが必要です。そのうえで、結果の発生を不確実なものとして認識しているにとどまる場合に、どこまでを故意とするかについて見解が分かれます。認容説は、結果が発生しても構わないと認容した場合が未必の故意で、結果発生の可能性を認識しつつ大丈夫だろうと打ち消した場合が認識のある過失だとします。蓋然性説は、結果発生の蓋然性が高いと認識したかどうかで分けます。動機説は、行為を思いとどまる動機とすべき事実を認識しながら行為に出たかどうかで分けます。判例は、故意を認めるときに「あえて」という表現を用いることが多く、認容説に親和的であるといわれています。「行為者が構成要件的結果発生の認容を欠く場合を認識のない過失といい,その認容がある場合を認識のある過失という」という肢は誤りです。認容がある場合は故意であって過失ではなく、認識のない過失と認識のある過失は、犯罪事実の認識があるかどうかで分かれるからです。
- 確定的故意犯罪事実の実現を確定的なものとして認識している場合です
- 未必の故意結果の発生を不確実なものとして認識しつつ、発生しても構わないと認容している場合です
- 認識のある過失結果発生の可能性は認識したが、認容を欠く場合です
- 認識のない過失犯罪事実の認識そのものを欠く場合です
盗品かもしれないと思いながらあえて譲り受ければ、未必の故意が認められます
最判昭和23年3月16日は、盗品を買い受ける罪の故意について、買い受ける物が盗品であることを確定的に知っている必要はなく、盗品であるかもしれないと思いながらしかもあえてこれを買い受ける意思、すなわち未必の故意があれば足りるとしました。「盗品かもしれないと認識していたが,値段が安いのでそれでも構わないと思って有償で譲り受けた。この場合,甲には盗品等有償譲受け罪は成立しない」という肢は誤りです。盗品かもしれないという認識と、それでも構わないという認容がそろっているからです。同じ理由で、「乙が盗んできたものかもしれないと思いながら,あえて買い取った。甲には盗品等有償譲受け罪の故意が認められる」という肢は正しいです。「これが盗品かもしれないがそれでも構わないと思って購入した。この場合、甲に盗品等有償譲受け罪が成立する」という肢も正しいです。故意は行為の時点にあれば足ります。「あえて有償で乙から譲り受けた後,同指輪に乙と同じイニシャルが刻み込まれていることに気付き,盗品ではないと確信するに至った。この場合,甲には,盗品等有償譲受け罪が成立する」という肢は正しいです。譲り受けた時点で未必の故意があった以上、その後に盗品ではないと確信しても、既に成立した罪は左右されません。
覚醒剤を含む違法な薬物類という認識があれば、覚醒剤所持罪の故意に欠けるところはありません
最決平成2年2月9日は、被告人に「覚醒剤を含む身体に有害で違法な薬物類である」との認識があった事案で、覚醒剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないとの認識はあったことに帰するとして、覚醒剤輸入罪と同所持罪の故意を認めました。対象物が覚醒剤であると確定的に認識している必要はなく、認識していた薬物類の範囲に覚醒剤が含まれていれば足りるということです。「もしかしたら同荷物には覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物が入っているかもしれないと思いながら,乙が覚せい剤を忍び込ませた荷物を受け取って所持していた。この場合,甲には,覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の罪が成立する」という肢は正しいです。これに対して、「身体に有害で違法な薬物類であるとの認識はあったが,覚せい剤や麻薬類ではないと認識していた。甲には覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の罪の故意が認められる」という肢は誤りです。覚醒剤であることを認識から排除している以上、覚醒剤かもしれないという認識があったとはいえないからです。「同粉末が身体に有害で違法な薬物であることは認識していたが,覚せい剤や麻薬ではないと認識していた。この場合,甲には覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の罪の故意が認められる」という肢も、同じ理由で誤りです。
結果の生じる客体が不特定でも、実行を一定の事態にかからせていても、故意は認められます
一定範囲の客体のどれかに結果が発生することは確実だが、その客体や個数が不特定である場合を概括的故意といいます。複数の客体のいずれか一方に結果が生じることは確実だが、どちらに生じるかが不確定である場合を択一的故意といいます。いずれも故意の一種であり、故意が否定されることはありません。「乙を含む複数の者の飲用に供されているペットボトル内のお茶に致死量の劇薬を投入した」事例で、「甲には,前記お茶を飲用して死亡した者の数に応じた殺人罪の故意が認められる」という肢は正しいです。飲む人のだれかが死亡することを認識しながら劇薬を入れているからです。犯罪の実行を一定の条件の発生にかからせる場合を条件付き故意といいます。最判昭和59年3月6日は、謀議の内容では被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていたとしても、殺害計画を遂行しようとする意思が確定的であったときは、殺人の故意の成立に欠けるところはないとしました。「もし,Aがこちらの要求を聞き入れなかったら,Aを殺してこい」と指示して拳銃を渡した事例で、「甲には殺人罪の故意が認められる」という肢は正しいです。「実際にAを殺害するかは乙の判断に任せる旨伝えて拳銃を渡し」た事例で、「甲が乙とAの間でもめごとが起きることがあり得ると認識していた場合、甲には、殺人罪の故意が認められる」という肢も正しいです。最決昭和56年12月21日も、実行に着手すべき事態の判断を現場に赴く者に委ねた事案で、計画を遂行しようとする意思そのものは確定的であったとして故意を認めています。
わいせつ性のような規範的構成要件要素は、意味の認識があれば故意が認められます
「わいせつ」のように、裁判官の評価を経てはじめて当てはまるかどうかが決まる要素を、規範的構成要件要素といいます。この要素については、条文の文言に当たるという認識までは不要で、その物が社会的にどのような意味をもつかという意味の認識があれば足りると解されています。最大判昭和32年3月13日(チャタレイ事件)は、刑法175条の罪の犯意は、問題となる記載の存在の認識とこれを頒布販売することの認識があれば足り、わいせつ性を具備するかどうかの認識までは必要でないとしました。主観的にわいせつ文書に当たらないと信じていても、それは法律の錯誤であって犯意を阻却しないとしています。「その意味内容は理解しつつも,刑法上のわいせつな文書に該当しないと考え,多数の者に販売した。この場合,甲にわいせつ物頒布罪の故意は認められない」という肢は誤りです。「あらかじめ同DVDの映像を再生してその内容を認識していたものの,この程度ではわいせつ図画に当たらないと考えていた。この場合,甲にはわいせつ図画販売罪が成立しない」という肢も誤りです。「あらかじめその内容を再生して確認し,この程度ではわいせつ物には当たらないと考えて,多数の者に販売した。この場合,甲には,わいせつ物頒布罪が成立する」という肢は正しいです。いずれも内容を認識したうえで販売しており、条文に当たらないと考えたことは故意を左右しないからです。
故意の対象は構成要件に該当する客観的事実であり、判例は公共の危険の発生の認識を不要としています
故意があるというために認識していなければならないのは、構成要件に該当する客観的事実です。どこまでがその対象に含まれるかは、罪ごとに問題になります。最判昭和60年3月28日は、刑法110条1項の放火罪が成立するためには、火を放って同条所定の物を焼損する認識が必要であるが、公共の危険を発生させることまでを認識する必要はないとしました。「甲は,公共の危険が発生するとは認識していなかった。甲には建造物等以外放火罪の故意は認められない」という肢は誤りです。他人の自動車に放火して焼損する認識がある以上、判例の立場では故意に欠けるところはないからです。なお、認識した事実と発生した事実が食い違う場合に故意が認められるかは、事実の錯誤の問題として別に扱われます。
刑法38条1項
罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
刑法38条3項
法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
論文ではこう使う
論文では、殺意の有無が争点になる事例で故意の認定を書きます。まず、故意とは犯罪事実の認識・認容をいうと定義を示します。次に、行為者の内心は直接には分からないので、客観的な事情から認定します。具体的には、創傷の部位と程度、凶器の種類と用法、動機の有無、犯行後の行動を問題文から拾います。たとえば、刃体の長い包丁で胸部や腹部といった身体の枢要部を強く突き刺したのであれば、人が死亡する危険性の高い行為であることを認識しながらあえて行為に出たといえるので、少なくとも未必の殺意が認められると書きます。薬物の事例では、覚醒剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったかを、依頼の経緯、報酬の額、隠し方といった事実から認定します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。