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用語集 / 刑法 / 因果関係の錯誤と遅すぎた構成要件の実現

因果関係の錯誤と遅すぎた構成要件の実現とは

いんがかんけいのさくごとおそすぎたこうせいようけんのじつげん

刑法 故意・錯誤・過失

因果関係の錯誤とは、行為者が狙った客体に結果を発生させたものの、結果に至る因果経過が行為者の認識と食い違うことです。遅すぎた構成要件の実現とは、第1行為で結果を発生させたと誤信した行為者が、その後の第2行為によってはじめて結果を発生させた場合をいいます。

ボウリングで右端のピンを狙って投げた球が、思った軌道から外れて別のピンに跳ね返り、結局その右端のピンを倒したとします。倒れ方は予定と違いますが、狙ったピンを倒したことに変わりはありません。刑法でも、狙った相手に狙った結果が生じたものの、そこに至る道筋が思っていたものと違う場合があります。行為者は結果を引き起こすつもりで行為に出ているので、道筋の食い違いだけで故意がなかったことにはなりません。

教室の場面。先生が教師役で黒板の前に立つ。黒板に左から右へ二本の矢印が上下に並ぶ。上の点線の矢印に札「認識した因果経過:突き落とす→溺れる→死亡」、下の実線の矢印に札「現実の因果経過:突き落とす→橋脚に頭を打つ→死亡」。二本の矢印は右端の同

因果関係の錯誤は、狙った客体に結果が生じたが、そこに至る因果経過が認識と食い違う場合です

因果関係の錯誤は、具体的事実の錯誤の一つです。客体の錯誤や方法の錯誤と違い、結果が生じた客体に食い違いはなく、食い違うのは結果に至る因果経過だけです。溺死させるつもりで橋から突き落としたところ、被害者が橋脚に頭を打って死亡したという事例が典型です。この場合、まず客観面として、行為と結果の間に因果関係が認められるかを検討します。因果関係が認められてはじめて、行為者が認識していた因果経過との食い違いが故意を阻却するかという問題に進みます。因果関係そのものが否定されれば未遂にとどまるので、錯誤を論じる必要はありません。

認識した因果経過と現実の因果経過が構成要件の範囲内で符合していれば、故意は阻却されません

故意があるというためには因果関係の認識も必要ですが、現実にたどった経過を細部まで認識している必要はありません。行為者が認識した因果経過と現実の因果経過が、いずれも刑法上の因果関係が認められる範囲内にあって符合していれば、故意は阻却されないと解されています。そのため、客観的に因果関係が認められる事例で、因果関係の錯誤によって故意が否定されることは通常ありません。「Aを川の中に突き落として溺死させようと思い,橋の側端に立っていたAを突き飛ばしたところ,Aは落下する途中で橋脚に頭部を強打して即死した。甲には殺人既遂罪が成立する」という肢は正しいです。橋から突き落とせば落下の途中で橋脚に頭を打って死亡することもあり得るので、認識した経過と現実の経過は殺人罪の因果関係の範囲内で符合しているからです。認識した事実と発生した事実が法定の範囲内で重なり合えば故意を認めるという見解を前提に、「頭部には命中せずにVの下腿部に当たって受傷させ,搬送先の病院で死亡させた場合,殺人罪の成立は否定される」という結論にはなりません。狙ったVが死亡しており、死亡に至る経過が食い違っただけだからです。

因果関係の錯誤では、法定的符合説からも具体的符合説からも結論に差が出ません

法定的符合説と具体的符合説は、結果が生じた客体が狙った客体と違う場合に、故意を認めるかどうかで対立する見解です。因果関係の錯誤では、狙った「その人」に結果が生じているので、具体的符合説からも客体の点での一致は満たされています。「侵害が生じた客体に錯誤はないが,侵害に至る因果関係に錯誤がある場合の故意の有無について,A説かB説かによる差はない」という記述は、両説からの帰結として正しいです。「Xを焼死させようと思い,Xの全身に灯油をかけて火をつけたところ,Xが熱さに耐えかね,火を消そうとして近くの湖に飛び込んで溺死した」という事例でも、「A,Bいずれの見解でも,甲に殺人既遂罪が成立する」という結論になります。火をつけられた人が火を消そうとして水に飛び込むことは異常な経過ではなく、行為と死亡との間に因果関係が認められるからです。

殺したと誤信して死体を捨てるつもりでした行為により死亡させた場合を、遅すぎた構成要件の実現といいます

行為者が第1行為で結果を発生させたと誤信し、その後の第2行為によってはじめて結果が発生した場合を、遅すぎた構成要件の実現といいます。大判大正12年4月30日は、殺意をもって被害者の首を麻縄で絞め、死亡したものと誤信して海岸の砂上に運んで放置したところ、被害者が砂末を吸引して死亡した事案を扱いました。大審院は、殺害の目的でした行為がなければ砂上に放置する行為もなかったのであるから、社会生活上の普通観念に照らして、殺害の目的でした行為と死亡との間に因果関係が認められるとしました。そして、死亡したと誤認して死体遺棄の目的でした行為は因果関係を遮断しないとして、殺人未遂罪と過失致死罪ではなく殺人罪の成立を認めました。「Aが死亡したものと誤信し、犯行の発覚を防ぐ目的で、Aを砂浜に運んで放置し、その結果、Aが砂を吸引して窒息死した。この場合、甲には、殺人罪が成立する」という肢は正しいです。「乙が気絶したのを見て既に窒息死したものと誤信し,乙を海に投げ込んだところ,乙は海中で溺死した。この場合,甲には殺人罪が成立する」という肢も正しいです。殺害した者が犯行の発覚を防ぐために被害者を運んで捨てることは通常あり得る経過なので、第1行為と死亡との間の因果関係が認められ、経過の食い違いは故意を阻却しないからです。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、弁護人席に男性(札「弁護人」)が立つ。法壇の前の掲示板に横長の時系列図があり、左から「第1行為:殺意をもって首を絞める」「死亡したと誤信」「第2行為:砂浜に運んで放置」「砂を吸引して死

第1行為と第2行為を分けて考える見解は、殺人未遂罪と過失致死罪にとどめます

遅すぎた構成要件の実現については、見解が分かれます。第1行為と死亡との因果関係を認め、因果関係の錯誤は故意を阻却しないとして殺人既遂罪を認めるのが、判例の結論と一致する見解です。これに対して、第1行為と第2行為を別個の行為として分け、第1行為について殺人未遂罪、第2行為について過失致死罪を認めるにとどめる見解もあります。この見解は、第2行為の時点では殺人の故意がないことを重視しますが、大判大正12年4月30日はこの処理をとりませんでした。なお、これとは逆に、第2行為で結果を発生させるつもりだったのに第1行為で結果が発生してしまった場合は、早すぎた構成要件の実現として別に扱われます。

刑法38条1項

罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

論文ではこう使う

論文では、行為者が第1行為で殺害したと誤信し、第2行為で実際に死亡させた事例で書きます。第1行為と第2行為を分けて検討し、第1行為については因果関係、因果関係の錯誤の順に論じます。まず、第1行為と死亡結果との間の因果関係を検討します。第2行為という行為者自身の行為が介在していますが、殺害した者が犯跡を隠すために被害者を運んで遺棄することは第1行為から誘発された経過であるから、第1行為の危険が結果に現実化したといえると書きます。次に、行為者は第1行為で死亡させたと認識しており、現実の因果経過と食い違うので、故意が阻却されるかを論じます。認識した因果経過と現実の因果経過が、いずれも構成要件の範囲内で符合している以上、故意は阻却されないと結論づけます。第2行為については、客体が生きていたので死体遺棄罪は成立しないことを確認します。

試験ではこう問われる

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