死体損壊・遺棄罪とは
したいそんかいいきざい
死体損壊・遺棄罪とは、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得する罪をいいます。遺棄とは、習俗上の埋葬と認められない方法で死体を放棄することをいいます。
人が亡くなると、家族や周りの人は、葬儀をして火葬や埋葬をし、手を合わせて見送ります。亡くなった人をていねいに葬ることは、多くの人が大切にしている気持ちです。遺体を山に捨てたり、床下に隠したり、傷つけたりする行為は、亡くなった本人をさらに害するものではありませんが、この気持ちを深く傷つけます。そこで刑法は、死体や遺骨を損壊し、遺棄し、領得する行為を処罰しています。殺人のような生命に対する罪とは守っているものが違うので、殺人罪とは別の罪として成立します。
死体損壊等罪は、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得する罪で、死者に対する国民の宗教的感情を守っています
190条は、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者を3年以下の拘禁刑に処します。保護法益は、死者に対する敬虔の感情、国民の宗教的感情です。個人の生命や身体を守る罪ではないので、殺人罪や遺棄罪(217条以下)とは罪質が異なります。損壊とは、死体を切断するなど物理的に壊すことをいい、領得とは、死体や遺骨などの占有を取得することをいいます。墳墓を発掘したうえで死体などを損壊・遺棄・領得した場合は、191条でより重く処罰されます。
- 礼拝所不敬罪(188条1項)神祠、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をする。6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
- 説教等妨害罪(188条2項)説教、礼拝又は葬式を妨害する。1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
- 墳墓発掘罪(189条)墳墓を発掘する。2年以下の拘禁刑
- 死体損壊等罪(190条)死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊・遺棄・領得する。3年以下の拘禁刑
- 墳墓発掘死体損壊等罪(191条)墳墓を発掘して、死体などを損壊・遺棄・領得する。3月以上5年以下の拘禁刑
- 変死者密葬罪(192条)検視を経ないで変死者を葬る。10万円以下の罰金又は科料
遺棄とは、習俗上の埋葬と認められない方法で死体を放棄することをいい、死体を運んで隠す行為がこれに当たります
遺棄の典型は、死体を別の場所に運んで山林に埋めたり、床下や庭に埋めたりする作為です。その社会で埋葬と認められている方法によらない点が遺棄の中身ですから、土に埋めたとしても、発見されないように隠す目的で埋めたのであれば遺棄になります。死体を包んで室内に置き続けるなどの隠匿行為も遺棄に含まれます。大阪地判平成25年3月22日は、死体遺棄とは社会的に認められている埋葬の方法によらないで死体を放棄することであり、隠匿行為も含まれるとしたうえで、死体をタオルに包んでバッグに入れ、室内に放置した行為は作為による死体遺棄に当たるとしました。この判決は、作為による遺棄と不作為による遺棄の両方が認められる場合には、作為犯を端的に認定すればよいとしています。
死体を現場に放置しただけの場合は、その死体について葬祭をする義務のある者に限って、不作為による死体遺棄罪が成立します
遺棄には不作為によるものも含まれます。「不作為犯は,死体遺棄罪についても成立する余地がある」という肢は正しいです。もっとも、不作為が遺棄に当たるのは、その死体を葬る法律上の義務がある者が、死体を放置した場合に限られます(大判大正6年11月24日)。葬祭をする義務は、死者の親族であることなどから生じるもので、人を殺した犯人であるというだけでは生じません。そのため、殺人の犯人が、死体を動かさずに現場に残して立ち去っただけでは、死体遺棄罪は成立しません。面識のない他人を殺害して「Vの死体をその場に放置して逃走した。この場合,甲には葬祭義務はなく,死体遺棄罪は成立しない」という肢は正しいです。「甲がAを殺した犯人である以上、甲に不作為による死体遺棄罪が成立する」という肢は誤りです。これに対し、犯人が死体を現場から運び出して山中に捨てたり埋めたりすれば、作為による遺棄ですから、葬祭をする義務の有無にかかわらず死体遺棄罪が成立します。
生きている人を死体だと思って遺棄しても、死体遺棄罪は成立しません
死体遺棄罪の客体は死体です。瀕死の重傷を負って倒れている人を、すでに死亡していると思って山中に運んで置き去りにした場合、客観的には生きている人を遺棄しているので、死体を遺棄したことにはなりません。行為者の認識していた罪(死体遺棄罪)と実際に生じた事実(生きている人の遺棄)が食い違う場合、両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で故意犯が成立しますが、死体遺棄罪の保護法益は国民の宗教的感情、遺棄罪の保護法益は生命・身体の安全であって、両罪に重なり合いはありません。「既に死亡していると思って山中に遺棄した。この場合,甲に死体遺棄罪は成立しない」という肢は正しいです。構成要件の重なり合う限度で故意犯の成立を認める見解からも、この事例で死体遺棄罪の成立を肯定することはできないという結論になります。
殺人罪と死体遺棄罪は、牽連犯ではなく併合罪になります
人を殺した後にその死体を遺棄した場合、殺人罪と死体遺棄罪の両方が成立します。牽連犯になるのは、罪の性質上、一方が他方の手段又は結果となるのが通常である場合です。死体を遺棄する行為は、殺人に常に伴うものではなく、殺人の通常の結果でもありません。そこで判例は、両罪を併合罪としています(大判明治44年7月6日)。「この場合、甲に殺人罪及び死体遺棄罪が成立し、これらは牽連犯となる」という肢、「甲には,殺人罪及び死体遺棄罪が成立し,両罪は牽連犯となる」という肢は、いずれも誤りです。強盗殺人の後に死体を遺棄した場合も同じで、死体遺棄罪は強盗殺人罪に吸収されず、併合罪になります。自宅内で人を殺害して現金を強取した後、死体を自宅の床下に埋めた事例について、「甲には,強盗殺人罪及び死体遺棄罪が成立し,これらは併合罪となる」という肢は正しいです。
刑法190条
死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の拘禁刑に処する。
論文ではこう使う
論文では、殺人や傷害致死の後に犯人が死体を処分した事例で、罪責の最後に検討します。まず、犯人が死体を運んだ、埋めた、隠したといった作為があるかを事実から拾い、あれば作為による遺棄として死体遺棄罪を認定します。死体を現場に残して立ち去っただけの場合は、不作為による遺棄が問題になるので、犯人がその死体について葬祭をする義務を負う立場(死者の親族など)にあるかを検討し、義務がなければ死体遺棄罪は成立しないと結論づけます。死体遺棄罪が成立する場合は、殺人罪などとの罪数を併合罪として処理します。被害者がまだ生きているのに死亡したと誤信して遺棄した事例では、死体遺棄罪は成立しないことを示したうえで、因果関係や錯誤の問題として殺人罪などの成否を検討します。
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