公務執行妨害罪の暴行・脅迫(間接暴行)とは
こうむしっこうぼうがいざいのぼうこうきょうはく
暴行とは、公務執行妨害罪(刑法95条1項)では、公務員に向けられた不法な有形力の行使をいい、公務員の身体に直接加えられるものに限られません。公務員の眼前で物を壊す行為や、公務員の補助者に加える行為のように、間接に公務員に向けられる間接暴行を含みます。
警察官本人を殴らなくても、差し押さえたばかりの証拠品を目の前で踏みつぶしたり、手伝っている作業員を脅したりすれば、公務は止まってしまいます。公務執行妨害罪は公務員の身体ではなく公務の円滑な執行を守る罪なので、暴行は公務員の身体に直接当たる必要がなく、公務員に向けられた有形力の行使であれば足ります。物や補助者を通じて公務員に向けられる暴行を間接暴行といいます。
公務執行妨害罪の暴行は、公務員に向けられた不法な有形力の行使であれば足ります
暴行罪(208条)の暴行は人の身体に対する有形力の行使ですが、公務執行妨害罪(95条1項)の暴行はそれより広く、判例は「公務員の身体に対し直接であると間接であるとを問わず不法な攻撃を加えること」としています(最判昭和37年1月23日)。脅迫も、人を畏怖させるに足りる害悪の告知であれば足ります。警ら中の警察官が乗っているパトロールカーに石を投げ付けてフロントガラスにひびを入れた事例について、「甲には,器物損壊罪が成立するが,公務執行妨害罪は成立しない」という肢は誤りです。乗っている警察官に対する間接的な攻撃に当たるからです。また、市役所の職員に罵声を浴びせながら、丸めたパンフレットを顔面付近に突き付け、職員が座っている椅子の前脚を持ち上げては落として身体を揺さぶった事例について、「暴行」に当たらないので公務執行妨害罪は成立しないとする肢は誤りです。判例は、一方的に抗議する過程でされたものであることも考慮して、公務執行妨害罪にいう暴行に当たるとしています(最判平成元年3月9日)。
差し押さえた物を公務員の眼前で壊す行為や、補助者への暴行・脅迫も、公務員に向けられたものといえます
判例は、公務員の職務の執行に当たりその執行を妨害するに足りる暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであるかどうかは問わないとして、警察官が差し押さえた覚醒剤入りのアンプルを眼前で踏み付けて壊した行為に公務執行妨害罪を認めました(最決昭和34年8月27日)。捜索差押許可状に基づく捜索で注射器を差し押さえられた際に、警察官の眼前で足で踏み付けて壊した事例では、公務執行妨害罪が成立します。「Aの身体に対して暴行を加えていないから、甲に公務執行妨害罪は成立しない」という肢は誤りです。補助者についても、判例は、暴行・脅迫は必ずしも直接に当該公務員の身体に対して加えられる場合に限らず、公務員の指揮に従いその手足となって職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してされた場合も含むとしています(最判昭和41年3月24日)。執行官の補助者である民間人の頭部を棒で殴った事例では公務執行妨害罪が成立します。税務調査を補助していた民間人に「殺すぞ。」と申し向けて調査を一時中断させた事例について、「甲は乙を直接脅迫したものではないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない」という肢は誤りです。
公務員に向けられていない有形力の行使や偽計は、暴行に当たりません
間接暴行といえるには、有形力が公務員に向けられていることが必要です。警察官が捜索に来たものの、玄関ドアの鍵が開けられる前に、居室内の覚醒剤入りの注射器を踏み付けて壊した事例について、「暴行」に当たらないので公務執行妨害罪は成立しないとする肢は正しいです。警察官はまだ室内におらず、注射器は差し押さえられてもいないので、公務員に向けられた有形力の行使とはいえません。職務質問を受けている者の手をつかんで引っ張り一緒に逃走したところ、追い掛けた警察官が自分でバランスを崩して転倒した事例について、「甲の丙に対する行為は乙に対する暴行とはいえないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない」という肢は正しいです。パトカーの発進の障害となる位置に自動車を駐車させた行為も、公務員に向けられた有形力の行使ではなく、公務執行妨害罪は成立しません。道を尋ねるふりをして警察官の注意をそらし、その隙に逃走させた行為は偽計であって、暴行にも脅迫にも当たりませんから、やはり公務執行妨害罪は成立しません。
職務の執行が現実に妨害されなくても、暴行・脅迫を加えた時点で成立します
公務執行妨害罪は抽象的危険犯です。判例は、公務員が職務を執行するに当たりこれに対して暴行又は脅迫を加えたときは直ちに成立し、現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とせず、妨害となるべきものであれば足りるとしています(最判昭和33年9月30日)。職務質問中の警察官に石を投げて臀部に命中させたが職務質問が中断しなかった事例について、「現実に乙の職務の執行を妨害するに至っていないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない」という肢は誤りです。所持品検査中の警察官の背部を蹴った事例について、「現実にAの職務の執行を妨害する結果が発生していないから、甲に公務執行妨害罪は成立しない」という肢も誤りです。投げた石が警察官の頭部付近をかすめただけで命中しなかった事例でも、公務執行妨害罪が成立します。逮捕状を示されて、「逮捕を免れるため,乙に暴行を加えて抵抗したものの,結局,その場で,前記逮捕状により逮捕された。甲には公務執行妨害罪が成立する」という肢は正しいです。
傷害罪や事後強盗罪が成立するときは、公務執行妨害罪と観念的競合になります
公務執行妨害罪の手段である暴行・脅迫そのものは、別に暴行罪・脅迫罪を構成せず、公務執行妨害罪に吸収されます。これに対し、傷害罪や強盗罪など暴行・脅迫を超える罪が成立する場合は、保護法益が異なるので吸収されず、一個の行為が数個の罪名に触れるものとして観念的競合になります。「甲に乙に対する公務執行妨害罪が成立する場合,同罪と傷害罪は観念的競合となる」という肢は正しいです。窃盗犯人が逮捕を免れるために警察官に暴行を加えた場合について、判例は事後強盗の罪と公務執行妨害罪の双方が成立し観念的競合になるとしています(最判昭和23年5月22日)。したがって、「公務執行妨害罪は,事後強盗致傷罪に吸収される」という肢、「甲には事後強盗罪が成立し,これに公務執行妨害罪は吸収されるから,同罪は成立しない」という肢、「甲には事後強盗罪のみが成立し,公務執行妨害罪は成立しない」という肢、「甲に事後強盗罪が成立するから、公務執行妨害罪は成立しない」という肢は、いずれも誤りです。
刑法95条1項
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
論文ではこう使う
論文では、公務員本人ではなく物や補助者に有形力が向けられた事例と、他の罪との罪数処理で使います。まず、公務執行妨害罪の保護法益が公務の円滑な執行にあることから、暴行は公務員に向けられた不法な有形力の行使であれば足り、直接公務員の身体に加えられる必要はないと示します。そのうえで、物を壊した場面が公務員の眼前か、壊された物が公務員の管理下にあったか、補助者が公務員の指揮の下で職務の執行に密接不可分に関与していたかを事実から拾い、公務員に向けられたといえるかを当てはめます。妨害の結果が生じていなくても成立することは一言で足ります。最後に、傷害罪や事後強盗罪が成立する場合は、公務執行妨害罪との観念的競合として罪数を処理します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。