偽計と威力の区別・妨害の意義とは
ぎけいといりょくのくべつぼうがいのいぎ
偽計とは、人を欺き、又は人の錯誤や不知を利用することをいい、威力とは、人の意思を制圧するに足りる勢力をいいます。偽計を用いて業務を妨害すれば偽計業務妨害罪(233条後段)、威力を用いて業務を妨害すれば威力業務妨害罪(234条)が成立します。
店の前で怒鳴り続けて客を追い払うのと、うその注文の電話をかけて大量の料理を作らせるのとでは、やり方が違います。前者は相手に分かる形で力を示して営業をできなくするもので、後者は相手に気付かれないように欺いて無駄な仕事をさせるものです。刑法は、前者の手段を威力、後者の手段を偽計と呼び、どちらによる業務の妨害も同じ重さで処罰しています。
威力は人の意思を制圧するに足りる勢力で、暴行・脅迫に限られず、現実に意思が制圧されたことも要りません
判例は、威力を、犯人の威勢、人数及び四囲の状勢からみて、被害者の自由意思を制圧するに足りる犯人側の勢力をいうとしています(最判昭和28年1月30日)。威力は「客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力であればよく、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要しない」という肢は正しいです。威力は暴行や脅迫に限られず、騒音や喧騒も含まれます。威力は「暴行又は脅迫を用いることを要し,騒音喧騒により人の意思を制圧して業務を妨害した場合,同罪は成立しない」という肢は誤りです。判例は、卒業式の開式直前に、保護者らに大声で呼び掛け、制止した教頭らに怒号するなどして式典会場を喧騒状態に陥れた行為について、威力業務妨害罪の成立を認めています(最判平成23年7月7日)。「これを制止しようとした教頭に怒号するなどして同会場を喧騒状態に陥れた。この場合、甲に威力業務妨害罪が成立する」という肢は正しいです。インターネット上の掲示板に講演会の会場に放火するという趣旨の書き込みをして主催者に閲覧させ、「当該講演会を中止させた場合,威力業務妨害罪が成立する」という肢も正しいです。害を加えるという告知によって主催者の意思を制圧しているからです。
威力は、現に業務に従事している人に直接向けられる必要がありません
判例は、威力を用いたといえるためには、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしもそれが直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しないとしています(最判昭和32年2月21日)。「このような勢力が業務に従事している人に対して直接行使されることを要する」という肢は誤りです。「威力が直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要する」という肢も誤りです。判例は、被害者が執務の際に目にすることが予想される机の引き出しなどに猫の死骸を入れておき、被害者に発見させて畏怖させるに足りる状態に置いた行為について、被害者の行為を利用する形でその意思を制圧するような勢力を用いたものであるとして、威力を用いた場合に当たるとしました(最決平成4年11月27日)。被害者の机の引き出しに猫の死骸をひそかに入れた事例で、「後に被害者がこれを発見するに至ったとしても、威力業務妨害罪は成立しない」という肢は誤りです。「同人の事務机の引き出し内に犬の死がいを入れておいて同人にこれを発見させ,畏怖させた行為」は威力業務妨害罪には当たらないとする肢も誤りです。
偽計は人を欺き、又は人の錯誤や不知を利用することをいい、直接人に向けられていなくてもかまいません
偽計には、人を欺く場合のほか、人が気付かないことを利用する場合が広く含まれます。偽計は「直接人に向けられていなくてもよい」という肢は正しいです。判例は、電話の通話料金を計算する度数計器の作動を不能にする機器を電話回線に取り付けた行為について、偽計業務妨害罪の成立を認めています(最決昭和59年4月27日)。「電話料金の支払を免れるための機器を電話回線に取り付けて課金装置の作動を不能にする行為は、これに該当しない」という肢は誤りです。うその注文も偽計に当たります。受け取る意思も代金を支払う意思もないのに偽名で弁当100個を注文し、「同弁当屋の店員に弁当100個を作らせ,配達に赴かせた場合,偽計業務妨害罪が成立する」という肢は正しいです(大阪高判昭和39年10月5日)。知人に成り済ましてピザ50枚を注文し、「同店店員にピザ50枚を作らせ,配達させた場合,偽計業務妨害罪が成立する」という肢も正しいです。判例は、現金自動預払機の利用客の暗証番号を盗撮する目的で、一般の利用客を装って隣の現金自動預払機を占拠し続けた行為についても、偽計業務妨害罪の成立を認めています(最決平成19年7月2日)。「一般客を装い,もう1台の現金自動預払機を2時間占拠した場合,偽計業務妨害罪が成立する」という肢は正しいです。「もう一方の現金自動預払機を2時間にわたり占拠した。この場合、甲に偽計業務妨害罪が成立する」という肢も正しいです。
妨害の手段が相手に分かる形で示されれば威力、気付かれない形で行われれば偽計に振り分けられます
威力は人の意思を制圧する手段なので、妨害の手段や結果が相手に分かる形で示される場合に認められます。偽計は、相手が気付かないことや誤信していることを利用する場合に認められます。判例は、弁護士が携行していた、訴訟記録などが入ったかばんを奪い取って隠匿した行為について、威力業務妨害罪の成立を認めました(最決昭和59年3月23日)。目の前でかばんを力ずくで奪う行為は、被害者の意思を制圧するに足りる勢力を用いたものだからです。「かばんを奪い取って自宅に隠匿した。この場合、甲に偽計業務妨害罪が成立する」という肢は誤りです。「かばんを奪い取った上,自宅に保管した場合,偽計業務妨害罪が成立する」という肢も誤りです。どちらの事例でも、成立するのは威力業務妨害罪です。猫の死骸の事例は、入れるときはひそかに行われていますが、被害者が発見して畏怖することを利用しているので、威力に当たります。
- 威力に当たるとされた例卒業式の会場で怒号して喧騒状態に陥れる。机の引き出しに猫の死骸を入れて発見させる。弁護士のかばんを奪い取って隠匿する。講演会の会場に放火すると書き込んで主催者に閲覧させる
- 偽計に当たるとされた例うその注文の電話で商品を作らせ配達させる。度数計器の作動を不能にする機器を電話回線に取り付ける。一般の利用客を装って現金自動預払機を占拠する
妨害は、業務を妨害するに足りる行為があれば足り、現実に妨害の結果が発生したことは要りません
判例は、業務の妨害とは、現に業務妨害の結果が発生したことを必要とせず、業務を妨害するに足りる行為があれば足りるとしています(最判昭和28年1月30日)。妨害とは「現に業務妨害の結果が発生したことを必要とせず,業務を妨害するに足りる行為があることをもって足りる」という肢は正しいです。「現実に執行中の業務の執行を妨害した結果が発生したことを要し,被害者に業務を中止させあるいは不能にさせたことが必要である」という肢は誤りです。信用毀損罪についても、信用が現実に低下したことは要らないと解されています。
電子計算機損壊等業務妨害罪は、電子計算機に動作の阻害を生じさせて業務を妨害する罪です
234条の2は、電子計算機に向けられた加害行為によって業務を妨害する行為を、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金という重い刑で処罰しています。加害行為は、電子計算機や電磁的記録を損壊すること、電子計算機に虚偽の情報や不正な指令を与えること、その他の方法の三つです。加害行為が、損壊することと「人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え」ることに限られるとする肢は誤りです。条文は「その他の方法」も挙げているからです。この罪が成立するには、加害行為によって、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせることが必要です。不正な指令を入力した場合に、「当該電子計算機の動作に影響を及ぼしていなくても、電子計算機損壊等業務妨害罪の既遂犯が成立し得る」という肢は誤りです。動作の阻害が生じていなければ既遂にはならず、未遂罪(234条の2第2項)が成立するにとどまります。
刑法233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法234条
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
刑法234条の2第1項
人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
論文ではこう使う
論文では、業務を妨害した手段が偽計か威力かを振り分けます。妨害の手段が相手に分かる形で示され、相手の意思を制圧するものであれば威力とし、相手に気付かれない形で行われ、錯誤や不知を利用するものであれば偽計とします。威力については、人の意思を制圧するに足りる勢力という定義を示し、暴行や脅迫に至らない行為でも足りること、現実に意思が制圧されたことは要らないことを当てはめで使います。妨害の結果については、業務を妨害するに足りる行為があれば足りるので、実際に業務が止まったかどうかに字数をかける必要はありません。財物を奪う行為や住居に立ち入る行為が同時にあるときは、窃盗罪や建造物侵入罪との関係も検討します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。