名誉毀損罪の保護法益と客体(法人・死者)とは
めいよきそんざいのほごほうえきときゃくたい
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する罪です(230条1項)。保護法益は、人に対する社会的評価である外部的名誉です。
「あの人は会社の金を使い込んだ」と大勢の前で言いふらされると、それが本当でもうそでも、周りの人がその人を見る目は変わってしまいます。刑法は、人が社会から受けている評価を守るために、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損する行為を名誉毀損罪として処罰しています。守られているのは本人の気持ちではなく社会的評価なので、法人も被害者になります。
保護法益は人に対する社会的評価である外部的名誉で、摘示した事実が真実でも公知でも成立します
名誉には、人の真価である内部的名誉、社会的評価である外部的名誉、本人の自尊感情である名誉感情の三つがあるといわれます。判例は、名誉毀損罪の保護法益を外部的名誉としています(大判大正15年7月5日)。230条1項は「その事実の有無にかかわらず」と定めているので、摘示した事実が真実であっても名誉毀損罪は成立します。「摘示された事実が真実である場合には,人の社会的評価が低下したとはいえないから,名誉毀損罪が成立する余地はない」という肢は誤りです。「摘示した事実が真実であった場合、名誉毀損罪が成立することはない」という肢も誤りです。真実の摘示が罰せられなくなるのは、230条の2の要件を満たした場合に限られます。また、摘示される事実は公知のものでもかまいません(大判大正5年12月13日)。「公知の事実を摘示した場合には,名誉毀損罪は成立しない」という肢は誤りです。すでに知られている事実でも、改めて摘示されれば社会的評価がさらに害されるおそれがあるからです。
230条1項の「人」には法人が含まれ、被害者は特定されていなければなりません
外部的名誉は法人その他の団体にも認められるので、230条1項の「人」には法人も含まれます(大判大正15年3月24日)。「自然人に限られるから,法人の名誉を毀損した場合には,名誉毀損罪は成立しない」という肢は誤りです。「法人等の団体は名誉感情を持ち得ないから,法人等の団体に対する名誉毀損罪が成立する余地はない」という肢も誤りです。保護法益は名誉感情ではなく外部的名誉なので、名誉感情を持たないことは理由になりません。「法人の名誉を毀損した場合、名誉毀損罪が成立することはない」という肢も誤りです。他方、被害者は特定の人又は団体でなければなりません。数百人が出席している講演会で、誰のことを言っているかは分からないようにしつつ「X県人は頭が悪い。」と述べた事例で、「甲には名誉毀損罪が成立する」という肢は誤りです。「X県人」という漠然とした集団の表示では、特定の人の社会的評価が害されるとはいえないからです。
死者の名誉は、虚偽の事実を摘示した場合に限って保護されます
230条2項は、死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ罰しないと定めています。亡くなった人について真実を語ることまで処罰すると、歴史の研究や人物の評価ができなくなるからです。「死者の名誉を毀損したとしても,虚偽の事実を摘示した場合でなければ処罰されないから,摘示した事実が真実である場合には,名誉毀損罪として処罰されない」という肢は正しいです。「死者の名誉を毀損する事実が摘示された場合も,その事実の真偽にかかわらず,名誉毀損罪が成立し得る」という肢は誤りです。死亡事故を起こした前科のあるAが死亡した後に、インターネットの掲示板に「Aは、事故を起こして人を死なせた前科がある。」と書き込んだ事例で、「乙が摘示した事実が真実であったとしても、乙に名誉毀損罪が成立する」という肢は誤りです。Aはすでに死亡しており、摘示した事実が真実であれば230条2項により処罰されないからです。
社会的評価を害するに足りる事実を公然と摘示すれば既遂になり、現実に評価が低下したことは要りません
条文は「名誉を毀損した」と定めていますが、判例は、社会的評価を害するおそれのある状態を生じさせれば足りるとしています(大判昭和13年2月28日)。社会的評価が現実に下がったかどうかは認定が難しいので、名誉毀損罪は抽象的危険犯と解されています。「現実に人の名誉が侵害されていない場合には,名誉毀損罪は成立しない」という肢は誤りです。「その人の名誉が現実に侵害されなかった場合には,人の名誉を毀損したとはいえないから,名誉毀損罪が成立する余地はない」という肢も誤りです。「その人の社会的評価が現実に害されていない場合」に名誉毀損罪は成立しないとする肢も、「現実に社会的評価が低下したことを要する」という肢も誤りです。摘示する事実は、人の社会的評価を害するに足りる具体的なものでなければなりません。具体的な事実を示さずに軽蔑の評価だけを表した場合は、侮辱罪の問題になります。
弁護活動や被告人の防御としてした摘示でも、当然に違法性が阻却されるわけではありません
弁護人が被告人の利益を擁護するためにした正当な弁護活動は、名誉毀損罪の構成要件に当たっても35条により罰せられません。もっとも判例は、弁護活動のために行われたというだけでは足りず、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮して、法秩序全体の見地から許容されるものと認められなければならないとしています(最決昭和51年3月23日)。この判例は、弁護人が、真犯人は被告人以外の特定の人物であると公表した行為について、名誉毀損罪の成立を認めました。殺人被告事件の弁護人が記者会見で、真犯人は被告人の兄である旨を発表した事例で、「弁護活動の一環として行ったものであるから,正当な業務行為として違法性が阻却され,名誉毀損罪は成立し得ない」という肢は誤りです。弁護人の弁護活動であれば「違法性が阻却されるため,名誉毀損罪が成立することはない」という肢も誤りです。被告人自身の防御についても同じです。判例は、告訴が人違いであったと気付きながら、公判廷で公然と虚偽の事実を摘示して被告訴人の名誉を毀損した行為について、防御権の濫用であるとして名誉毀損罪の成立を認めています(最判昭和27年3月7日)。「被告人としての防御権の行使に当たるから、名誉毀損罪が成立することはない」という肢は誤りです。
刑法230条1項
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法230条2項
死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
論文ではこう使う
論文では、名誉毀損罪の成否を、公然性、事実の摘示、人の名誉の毀損の順に検討します。保護法益が外部的名誉であることを最初に示しておくと、法人が被害者になることや、現実に評価が低下したことが要らないことを短く説明できます。摘示した事実が真実であるという事情は構成要件の段階では考慮せず、230条の2の検討に回します。少人数への発言であれば公然性のところで伝播する可能性を論じ、具体的な事実の摘示がなければ侮辱罪を検討します。
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