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用語集 / 刑法 / 真実性の誤信

真実性の誤信とは

しんじつせいのごしん

刑法 名誉・信用・業務に対する罪

真実性の誤信とは、名誉毀損罪に当たる事実を摘示した者が、その事実を真実であると信じていたのに、真実であることの証明ができなかった場合をいいます。判例は、誤信したことについて確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、故意がなく名誉毀損罪は成立しないとしています。

記者が十分に取材をして記事を書いたのに、裁判では証人が見つからず、真実であることを証明できないことがあります。この場合に必ず処罰されるとすると、確かな裏付けがあっても報道をためらうことになります。反対に、真実だと信じてさえいれば処罰されないとすると、うわさを軽々しく信じた人まで罪を免れてしまいます。そこで判例は、確実な資料や根拠に基づく誤信に限って、罪の成立を否定しています。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座っている。証言台の前に男性(札「記者」)が立ち、両手に厚い取材ノートと書類の束(札「確実な資料・根拠」)を抱えている。記者の吹き出し「真実だと信じて書きましたが、証明はできませんでした」。

判例は、確実な資料、根拠に照らし相当の理由がある誤信に限って、故意がなく名誉毀損罪は成立しないとしています

判例は、230条の2の規定を、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和を図ったものと位置づけました。そのうえで、真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないとしました(最大判昭和44年6月25日)。真実であることの証明がない以上は誤信があっても罪責を免れないとしていた、それまでの判例を変更したものです。真実であると信じただけでは足りません。相当の理由があるかどうかは、情報源、裏付けのための取材や調査の内容、資料の確かさから判断されます。うわさや他人の書き込みをそのまま信じた場合には、相当の理由は認められません。

インターネットの個人利用者による表現でも、基準は緩和されません

個人が自分で開設したウェブサイトに、飲食店のフランチャイズを運営する会社を批判する記事を掲載した事案で、インターネットの個人利用者には、より緩やかな基準を当てはめるべきかが争われました。判例は、インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の場合と同様に、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないとしました(最決平成22年3月15日)。より緩やかな要件で名誉毀損罪の成立を否定すべきものとは解されないとしています。インターネット上の情報は不特定多数の人が瞬時に閲覧でき、名誉毀損の被害が深刻になり得るうえ、反論によって名誉が回復される保証もないからです。「インターネットの個人利用者に要求される水準を満たす調査によって摘示した事実が真実か否かを確かめることなく発信したときに限り名誉毀損罪が成立する」という肢は誤りです。インターネット上の書き込みを信じ、特段の調査をすることなく、誰でも閲覧できる掲示板に「ラーメン店Vの経営母体は暴力団Xである。」旨の真実に反する書き込みをした事例で、「甲には名誉毀損罪は成立しない」という肢は誤りです。特段の調査をしていないので、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるとはいえないからです。

自宅の机の場面。男性(札「甲」)がパソコンに向かっている。画面の左半分に他人の書き込み「あの店の経営母体は暴力団らしい」、右半分に甲が打ち込んでいる文「ラーメン店Vの経営母体は暴力団Xである」が見える。甲の小さな吹き出し「書き込みにあったか

230条の2の法的性格についての見解ごとに、誤信の処理が分かれます

230条の2を処罰阻却事由とみる見解からは、真実であることの証明は犯罪の成否と無関係なので、真実であると誤信しても故意は阻却されず、230条の2の中では誤信した者を救うことができません。そこで、この見解に立ったうえで、相当な資料・根拠に基づく言論活動は35条の正当行為として違法性が阻却されると考える立場があります。処罰阻却事由とみる見解に立つことと、相当な資料・根拠に基づく言論活動について35条による違法性阻却の余地を認めることは両立します。この見解によれば真実性の証明に失敗した場合に35条によって違法性が阻却される余地はない、という結論にはなりません。これに対し、230条の2を、表現の内容が証明可能な程度に真実であることを違法性阻却事由として定めたものとみる見解があります。この見解からは、真実であるとの誤信は、違法性阻却事由に当たる事実の錯誤として、故意が阻却されるかどうかの問題になります。もっとも、違法性阻却事由は証明可能な程度に真実であることなので、故意が阻却されるのは、証明可能な程度の資料や根拠に基づいて真実であると誤信した場合に限られます。そのため、この見解から、表現内容を真実であると信じた場合には常に故意がないことになる、という帰結にはなりません。常に故意がないことになり相当でないという批判は、単に事実が真実であることを違法性阻却事由とみる見解に向けられるものです。また、この見解によっても、証明可能な程度に真実であると誤信し、その誤信に確実な資料・根拠に照らし相当の理由がある場合に、違法性が阻却されると考えることにはなりません。客観的には証明可能な程度に真実でない以上、違法性は阻却されず、故意が阻却されるかどうかが問題になるにとどまるからです。

  • 処罰阻却事由とみる見解誤信しても故意は阻却されません。相当な資料・根拠に基づく言論活動について35条による違法性阻却を認める考え方と両立します
  • 違法性阻却事由とみる見解(証明可能な程度に真実であること)証明可能な程度の資料や根拠に基づく誤信に限り、故意が阻却されます。違法性が阻却されるわけではありません
  • 判例誤信に確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、故意がなく名誉毀損罪は成立しません

相当の理由がない誤信では名誉毀損罪が成立し、相当の理由の有無が結論を分けます

誤信したことについて確実な資料、根拠に照らし相当の理由がなければ、名誉毀損罪の故意が認められ、同罪が成立します。確実な資料や根拠なしに真実であると信じた者は、230条の2によって守られる言論に当たる事実を認識していたとはいえないからです。名誉毀損罪には過失犯を処罰する規定がないので、故意が否定されれば処罰されません。そのため、相当の理由があるかどうかが、有罪か無罪かを直接に分けることになります。事例では、情報を提供した人が信頼できる立場にあったか、その話を別の資料で裏付けたか、相手方に確認の取材をしたかという事情が、相当の理由を判断する材料になります。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立ち、板書を指している。黒板には上から下への流れ図があり、一番上に「真実であることの証明がない」、その下で二つに分かれ、左に「確実な資料、根拠に照らし相当の理由がある→故意がなく不成立」、右

刑法230条の2第1項

前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

最大判昭和44年6月25日

行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない

論文ではこう使う

論文では、真実であることの証明に失敗した表現者の罪責が問われます。名誉毀損罪の構成要件該当性を認め、230条の2の事実の公共性と目的の公益性を認定したうえで、真実であることの証明がないことを確認します。次に、230条の2の法的性格について自分の見解を示し、誤信したことについて確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは故意がなく名誉毀損罪は成立しないという判例の規範を立てます。当てはめでは、情報源が誰か、裏付けの取材や調査をしたか、資料が客観的なものかを拾って、相当の理由の有無を判断します。

試験ではこう問われる

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