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用語集 / 刑法 / 正当行為

正当行為(法令行為・正当業務行為・自救行為)とは

せいとうこうい

刑法 違法性阻却

正当行為とは、法令による行為や正当な業務による行為のように、構成要件に該当しても法秩序全体からみて許されるため違法性が阻却される行為です(35条)。法の手続によらずに自ら実力で権利を回復する自救行為は、明文がなく、原則として認められません。

医師が手術で体にメスを入れても、ボクサーが試合で相手を殴っても、傷害罪にはなりません。法律が認めた行為や社会が正当と認めた仕事としての行為は、形のうえで犯罪に当たっても罰しないと刑法35条が定めているからです。ただし、仕事や権利の名目があれば何をしてもよいわけではありません。目的が正当で、手段もその目的に必要で相当な範囲にとどまっているときにだけ、許されます。

スーパーの出入口の場面。先生が買い物客役(札「私人」)で、商品を上着に隠して逃げようとする男性(札「現行犯人」)の腕をつかんで引き止めている。奥から警察官の男性が駆け寄ってくる。出入口の上に店の看板。先生の吹き出し「現行犯人は誰でも逮捕でき

正当行為には、法令による行為と正当な業務による行為、その他の正当行為があります

35条は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定めます。法令による行為とは、法令が直接認めている行為であり、私人による現行犯逮捕や、労働組合の正当な争議行為がその例です。正当な業務による行為とは、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる行為のうち正当なものであり、医師の治療行為、弁護士の弁護活動、報道機関の取材活動がその例です。どちらも、法令や業務に基づくという形式だけで違法性が阻却されるのではありません。判例は、行為の具体的状況その他の事情を考慮に入れて、法秩序全体の見地から許容されるかどうかを判定しています。このほか、条文に明記されていない被害者の同意や自救行為も、35条の周辺で違法性阻却の可否が論じられます。

  • 法令による行為私人による現行犯逮捕(刑事訴訟法213条)、正当な争議行為(労働組合法1条2項)など
  • 正当な業務による行為医師の治療行為、弁護人の弁護活動、報道機関の取材活動など。目的の正当性と手段の相当性が必要
  • 自救行為法の手続によらず自ら実力で権利を回復する行為。明文がなく、原則として認められない

私人による現行犯逮捕の実力行使は、社会通念上必要かつ相当な限度で法令による行為になります

現行犯人は、何人でも逮捕状なくして逮捕することができます(刑事訴訟法213条)。逮捕しようとして犯人から抵抗を受けたときに、どこまで実力を行使できるかが問題になります。最判昭和50年4月3日は、警察官であると私人であるとを問わず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、その実力の行使が刑罰法令に触れることがあっても35条により罰せられないとしました。「社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度内の実力を行使したことで犯人に傷害を負わせたとしても、法令による行為に当たるから、傷害罪が成立することはない」という肢は正しいです。「逮捕のために社会通念上必要かつ相当な範囲で実力を行使し同人に傷害を負わせた場合,法令による行為として違法性が阻却され,傷害罪は成立し得ない」という肢も正しいです。逮捕を認めた法令は、逮捕に必要な実力行使も予定しているからです。

争議行為や防御権の行使であっても、その範囲を逸脱すれば違法性は阻却されません

正当な争議行為には35条が適用されますが、争議行為に際して行われた行為がすべて正当化されるわけではありません。最大判昭和48年4月25日は、争議行為に際して行われた構成要件該当行為について、その行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきものかどうかを判定しなければならないとしました。「勤労者の争議行為に際し、人の看守する建造物に看守者の意思に反して侵入した場合、法令による行為に当たるから、建造物侵入罪が成立することはない」という肢は誤りです。看守者の意思に反する立入りは、争議行為に際して行われたとしても建造物侵入罪が成立し得ます。被告人の防御権も同じです。最判昭和27年3月7日は、人違いで告訴したと気付きながら公判廷で公然と虚偽の事実を摘示して被告訴人の名誉を毀損した行為を、防御権の範囲を逸脱した防御権の濫用であるとしました。「被告人としての防御権の行使に当たるから、名誉毀損罪が成立することはない」という肢は誤りです。

弁護活動や取材活動は、目的との関連性と手段の相当性を欠けば正当な業務による行為になりません

弁護人の行為について、最決昭和51年3月23日は、35条の適用の可否は、法令上の根拠をもつ職務活動であるか、弁護目的の達成との間にどのような関連性をもつかなどの諸点を考慮して判断すべきであるとしました。そして、弁護人が有罪判決後の記者会見で真犯人は別人であると発表した行為は、訴訟外の救援活動に属し、弁護目的との関連性も著しく間接的であるとして、正当な弁護活動の範囲を超えるとしました。「弁護活動の一環として行ったものであるから,正当な業務行為として違法性が阻却され,名誉毀損罪は成立し得ない」という肢は誤りです。取材活動について、最決昭和53年5月31日(外務省秘密電文漏洩事件)は、取材の目的で公務員に秘密の漏示をそそのかしても直ちに違法性が推定されるわけではなく、真に報道の目的から出たもので、手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認される限り、正当な業務行為であるとしました。しかし、取材対象者の人格の尊厳を著しく蹂躙する手段をとった場合は、正当な取材活動の範囲を逸脱します。新聞記者が取材の目的で国家公務員に秘密漏示を唆した場合について、「取材の自由は憲法上保障される表現の自由に由来し,十分尊重されるべきであるから,正当な業務行為として違法性が阻却され,国家公務員法違反の罪(秘密漏示教唆罪)は成立し得ない」という肢は誤りです。取材目的であっても、手段が相当でなければ罪が成立し得るからです。

記者会見場の場面。先生が弁護士役(札「弁護人」)で会見机の前に座り、手元に「判決書」と書いた書類がある。机の前に男性の記者が二人、メモを取っている。会場の後ろの壁に矢印付きの案内板が二つあり、左の案内板に「法廷での弁護活動:弁護目的と直接に

宗教上の行為や商売上の行為も、他人の生命・身体や財産を害する手段までは正当化されません

宗教上の行為について、最大判昭和38年5月15日(加持祈祷事件)は、加持祈祷の行として行われたものであっても、他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当たり、被害者を死亡させた以上、著しく反社会的なものであって、信教の自由の保障の限界を逸脱するとしました。「宗教上の加持祈祷の行として他人の生命、身体に危害を及ぼす有形力を行使し、その結果、その他人を死亡させた場合、正当な業務による行為に当たるから、傷害致死罪が成立することはない」という肢は誤りです。「宗教活動の一環として行ったものであるから,正当な業務行為として違法性が阻却され,傷害致死罪は成立し得ない」という肢も誤りです。商売上の行為についても、大判昭和6年11月26日は、客を装う「さくら」を使って商品の効用が極めて大きいように見せかけて客を欺いた行為は、商人としての業務上正当な行為に属するものとはいえないとして詐欺罪の成立を認めました。「正当な業務による行為に当たるから、詐欺罪が成立することはない」という肢は誤りです。

自救行為は、法の保護を求めるいとまがない場合を除いて認められません

自救行為とは、権利を侵害された者が、法定の手続によらずに自ら実力で権利を回復する行為をいいます。権利があるからといって実力行使を許すと、法秩序が乱れるため、原則として違法性は阻却されません。最判昭和30年11月11日は、借地内に突き出していた隣家の軒先を所有者の承諾なく切り取った事案で、法の保護を求めるいとまがなく、即時にこれを行うのでなければ請求権の実現が不可能または著しく困難になるおそれがある場合には当たらないとして、違法性阻却を否定した原審の判断を正当としました。「その借地内に突き出ている隣の家屋の屋根をその所有者の承諾なく切除した場合,自救行為として違法性が阻却され,建造物損壊罪は成立し得ない」という肢は誤りです。自分の物を取り返す目的での暴行も同じです。「この暴行は正当行為に該当するため,甲がVの胸付近を1回平手で突いた行為の違法性が阻却される余地はなく」という肢は誤りです。置き忘れたバッグを盗まれたと疑って相手を蹴った行為は正当行為に当たらず、蹴られた側が身を守るために突いた行為には正当防衛が成立する余地があります。

住宅地の境界の場面。左に先生の店舗(札「借地人の店舗」)、右に隣家があり、隣家の軒先が境界線を越えて先生の敷地の上に突き出している。先生が借地人役(札「借地人」)でのこぎりを手に持ったまま下ろし、反対の手で道の先を指している。道の先に小さな

刑法35条

法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

論文ではこう使う

論文では、各論の罪の構成要件該当性を認めた後に、違法性阻却事由として35条を検討します。まず、行為が法令による行為か正当な業務による行為のどちらに当たり得るかを特定します。次に、目的の正当性と、手段がその目的の達成に必要で相当な範囲にとどまるかを、事実を拾って当てはめます。現行犯逮捕であれば、犯人の抵抗の程度と行使した実力の程度を対比します。権利者が実力で物を取り返した事案では、自救行為を一般論として認める余地を1文で示したうえで、法の保護を求めるいとまがなかったか、手段が相当であったかを検討します。恐喝罪や窃盗罪の成否とあわせて問われることが多いので、構成要件該当性の議論と違法性阻却の議論を分けて書きます。

試験ではこう問われる

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