防衛行為の相当性(やむを得ずにした行為)とは
ぼうえいこういのそうとうせい
防衛行為の相当性とは、反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであることをいいます。36条1項の「やむを得ずにした行為」は、この相当性を意味します。
指をねじ上げられて、振りほどこうと相手の胸を突いたら、相手が倒れて大けがをしたとします。結果だけ見れば、指の痛みに比べて大けがは重すぎます。しかし、突き飛ばすという反撃そのものは、身を守るためにごく普通の手段でした。正当防衛で見るのは、反撃のやり方が身を守るのに必要な範囲に収まっていたかどうかであって、たまたま生じた結果の大きさではありません。悪いのは先に手を出した側なので、やり返す側に逃げることや被害の釣り合いまでは求めません。
「やむを得ずにした行為」とは、防衛手段として必要最小限度であること、すなわち相当性があることをいいます
最判昭和44年12月4日は、36条1項にいう「やむを得ずにした行為」とは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味するとしました。「というには,反撃行為が権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること,すなわち侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを要する」という肢は正しいです。必要最小限度といっても、実際にとった手段より軽い手段が理論上考えられるというだけで相当性が否定されるわけではありません。侵害の内容と強さに照らして、その反撃が防衛の手段として釣り合いのとれたものであるかを判断します。
反撃の手段が相当であれば、生じた結果が侵害されようとした法益より大きくても正当防衛です
最判昭和44年12月4日は、指をねじ上げられた者が相手の胸を1回突いたところ、相手が倒れて自動車に頭を打ちつけ重い傷害を負った事案です。最高裁は、反撃行為が相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではないとしました。「その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても,その反撃行為が正当防衛でなくなるものではない」という肢は正しいです。「防衛行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えた場合には正当防衛は成立し得ない」という肢は誤りです。「その侵害から予想された被害よりも大きい被害を相手方に与えた場合,正当防衛が成立する余地はない」という肢も、「その侵害から予想された被害よりも大きい被害を相手方に与えた場合、正当防衛が成立することはない」という肢も誤りです。ナイフを胸元に突き付けられて現金を要求され、相手の胸を手で押して逃げた事例についての「乙は転倒して後頭部を路面に打ち付け,全治約1か月間を要する頭部打撲の傷害を負った。この場合,甲には正当防衛は成立しない」という肢も誤りです。手で押すという手段は相当であり、相手が転倒して傷害を負ったという結果の大きさは相当性を左右しません。
素手の相手に刃物を構えても、防御的な行動にとどまる限り相当性は否定されません
相手が素手であれば反撃する側も素手でなければならないという考え方を、武器対等の原則と呼ぶことがあります。しかし、これは形式的に当てはめるものではありません。最判平成元年11月13日は、年齢も若く体力にも優れた相手から、「殴られたいのか」と言って手拳を突き出され、足を蹴り上げる動作をしながら迫られた者が、菜切包丁を腰のあたりに構えて脅した事案です。最高裁は、相手からの危害を避けるための防御的な行動に終始していたとして、防衛手段としての相当性の範囲を超えたものとはいえないとしました。「殺傷能力のある刃物を構えて脅した場合,その脅迫行為については,正当防衛が成立する余地はない」という肢は誤りです。「凶器を持たない相手からの侵害行為に対抗する場合、正当防衛が成立するには、凶器を持たずに対抗する必要がある」という肢も誤りです。用いた凶器の危険性だけでなく、年齢や体格の差、相手の攻撃の態様、凶器の使い方を具体的に見て判断するからです。
正当防衛では、他に方法がないことも、退避することも、法益の権衡も求められません
緊急避難の「やむを得ずにした行為」は、その避難行為をする以外に他に方法がないこと、すなわち補充性を意味します。これに対して正当防衛の「やむを得ずにした行為」は、同じ文言でも補充性を意味しません。正当防衛は不正の侵害に対する反撃であり、正しい側が不正に譲る理由はないからです。逃げることができたのに逃げずに反撃したとしても、それだけで相当性は否定されず、退避する義務はありません。また、緊急避難では生じた害が避けようとした害の程度を超えないことが要件ですが、正当防衛では法益の権衡は要件ではありません。財産を守るために相手の身体に反撃することも、相当性の範囲内であれば正当防衛になります。「やむを得ずにした行為」の意味が正当防衛と緊急避難で同じであるとする記述は、誤りになります。
- 正当防衛(36条1項)「やむを得ずにした行為」=防衛手段としての相当性。補充性は不要。退避義務なし。法益の権衡は要件でない
- 緊急避難(37条1項)「やむを得ずにした行為」=他に方法がないこと(補充性)。生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと(法益の権衡)が必要
相当性を超えた反撃は過剰防衛になり、盗犯等防止法は相当性の要件を緩めています
反撃の手段が必要最小限度を超えた場合は、「防衛の程度を超えた行為」として過剰防衛になり、犯罪は成立しますが、情状により刑を減軽または免除することができます(36条2項)。素手で十分に防げる侵害に対して凶器で重傷を負わせた場合がその例です。なお、盗犯等の防止及び処分に関する法律1条1項は、盗犯を防止しようとする場合や、住居に侵入した者を排斥しようとする場合などに、自己または他人の生命、身体、貞操に対する現在の危険を排除するために犯人を殺傷した行為について、正当防衛の特則を定めています。判例は、この特則についても相当性は必要であるが、36条1項における相当性よりも緩やかなもので足りるとしています。
刑法36条1項
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
最判昭和44年12月4日
急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味する
論文ではこう使う
論文では、急迫不正の侵害と防衛の意思を認定した後に、「やむを得ずにした行為」に当たるかを検討します。まず、防衛手段として必要最小限度であること、すなわち相当性を意味するという定義を示します。次に、侵害する側と防衛する側の人数、年齢、性別、体格、凶器の有無と使い方、侵害の強さと執拗さを問題文から拾い、反撃の態様と対比します。武器の有無だけで形式的に結論を出さず、防衛する側が防御的な行動にとどまっていたか、より軽い手段で確実に防げたかを具体的に検討します。生じた結果が重大であっても、結果の大きさから直ちに相当性を否定しないようにします。相当性を欠く場合は、過剰防衛として36条2項の適用を検討します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。