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用語集 / 刑法 / 違法性の実質

違法性の実質(結果無価値論と行為無価値論)とは

いほうせいのじっしつ

刑法 違法性阻却

違法性の実質とは、構成要件に該当する行為がなぜ法的に許されないと評価されるのかという、違法性の中身のことです。法益の侵害とその危険に求める結果無価値論と、それに加えて行為が社会倫理規範に反することにも求める行為無価値論が対立します。

人にけがをさせても、手術であれば許され、襲われて身を守った場合も許されます。同じ「けがをさせた」という結果なのに、許される場合と許されない場合に分かれます。悪い結果が残ったかどうかで決めるのか、行為のやり方や行為者の意思まで見て決めるのか、この物差しの違いが違法性の実質をめぐる対立です。物差しが違うと、正当防衛に防衛の意思が必要かどうかの答えも変わってきます。

大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑法総論」)で黒板の前に立ち、黒板の左半分に「結果無価値論:法益の侵害とその危険」、右半分に「行為無価値論:行為が社会倫理規範に反すること」と板書してある。左の板書の下に天秤の絵、右の板書の下に行為者の頭

結果無価値論は、法益の侵害とその危険が生じたことを違法性の実質とみます

結果無価値論は、刑法の役割を法益の保護に求め、法益が侵害されたこと、または侵害される危険が生じたことが違法性の中身だと考えます。違法かどうかは客観的に決まり、行為者が何を考えていたかは原則として責任の段階で考慮します。この立場からは、違法性が阻却される理由も、守られた利益が失われた利益を上回るかどうか、すなわち優越的利益の保護から説明するのが一般的です。緊急避難を違法性阻却事由と解する見解は、まさにこの優越的利益の保護という考え方と結びつきますから、「違法性阻却の実質的理由を優越的利益の保護に求める考え方と矛盾する」という批判は、違法性阻却事由説には当てはまりません。主観的な事情を違法性の判断に持ち込まないため、防衛の意思のような主観的正当化要素は不要であるという結論に進みやすくなります。

行為無価値論は、行為が社会倫理規範に反することも違法性の実質に含めます

行為無価値論は、刑法は行為者に「そのような行為をするな」と命じる規範であると考え、行為の態様や行為者の主観が社会倫理規範に反することを違法性の中身に取り込みます。現在の行為無価値論の多くは、結果無価値を無視するのではなく、行為無価値と結果無価値の両方がそろって違法になると考える立場であり、違法二元論と呼ばれます。この立場からは、違法性が阻却される理由は、行為が社会的に相当といえるかどうかから説明されます。行為者の主観が違法性の判断に入りますから、正当防衛が成立するためには、客観的に防衛の効果が生じただけでは足りず、防衛の意思という主観的正当化要素が必要であるという結論に進みます。判例も、正当防衛の成立に防衛の意思を要求しています。

  • 結果無価値論違法性の実質は法益の侵害とその危険。違法性阻却は優越的利益の保護などから説明する。主観的正当化要素は不要とするのが一般的
  • 行為無価値論(違法二元論)違法性の実質は結果無価値と行為無価値の総合。違法性阻却は社会的相当性から説明する。主観的正当化要素を必要とする

偶然防衛では、防衛の意思の要否に応じて既遂・無罪・未遂の三つの結論が並びます

偶然防衛とは、相手が自分を殺そうと拳銃で狙っていることを知らずに、殺意をもって相手を先に射殺したというように、客観的には正当防衛の状況があるのに行為者に防衛の意思がない場合をいいます。防衛の意思が必要であると考えると、正当防衛は成立せず、殺人既遂罪が成立するという結論になります。防衛の意思は不要であると考えると、正当防衛が認められて無罪という結論になります。さらに、どちらの立場からも殺人未遂罪が成立し得るとする見解があります。防衛の意思必要説からの殺人未遂罪説は、違法二元論を前提に、行為無価値は存在するが結果無価値は欠如していることを理由にします。防衛の意思不要説からの殺人未遂罪説は、違法な結果が発生する具体的危険があったことを理由にします。

大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑法総論」)で黒板を指している。黒板には上に「偶然防衛:相手も自分を狙っていたが、それを知らずに先に撃った」と書かれ、その下に三つの枠が横に並ぶ。左の枠「防衛の意思が必要→正当防衛は不成立→殺人既遂罪」、

防衛の意思不要説からの殺人未遂罪説には、批判と反論が対になって問われます

防衛の意思不要説から殺人未遂罪を認める見解に対しては、相手を死亡させたという結果は適法であるのに、その結果を目指した行為だけを未遂として処罰するのでは、「侵害はよいが侵害を試みることは許されない」ことになるという批判があります。これに対してこの見解は、問題にしている危険は当該結果を発生させる危険ではなく、正当防衛の状況がなかった場合のような、別のあり得た違法結果を発生させる危険であると反論します。また、現に相手が死亡しているのに未遂とするのは罪刑法定主義上問題があるという批判に対しては、43条の「これを遂げなかった」を、構成要件に該当する違法な結果が発生しなかったという意味に理解すれば文言上の問題はないと反論します。空欄補充の問題では、この批判と反論の対応がそのまま問われます。

被害者の同意や可罰的違法性の扱いにも、この対立が表れます

被害者の同意がなぜ違法性を阻却するのかについて、結果無価値論は、法益の主体が保護を放棄した以上は守るべき法益がないことから説明し、行為無価値論は、同意に基づく行為が社会的に相当であることから説明します。判例は、保険金を騙し取る目的で被害者の承諾を得て自動車を衝突させ傷害を負わせた事案で、承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決めるとし、違法な目的に利用するために得られた承諾は傷害行為の違法性を阻却しないとしました(最決昭和55年11月13日)。目的の違法を考慮する点で、行為無価値論に親しむ判断といえます。また、違法ではあっても処罰に値する程度に達しているかを問う可罰的違法性という考え方があります。判例は、通話料金の計算を不能にする機器を電話回線に取り付けた事案で、ただ1回通話を試みただけで取り外したという事情があっても行為の違法性は否定されないとしました(最決昭和61年6月24日)。

刑法36条1項

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

刑法43条

犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

論文ではこう使う

論文では、違法性の実質そのものを長く論じることはありません。偶然防衛が問題になる事案では、36条1項の「防衛するため」という文言と、違法性の判断に行為者の主観を含めるかという自分の立場を1文で示し、防衛の意思の要否を決めます。そのうえで、行為者が相手の侵害を認識していなかったという事実を当てはめて、防衛の意思を欠くかどうかを認定します。同意傷害が問題になる事案でも、同意が違法性を阻却する根拠を1文で示してから、同意の動機や目的、傷害の手段と程度を事実に即して検討します。立場の選択で紙幅を使いすぎず、事実の当てはめに力を割きます。

試験ではこう問われる

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