共犯の従属性(実行従属性・要素従属性)とは
きょうはんのじゅうぞくせい
共犯の従属性とは、教唆犯・幇助犯の成立が正犯の行為に依存するという性質のことです。正犯が実行に着手しなければ共犯は成立しないという実行従属性と、正犯の行為が犯罪の成立要件をどこまで備えている必要があるかという要素従属性に分かれます。
演劇の裏方は、舞台で芝居が行われて初めて、その芝居を支えたといえます。芝居が中止になれば、支えるものがありません。教唆犯や幇助犯も、正犯の犯罪があって初めて成り立ちます。そこで、正犯の行為がどの段階まで進み、どこまで犯罪の要件を備えていれば、唆した者や手助けした者を処罰できるのかが問題になります。正犯の行為が適法なら、それを手助けした者も処罰できないのではないか、という問いです。
共犯は、正犯が実行に着手して初めて成立します
教唆犯の条文は「人を教唆して犯罪を実行させた者」、幇助犯の条文は「正犯を幇助した者」と定めており、どちらも正犯の実行を前提にしています。そこで通説・判例は、共犯が成立するには正犯が少なくとも実行に着手したことが必要であるとします。これを実行従属性といい、この立場を共犯従属性説と呼びます。唆したのに相手が実行に出なかった場合は、教唆犯は成立しません。これに対し、教唆行為や幇助行為があればそれだけで共犯の未遂として処罰できるとする共犯独立性説がありますが、条文の文言に合わず、処罰の時期が早くなりすぎるという批判が向けられます。
要素従属性では、正犯の行為が犯罪の要件をどこまで備える必要があるかについて四つの見解が並びます
正犯が実行したとして、その行為が構成要件該当性、違法性、責任のどこまでを備えていれば共犯が成立するのかが、要素従属性の問題です。見解は、要求する要件が少ない順に次のように並びます。現在の通説は制限従属性説です。違法かどうかは行為について関与者全員に共通に決まり、責任があるかどうかは行為者ごとに個別に決まる、という考え方を根拠にしています。
- 最小従属性説正犯の行為が構成要件に該当すれば足ります。正犯の行為が正当防衛で適法になる場合でも、共犯が成立し得ることになります
- 制限従属性説正犯の行為が構成要件に該当し、違法であることを要します。正犯に責任がなくても共犯は成立し得ます
- 極端従属性説正犯の行為が構成要件に該当し、違法で、責任もあることを要します。刑事未成年者を唆しても教唆犯は成立せず、間接正犯の成否を検討することになります
- 誇張従属性説正犯について処罰条件や刑の加重減軽事由まで備わることを要します。正犯の刑が免除される場合は共犯も処罰されないことになります
制限従属性説からは、正犯に責任や処罰の要件が欠けても共犯が成立し、構成要件該当性や違法性が欠ければ成立しません
「共犯が成立するためには,正犯の行為が構成要件に該当し,違法性を具備することを要する」という見解を示して、事例に当てはめさせる問題があります。この見解からは、まず、正犯に欠けているのが責任だけの場合は共犯が成立し得ます。刑事未成年者を唆して窃盗を行わせた場合、正犯の行為は窃盗罪の構成要件に該当し違法ですから、唆した者に窃盗罪の教唆犯が成立し得るという結論になります。「成立し得ない」とする記述は、この見解の帰結ではありません。次に、正犯について犯罪は成立するが刑が免除又は減軽されるにすぎない場合も、共犯は成立し得ます。強盗犯人の妻を唆して犯人を蔵匿させた場合、妻は親族による犯罪に関する特例(105条)で刑を免除され得るだけで、蔵匿行為は構成要件に該当し違法ですから、唆した者に犯人蔵匿罪の教唆犯が成立し得るという結論になります。偽証をした者が裁判の確定前に自白した場合も、刑の減免(170条)が認められるだけですから、唆した者に偽証罪の教唆犯が成立し得るという結論になります。これに対し、正犯の行為が構成要件に該当しない場合は、共犯は成立し得ません。唆された者が居住者の承諾を得て平穏に家屋に立ち入った場合、その立入りは住居侵入罪の「侵入」に当たらないので、この見解からは、唆した者に住居侵入罪の教唆犯は成立し得ないという結論になります。唆された者が私文書を偽造したが行使の目的がなかった場合も、私文書偽造罪の構成要件に該当しないので、教唆犯は成立し得ないという結論になります。正犯の行為が違法でない場合も同じです。緊急避難は違法性を阻却するという見解を採ると、制限従属性説を前提とする限り、緊急避難に当たる行為をした正犯を幇助した者は不可罰になります。緊急避難は責任を阻却するにとどまるという見解を採れば、正犯の行為は違法なので、幇助した者は処罰され得ることになります。
判例は、是非善悪の判断能力のある刑事未成年者に犯罪をさせた者について、共同正犯の成立を認めています
極端従属性説からは、刑事未成年者を利用した場合には共犯が成立しないので、利用者を処罰するには常に間接正犯とするほかありません。しかし、判例はそのような処理をしていません。最決昭和58年9月21日は、12歳の養女に窃盗をさせた者を間接正犯としましたが、その理由は養女が刑事未成年者であることではなく、意思を抑圧されていたことに置かれました。最決平成13年10月25日は、12歳の長男に強盗をさせた母親について、長男が自らの意思で強盗を決意したことを理由に、間接正犯ではなく共同正犯の成立を認めました。責任のない者との間でも共犯関係が成立することを認めたのですから、判例が極端従属性説を採っていないことは明らかです。もっとも、同じ結論は最小従属性説からも導けるので、判例が制限従属性説を採用したとまで断定することはできないとされています。
共同正犯については、違法性阻却事由や責任阻却事由を共同者ごとに判断する見解があります
要素従属性は、もともと教唆犯・幇助犯について論じられてきました。共同正犯については、「違法性阻却事由又は責任阻却事由が一部の共同者に認められても,それは他の共同者には影響しない」とし、教唆犯・幇助犯については制限従属性説と同じ内容を採る見解が出題されています。この見解からは、二人が共同して被害者を殴り傷害を負わせた場合に、一方だけが正当防衛の要件を充たしていても、他方には傷害罪が成立するという結論になります。一方だけが責任能力を欠いていた場合も、他方には傷害罪が成立するという結論になります。教唆した後、正犯が実行の時に責任能力を欠く状況になった場合も、責任阻却事由は教唆者に影響しないので、教唆犯が成立するという結論になります。これに対し、角材を渡して幇助したところ正犯が正当防衛の要件を充たす状況で被害者を殴った場合は、正犯の行為が違法でないので、幇助した者にも正犯にも犯罪が成立しないという結論になります。判例も、共同正犯の一人に過剰防衛が成立するかどうかを共同者ごとに判断しています(最決平成4年6月5日)。
刑法61条1項
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
論文ではこう使う
論文では、正犯に違法性阻却事由や責任阻却事由がある場合に、唆した者や手助けした者の罪責を論じるときに使います。まず、正犯の行為を構成要件該当性、違法性、責任の順に検討し、どの段階で犯罪の成立が否定されるかを確定します。次に、共犯の成立には正犯の行為が構成要件に該当し違法であることを要し、責任は行為者ごとに個別に判断するという制限従属性説を、違法は連帯し責任は個別であるという理由とともに示します。正犯に欠けるのが責任であれば共犯の成立を肯定し、違法性や構成要件該当性であれば否定します。共犯が否定されたときは、利用者が正犯の適法行為や事情を知らない状態を利用したといえないかを検討し、間接正犯の成否に進みます。刑事未成年者を利用した事例では、先に間接正犯と共同正犯を検討します。
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