共犯関係の解消(離脱)と共犯の中止とは
きょうはんかんけいのかいしょう
共犯関係の解消とは、共犯者の一部が犯罪の完成前に共犯関係から離脱し、それまでの自分の関与が及ぼした影響を取り除いたために、離脱後に他の共犯者が生じさせた結果について責任を負わなくなることです。共犯の中止とは、未遂の責任を負う共犯者に中止犯の刑の減免が認められるかという問題です。
文化祭の出し物の準備を途中で抜けても、自分が作った大道具が本番で使われれば、その出し物には自分の仕事が残っています。犯罪でも、計画を立て、道具を渡し、仲間を勢いづけた者は、抜けると言い残して立ち去っただけでは、自分が与えた影響を消せません。共犯は自分の関与が及ぼした結果について責任を負うので、抜けた後の結果について責任を免れるには、その影響を取り除く必要があります。
共犯関係の解消は、離脱した者がそれまでに及ぼした因果性を遮断したかどうかで決まります
共犯は、正犯の行為を通じて、または他の共同者とともに結果を惹起したことを理由に処罰されます。したがって、離脱した後に他の共犯者が生じさせた結果について責任を負うかどうかは、離脱した者のそれまでの関与が、その結果に物理的又は心理的な影響を及ぼし続けていたかどうかで決まります。提供した道具や情報がそのまま使われた、離脱した者の存在が残った者を勢いづけたままだった、という場合には、因果性は遮断されていません。因果性が遮断されたかを判断する目安として、実行の着手の前と後に分けた次の整理が使われます。もっとも、これは目安であって、着手の前か後かで形式的に決まるわけではありません。
- 実行の着手前離脱の意思を表明し、残りの共犯者がこれを了承すれば、原則として解消が認められます
- 着手前でも重要な寄与をした者首謀者や、道具・情報を提供した者、侵入口の確保など犯行の一部が現実になった後に離れる者は、提供した物を回収する、犯行をやめるよう説得するなど、影響を取り除く措置が必要です
- 実行の着手後離脱の意思の表明と了承に加えて、他の共犯者による犯行の継続を防止する措置を講じることが必要です
着手前でも、侵入口が確保された後に一方的に告げて立ち去っただけでは、共犯関係は解消しません
最決平成21年6月30日は、住居に侵入して強盗をする共謀のもと、共犯者の一部が屋内に入って侵入口を確保した後、強盗に着手する前に、見張り役が屋内の共犯者に電話で犯行をやめた方がよい、先に帰ると一方的に伝え、被告人も見張り役らと共に現場を立ち去った事案について判断しました。決定は、被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり、残された共犯者が被告人の離脱を後に知ったとしても、格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく立ち去ったにすぎないから、当初の共謀関係が解消したとはいえないとし、その後の強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めました。被告人は、住居侵入罪のほか強盗致傷罪についても共同正犯の責任を負います。乙が先にV方に入って侵入口を確保した後、甲が電話で一方的に告げて立ち去った事例について、「この場合、甲には、住居侵入罪及び強盗致傷罪の共同正犯が成立する」という肢は正しいです。見張りをしていた甲が電話で告げて逃走した事例について、「乙が強盗行為に着手する前に甲の逃走を認識した以上、甲及び乙に強盗罪の共同正犯は成立しない」という肢は誤りです。残った者が離脱を認識していたことだけでは、共謀の影響は消えないからです。
実行の着手後は、犯行の継続を防止する措置を講じなければ、共犯関係は解消しません
最決平成元年6月26日は、被告人が兄貴分と意思を通じて被害者に長時間暴行を加えた後、「おれ帰る」と述べただけで現場を立ち去り、その後に兄貴分がさらに暴行を加えて被害者が死亡した事案について判断しました。決定は、被告人が帰った時点では兄貴分がなお制裁を加えるおそれが消滅していなかったのに、被告人は格別これを防止する措置を講ずることなく、成り行きに任せて現場を去ったにすぎないから、共犯関係が解消したということはできないとしました。その結果、被害者の死亡が被告人の立ち去った後の暴行によって生じていたとしても、被告人は傷害致死罪の責任を負います。実行に着手した後は、共同の暴行によって犯行が続く危険な状態が既に作られているので、その危険を自分で取り除かなければ因果性は遮断されません。
共犯関係の解消が認められても中止犯になるとは限らず、中止の効果は他の共犯者に及びません
共犯関係の解消は、離脱した後の結果について責任を負うかどうかの問題です。中止犯は、未遂の責任を負う者について、自己の意思により犯罪を中止したことを理由に刑を減軽又は免除するかどうかの問題です。二つは別の問題ですから、「共犯関係からの離脱が認められる場合,離脱者には,常に中止犯が成立する」という肢は誤りです。着手前に離脱した場合はそもそも未遂にならず、着手後に離脱した場合も、自己の意思によるものであったかを別に検討する必要があります。反対に、共犯関係が解消せず、他の共犯者が既遂に達した場合は、中止犯の余地がありません。最判昭和24年12月17日は、強盗の共謀者の一人が犯意を放棄して立ち去った後に他の共謀者が金員を強取した事案で、強取することを阻止せず放任した以上、立ち去った者だけを中止犯として論ずることはできないとしました。甲が被害者に包丁を示して金を要求した後、憐憫の情から立ち去ったが、被害者の反抗抑圧の状態が続いていた事例について、「乙は、その状態を利用してVから現金を強取した。この場合、甲には、中止犯が成立する」という肢は誤りです。甲の脅迫の影響が残ったまま強盗が既遂に達しているからです。また、中止犯による刑の減免は、自己の意思により中止した者だけに認められます。殺害を共謀した甲が憐憫の情から乙を羽交い締めにして犯行を続けさせなかった事例について、「この場合、甲と乙には、いずれも中止犯が成立する」という肢は誤りです。中止犯が成立し得るのは甲だけで、止められて続けられなかった乙は自己の意思により中止したとはいえません。
刑法60条
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
刑法43条ただし書
ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
論文ではこう使う
論文では、途中で抜けた者がその後の結果について責任を負うかを論じるときに使います。まず、共犯は自己の関与と因果性のある結果について責任を負うのだから、離脱によって因果性を遮断したといえれば、その後の結果について責任を負わないと述べます。次に、離脱した者がそれまでに何をしたかを事実から拾います。計画の立案、道具や情報の提供、仲間への指示、既に加えた暴行など、物理的な影響と心理的な影響に分けて整理します。そのうえで、離脱の時点でその影響が残っていたか、離脱した者がそれを取り除く措置をとったかを認定します。離脱の意思を告げただけか、了承を得たか、道具を回収したか、犯行を止めようとしたかを具体的に書きます。解消を否定したときは、その後の行為が当初の共謀に基づくものであることを確認して、全体について共同正犯とします。解消を肯定したときは、離脱までの行為の罪責を確定し、未遂であれば中止犯の成否を別に検討します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。