中止行為(「中止した」の意義)とは
ちゅうしこうい
中止行為とは、43条ただし書の「犯罪を中止した」に当たる行為のことです。実行行為が終わっていない段階では以後の実行を放棄すれば足り、実行行為が終わって結果発生の危険が生じている段階では、結果の発生を防止するための真摯な努力が必要です。
火をつけようとマッチを擦りかけてやめた人は、そこで手を止めれば火事になりません。しかし、すでに火をつけてしまった人は、手を止めただけでは火が燃え広がってしまいます。この人が「やめた」といえるためには、自分で消すか、消防を呼んで消火に協力しなければなりません。「犯罪を中止した」といえるために何をすればよいかは、行為がどこまで進んでいるかで変わります。
中止犯が成立するには、自己の意思により犯罪を中止し、結果が発生しなかったことが必要です
43条ただし書は「自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する」と定めています。要件は、任意性(自己の意思により)と中止行為(犯罪を中止した)です。中止犯は未遂犯の一つなので、結果が発生して既遂になった場合には成立しません。「既遂犯が成立する場合にも,結果発生防止のための真摯な努力をしていれば,中止未遂が成立する」という肢は誤りです。殺意をもって切り付けた後、被害者を病院に搬送して治療を受けさせたが、治療の甲斐なく出血性ショックにより死亡した事例でも、殺人罪は既遂であり、中止犯は成立しません。幼児を山中に置き去りにした後、後悔して病院に運び込んだ事例について「遺棄罪の中止犯が成立し得る」という肢は誤りです。置き去りにした時点で遺棄罪は既遂に達しており、遺棄罪には未遂を罰する規定もないからです。効果は刑の必要的な減軽又は免除であり、どちらにするかは裁判所が決めます。「中止犯が成立する場合,必ずその刑が免除される」という肢は誤りです。
中止犯の要件と効果
- 任意性自己の意思により中止したこと
- 中止行為実行行為が終わっていなければ以後の実行の放棄。結果発生の危険が生じていれば結果防止のための真摯な努力
- 結果の不発生既遂に達した場合は中止犯にならない
- 効果刑を減軽し、又は免除する(必要的減免)。中止した本人にだけ生じる
実行行為が終わっていない段階では、以後の実行を放棄すれば足ります
実行に着手したが実行行為を終えていない段階を着手未遂といいます。この段階では、そのまま何もしなければ結果は発生しないので、以後の実行を放棄することが中止行為になります。実行行為が終わったかどうかは、行為者の計画と、その時点で結果発生の危険が生じているかから判断されます。東京高判昭和62年7月16日(実行未遂と着手未遂)は、最初の一撃で殺害の目的を達しなければ追撃に及ぶ意図があった事案で、一撃を加えたが殺害に奏功しなかった段階ではいまだ殺人の実行行為は終了していないとして着手未遂に当たるとし、それ以上の実行行為をせずに任意に中止したことで中止未遂を認めました。殺意をもって包丁で1回切り付け、全治約2週間の切創にとどまった被害者に更に切り付けようとしたが、「助けてくれ。」と懇願されて憐憫の情を催し、そのまま立ち去った事例では、中止犯が成立します。生命に危険のある状態に至っておらず、以後の実行を放棄すれば足りるからです。これに対し、同じ傷害の程度でも、致命傷を与えたものと信じ込んで立ち去った事例では、中止犯は成立しません。目的を遂げたと考えて立ち去っただけで、犯罪を中止したとはいえないからです。
結果発生の危険が生じている段階では、結果を防止するための真摯な努力が必要です
実行行為を終えた段階や、すでに結果発生の危険が生じている段階を実行未遂といいます。この段階では、放置すれば結果が発生するので、結果の発生を防止する積極的な行為が必要です。大判昭和12年6月25日は、放火した後に火勢を見て怖くなり、近所の者に「放火したのでよろしく頼む」と叫びながら走り去った事案で、結果発生の防止は必ずしも犯人単独で行う必要はないが、自ら防止に当たらない場合は、少なくとも犯人自身が防止に当たったのと同視できるだけの努力が必要であるとして、中止犯を否定しました。この努力は、真摯な努力と表現されます。「中止未遂が成立するためには,行為者が自己の行為のみで結果発生を防止する必要がある」という肢は誤りです。「中止犯が成立するには,必ずしも行為者が単独で結果発生を防止する必要はない」という肢は正しいです。医師や消防の力を借りるほうが結果の防止に役立つからです。もっとも、他人任せでは足りません。早期に治療を受けなければ出血性ショックにより死亡する危険のある状態の被害者を残し、通行人に「あそこに怪我人がいるから,あとはよろしく。」とだけ告げて立ち去った事例では、通行人が手配した救急車で被害者が助かっても、中止犯は成立しません。東京高判平成13年4月9日(結果防止行為の真摯性)も、放火後に洗濯物をかぶせて押さえ、通報をしただけでは、行為者自身が防止したのと同視し得る程度の努力とはいえないとして、中止犯を否定しました。なお、中止行為と結果の不発生との間に因果関係が必要かについては、必要とする見解と、真摯な努力をした以上は不要とする見解とに分かれます。
中止犯の効果は中止した本人にだけ生じ、別の罪や他の共犯者には及びません
中止犯による刑の減免は、中止した罪についてだけ、中止した本人にだけ生じます。窃盗の目的で住居に侵入して物色した後、財物の窃取を自己の意思により中止した場合、窃盗未遂罪には中止犯が成立しますが、既遂に達している住居侵入罪には成立しません。「科刑上一罪の関係に立つので,財物の窃取を自己の意思により中止すれば,いずれの犯罪にも中止未遂が成立する」という肢は誤りです。共犯者の一人が中止しても、他の共犯者の実行を阻止せず、結果が発生すれば、中止した者にも中止犯は成立しません(最判昭和24年12月17日)。強盗を共謀して脅迫した後、「金は要らない。」と言い、共犯者にも「お前も強盗なんかやめておけ。」と言って立ち去ったが、共犯者が現金を強取した事例について「この場合、甲には、中止犯が成立する」という肢は誤りです。共犯者を羽交い締めにして犯行の継続を阻止し、結果の発生を防止した事例では、阻止した者には中止犯が成立しますが、阻止された共犯者は自己の意思により中止したのではないので障害未遂です。「この場合、甲と乙には、いずれも中止犯が成立する」という肢は誤りです。共犯関係からの離脱が認められることと、中止犯が成立することも別の問題です。「共犯関係からの離脱が認められる場合,離脱者には,常に中止犯が成立する」という肢は誤りです。
刑法43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
論文ではこう使う
論文では、実行に着手した後に行為者が犯行をやめた事例で、未遂犯の成立を認めた後に検討します。まず、結果が発生していないことを確認します。次に、中止行為として何が必要かを決めるために、行為者がやめた時点で実行行為が終了していたか、結果発生の危険が生じていたかを認定します。1回切り付けてやめた事例であれば、当初の計画(一撃で終えるつもりか、追撃するつもりか)と傷害の程度から、着手未遂か実行未遂かを判断します。着手未遂であれば以後の実行の放棄で足り、実行未遂であれば、行為者自身が結果を防止したのと同視できるだけの真摯な努力をしたかを、救助の内容(通報、搬送、医師への説明)から当てはめます。そのうえで、任意性を検討します。共犯者がいる事例では、中止犯の効果が中止した本人にだけ生じることを示します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。