未遂犯の処罰と刑とは
みすいはんのしょばつとけい
未遂犯とは、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合をいいます。未遂を罰するのは各本条に規定がある罪に限られ、刑は減軽することができ、自己の意思により中止したときは必ず減軽又は免除されます。
財布を盗もうとポケットに手を入れたところで気づかれた場合、何も盗めていなくても窃盗未遂として処罰されます。盗めなかったのは偶然にすぎず、行為の危険さは盗めた場合と変わらないからです。ただし、どの罪でも未遂が処罰されるわけではありません。刑法は、未遂を罰する罪を条文で一つずつ指定し、刑も既遂より軽くできると定めています。
未遂犯は、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合に成立します
43条本文は、未遂犯を「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者」と定めています。要件は、実行の着手があることと、犯罪を遂げなかったことの二つです。実行の着手より前の準備の段階は予備であり、殺人や強盗など特に重大な罪についてだけ処罰されます。実行に着手したが結果が発生しなかった場合や、結果は発生したが行為との因果関係がない場合が未遂です。結果が発生して構成要件をすべて満たせば既遂になります。未遂のうち、自己の意思により犯罪を中止した場合を中止未遂(中止犯)といい、それ以外の場合を障害未遂といいます。
- 予備実行の着手より前の準備。処罰する規定がある罪に限って処罰される
- 未遂実行に着手したが遂げなかった場合。処罰する規定がある罪に限って処罰される
- 既遂構成要件をすべて満たした場合。刑法の各本条が定める基本の形
未遂を罰するのは、各本条に規定がある場合に限られます
44条は「未遂を罰する場合は、各本条で定める」と定めています。未遂を罰する規定がない罪は、実行に着手しても既遂に達しなければ処罰されません。財産に対する罪では、窃盗・強盗(243条)、詐欺・背任・恐喝(250条)の未遂は罰せられますが、横領、盗品等に関する罪、器物損壊の未遂を罰する規定はありません。背任罪の未遂は処罰され、横領罪の未遂は処罰されないという組合せがそのまま問われます。放火の罪では、未遂を罰するのは現住建造物等放火と他人所有の非現住建造物等放火だけです(112条)。「建造物等以外放火罪には,未遂処罰規定がない」という肢は正しいです。自己所有の無人倉庫に放火しようとして新聞紙が燃えたにとどまった事例について「甲に自己所有非現住建造物等放火罪の未遂罪が成立する」という肢は誤りです。脅迫罪にも未遂を罰する規定はありません。「乙宅を爆破する。」旨を記載した手紙を投函したが、乙が開封しないまま廃棄した事例では、害悪の告知が相手に認識されておらず既遂に達しないので、脅迫罪は成立しません。脅迫の電子メールが迷惑メールに振り分けられて相手が気付かなかった事例について「甲にはAに対する脅迫罪は成立しない」という肢は正しいです。遺失物等横領罪にも未遂を罰する規定はありません。他人の所有物と認識して持ち去った自転車が実際には無主物だった事例について「甲には遺失物等横領罪が成立する」という肢は誤りです。客体が他人の物に当たらないので既遂にならず、未遂を罰する規定もないからです。
未遂を罰する主な罪
- 生命・身体・自由に対する罪殺人・自殺関与・同意殺人(203条)、不同意堕胎(215条2項)、強要(223条3項)、略取・誘拐(228条)、不同意わいせつ・不同意性交等(180条)、住居侵入(132条)
- 財産に対する罪窃盗・不動産侵奪・強盗・事後強盗・昏酔強盗・強盗致死傷(243条)、詐欺・電子計算機使用詐欺・背任・準詐欺・恐喝(250条)
- 公共の安全・取引の安全に対する罪現住建造物等放火・他人所有の非現住建造物等放火(112条)、往来危険・汽車転覆等(128条)、通貨偽造・偽造通貨行使(151条)、偽造公文書の行使(158条2項)、偽造私文書の行使(161条2項)
- その他逃走・加重逃走・被拘禁者奪取・逃走援助(102条)、電子計算機損壊等業務妨害(234条の2第2項)
未遂を罰する規定がない主な罪
- 生命・身体・自由に対する罪暴行、傷害、遺棄、逮捕・監禁、脅迫、名誉毀損、侮辱、信用毀損、業務妨害
- 財産に対する罪横領、業務上横領、遺失物等横領、盗品等に関する罪、器物損壊
- 公共の安全・取引の安全に対する罪自己所有の非現住建造物等放火、建造物等以外放火、公文書・私文書の偽造そのもの、賭博
- 国家の作用に対する罪公務執行妨害、犯人蔵匿、証拠隠滅、偽証、虚偽告訴、収賄
障害未遂は刑を減軽することができ、中止未遂は必ず減軽又は免除されます
43条本文は、未遂犯について「その刑を減軽することができる」と定めています。障害未遂の減軽は任意的であり、裁判所は既遂と同じ刑の範囲で処断することもできます。これに対し、43条ただし書は、自己の意思により犯罪を中止したときは「その刑を減軽し、又は免除する」と定めています。中止未遂では、減軽か免除のどちらかが必ず行われます(必要的減免)。「中止未遂の刑は,刑法第43条ただし書により,任意的に減軽又は免除される」という肢は誤りです。必要的なのは減軽又は免除であって、必ず免除されるわけではない点にも注意が必要です。
- 障害未遂(43条本文)刑を減軽することができる(任意的減軽)
- 中止未遂(43条ただし書)刑を減軽し、又は免除する(必要的減免)
既遂か未遂かは、その罪が予定する結果が発生したかどうかで決まります
未遂を罰する規定がある罪では、どの時点で既遂になるかが罪名を左右します。強要罪は、脅迫や暴行によって人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した時に既遂になります。告訴を思いとどまらせようと脅迫したが相手が告訴をした事例では、権利の行使を妨害するに至っていないので、強要未遂罪が成立します。この事例について「甲にはAに対する脅迫罪が成立し、Aに対する強要未遂罪は成立しない」という肢は誤りです。事後強盗罪の既遂と未遂は、暴行・脅迫の結果ではなく、先行する窃盗が既遂か未遂かで決まるというのが判例です(最判昭和24年7月9日)。住居内でタンスの引き出しを開けて金目の物を探したが見付けられないうちに発見され、逮捕を免れるために包丁を示して脅迫した事例について「甲には事後強盗未遂罪が成立する」という肢は正しいです。窃盗が未遂にとどまっているからです。罪ごとの既遂時期は、各論のそれぞれの語で扱います。
刑法43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
刑法44条
未遂を罰する場合は、各本条で定める。
論文ではこう使う
論文では、罪名を確定する場面で使います。行為者の行為がどの罪の実行行為に当たるかを特定し、実行の着手があるかを認定したうえで、結果の発生と因果関係を検討して、既遂か未遂かを決めます。未遂にとどまる場合は、その罪に未遂を罰する規定があることを条文で示します(窃盗未遂であれば243条・235条)。未遂を罰する規定がない罪では、既遂に達していなければ不可罰と結論づけ、別の罪が成立しないかを検討します。未遂が成立する場合には、続けて中止犯の成否を検討し、刑の任意的減軽か必要的減免かを示します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。