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共犯と錯誤(共謀の射程・犯罪共同説と行為共同説)とは

きょうはんとさくご

刑法 共犯

共犯と錯誤とは、共謀や教唆・幇助の内容と、他の共犯者が実際に実行した犯罪とが食い違った場合に、実行していない者にどの罪の共犯が成立するかという問題です。共謀の射程とは、実行された行為が当初の共謀に基づくものといえる範囲のことです。

友人と「あいつを少し懲らしめよう」と決めて一緒に殴っていたら、友人が突然ナイフを出して相手を刺してしまったとします。自分は殺すつもりなどなかったのに、殺人の仲間として扱われるのは行き過ぎです。かといって、一緒に暴行した結果として人が死んだのに、何の責任も負わないのもおかしな話です。そこで、二人で決めたことと実際に起きたことが重なる範囲で責任を負う、という考え方がとられています。

夜の道端の場面(待ち伏せの段階で、危害を加える場面は描かない)。電柱の陰に男性(札「正犯 乙」)が立ち、歩いて来る男性(札「B:Aと誤認された」)を見ている。画面の左上の小さな枠に、別の男性(札「教唆者 甲:Aの殺害を唆した」)。甲の枠から

共犯者が共謀と違う犯罪を実行した場合は、まず共謀の射程を確かめ、次に錯誤として処理します

共犯は、自分の関与と因果性のある結果についてだけ責任を負います。したがって、他の共犯者が実行した行為が、当初の共謀や教唆とは無関係の新たな犯意に基づくものであれば、そもそも共謀の射程が及ばず、その行為について責任を負いません。最判昭和25年7月11日(ゴットン師事件)は、教唆された家への侵入を断念した者が別の家で強盗をした事案で、その犯行が教唆に基づくものかどうかを問題にしました。共謀の射程が及ぶ場合に初めて、共謀の内容と実行された犯罪の食い違いを錯誤の問題として処理します。処理の仕方は単独犯の錯誤と同じです。同じ構成要件の中の食い違いであれば故意は否定されず、異なる構成要件にまたがる食い違いであれば、構成要件が重なり合う限度で軽い罪の共犯が成立します。

教唆した客体と違う客体に実行されても、同じ構成要件の中の食い違いであれば教唆犯が成立します

判例は、行為者が認識した事実と発生した事実が構成要件の範囲内で一致していれば故意を認めます。この考え方は共犯にも当てはまります。Aを殺害するよう唆された者が人違いでBを殺害した事例について、「実際には,その男はBであった。甲には殺人既遂罪の教唆犯が成立する」という肢は正しいです。Aからの恐喝を唆された者が、Bを人違いで脅迫して未遂に終わり、その後Aから喝取した事例について、「甲には,Aに対する恐喝既遂罪の教唆犯とBに対する恐喝未遂罪の教唆犯が成立する」という肢は正しいです。順序が逆で、人違いでBから喝取し、その後Aへの恐喝は未遂に終わった事例について、「甲にはAに対する恐喝未遂罪の教唆犯のみが成立する」という肢は誤りです。Bに対する恐喝既遂罪の教唆犯も成立するからです。A家屋への放火を唆された者が、A家屋に延焼させる目的で隣のB家屋に放火し、B家屋だけを焼損した事例について、「甲にはA家屋に対する現住建造物等放火未遂罪の教唆犯のみが成立する」という肢も誤りです。B家屋に対する現住建造物等放火罪の教唆犯が成立します。A方への侵入窃盗を唆された者がB方をA方と誤認して侵入し窃取した事例について、「甲にB方への住居侵入罪及びBに対する窃盗罪の教唆犯は成立しない」という肢は誤りです。

教唆や共謀と違う罪が実行された場合は、構成要件が重なり合う軽い罪の限度で共犯が成立します

軽い罪のつもりで関与した者は、重い罪によって処断することができません(38条2項)。窃盗を唆したのに正犯が強盗をした場合、窃盗罪と強盗罪は窃盗罪の限度で重なり合うので、唆した者には窃盗罪の教唆犯が成立します。留守宅A方での窃盗を唆された者がB方に誤って侵入し、居合わせたBから金品を強取した事例について、「甲にはB方への住居侵入罪及びBに対する窃盗罪の教唆犯が成立する」という肢は正しいです。窃盗を共謀したのに実行者が暴行を加えてカードを奪取した事例では、共謀した者に窃盗既遂罪の共同正犯が成立します。「甲に窃盗未遂罪の共同正犯が成立するにとどまる」という肢は誤りです。傷害を幇助する意思で包丁を貸したところ正犯が殺意をもって刺殺した事例について、「甲に殺人罪の幇助犯が成立し,傷害致死罪の幇助犯は成立しない」という肢は誤りです。貸した者には傷害致死罪の幇助犯が成立します。強盗を唆された者が脅している最中に殺意を抱いて被害者を刺し、負傷させた事例では、強盗致傷罪の限度で重なり合うので、「甲には強盗罪の教唆犯が成立するにとどまる」という肢は誤りです。反対に、重い罪を唆したのに正犯が軽い罪しか実行しなかった場合は、実行された罪の教唆犯が成立します。公務員に、現金を受け取って工事予定価格を教えるよう唆したが、公務員は現金を受け取っただけで教えなかった事例について、「甲には加重収賄罪の教唆犯が成立する」という肢は誤りです。構成要件が違っても罪質と法定刑が同じ場合は、実行された罪の共犯が成立します。最判昭和23年10月23日は、公務員に虚偽の公文書を作成させることを教唆する共謀をした者の一人が、買収に失敗して別の者に公文書の偽造を教唆した事案で、両罪は罪質を同じくし法定刑も同じであるとして、公文書偽造教唆の故意を阻却しないとしました。この事例について「甲に虚偽公文書作成罪の教唆犯が成立する」という肢は誤りです。成立するのは公文書偽造罪の教唆犯です。

暴行・傷害の共謀で一人が殺意をもって殺害した場合、殺意のない者には傷害致死罪の共同正犯が成立します

最決昭和54年4月13日は、暴行・傷害を共謀した者のうちの一人が殺意をもって被害者を刺殺した事案で、殺意のなかった者については、殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で、軽い傷害致死罪の共同正犯が成立するとしました。殺人罪の共同正犯を成立させたうえで刑だけを傷害致死罪にするという処理は採られていません。「甲及び乙に殺人罪の共同正犯が成立するが,乙は傷害致死罪の刑で処断される」という肢は誤りです。「甲には,Vに対する殺意がなくても殺人罪の共同正犯が成立する」という肢も誤りです。他方で、暴行の共謀に基づく暴行から死亡の結果が生じているので、殺意のない者も死亡の結果について責任を負います。「甲には傷害罪の共同正犯が成立するにとどまる」という肢は誤りであり、「この場合,甲には,傷害罪の共同正犯が成立する」という肢も誤りです。成立するのは傷害致死罪の共同正犯です。故意の内容が違う者の間でも、重なり合う限度では共同正犯が成立するので、「殺人の故意を有する者と傷害の故意を有する者との間では,共同正犯が成立する余地はない」という肢は誤りです。練馬事件の判旨を前提にしても、「殺意を有する者と傷害の故意にとどまる者との間で共謀共同正犯が成立する余地はない」という肢は誤りです。殺意のあった者には殺人罪が成立します。最決平成17年7月4日は、殺意のある者には殺人罪が成立し、殺意のない者との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯になるとしました。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。法壇の前に二人の男性が並ぶ。左の男性の札「乙:殺意をもって殺害した → 殺人罪」、右の男性の札「甲:暴行・傷害を共謀しただけで殺意はない → 傷害致死罪の共同正犯」。二人の足元を一本の

共同正犯は何を共同するのかについて、行為共同説・完全犯罪共同説・部分的犯罪共同説が並びます

傷害を共謀して共同で殴打していたところ、一人が殺意を抱いて頭部を殴打し死亡させたという事例に、三つの見解を当てはめる問題が出ます。行為共同説からは、各自の意図する犯罪についてそれぞれ共同正犯が成立するので、殺意のある者には殺人罪の共同正犯、殺意のない者には傷害致死罪の共同正犯が成立するという結論になります。二人に殺人罪の共同正犯が成立するという結論も、二人とも傷害致死罪の共同正犯にとどまるという結論も、この説からは導かれません。完全犯罪共同説からは、二人に重い殺人罪の共同正犯が成立し、殺意のない者には傷害致死罪の刑を科すという結論になります。この説に対しては、犯罪の成立と科刑が分離するのは妥当でないという批判が向けられます。部分的犯罪共同説からは、二人に傷害致死罪の共同正犯が成立し、殺意のある者には別に殺人罪の単独犯が成立するという結論になります。部分的犯罪共同説は三つの中で共同正犯の成立範囲が最も狭いので、成立範囲が広すぎるという批判は当たりません。この説に対しては、殺意のない者の行為から死亡の結果が生じた場合、殺意のある者を殺人罪の単独犯とすると、自らの行為と死亡の結果との因果性を欠き、殺人既遂罪を認めることが困難になるという指摘が向けられます。殺意のない者に成立する罪名は、行為共同説でも部分的犯罪共同説でも傷害致死罪の共同正犯であり、異なりません。

  • 行為共同説共同正犯は行為を共同するものであり、各自の意図する犯罪についてそれぞれ共同正犯が成立するとします
  • 完全犯罪共同説共同正犯は特定の犯罪を共同するものであり、構成要件が重なり合えば重い犯罪の共同正犯が成立し、軽い犯罪の故意しかない者には軽い犯罪の刑を科すとします
  • 部分的犯罪共同説共同正犯は特定の犯罪を共同するものであり、構成要件の重なり合う限度で軽い犯罪の共同正犯が成立するとします。重い犯罪の故意がある者には別に単独犯が成立します
教室の場面。先生が教師役で黒板の前に立つ。黒板に三行の表があり、列の見出しは「殺意のある者」「殺意のない者」。一行目「行為共同説:殺人罪の共同正犯/傷害致死罪の共同正犯」、二行目「完全犯罪共同説:殺人罪の共同正犯/殺人罪の共同正犯(刑は傷害

刑法38条2項

重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。

論文ではこう使う

論文では、共謀の内容と違う結果が生じた事例で使います。書く順序は、共謀の射程、錯誤の二段階です。まず、共謀の内容を事実から確定します。次に、実行者の行為がその共謀に基づくものといえるかを、当初の共謀と実行行為の内容の共通性、動機や目的の連続性、被害者や日時場所の同一性から検討します。共謀と無関係の新たな犯意に基づく行為であれば、ここで責任を否定します。射程が及ぶと判断したら、共謀した者の認識した犯罪と実行された犯罪を比べます。同じ構成要件の中の食い違いであれば故意を肯定し、異なる構成要件にまたがるときは、保護法益と行為態様の共通性から重なり合いを認定して、軽い罪の限度で共同正犯を認めます。暴行・傷害の共謀から死亡の結果が生じた事例では、殺意のない者に傷害致死罪の共同正犯を、殺意のある者に殺人罪を成立させ、両者は傷害致死罪の限度で共同正犯になると書きます。

試験ではこう問われる

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