収賄罪の類型と贈賄罪とは
しゅうわいざいのるいけいとぞうわいざい
収賄罪とは、公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をする罪です。単純収賄罪を基本に、受託収賄・事前収賄・第三者供賄・加重収賄・事後収賄・あっせん収賄の各類型があり、賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者には贈賄罪が成立します。
公務員がお礼を受け取る場面にも、いろいろな形があります。特定の仕事を頼まれて受け取る、自分ではなく知人や団体に払わせる、就任する前や退職した後に受け取る、ほかの公務員への口利きの見返りに受け取る、といった形です。基本の形だけを処罰すると、形を変えることで処罰を逃れることができてしまいます。そこで刑法は、単純収賄罪を基本に、形を変えた類型と刑を重くする類型を定め、賄賂を贈る側も贈賄罪として処罰しています。
単純収賄罪は請託がなくても成立し、収受・要求・約束のいずれかがあれば足ります
単純収賄罪(197条1項前段)は、公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときに成立します。請託は要件ではありません。請託とは、公務員に対して一定の職務行為を行うことを依頼することをいい、依頼される職務行為は正当なものでも不正なものでも構いません(最判昭和27年7月22日)。請託を受けて賄賂を収受等したときは、受託収賄罪(同項後段)として刑が重くなります。請託によって賄賂と職務行為との対価関係が明白になり、職務の公正に対する社会一般の信頼がより強く害されるからです。収受、要求、約束は、どれか一つがあれば成立します。要求は、公務員が賄賂を求める意思を相手方に示せば足り、相手方が応じたかどうかを問いません。時価を超える金額で農地を購入するよう依頼したが相手方に拒否されたという事例について、「収賄罪と贈賄罪は対向犯として必要的共犯の関係にあるので,乙に収賄罪(要求)は成立しない」という肢は誤りです。賄賂の収受と供与は相手方の行為があって初めて成り立ちますが、要求は公務員の側だけで成立します。
- 単純収賄罪(197条1項前段)公務員が、その職務に関し、賄賂を収受・要求・約束した。請託は不要。5年以下の拘禁刑
- 受託収賄罪(197条1項後段)単純収賄罪の場合に、請託を受けた。7年以下の拘禁刑
- 事前収賄罪(197条2項)公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受・要求・約束した。公務員となった場合に処罰する。5年以下の拘禁刑
- 第三者供賄罪(197条の2)公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与を要求・約束した。5年以下の拘禁刑
- 加重収賄罪(197条の3第1項・2項)1項は、197条・197条の2の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかった。2項は、職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受等した。1年以上の有期拘禁刑
- 事後収賄罪(197条の3第3項)公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受・要求・約束した。5年以下の拘禁刑
- あっせん収賄罪(197条の4)公務員が、請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受・要求・約束した。5年以下の拘禁刑
- 贈賄罪(198条)197条から197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした。3年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金
加重収賄罪は、不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときに成立し、請託は要件ではありません
加重収賄罪は、賄賂の対価として実際に職務が曲げられた場合を重く処罰する罪です。197条の3第1項は、公務員が197条又は197条の2の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときに成立します。前提となる罪には請託を要件としない単純収賄罪が含まれます。「贈賄者から請託を受けたのでなければ,加重収賄罪(刑法第197条の3第1項)は成立しない」という肢は誤りです。同条2項は、先に不正な行為をし、その後に賄賂を収受等した場合を定めています。どちらも、不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことが要件なので、不正な行為を約束しただけでは成立しません。警察官が捜査情報の漏えいを依頼されて謝礼を収受したが、結局漏えいしなかった事例について、「甲に加重収賄罪(刑法第197条の3第1項)が成立する」という肢は誤りです。この場合は受託収賄罪が成立します。「実際には秘密を漏らさなかった場合には,受託収賄罪が成立するが,秘密を漏らした場合には,加重収賄罪が成立する」という肢は正しいです。共犯についても同じです。公務員に対し、工事予定価格を教える見返りに現金を受け取って教えるよう唆したが、公務員が現金を受け取っただけで工事予定価格を教えなかった事例について、「甲には加重収賄罪の教唆犯が成立する」という肢は誤りです。正犯に成立するのは受託収賄罪なので、唆した者に成立するのも受託収賄罪の教唆犯です。
第三者供賄罪は請託を受けることが要件で、第三者には法人も含まれます
第三者供賄罪(197条の2)は、公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたときに成立します。公務員自身が受け取らない形で処罰を逃れることを防ぐための規定です。単純収賄罪と違って請託を受けることが必要ですが、職務上不正な行為をしたことは要件ではありません。「職務上不正な行為をし,又は相当の行為をしなかったときに限り,第三者供賄罪(刑法第197条の2)が成立する」という肢は誤りです。不正な行為が加われば、加重収賄罪になります。判例は、第三者は個人であると地方公共団体その他の法人であるとを問わないとしています(最判昭和29年8月20日)。「第三者供賄罪において,賄賂の供与を受ける第三者は,自然人に限られない」という肢は正しいです。「賄賂の供与を受ける「第三者」に法人は含まれない」という肢は誤りです。第三者が、受け取った利益が賄賂であることを知っている必要もありません。市長が、職員採用の依頼を引き受け、謝礼を友人に供与するよう要求して供与させたが、友人は賄賂であることを全く知らなかった事例について、「甲に第三者供賄罪(刑法第197条の2)は成立しない」という肢は誤りです。なお、形式上は第三者が受け取っていても、実質的には公務員自身が収受したといえる場合は、単純収賄罪や受託収賄罪が成立します。
事前収賄罪と事後収賄罪は、収受等の時点で公務員でない者を処罰します
賄賂罪は、収受等の時点で公務員である者だけを処罰するわけではありません。「賄賂を収受し,又はその要求若しくは約束をした時点でそれらの行為をした者が公務員でなければ,いかなる場合でも成立しない」という肢は誤りです。事前収賄罪(197条2項)は、公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受等したときに、公務員となった場合に処罰する罪です。約束だけで成立するので、「賄賂の収受を約束した後に公務員となったが,結局,賄賂を収受しなかった場合,事前収賄罪(刑法第197条第2項)が成立する」という肢は正しいです。現に公務員である者が、再選後など将来の職務について請託を受けて収受した場合は、事前収賄罪ではなく受託収賄罪が成立します(最決昭和61年6月27日)。「受託収賄罪(刑法第197条第1項後段)は成立せず,市長に再選されたときに限り,事前収賄罪(刑法第197条第2項)が成立する」という肢は誤りです。事後収賄罪(197条の3第3項)は、公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受等したときに成立します。「公務員の身分を失った後に賄賂を収受した場合には,事後収賄罪(刑法第197条の3第3項)が成立する」という肢は正しいです。「退職後に賄賂を収受した場合,事後収賄罪(刑法第197条の3第3項)は成立しない」という肢は誤りです。公務員でない時点の行為を処罰するので、請託と不正な行為の両方が要件とされ、成立範囲が絞られています。
あっせん収賄罪は、公務員としての立場で、他の公務員に職務上不正な行為をさせるようにあっせんすることが必要です
あっせん収賄罪(197条の4)は、公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受等したときに成立します。自分の職務ではなく、他の公務員への働き掛けの対価を処罰する点が特徴です。判例は、公務員が積極的にその地位を利用してあっせんすることは必要でないが、少なくとも公務員としての立場であっせんすることを必要とし、単なる私人としての行為はこの罪を構成しないとしています(最決昭和43年10月15日)。「少なくとも公務員としての立場であっせんすることを要し,単なる私人としての行為では足りない」という肢は正しいです。市役所の職員が、公務員の地位を離れ単に旧友として、税務署職員に過少申告を是認するようあっせんして謝礼を収受した事例について、「甲にあっせん収賄罪(刑法第197条の4)が成立する」という肢は誤りです。あっせんの内容は、不正な行為をさせること又は相当の行為をさせないことに限られます。もっとも、判例は、公正取引委員会が調査中の事件について告発をしないよう委員長に働き掛けることは、同委員会の裁量判断に不当な影響を及ぼし、適正に行使されるべき権限の行使をゆがめようとするものなので、相当の行為をさせないようにあっせんすることに当たるとしています(最決平成15年1月14日)。「違法な行為の働き掛けがあったときにのみあっせん収賄罪が成立し,他の公務員の裁量判断に不当な影響を及ぼす程度では同罪は成立しない」という肢は誤りです。他の公務員が実際に不正な行為をしたことは要件ではありません。
贈賄罪は、賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者に成立します
贈賄罪(198条)は、197条から197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者に成立し、3年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金に処せられます。収賄罪の収受・要求・約束に対応して、供与・申込み・約束が処罰されます。賄賂の収受と供与、約束と約束は、相手方の行為があって初めて成り立つ対向犯の関係にあります。これに対し、申込みは贈る側だけで成立するので、公務員が申込みを拒否しても贈賄罪は成立します。公務員の側の要求が、相手方に拒否されても成立するのと同じです。公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に、前の職務に関して賄賂を供与した者にも、供与の当時に相手が公務員である以上、贈賄罪が成立します(最決昭和58年3月25日)。贈賄罪の法定刑は収賄罪より軽く定められています。
刑法197条の2
公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。
刑法197条の3第1項
公務員が前二条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、一年以上の有期拘禁刑に処する。
刑法197条の4
公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。
論文ではこう使う
論文では、公務員が利益を受け取った事例で、どの罪名が成立するかを特定する場面で使います。まず、収受等の時点で公務員であるかを確認します。公務員であれば、職務関連性と賄賂性を認定して単純収賄罪の成立を押さえ、そのうえで加重する事情を順に検討します。特定の職務行為の依頼とその承諾があれば請託を認定して受託収賄罪とし、さらに依頼どおりの不正な行為を実際にしていれば加重収賄罪とします。不正な行為を約束しただけで実行していない場合に加重収賄罪としないよう注意します。利益の受取人が公務員以外の者であれば、実質的に公務員自身が収受したといえるかを検討し、いえなければ請託の有無を確認して第三者供賄罪を検討します。対価が他の公務員への働き掛けに対するものであれば、あっせん収賄罪の要件である請託、公務員としての立場、不正な行為をさせるあっせんを順に認定します。贈った側については、対応する贈賄罪の成立を一言で書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。