教唆犯(間接教唆・再間接教唆)とは
きょうさはん
教唆犯とは、人を教唆して犯罪を実行させた者をいい、正犯の刑が科されます。教唆とは、まだ犯罪を決意していない者を唆して、特定の犯罪を実行する決意を新たに生じさせることです。
迷ってもいなかった友人に「あの店の品物を取ってこい」と持ちかけ、友人がその気になって実行したとします。手を下したのは友人ですが、持ちかけた人がいなければ犯罪は起きませんでした。刑法は、他人に犯罪の決意を生じさせて実行させた者を教唆犯とし、実行した正犯と同じ刑の範囲で処罰します。自分で手を下さなくても、犯罪を生み出した責任は正犯と変わらないと考えるからです。
教唆犯は、人を教唆して犯罪を実行させたときに成立し、正犯の刑が科されます
61条1項は「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する」と定めます。正犯の刑を科するとは、正犯に適用される法定刑の範囲で処罰するという意味であり、正犯に言い渡された刑と同じ刑になるという意味ではありません。教唆の方法に制限はなく、命令、依頼、利益の提供のほか、黙示の方法でもかまいません。二人以上の者が共謀して教唆した場合には、共同して教唆したものとして全員に教唆犯が成立します。「共同して教唆・幇助行為に及んだ者には教唆犯・従犯の共同正犯が成立し得る」という肢は正しいです。同じ正犯に対して教唆をし、さらに幇助もした者は、重い関与の形式である教唆犯として評価され、幇助は教唆に吸収されます。教唆犯の条文上の要件と効果は、次のとおりです。
- 教唆行為特定の犯罪を実行する決意を生じさせる働きかけをすることです。漠然と犯罪を唆すだけでは足りません
- 正犯の実行被教唆者が犯罪の決意をし、実行に出たことです。実行に出なければ教唆犯は成立しません
- 因果関係教唆行為によって生じた決意に基づいて、正犯が実行したことです
- 刑正犯の刑を科します(61条1項)。教唆者を教唆した者も同様です(61条2項)
- 従犯の教唆従犯を教唆した者には、従犯の刑を科します(62条2項)
- 処罰の制限拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者は、特別の規定がなければ罰しません(64条)
教唆は新たに犯罪の決意を生じさせることであり、既に決意している者への働きかけは教唆になりません
教唆犯が正犯の刑で処罰されるのは、犯罪の決意そのものを作り出したからです。相手が既に特定の犯罪の実行を確定的に決意しているときは、実行を勧めても決意を作り出したことにならず、教唆犯は成立しません。判例は、助言が犯行の故意を決定させたときは教唆犯であり、既に生じている犯意を強固にしたにとどまるときは幇助犯であるとしています(大判大正6年5月25日)。既に特定の犯罪の実行を確定的に決意している者に実行を勧めて決意が強固になった場合について、「幇助犯は成立し得るが、教唆犯は成立しない」という肢は正しいです。また、教唆は特定の犯罪を実行する決意を生じさせるものでなければならず、悪いことをしろと漠然と唆すだけでは足りません(最判昭和26年12月6日)。もっとも、犯罪の日時、場所、方法まで具体的に指示する必要はありません。
被教唆者が実行に出なければ教唆犯は成立せず、教唆行為と実行の間には因果関係が必要です
教唆犯は、正犯の実行を通じて結果を生じさせたことを理由に処罰されます。そのため、唆したのに相手が実行に出なかった場合、つまり教唆の未遂は処罰されません。正犯が実行に着手して未遂に終わった場合には、未遂罪の教唆犯が成立します。正犯が実行した犯罪が、教唆によって生じた決意に基づくものであることも必要です。空き巣を唆された者がその家への侵入をあきらめて帰る途中、自分で食べるために別の店でパンを万引きした事例について、「甲について窃盗(既遂)教唆罪の成立を肯定することができる」という肢は誤りです。万引きは、教唆によって生じた決意とは別の、新たな決意に基づくものだからです。A方への侵入を断念した者が帰路でB方に侵入して強盗をした事例について、「因果関係が認められない場合であっても、甲に住居侵入罪及び窃盗罪の教唆犯が成立する」という肢も誤りです。最判昭和25年7月11日(ゴットン師事件)は、教唆された家への侵入を断念した者が別の家で強盗をした事案で、その犯行が教唆に基づくものか、新たな決意に基づくものかを審理すべきであるとして、教唆行為と正犯の実行との間に因果関係が必要であることを示しました。
教唆者を教唆した者も、さらにその者を教唆した者も、教唆犯として処罰されます
61条2項は「教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする」と定め、間接教唆を処罰します。甲が乙に、丙を唆して犯罪をさせるよう持ちかけた場合の甲がこれに当たります。間接教唆をさらに教唆した再間接教唆について、大判大正11年3月1日は、61条2項は教唆の関係を間接教唆の限度に制限する趣旨ではないとして、再間接教唆も教唆犯として処罰されるとしました。「丙はAの殺害を丁に教唆し,丁がAを殺害した。甲には,殺人罪の教唆犯が成立する」という肢は正しいです。この事例の甲は、乙を唆し、乙が丙を唆し、丙が丁を唆しているので、再間接教唆をした者に当たります。学説には、処罰の範囲が際限なく広がることを理由に再間接教唆の処罰を否定する見解もあります。
拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆は、特別の規定がなければ処罰されません
64条は、拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ罰しないと定めます。正犯の刑がごく軽い罪についてまで、周辺の関与者を処罰する必要は小さいからです。この条文は侮辱罪と結びつけて出題されてきました。侮辱罪の法定刑は、令和4年の改正前は拘留又は科料のみでしたが、改正後は1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料になりました。そのため、現在は侮辱罪に64条の適用はなく、侮辱罪の教唆犯が成立し得ます。「事実を摘示せずに公然と人を侮辱することを教唆した者に,侮辱教唆罪が成立することはない」という肢は、出題当時は正しい記述でしたが、現在の法定刑のもとでは誤った記述になります。
刑法61条1項
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
刑法61条2項
教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。
刑法64条
拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。
論文ではこう使う
論文では、実行者に犯罪を持ちかけた者や指示をした者の罪責で使います。順序としては、まず共同正犯の成否を検討し、自己の犯罪として関与したとはいえないと判断したときに、教唆犯を検討します。教唆犯の検討では、働きかけの前に相手が犯罪を決意していたかを事実から確認します。決意していなかったのであれば、働きかけによって特定の犯罪の決意が生じたこと、その決意に基づいて実行されたことを順に認定します。既に決意していたのであれば、教唆犯を否定し、決意を強めた点を捉えて幇助犯を検討します。正犯が教唆の内容と違う犯罪を実行した事例では、因果関係があるかを確認したうえで、錯誤の処理に進みます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。