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共犯の処罰根拠(因果的共犯論・未遂の教唆)とは

きょうはんのしょばつこんきょ

刑法 共犯

共犯の処罰根拠とは、自ら実行行為をしていない教唆犯や幇助犯がなぜ処罰されるのかという問題です。正犯者を犯罪に引き込んで処罰される状態に陥れたことに求める責任共犯論と、正犯の行為を通じて法益侵害の結果を惹起したことに求める因果的共犯論が対立します。

友人をそそのかして万引きをさせた人は、自分では何も盗んでいません。それでも処罰される理由は、二通りに説明できます。一つは、友人を悪の道に引き込んで犯罪者にしてしまったから、という説明です。もう一つは、友人の手を通じて店に損害を与えたから、という説明です。どちらで説明するかによって、共犯がどこまでの結果に責任を負うのか、どのような場合に処罰されないのかの答えが変わってきます。

教室の場面。先生が教師役で黒板の前に立つ。黒板の中央に、人型「共犯」から人型「正犯」へ矢印、正犯から右端の「法益侵害の結果」へ矢印。黒板の左に札「責任共犯論:正犯者を犯罪に引き込み、処罰される状態に陥れたから処罰する」、右に札「因果的共犯論

責任共犯論は正犯者を堕落させたことを、因果的共犯論は結果を惹起したことを処罰の理由にします

責任共犯論は、共犯は正犯者を犯罪に引き込み、有責で処罰される状態に陥れたから処罰されると説明します。この説明では、共犯の成立に正犯の責任まで必要になり、極端従属性説と結び付きます。また、処罰の理由を正犯者の堕落に置くため、法益侵害との結び付きが薄いという批判が向けられます。因果的共犯論は、共犯も正犯の行為を通じて、または他の共同者とともに、法益侵害の結果を惹起したから処罰されると説明します。惹起説とも呼ばれ、現在の通説です。この説明からは、共犯は自分の行為と因果性のある結果についてだけ責任を負うことになります。教唆行為と正犯の実行との間に因果関係が認められない場合に教唆犯が成立しないのは、この考え方の表れです。A方への侵入を断念した者が帰路でB方に侵入して強盗をした事例について、「因果関係が認められない場合であっても、甲に住居侵入罪及び窃盗罪の教唆犯が成立する」という肢は誤りです。

  • 責任共犯論正犯者を犯罪に引き込み、有責で処罰される状態に陥れたことが処罰の理由です
  • 違法共犯論正犯者に違法な行為をさせたことが処罰の理由です
  • 因果的共犯論(惹起説)正犯の行為を通じて法益侵害の結果を惹起したことが処罰の理由です

因果的共犯論の内部では、共犯の違法が正犯の違法にどこまで従うかで見解が分かれます

因果的共犯論の中でも、共犯の違法を正犯の違法とどう関係づけるかについて、三つの見解があります。純粋惹起説は、共犯の違法は正犯の違法から独立しており、関与者ごとに個別に判断されるとします。この見解からは、正犯の行為が適法でも共犯は違法になり得ます。修正惹起説は、共犯の違法は正犯の違法から導かれるとし、正犯が違法であれば共犯も違法になり、正犯が適法であれば共犯も適法になるとします。混合惹起説は、共犯の違法には正犯の違法から導かれる面と共犯独自の面の両方があるとします。この見解からは、正犯が適法であれば共犯も常に適法ですが、正犯が違法であっても共犯が適法になることはあり得ます。たとえば、被害者が他人に頼んで自分を傷つけさせた場合、頼んだ被害者自身にとっては自分の法益の侵害にすぎないので、被害者は教唆犯になりません。修正惹起説と混合惹起説は、正犯の行為が構成要件に該当し違法であることを共犯成立の条件とする制限従属性説を支えています。

犯人が他人に自己の隠避を教唆した場合、責任共犯論と防御の濫用という考え方が教唆犯の成立を支えます

犯人が自ら逃げ隠れしても犯人隠避罪にはなりません。これに対し、犯人が他人を唆して自分を隠避させた場合に犯人隠避罪の教唆犯が成立するかは、争われています。成立を認める見解の根拠となり得るものを選ぶ問題では、論拠ごとに支える結論が分かれます。「教唆犯の処罰根拠は,正犯者を犯罪に引き込み,有責で処罰される状態に陥れたことにある」という論拠は、責任共犯論そのものであり、他人を犯罪者にした点を捉えるので、成立を認める見解の根拠になります。「犯人自ら逃げ隠れる行為のみが,法律の放任行為として国家による干渉を受けない防御の自由の範囲内にある」という論拠も、他人を巻き込むことは防御の範囲を超えるという意味で、成立を認める見解の根拠になります。これに対し、「正犯行為に期待可能性がないのであれば,教唆行為にも期待可能性はない」という論拠は、成立を否定する見解の根拠です。犯人隠避は犯人の働き掛けによって行われるのが通常だから本来は必要的共犯と理解すべきである、という論拠も、処罰規定のない犯人の側は処罰されないという結論に結び付くので、否定する見解の根拠です。「教唆にとどまると可罰的であるのに,より犯情の重い正犯に及ぶと不可罰になるのは相当でない」という指摘は、成立を認める見解に対する批判です。因果的共犯論を徹底すると、犯人自身にとって処罰されない結果を他人を通じて惹起しても処罰されないという結論に傾きます。判例は、防御の濫用に当たるとして教唆犯の成立を認めています(大判昭和8年10月18日、最決昭和35年7月18日)。各罪ごとの扱いは、各論の「犯人による蔵匿・隠避・証拠隠滅・偽証の教唆」の語で説明します。

因果的共犯論は、承継的共犯と共犯関係の解消で、責任を負う範囲を決める出発点になります

共犯が自分の行為と因果性のある結果についてだけ責任を負うという考え方は、途中から加わった者と途中で抜けた者の責任を決める場面で働きます。途中から加わった者は、加わる前に先行者が既に生じさせた結果に因果性を及ぼすことができないので、因果的共犯論からは、その結果について責任を負わないのが原則になります。後から加担した者も一罪の一部に加担した以上犯罪全体について責任を負うとする見解は、因果的共犯論に基づくものではなく、因果的共犯論からは批判される側の見解です。途中で抜けた者については、それまでの自分の関与が残した物理的・心理的な影響を取り除き、その後の結果との因果性を遮断したといえれば、その後の結果について責任を負いません。

未遂の教唆では、教唆犯の故意に既遂の結果の認識まで必要かが争われます

未遂の教唆とは、教唆者が正犯の実行を初めから未遂に終わらせるつもりで教唆する場合をいいます。相手を逮捕させる目的で窃盗を唆し、あらかじめ警察に通報しておいて着手した時点で逮捕させる、という場合がその例です。実行した者に窃盗未遂罪が成立することに争いはありません。唆した者については、教唆犯の故意の内容をどう考えるかで結論が分かれます。正犯が既遂の結果を生じさせることの認識・認容まで必要であるとする見解からは、教唆犯の故意が欠けるので、未遂罪の教唆犯は成立しないという結論になります。結果の惹起を処罰の理由とする因果的共犯論は、この見解に結び付きやすいといえます。正犯が実行行為に至ることの認識・認容で足りるとする見解からは、教唆犯の故意が認められ、窃盗未遂罪の教唆犯が成立するという結論になります。未遂の教唆は、短答ではまだ出題されていません。

商店の前の路上の場面。店の入口に向かって歩く男性(札「乙:窃盗に着手する」)。建物の陰で、別の男性(札「甲:未遂に終わらせるつもりで唆した」)が携帯電話で通報している。通りの奥に警察官の男性が近づいて来る。手前に先生が検察官役(札「検察官」

刑法61条1項

人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

論文ではこう使う

論文では、処罰根拠そのものを長く論じることはなく、承継的共犯や共犯関係の解消の理由づけの最初に1文で示します。共犯は、正犯の行為を通じて、または他の共同者とともに結果を惹起したことを理由に処罰されるので、自分の行為と因果性のある結果についてだけ責任を負う、と書きます。承継的共犯では、この1文から、加担する前の結果には因果性を及ぼせないことを導き、加担した後の行為が何に因果性を持ったかを事実から認定します。共犯関係の解消では、同じ1文から、離脱した者が残した物理的・心理的な影響を取り除いたかを事実から認定します。未遂の教唆が出題された場合は、教唆犯の故意の内容についての二つの見解を示し、処罰根拠と結び付けて自説を選びます。

試験ではこう問われる

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読んだあとに、刑法の肢別演習を

この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。

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