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用語集 / 刑法 / 期待可能性

期待可能性とは

きたいかのうせい

刑法 責任

期待可能性とは、違法な行為をした行為者に、行為の時の具体的な事情の下で、適法な行為をすることを期待できたことをいいます。期待可能性がなければ行為者を非難できないので、責任が阻却されると考えられています。

罪を犯して追われている人に「逃げ隠れせずに出頭しなさい」と求めても、ほとんどの人は従えないでしょう。人は誰でも捕まりたくないと思うからです。このように、その状況に置かれれば誰でも同じことをしてしまうという場合には、「適法に行動できたはずだ」と責めることができません。適法な行為を期待できたかどうかを責任の要件として考えるのが、期待可能性の考え方です。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、被告人席の男性(札「行為者」)が立っている。法壇の前に二本の分かれ道の絵が描かれたパネルがあり、一方の道に「適法な行為」、もう一方の道に「違法な行為」の札。「適法な行為」の道は大きな岩

期待可能性がなければ、責任能力と故意があっても行為者を非難できません

責任とは、違法な行為をしたことについての非難可能性です。非難できるのは、行為者が適法な行為を選ぶこともできたのに、あえて違法な行為を選んだといえるからです。そのため、責任能力があり、故意又は過失があっても、行為の時の具体的な事情の下で適法な行為を期待できなかった場合には、行為者を非難できず、責任が阻却されると考えられています。これを期待可能性の理論といいます。期待可能性は、責任能力、違法性の意識の可能性と並ぶ責任の要素と位置づけられます。もっとも、刑法には期待可能性がない場合に罰しないとする一般的な規定はありません。期待可能性がないことは、条文にない責任阻却事由(超法規的責任阻却事由)として主張されることになります。最高裁は、期待可能性がないことを理由に責任を阻却することについて、慎重な態度をとっています(最判昭和33年7月10日)。実務では、刑の選択や量刑の場面で期待可能性の程度が考慮されることがあり、大判昭和8年11月21日(第五柏島丸事件)がその例として挙げられます。

刑法には、期待可能性がないことや減少することから説明される規定があります

一般的な規定はなくても、期待可能性の考え方は個別の条文に表れています。犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(103条)と証拠隠滅罪(104条)は、犯人自身が逃げ隠れする行為や、自己の刑事事件に関する証拠を隠滅する行為を処罰の対象にしていません。犯人に対して、逃げ隠れしないことや証拠を残しておくことを期待するのは難しいからです。犯人の親族が犯人の利益のために犯人蔵匿や証拠隠滅をしたときに刑を免除できるとする規定(105条)も、親族にそれをしないよう期待することが難しいことから説明されます。過剰防衛(36条2項)と過剰避難(37条1項ただし書)で刑を減軽又は免除できることも、急迫した状況の下では適切な行為を期待しにくいという、期待可能性の減少から説明されます。

  • 103条・104条犯人自身の逃げ隠れ、自己の刑事事件の証拠の隠滅は処罰されない。期待可能性がないことから説明される
  • 105条犯人の親族が犯人の利益のために犯したときは、刑を免除することができる。期待可能性の減少から説明される
  • 36条2項・37条1項ただし書過剰防衛・過剰避難は、情状により刑を減軽し、又は免除することができる。期待可能性の減少から説明される

犯人が他人を教唆して自己を隠避させた場合は、期待可能性がないとはいえず、教唆犯が成立します

犯人自身が逃げ隠れしても犯人隠避罪にならないのであれば、他人に頼んで隠避させた場合も処罰されないのではないかが問題になります。判例(最決昭和35年7月18日)は、この場合に犯人隠避罪の教唆犯が成立するとしています。「犯人が他人を教唆して自己を隠避させることは定型的に期待可能性がないので、丁に犯人隠避罪の教唆犯は成立しない」という肢は誤りです。強盗罪を犯した後に友人を唆して自己を隠避させた事例について「甲には犯人隠避罪の教唆犯は成立しない」という肢も誤りです。教唆犯の成立を認める見解は、犯人自ら逃げ隠れる行為のみが、法律の放任行為として国家による干渉を受けない防御の自由の範囲内にあると考えます。他人を巻き込んで罪を犯させることまでは、防御の自由に含まれないという理由です。教唆犯の処罰根拠は正犯者を犯罪に引き込み有責で処罰される状態に陥れたことにあるという考え方も、成立を認める見解の根拠になります。これに対し、成立を否定する見解は、正犯行為に期待可能性がないのであれば教唆行為にも期待可能性はないと主張します。自ら正犯として行えば不可罰であるのに、より軽い関与である教唆にとどまると可罰的になるのは相当でないという主張も、否定する見解の根拠です。期待可能性は、このように、成立を否定する側の論拠として登場します。証拠隠滅や偽証を他人に教唆した場合を含めた詳しい検討は、各論の「犯人による蔵匿・隠避・証拠隠滅・偽証の教唆」で扱います。

夜の路地の場面を左右に分けた図解。先生が検察官役(札「検察官」)で中央に立つ。左側に帽子を深くかぶって一人で物陰に隠れる男性(札「犯人」)、下に札「犯人自ら逃げ隠れる:処罰されない」。右側に同じ男性が友人の男性(札「友人」)の肩に手を置いて

刑法105条

前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。

論文ではこう使う

論文では、期待可能性を独立の論点として大きく論じる場面は多くありません。上司や共犯者から強く迫られてやむなく犯行に加わった事例などで、責任能力と故意を認めたうえで、適法な行為を期待できたかを一言検討し、期待可能性がないとまではいえないと結論づけるのが通常です。よく使うのは各論の場面です。犯人が他人に自己の隠避や証拠の隠滅を教唆した事例で、犯人自身が正犯として処罰されない理由を期待可能性がないことから説明し、他人を巻き込む教唆はもはや防御の自由の範囲を超えるとして、教唆犯の成立を認める流れで書きます。

試験ではこう問われる

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読んだあとに、刑法の肢別演習を

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