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用語集 / 刑法 / 緊急避難の限界

緊急避難の限界(過剰避難・自招危難・強要による緊急避難)とは

きんきゅうひなんのげんかい

刑法 違法性阻却

過剰避難とは、現在の危難を避けるための行為が、避けようとした害の程度を超える害を生じさせた場合をいい、情状により刑を減軽または免除することができます(37条1項ただし書)。自ら招いた危難や、犯罪を強要された場合に緊急避難が認められるかも、緊急避難の限界として問題になります。

監禁されて逃げ出すために建物に火をつけたとします。逃げたいという事情は分かりますが、火事で周りの人の命まで危険にさらすのは、守ろうとしたものに比べて害が大きすぎます。緊急避難は、ほかに方法がなく、害の釣り合いがとれているときにだけ認められるので、この場合は罪になります。ただ、追い詰められていた事情を考えて、刑を軽くしたり免除したりする余地が残されています。どこまでその余地を認めるか、自分で危険を招いた場合や脅されて犯罪をした場合はどうかが、ここで扱う問題です。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。証言台に被告人の男性(札「被告人:監禁から逃げるために放火」)が立つ。法壇の横の掲示板に天秤の絵があり、左の皿「避けようとした害:身体の自由」、右の皿「生じた害:建物の焼損と住人の危険

過剰避難は犯罪が成立しますが、情状により刑を減軽することも免除することもできます

37条1項ただし書は、「その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる」と定めます。緊急避難の要件のうち法益の権衡を欠いた場合、すなわち生じた害が避けようとした害の程度を超えた場合が、過剰避難の典型です。「危難を回避する方法がその避難行為以外に存在しなかった場合には,過剰避難が成立し得る」という肢は正しいです。補充性を充たしたうえで法益の権衡を欠く場合に過剰避難が成立することには、争いがありません。効果は過剰防衛と同じく任意的な減軽または免除です。「避けようとした害の程度を超えた場合,当該行為をした者の刑を免除することはできない」という肢は誤りです。「過剰避難が成立する場合、情状によって、その刑を減軽することはできるが免除することはできない」という肢も誤りです。条文が免除を明記しているからです。

他に方法があった場合にも過剰避難が成立するかは、見解が分かれます

「やむを得ずにした行為」でない場合、すなわち補充性を欠く場合に、過剰避難が成立するかについては、三つの見解があります。監禁された者が、生命や身体の危険は感じていなかったのに、部屋に放火して騒ぎに乗じて逃げようとした事例で考えます。この事例では、守ろうとした身体の自由に比べて放火による害が大きく、法益の権衡を欠いています。第一の見解は、その行為が危難を避けるための一つの方法と認められれば、過剰避難が成立すると考えます。この見解からは、窓から脱出することが可能であった場合でも、過剰避難が成立するという結論になります。第二の見解は、補充性を欠いても法益の権衡を充たしていれば過剰避難が成立し、補充性を充たして法益の権衡を欠く場合にも過剰避難が成立すると考えます。この見解からは、窓から脱出することが可能であった場合は、補充性も法益の権衡も欠くので、緊急避難も過剰避難も成立しないという結論になります。脱出する手段がほかになかった場合は、過剰避難が成立するという結論になります。第三の見解は、補充性を欠けば緊急避難も過剰避難も成立せず、過剰避難は補充性を充たして法益の権衡を欠く場合に限られると考えます。この見解からは、窓から脱出することが可能であった場合は過剰避難が成立せず、脱出する手段がほかになかった場合は過剰避難が成立するという結論になります。裁判例は第三の見解に近く、大阪高判平成10年6月24日は、当該避難行為が「やむを得ずにした行為」に該当することが過剰避難の規定を適用する前提であるとしました。最判昭和35年2月4日も、他に適当な手段を講ずる余地があった吊橋の爆破について、緊急避難を認める余地はなく、したがって過剰避難も成立し得ないとしています。

  • 第一の見解危難を避けるための一つの方法と認められれば、補充性を欠いても過剰避難が成立する
  • 第二の見解補充性を欠いても法益の権衡を充たせば過剰避難。補充性を充たし法益の権衡を欠く場合も過剰避難。両方を欠けば不成立
  • 第三の見解補充性を欠けば過剰避難も成立しない。過剰避難は補充性を充たし法益の権衡を欠く場合に限る。裁判例はこれに近い
大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑法総論」)で黒板の前に立つ。黒板に表があり、縦に三行「第一の見解:危難を避ける一つの方法であれば足りる」「第二の見解:補充性か法益の権衡のどちらかを充たせば足りる」「第三の見解:補充性を充たすことが前提

自ら招いた危難については、避難行為を社会通念上是認できない場合に緊急避難が否定されます

危難が行為者自身の落ち度によって生じた場合を自招危難と呼びます。大判大正13年12月12日は、自動車の運転者が、前方の荷車の脇をすり抜けようとして、陰から現れた少女を避けるために進路を転じ、その祖母に衝突して死亡させた事案です。大審院は、緊急避難の規定は公平正義の観念に立脚するものであるとしたうえで、危難が行為者の有責行為により自ら招いたものであって、社会の通念に照らしやむを得ないものとしてその避難行為を是認することができない場合には、37条を適用することはできないとしました。自ら招いた危難であれば一律に緊急避難が否定されるわけではなく、避難行為が社会通念上是認できるかで判断されます。正当防衛における自招侵害と同じく、招いたという事情だけで結論が決まるわけではありません。

犯罪を強要された場合でも、生命・身体への危険が切迫していれば「現在の危難」に当たります

他人から脅されて犯罪を実行させられた場合を、強要による緊急避難と呼びます。危難の原因に制限はありませんから、犯罪を強要する手段として加えられた脅迫も、生命や身体に対する危険が切迫していれば「現在の危難」に当たります。東京高判平成24年12月18日は、けん銃を頭部に突き付けられて覚醒剤の使用を強要され、自己の身体に注射した事案で、生命・身体に対する危険の切迫度は大きく、その場を離れるには覚醒剤を使用するほかに現実的な方法はなかったとして、緊急避難の成立を認め、無罪としました。「自己に覚醒剤を注射して使用した場合,犯罪行為の強要の手段は…に当たらないので,緊急避難は成立しない」という肢は誤りです。学説には、強要されて第三者に害を加える者は不法を行う側に立つので37条1項の適用を認めるべきではなく、期待可能性の問題として扱うべきであるとする見解もあります。

事務所の一室を外の廊下から見た場面。部屋の扉は閉まっており、扉のすりガラス越しに二人の人影が見える。廊下に先生が解説役(札「解説」)として立ち、手に持ったボードを示している。ボードには三行、「現在の危難:けん銃を頭部に突き付けられている(原

業務上特別の義務がある者には、緊急避難の規定は適用されません

37条2項は、「前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない」と定めます。業務上特別の義務がある者とは、警察官、消防職員、船長のように、その業務の性質上、一定の危険に身をさらす義務を負う者をいいます。これらの者が、職務上立ち向かうべき危難を避けるために、他人の法益を犠牲にすることは許されません。消防職員が、火災の危険を理由に消火活動を放棄して、第三者を押しのけて逃げるような場合です。もっとも、この規定は、義務の範囲で危難を受忍することを求めるものです。義務と関係のない危難を避ける場合や、他人の法益を守るために避難行為をする場合にまで、緊急避難が否定されるわけではないと解されています。

刑法37条1項

自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

刑法37条2項

前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

論文ではこう使う

論文では、強盗や暴力団員に脅されて犯罪を実行した者の罪責を検討する場面で使います。まず、実行した行為の構成要件該当性を認め、次に緊急避難の要件を順に検討します。現在の危難では、脅迫の内容と切迫の程度を認定し、犯罪を強要する手段であっても危難に当たることを示します。補充性では、逃げる、警察に通報する、従うふりをするなど他の方法が現実に可能であったかを検討します。法益の権衡では、守ろうとした生命・身体と、実行した犯罪で害した法益を比べます。補充性を欠く場合は、過剰避難が成立する余地があるかについて、やむを得ずにした行為であることが過剰避難の前提であるという裁判例の立場を示して結論を出します。緊急避難が否定された場合は、期待可能性の欠如による責任阻却にも触れます。

試験ではこう問われる

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