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用語集 / 刑法 / 被害者の同意

被害者の同意(同意傷害・同意の要件)とは

ひがいしゃのどうい

刑法 違法性阻却

被害者の同意とは、法益の主体である被害者が、自分の法益が侵害されることを承諾することです。同意があると、罪によって、構成要件該当性が否定される、違法性が阻却される、軽い罪が成立する、犯罪の成立に影響しない、のいずれかの効果が生じます。

友人に「この本を持っていっていいよ」と言われて持ち帰っても、窃盗にはなりません。持ち主が自分の物をどうするかは持ち主の自由だからです。では、「殴っていいよ」「殺してくれ」と言われた場合はどうでしょう。体や命は本人のものですが、本人がよいと言えば何でも許されるとまでは考えられていません。また、社会全体の利益を守る罪では、目の前の相手が承諾しても意味がありません。同意がどこまで効くかは、罪ごとに決まっています。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。証言台の前に被告人の男性(札「被告人」)が立ち、手に「承諾書」と書いた紙を掲げている。法壇の前の書記官席の机に「保険金請求書」と書いた書類が置かれている。被告人の吹き出し「相手はけがを

被害者の同意の効果は、罪の性質に応じて四つに分かれます

被害者の同意が犯罪の成否にどう影響するかは、一律には決まりません。第一に、被害者の意思に反することが構成要件の要素になっている罪では、同意があれば構成要件該当性が否定されます。窃盗罪や住居侵入罪がこれに当たります。第二に、同意があってもなくても犯罪が成立する罪があります。13歳未満の者に対するわいせつな行為がその例です。第三に、同意がある場合とない場合が別々に規定され、同意があると軽い方の罪が成立する場合があります。殺人罪と同意殺人罪、不同意堕胎罪と同意堕胎罪・業務上堕胎罪がその例です。第四に、同意が行為の違法性を阻却する場合があり、傷害罪がその代表です。住居侵入罪の「侵入」を住居権者の意思に反する立入りと解する立場では、住居侵入罪は第四ではなく第一の類型に入ります。

  • 構成要件該当性を否定する窃盗罪、横領罪、住居侵入罪など。被害者の意思に反することが構成要件の要素になっている
  • 犯罪の成立に影響しない13歳未満の者に対するわいせつな行為(176条3項)、公然わいせつ罪、虚偽告訴罪、特別公務員暴行陵虐罪
  • 軽い罪が成立する同意殺人罪(202条)、同意堕胎罪(213条)、業務上堕胎罪(214条)
  • 違法性を阻却する傷害罪。ただし判例は承諾の動機・目的などを総合して決める
大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑法総論」)で、四段の棚の横に立っている。棚の各段に札が付いている。一段目「構成要件該当性を否定する:窃盗罪・住居侵入罪」、二段目「犯罪の成立に影響しない:13歳未満の者へのわいせつな行為・虚偽告訴罪」、

財産や住居の罪では、同意があれば構成要件に該当しません

横領罪の「他人の物」は他人の所有に属する物をいい、所有者が処分を承諾していれば、所有権の侵害がありません。「乙の承諾を得て,丙に無断で,自己の借金の返済として同重機を自己の債権者に譲渡した。この場合,甲には,横領罪が成立する」という肢は誤りです。所有者である乙が譲渡を承諾しており、転貸を受けていた丙は所有者ではないので、横領罪は成立しません。住居侵入罪についても、判例は「侵入」を住居権者・管理権者の意思に反して立ち入ることと解しています(最判昭和58年4月8日)。「住居権者の同意に基づいてその者の住居に立ち入った場合、住居侵入罪の構成要件に該当するが、違法性が阻却される」という肢は誤りです。真意に基づく同意があれば、そもそも「侵入」に当たらず、構成要件該当性が否定されるからです。

個人が処分できない法益を守る罪では、同意があっても犯罪が成立します

同意が意味をもつのは、同意した者が自分で処分できる法益に限られます。公然わいせつ罪は健全な性的風俗という社会的法益を守る罪ですから、「同写真撮影について乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,公然わいせつ罪の違法性が阻却され,甲には同罪の共同正犯は成立しない」という肢は誤りです。虚偽告訴罪は国の審判作用の適正を守る罪でもあり、判例は告訴される本人の同意があっても同罪が成立するとしています(大判大正元年12月20日)。「乙の承諾を得て,乙を脅迫罪で告訴した…甲には,虚偽告訴罪は成立しない」という肢は誤りです。特別公務員暴行陵虐罪は主として公務の適正を守る罪ですから、「乙の承諾を得て,勤務中,同刑務所内において,乙と性交した。この場合,甲には,特別公務員暴行陵虐罪が成立する」という肢は正しいです。13歳未満の者に対するわいせつな行為も、本人の同意の有無を問わず処罰されます。「わいせつな行為をすることについて乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,強制わいせつ罪の構成要件に該当せず,同罪は成立しない」という肢は誤りです。出題当時の罪名は強制わいせつ罪でしたが、現在は不同意わいせつ罪であり、13歳未満の者に対する行為は176条3項で処罰されます。

生命と胎児については、同意があっても軽い罪が成立します

生命は本人が処分を承諾しても、他人がそれを奪うことまでは許されません。202条は、人の嘱託を受けまたは承諾を得て殺した者を同意殺人罪として処罰します。「乙の殺害について乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,いずれの構成要件にも該当せず,犯罪は成立しない」という肢は誤りです。殺人罪は成立しませんが、同意殺人罪の構成要件に該当します。堕胎の罪も、妊婦の承諾の有無で罪が分かれています。「堕胎について乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,不同意堕胎罪の構成要件に該当せず,同罪は成立しない」という肢は正しいです。不同意堕胎罪(215条1項)は成立しませんが、妊婦の承諾を得て堕胎させたものとして同意堕胎罪(213条)が成立します。

同意傷害について、判例は承諾の動機・目的、手段・方法、損傷の部位・程度を照らし合わせて決めます

傷害罪には同意傷害を処罰する規定も不処罰とする規定もないため、同意がある場合の扱いが解釈に委ねられています。最決昭和55年11月13日は、被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきであるとしました。そして、過失による事故を装って保険金を騙し取る目的で得た承諾は違法なものであり、傷害行為の違法性を阻却しないとしました。「親指の切断について乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,傷害罪の構成要件に該当せず,同罪は成立しない」という肢は誤りです。暴力団の指詰めについても、裁判例は承諾があっても傷害罪の成立を認めています(仙台地石巻支判昭和62年2月18日)。「乙の承諾を得て,乙の右手小指の根元を出刃包丁で切断した。この場合,甲には,傷害罪は成立しない」という肢は誤りです。学説では、判例と同じく行為が社会的に相当かどうかで決める見解のほか、同意があれば原則として傷害罪は成立せず、生命に危険のある重大な傷害に限って成立するとする見解、同意があれば常に傷害罪は成立しないとする見解が並びます。目的の違法を考慮する判例の立場に対しては、傷害罪で詐欺の目的を処罰することになるという批判が向けられます。

同意は、同意能力のある者の真意に基づき、行為の時に存在していなければなりません

同意が有効であるためには、同意する者に、同意の内容と意味を理解する能力がなければなりません。幼児の同意は無効です。妻と5歳になる息子から一家心中の承諾を得て両名を殺害した事例では、妻については同意殺人罪にとどまりますが、5歳の息子は死の意味を理解する能力を欠くので、その承諾は無効であり、殺人罪が成立します。また、同意は真意に基づくものでなければならず、強制されてした同意や、冗談でした承諾は有効な同意ではありません。欺かれてした同意が有効かどうかは、錯誤に基づく同意の問題として別に論じられます。さらに、同意は行為の時に存在していることを要します。行為の後に与えられた同意によって、すでに成立した犯罪が否定されることはありません。

刑法202条

人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の拘禁刑に処する。

最決昭和55年11月13日

被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものである

論文ではこう使う

論文では、傷害罪の構成要件該当性を認めた後、違法性阻却の段階で被害者の同意を検討します。まず、同意が有効かどうかを、同意能力、真意に基づくか、行為の時に存在したかの順に確認します。次に、有効な同意があっても違法性が阻却されない場合があることを、判例の基準を示して論じます。承諾を得た動機と目的、傷害の手段と方法、損傷の部位と程度を、問題文の事実から一つずつ拾って当てはめます。保険金を騙し取る目的や組織の制裁の目的がある事案では、目的の違法をどこまで考慮するかについて自分の立場を示します。生命に危険のある傷害かどうかという観点もあわせて検討すると、どの見解からも結論を説明できます。

試験ではこう問われる

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