不同意わいせつ・不同意性交等の罪の構造とは
ふどういわいせつふどういせいこうとうのつみのこうぞう
不同意わいせつとは、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ、又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をする罪です(176条)。同じ状態のもとで性交等をする罪が不同意性交等(177条)で、どちらも令和5年の改正で定められました。
性的な行為をするかどうかは、本人が自分で決めることです。殴られたり脅されたりした場合だけでなく、酒に酔わされた、眠っていた、驚いて固まってしまった、上司に逆らえなかったという場合にも、嫌だという意思を持ち、伝え、貫くことはできません。そこで現在の刑法は、暴行や脅迫があったかどうかではなく、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態だったかどうかを基準にして、性犯罪を処罰しています。
現行法は、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態を要件にしています
令和5年の改正前は、暴行又は脅迫を用いる強制わいせつ罪・強制性交等罪と、心神喪失又は抗拒不能に乗じる準強制わいせつ罪・準強制性交等罪が別々に定められていました。現行法はこれらを一本化し、176条1項各号の行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ、又はその状態にあることに乗じた場合を、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪として処罰しています。この状態を行為者自身が作り出したことは必要ありません。「第三者の暴行・脅迫によって女子が「抗拒不能」の状態に陥っているのを利用して,同人を姦淫した場合,準強姦罪(刑法第178条第2項)が成立する」という肢は、出題当時は正しいとされていました。現在は、困難な状態にあることに乗じて性交等をしたものとして不同意性交等罪が成立します。「強制性交の意思をもって暴行又は脅迫を用いて被害者を抗拒不能にさせた後,その状態に乗じて性交をした場合には,準強制性交等罪ではなく,強制性交等罪が成立する」という肢も、出題当時は正しいとされていました。暴行により失神した被害者を姦淫した事例で「準強姦既遂罪が成立する」という肢は、出題当時は強姦既遂罪が成立するので誤りでした。現在はどちらの事例も不同意性交等罪の一罪であり、強制か準強制かを区別する必要はなくなっています。「準強制わいせつ罪(刑法第178条第1項)の「心神喪失」とは,責任能力における心神喪失と同義である」という肢は誤りです。被害者が性的行為について判断し抵抗できる状態にあったかという問題であり、行為者を非難できるかという責任能力の問題とは別だからです。
- 1号暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと
- 2号心身の障害を生じさせること又はそれがあること
- 3号アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること
- 4号睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること
- 5号同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと
- 6号予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること
- 7号虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること
- 8号経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること
誤信や人違いをさせた場合と、16歳未満の者に対する場合も同じ罪になります
176条2項・177条2項は、行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じた場合を、1項と同様に処罰しています。176条3項・177条3項は、16歳未満の者に対してわいせつな行為や性交等をした場合を、1項の状態がなくても処罰しています。ただし、相手が13歳以上16歳未満であるときは、行為者がその者の生まれた日より5年以上前の日に生まれた者である場合に限られます。改正前は13歳未満が基準でした。16歳未満の者は、性的行為について有効に自分で決める能力が十分でないと考えられているので、本人が同意していても罪が成立します。
監護者わいせつ・監護者性交等は、暴行又は脅迫がなくても成立します
179条は、18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、わいせつな行為又は性交等をした場合を処罰しています。親などの監護者に生活を依存している18歳未満の者は、監護者の求めを拒むことが難しいので、暴行又は脅迫も、176条1項各号の事由も要件とされていません。「15歳の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした場合には,暴行又は脅迫を用いていなくても,監護者わいせつ罪が成立する」という肢は正しいです。刑は、監護者わいせつ罪が不同意わいせつ罪と同じ、監護者性交等罪が不同意性交等罪と同じです。
主体と客体に性別の限定はなく、告訴がなくても公訴を提起できます
平成29年の改正前の強姦罪は、客体が女子に限られていました。改正後は、性交に加えて肛門性交と口腔性交が対象になり、令和5年の改正で膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入する行為も加わって、これらを合わせて「性交等」と呼んでいます。「強制性交等罪については,女性も男性も,その行為の主体となり得るし,客体ともなり得る」という肢は正しいです。条文は「婚姻関係の有無にかかわらず」と明記しているので、配偶者の間でも成立します。また、平成29年の改正で性犯罪は親告罪でなくなりました。「強制わいせつ罪は,告訴がなくても公訴を提起することができる」という肢は正しいです。過去問で「親告罪である」とする肢が出たら、現行法では誤りです。同じ改正で集団強姦罪は削除されました。2名以上の者が暴行を加えて1名が姦淫した事例で「集団強姦罪(刑法第178条の2)が成立する」という肢は、出題当時は正しいとされていましたが、現在は不同意性交等罪の共同正犯として処理されます。
- 不同意わいせつ(176条)6月以上10年以下の拘禁刑です
- 不同意性交等(177条)5年以上の有期拘禁刑です
- 監護者わいせつ・監護者性交等(179条)それぞれ176条1項・177条1項の例によります
- 未遂(180条)176条・177条・179条の罪の未遂は罰せられます
- 不同意わいせつ等致死傷(181条)わいせつの類型は無期又は3年以上、性交等の類型は無期又は6年以上の拘禁刑です
刑法176条1項
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
刑法176条3項
十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
刑法179条1項
十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条第一項の例による。
論文ではこう使う
論文では、罪名を現行法で特定します。強制わいせつ罪、強制性交等罪、準強制わいせつ罪といった旧罪名は書きません。事例の事実が176条1項の何号の行為又は事由に当たるかを示し、それによって同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせたのか、その状態にあることに乗じたのかを認定します。行為が性交等に当たれば不同意性交等罪、それ以外のわいせつな行為であれば不同意わいせつ罪とします。被害者が16歳未満の事例では、3項の年齢の要件と、行為者が年齢を認識していたかを確かめます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。