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用語集 / 刑法 / 略取・誘拐の論点

略取・誘拐の論点(親権者による連れ去り・安否を憂慮する者)とは

りゃくしゅゆうかいのろんてん

刑法 自由・私生活の平穏に対する罪

略取・誘拐とは、人をその生活環境から離脱させ、自己又は第三者の事実的支配の下に置く行為です。親権者が他方の親権者の監護下にある子を連れ去った場合に未成年者略取罪が成立するか、身の代金目的の罪の「安否を憂慮する者」にだれが含まれるかが論点になります。

別居中の父親が、母親のもとで暮らす幼い子を無理に連れ去ったとします。父親も親権者ですが、子はそれまでの生活から突然引き離され、母親は子を見守ることができなくなります。未成年者略取・誘拐罪は、連れ去られる子の自由と安全に加えて、子を監護している者の監護権も守っているので、親であっても、他方の親の監護下から子を奪えば処罰の対象になります。

保育園の門の前の場面。男性(札「父:親権者」)が幼い子を抱きかかえて停めた車に向かっており、門のそばで女性(札「母:監護している親権者」)が手を伸ばして止めようとしている。先生が裁判官役(札「裁判所」)で門の横に立っている。先生の吹き出し「

未成年者略取・誘拐罪は、子の自由と監護権の両方を守っています

判例は、未成年者略取・誘拐罪の保護法益を、被拐取者の自由と、親権者などの保護監督者の監護権の両方と捉えています(大判明治43年9月30日)。このため、自ら移動する意思も能力もない者も客体になります。「自ら移動する意思も能力も有していない生後間もない嬰児であっても、未成年者略取誘拐罪の客体に当たる」という肢は正しいです。生後数日のBを連れ去った事例で、「Bには移動の自由が全くないから,甲には未成年者略取罪は成立し得ない」という肢は誤りです。嬰児に移動の自由がなくても、その安全と親権者の監護権が害されるからです。監禁罪では任意に行動できない嬰児は客体にならないと解されているので、この点で結論が分かれます。また、監護権も守られているので、未成年者本人が同意していても、監護者の意思に反して連れ出せば本罪が成立し得ます。

暴行・脅迫や欺罔は、監護者に向けられたものでも足ります

略取は暴行又は脅迫を、誘拐は欺罔又は誘惑を手段としますが、これらの手段は被拐取者本人に向けられる必要はありません。判例は、未成年者の監督者を欺いて承諾を得て、未成年者を自己の支配内に移した場合にも誘拐罪が成立するとしています(大判大正13年6月19日)。「略取誘拐の手段としての暴行脅迫や欺罔誘惑は,被拐取者に対してなされる必要がある」という肢は誤りです。「未成年者誘拐罪の手段である欺罔は、被誘拐者に対して用いられる必要があり、監護者に対して用いられる場合を含まない」という肢も誤りです。監護者をだまして子を引き渡させれば、監護権が害されることに変わりはありません。

親権者も主体になり、親権者であることは違法性阻却の判断で考慮されます

224条は主体を限定していません。判例は、別居中で離婚係争中の妻が養育している2歳の子を、夫が抱きかかえて車に乗せて連れ去った事案で、その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり、親権者の一人であることは、行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であるとしました(最決平成17年12月6日)。そして、連れ去りが子の監護養育上現に必要とされるような特段の事情がなく、行為の態様が粗暴で強引であり、子が自分の生活環境を判断・選択する能力のない2歳の幼児であり、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことから、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるとはいえず、違法性は阻却されないとしました。「親権者は,未成年者誘拐罪の主体とはならない」という肢は誤りです。「共同親権者の一人が,他の共同親権者の監護下にある未成年の子を略取する行為については,未成年者略取罪は成立し得ない」という肢も誤りです。「未成年者略取罪の保護法益には親権者の監護権も含まれるので」未成年者略取罪が成立することはない、という肢も誤りです。監護権が保護法益に含まれることは、他方の親権者の監護権を害する行為を処罰する理由になります。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立ち、板書を指し棒で指している。黒板には上下二段の箱があり、上の箱に「構成要件:略取に当たる」と書かれて丸印、下の箱に「違法性阻却:親権者であることはここで考慮する」と書かれ、その横に三つの
  • 構成要件親権者による連れ去りも、他方の親権者の監護下から子を離脱させて自己の事実的支配の下に置けば、略取に当たります
  • 違法性阻却親権者であることはここで考慮されます。監護養育上現に必要とされる特段の事情があるか、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるかで判断されます
  • 判例が挙げた事情行為態様が粗暴で強引であること、子が2歳で生活環境を判断・選択する能力がないこと、略取後の監護養育に確たる見通しがないこと

「安否を憂慮する者」には、親身になって憂慮するのが当然とみられる特別な関係にある者が含まれます

身の代金目的略取・誘拐罪(225条の2)は、「近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」の憂慮に乗じて財物を交付させる目的を要件とします。判例は、この「安否を憂慮する者」には、単なる同情から被拐取者の安否を気づかうにすぎないとみられる第三者は含まれないが、被拐取者の近親でなくとも、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係にある者は含まれるとしています(最決昭和62年3月24日)。この事案では、相互銀行の代表取締役社長を略取して同銀行の幹部らに身の代金を要求しており、銀行の幹部らは「安否を憂慮する者」に当たるとされました。「同情から被拐取者の安否を気遣うにすぎない第三者も含む」という肢は誤りです。身の代金目的の罪が重く処罰されるのは、被拐取者と特別な関係にある者の心情につけ込むからであり、同情するだけの第三者にまで広げることはできません。

銀行の役員室の場面。机の上の電話が鳴り、受話器を取った男性(札「銀行の幹部」)が青ざめている。電話の吹き出し「社長を預かった。金を用意しろ」。先生が裁判官役(札「裁判所」)で机の横に立ち、幹部を手で示している。窓の外には通行人の男性(札「同

刑法224条

未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。

刑法225条の2第1項

近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の拘禁刑に処する。

論文ではこう使う

論文で親権者による連れ去りが出たら、まず構成要件該当性を認めます。保護法益が子の自由と監護権にあることを示し、他方の親権者の監護下にある子をその生活環境から離脱させて自己の事実的支配の下に置いた以上、略取に当たると書きます。次に、親権者であることを違法性阻却の段階で検討します。連れ去りが子の監護養育上現に必要とされる特段の事情があるか、行為の態様、子の年齢、連れ去った後の監護養育の見通しを事例から拾い、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるかを判断します。主体にならないとして構成要件の段階で否定する書き方はしません。

試験ではこう問われる

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