わいせつな行為と性的意図とは
わいせつなこういとせいてきいと
わいせつな行為とは、不同意わいせつ罪(176条)が処罰する、性的な意味を持つ行為です。これに当たるかは、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を踏まえ、事案によっては行為が行われた際の具体的状況等も考慮して、社会通念に照らして判断されます。
相手を脅して裸にし、写真を撮る行為を考えます。撮った側の目的が性的な満足であっても、仕返しや金もうけであっても、撮られた側が受ける性的な被害は変わりません。不同意わいせつ罪は被害者の性的な自由を守る罪なので、わいせつな行為に当たるかどうかは、行為者の内心の目的ではなく、その行為が性的な意味を持つかどうかで決まります。
判例は、性的意図を一律の成立要件とすることは相当でないとしました
かつての判例は、強制わいせつ罪が成立するには、犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行為が行われることを要するとし、専ら報復や侮辱の目的で脅迫して裸にして写真を撮った行為について同罪の成立を否定していました(最判昭和45年1月29日)。最高裁大法廷はこの判例を変更しました(最大判平成29年11月29日)。大法廷は、法文上、故意以外の行為者の主観的事情を成立要件とする文言はなく、性的な被害に係る犯罪の解釈には社会の受け止め方を踏まえる必要があるとして、故意以外の行為者の性的意図を一律に成立要件とすることは相当でないとしました。性的意図を有さず「専ら乙を侮辱して報復するため、乙を脅迫して裸にして写真撮影した」事例で、「甲に強制わいせつ罪が成立することはない」という肢は誤りです。出題当時の強制わいせつ罪は、現在の不同意わいせつ罪に当たります。
わいせつな行為に当たるかは、行為の性的性質と具体的状況から判断されます
大法廷は、わいせつな行為に当たるか否かの判断方法も示しました。まず、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえます。性的性質が明確な行為は、それだけでわいせつな行為に当たります。行為そのものからは性的性質が明確でない場合は、行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情も総合考慮し、社会通念に照らして、その行為に性的な意味があるといえるか、その性的な意味合いがどの程度強いかを判断します。行為者の目的等の主観的事情は、この個別具体的な事情の一つとして、判断要素として考慮すべき場合があり得るにとどまります。性的意図は、すべての事案で必要な要件ではなく、性的な意味がはっきりしない行為について考慮されることがある事情という位置づけになります。
16歳未満の者が同意していても、不同意わいせつ罪は成立します
176条3項は、16歳未満の者に対してわいせつな行為をした者を、同意しない意思の形成等が困難な状態を要件とせずに処罰しています。相手が13歳以上16歳未満であるときは、行為者がその者の生まれた日より5年以上前の日に生まれた者である場合に限られます。したがって、この年齢の者の同意は罪の成立を妨げません。10歳の乙の性器を指で触った事例で、「乙が同意していたのであれば、甲に強制わいせつ罪は成立しない」という肢は誤りです。11歳の乙があらかじめ承諾していた事例で、「強制わいせつ罪の構成要件に該当せず,同罪は成立しない」という肢も誤りです。乙が10歳であることを知りながら、乙の承諾があると誤信してわいせつな行為をした事例でも罪が成立します。承諾があっても成立する以上、承諾があると誤信したことは故意に影響しないからです。12歳の女児の同意を得てわいせつな行為をした事例で、「甲に準強制わいせつ罪(刑法第178条第1項)は成立しない」という肢は正しいです。出題当時は、13歳未満の者に対するわいせつな行為として強制わいせつ罪が成立するからであり、現在は176条3項の不同意わいせつ罪が成立します。
相手の年齢を誤信した場合は、認識していた年齢で故意の有無が決まります
176条3項の罪も故意犯なので、相手が16歳未満であることの認識が必要です。相手を16歳以上と誤信し、同意しない意思の形成等が困難な状態もない場合には、故意がなく罪は成立しません。過去問は、改正前の13歳という基準で出ています。「12歳のAを15歳と誤信し,Aに対して暴行・脅迫を加えずにわいせつな行為をした。甲には,強制わいせつ罪が成立する」という肢は、出題当時は誤りでした。13歳未満であることの認識がなく、暴行又は脅迫もないからです。現在は16歳未満が基準なので、15歳と誤信していても16歳未満であることの認識はあります。甲が、認識していた15歳という年齢を基準にしても5年以上前の日に生まれた者に当たるのであれば、不同意わいせつ罪が成立します。「13歳のV女を12歳であると誤信したまま,暴行・脅迫を加えることなく同女を姦淫した。甲には強姦既遂罪は成立しない」という肢は、出題当時は正しいとされていました。客観的に13歳以上の者に対して暴行又は脅迫を用いていないからです。現在は13歳の者も16歳未満の者に当たるので、甲が5年以上前の日に生まれた者であれば不同意性交等罪(177条3項)が成立します。
最大判平成29年11月29日
故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でない
刑法176条3項
十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
論文ではこう使う
論文では、わいせつな行為に当たるかを、行為そのものの性的性質から検討します。性器に触れる、裸にして撮影するといった行為は、行為そのものが持つ性的性質が明確なので、行為者の目的を論じるまでもなく、わいせつな行為に当たると書きます。行為者が報復や金銭の目的だったと主張している事例では、性的意図は一律の成立要件ではないことを判例に沿って一言述べます。行為そのものからは性的性質がはっきりしない場合に限って、行為の状況、当事者の関係、行為者の目的などを総合して、社会通念に照らして性的な意味があるかを判断します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。