秘密を侵す罪(信書開封・秘密漏示)とは
ひみつをおかすつみ
秘密を侵す罪とは、封をしてある信書を開ける信書開封罪(133条)と、医師や弁護士など一定の職にある者が業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らす秘密漏示罪(134条)をいいます。どちらも告訴がなければ公訴を提起できない親告罪です(135条)。
封をした手紙は、宛てた相手だけに読んでもらうためのものです。病気や家庭の事情は、医師や弁護士に話さなければ診療も相談も受けられません。封を勝手に開けられたり、打ち明けた秘密を言いふらされたりすると、安心して手紙を書くことも専門家に相談することもできなくなります。刑法は、この二つの場面に絞って、個人の秘密を守る罪を定めています。
信書開封罪は、封を開けた時点で成立します
133条は、正当な理由がないのに「封をしてある信書を開けた者」を処罰しています。信書とは、特定の人から特定の人に宛てて意思を伝える文書をいいます。「開けた」とは、封を破るなどして信書の内容を知ることができる状態にすることをいい、実際に内容を読むことは必要ありません。「正当な理由なく、封をしてある信書を開けたとしても、信書の内容を確認しなかった場合には成立しない」という肢は誤りです。封を開けられた時点で、内容を知られる危険が生じているからです。封をしていないはがきや、すでに開封されている手紙を読んでも、この罪には当たりません。
秘密漏示罪の主体は、条文に列挙された職にある者と、その職にあった者に限られます
秘密漏示罪は、主体が限定された身分犯です。134条1項は、医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人を、2項は、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者を挙げています。いずれも「これらの職にあった者」を含みます。「かつて同職にあったが、既に同職にない者については、同罪の主体とはならない」という肢は誤りです。職を離れた後に漏らしても、在職中に打ち明けられた秘密が害されることに変わりはありません。ここに挙げられていない職業の者が業務上知った秘密を漏らしても、刑法の秘密漏示罪には当たりません。
- 134条1項医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者
- 134条2項宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者
- 法定刑6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金です。信書開封罪は1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金です
秘密は業務上取り扱ったことについて知り得たものに限られ、鑑定の過程で知った他人の秘密も含まれます
秘密漏示罪の客体は、「その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密」です。「弁護士が業務とは無関係に偶然知った人の秘密を漏らしたとしても、同罪は成立しない」という肢は正しいです。この罪は、職業上打ち明けられた秘密を守るためのものだからです。判例は、医師が、医師としての知識、経験に基づく、診断を含む医学的判断を内容とする鑑定を命じられた場合、その鑑定の実施は医師がその業務として行うものであるから、鑑定を行う過程で知り得た人の秘密を正当な理由なく漏らす行為は秘密漏示罪に当たるとしました(最決平成24年2月13日)。そして、この「人の秘密」には、鑑定対象者本人の秘密のほか、鑑定を行う過程で知り得た鑑定対象者本人以外の者の秘密も含まれるとしています。「鑑定対象者本人の秘密は含まれるが、同過程で知った同人以外の者の秘密は含まれない」という肢は誤りです。
一人に告げるだけでも「漏らした」に当たり、どちらの罪も親告罪です
「漏らした」とは、秘密をまだ知らない人に告げることをいいます。名誉毀損罪と違って公然性は要件ではないので、一人に告げただけでも成立します。「特定かつ少数の人に漏らした場合、その者らを通じて不特定又は多数の人へと秘密が漏れなければ、秘密漏示罪は成立しない」という肢は誤りです。信書開封罪も秘密漏示罪も、「正当な理由がないのに」行われたことが要件です。また、どちらも親告罪です(135条)。公訴を提起して裁判で審理すると、かえって秘密が広く知られてしまうおそれがあるので、訴追するかどうかを被害者の意思に委ねています。
刑法133条
正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、一年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。
刑法134条1項
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
刑法135条
この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
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